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「やってられないわ!あなたの助けが必要なの!こっちへ来て!手を握って!」
「は、はいはい……!」

ベッドで号泣しているメラン伯爵夫人グレース妃に慌てて駆け寄り、その手を握る。
女主の寝室には既にそれぞれの職務を全うする侍女たちが配置されており、この一瞬で自分の職務は話相手だと理解できた。

神々しささえ纏うほど美しいグレース妃は、私と同世代だ。
今はネグリジェ姿で髪も乱れ、泣き腫らした瞼がとても悲惨。しゃくりあげながら私の手を強く握りしめ、私を侍女に選んだ理由を話し始めた。

「私は妊娠したのです」

突然まずこれ。

「お、おめでとうござ──」
「私が妊娠したというのに、殿下は遊び惚けてばかり!」
「お……っ」

気を確かに!
私まで取り乱していては、仕事にならない。

「お察しいたします」
「わかっているのです!殿下には相応の生活というのがあります。方々に顔を出し諸侯の機嫌をとって内政の潤滑油となることも大切なお勤めです!」
「仰る通りです」
「でも私は傍にいてほしいのっ!!」

グレース妃、号泣。
かつてのマシューより私の手を強く握りしめている。

「殿下は、グレース様を愛しておられます」
「わかっています!だから……だから、私が取り乱しているだけよ。これは私の問題なのです」
「ご懐妊されたのですから、お気持ちが浮き立ち手に負えなくなることもあります。それに初めてのお産なら、不安もございましょう。愛する人に傍にいて欲しいと願うのは、当然のことです。決して問題ではありません」

口からすらすらとそのような励ましが出てくることに我ながら驚きながら、私はグレース妃の手を撫でた。
するとグレース妃も幾分か嗚咽を和らげ、私を見つめ頷いた。

「ありがとう。あなたの評判は聞いていました。自立心のある聡明な方だと。まるで私みたい……!」

どのような感情か定かではないにしろ、グレース妃がまた泣き崩れる。

「初めての妊娠で、心が思うように動かないのです……!まるで、私が私ではないみたい……っ。だから、本来の私と似たような性格のあなたに、傍で励ましてほしいのです……!」
「光栄です。傍におります」

軽く気が動転しないでもないけれど、これは大変、名誉なこと。
それに王族になったとはいっても、元は私と同じ伯爵令嬢。単身で王家に嫁ぎ、活発な夫が妊娠中も外出してばかりでは心細くもなるだろう。

この細い体の、ネグリジェに隠れたお腹の中に、王家の血を引く命が宿っている……。

「……!」

感動。
それしかない。
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