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# 春

予期せぬエラー⑩

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 パウダーを手の中で広げて、ゆっくり長谷川さんの足に染み込ませていく。
 長谷川さんの足裏からは、程よい肉付きと、若干の冷たさを感じる。
 順調に指を動かしていると、五分もしないうちに足が温まってきた。

 さすがサラリーマン、頭と目をよく使っているのがわかる。
 上半身の反射区、そのほとんどにお疲れの反応が見られるから。
 首、肩の反射区もゴリゴリしていて、長谷川さんの忙しさに同情する。
 意外と順調に進んでいく施術に、いつの間にか口角が上がりっぱなしになっていた。
 
 一時間も経たないうちに、両足の施術が終わる。
 足裏に集中していたから、二人の様子など気遣う暇もなかった。
 顔を上げると、二人共満面の笑みを見せてくれて、言い表せないくらいの達成感が私を包み込んだ。

「うん? 終わったみたいだね」

 足から感覚が消えた長谷川さんが、目を擦りながら体を起こす。
 ほったらかしにしてしまった、長谷川さんの足をもう一度触りながら、慌てて終了の旨を伝えた。

「はぁー、いやね、今までの生徒さんには申し訳ないけどさ……」

 強張った顔をしている長谷川さんに、三人共意識を奪われている。
 長谷川さんは煩わしそうに靴下を履きながら、私の方に目線を向けてニコっと笑った。


「今までで一番温かったよ。今日はどうもありがとう」
 

 何故だか説明できないけど、気持ち良かったって言われるより、何倍も嬉しい。
 温かさが伝わった……私の手で、温もりを伝えられた。
 私は今、大きな一歩を踏み出せたのだ。
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