あなたの足に、温もりを。

＃ 夏

スターマイン④

「ナオ！　いい加減起きなさい！」

　これは夢だと悟った時、母の大きな声で目が覚めた。
　半分脳が起きていたのか、いまいちサッパリはしない。
　体を一気に起こすように、冷水で顔を洗う。

　なにせ、今日は土曜日だ。
　学校の日に比べると、かなり余裕がある。
　ゆっくり朝食をとり、いつもの倍の時間をかけてメイクしたって良い。
　丸っきり油断していると、浴衣を着ることを忘れていた。
　時計を見ると、待ち合わせの時間まで一時間しかない。
　
　案の定、昨日用意しておかなかった自分を恨むことになった。
　自分でも信じられないくらいのスピードで、手早く着付けをする。
　高校一年生の時に、少し大きめのものを買っておいて良かった。
　むしろ今の方が、サイズピッタリかもしれない。

「あら、良い感じじゃない。昔と違って、一人でできたのね」

　鏡の前で最終チェックをしていると、鏡越しに全身を嘗め回してくる母が横に立った。
　余裕を持ちすぎて、若干焦ったことは内緒にしよう。

「もう十八歳だからね、これくらい一人でできないと。じゃあ行ってくる」

　花火大会の日の電車は、浴衣を着たカップルで溢れている。
　私はその中に紛れないように、隅の方で背中を向けて立つ。
　イヤホンをしながらスマホを見ていると、周りの様子をシャットアウトすることができる。
　こんなに内向的な私が、花火大会を楽しめるわけがない。