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# 夏

二人きり④

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「えーと、室内と外で気温差があるからですかね」

 誰が見ても自信なさげのボリュームは、目の前の先生にさえも聞こえているか怪しい。
 私はこういう時のために、一番前の席を選んだ。
 先生はその答えをギリギリ聞き取ると、大きく頷いてくれた。

「その通りです。これが大きな原因ですね。室内はエアコンによって快適かもしれませんが、外はムシムシとした暑さに包まれています。この変化に対応ができなくて、体調を崩してしまうのですね」

 先生が期待していた答えだったようで、何だか嬉しい。
 こんなことなら、大きい声で自信満々に答えるべきだった。
 隣の席に目をやると、戸部君が目を丸くしながら讃えてくれている。

「早野さんが言ってくれた通り、このエアコンが今日の大きなテーマです」

 先生が今日のテーマを言い切ると、生徒全員がその意味を理解できていないことがわかる。
 誰一人としてリアクションを取れていない。
 その状況を察知すると、先生は咳ばらいをしながら言い直す。

「もっと細かく言いましょう。エアコンによってお疲れのダメージを受けるところ、それは呼吸器系です」

 その一言で、やんわりと授業内容がわかってくる。
 つまりその呼吸器系の反射区を、今日は進めていくということか。
 毎回テーマを発表して、その反射区を頭に叩き込んだら、実技に移ることになっている。

 今日の実技は、戸部君と二人きり。
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