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16(サヘル)
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「あのこんニャクは、あたちも間違えてちまったのでチュ」
「……」
俺は二重の意味で絶句していた。
これ程までに美しいシンシアが、今の今までどの男の目にも留まらずに生きて来たわけがない。それは理解している。
王族の傍近くで仕えることを理由に、決まった相手を捨てたとしても不思議ではない。そしてそれを責めるべきでもない。
男の方から、シンシアを捨てただと?
しかも他の女に目移りして?
許せん。
許せんが、今日も舌足らずのシンシアが可愛くて……たまらん!!
今日も可愛さに驚愕している俺である。
因みに妹も同じことを言っている。
「あたち……」
シンシアは文法を正しく理解している聡明な女神の化身ではあるが、この度の結婚があるまでイゥツェル神教国の人間が話す言葉を直に耳で聞いた経験がなかったのだ。
かなり正確に判読している。
文法も理解している。
併しレロヴァス王国や周辺国で用いられる言語の発音が身に付いている事によって、発音がままならないのだろう。俺や妹には、シンシアの話す此方の言葉はかなり舌足らずに聞こえる。
無論、発音の問題だ。
シンシア自身は聡明で、丁寧で、清楚で、上品で、嫋やかな、ほぼ女神と言って差支えない存在である。それで舌足らずだから可愛さの破壊力が凄まじいのである。
俺が話せるようになったら直してやりたいと思っていたはずなのに、直すのが惜しくて、未だ指摘できない……
「わかりあえてゆと思ってたんでチュ。でも、しょの、おごいがカエのここりょをとおぢゃけちゃんえチュ」
ちょっと頭に入って来ない。
俺は俯き、片手で口を覆った。
無論、馬鹿にしているわけではない。
そうではなくて、シンシア本人の聡明さが光る人格と相反する可愛さだからこそ尊いのである!
失いたくない……
いいではないか。
妹も俺もレロヴァス王国の言葉は聞き取れるのである。
シンシアの最たる役目はセベトシュである。シンシアの発音は何ら障害にはならない。セベトシュに於いて発声する必要などないのだから。
「あたちは、カエのやしゃちしゃによいしょえニャかった」
とりあえず相手の男が全て悪いに決まっている。
裁きはレロヴァス王国の神に委ねるのもまた、当然の話である。俺が私怨で殺してしまっては、心移りしたその男と同等に落ちぶれてしまう。
「ほんちょーのコチョがどうえあっちぇも」
「……!」
俺はシンシアを抱きしめた。
そしてレロヴァス王国の言葉で伝えた。
「〝そなたが過ぎたことだと申すならば、もういい〟」
「さへゆしゃま……」
シンシアは特にラ行が壊滅的だ。
俺はサヘル、妹はレミア。幸運だった……。
「……」
俺は二重の意味で絶句していた。
これ程までに美しいシンシアが、今の今までどの男の目にも留まらずに生きて来たわけがない。それは理解している。
王族の傍近くで仕えることを理由に、決まった相手を捨てたとしても不思議ではない。そしてそれを責めるべきでもない。
男の方から、シンシアを捨てただと?
しかも他の女に目移りして?
許せん。
許せんが、今日も舌足らずのシンシアが可愛くて……たまらん!!
今日も可愛さに驚愕している俺である。
因みに妹も同じことを言っている。
「あたち……」
シンシアは文法を正しく理解している聡明な女神の化身ではあるが、この度の結婚があるまでイゥツェル神教国の人間が話す言葉を直に耳で聞いた経験がなかったのだ。
かなり正確に判読している。
文法も理解している。
併しレロヴァス王国や周辺国で用いられる言語の発音が身に付いている事によって、発音がままならないのだろう。俺や妹には、シンシアの話す此方の言葉はかなり舌足らずに聞こえる。
無論、発音の問題だ。
シンシア自身は聡明で、丁寧で、清楚で、上品で、嫋やかな、ほぼ女神と言って差支えない存在である。それで舌足らずだから可愛さの破壊力が凄まじいのである。
俺が話せるようになったら直してやりたいと思っていたはずなのに、直すのが惜しくて、未だ指摘できない……
「わかりあえてゆと思ってたんでチュ。でも、しょの、おごいがカエのここりょをとおぢゃけちゃんえチュ」
ちょっと頭に入って来ない。
俺は俯き、片手で口を覆った。
無論、馬鹿にしているわけではない。
そうではなくて、シンシア本人の聡明さが光る人格と相反する可愛さだからこそ尊いのである!
失いたくない……
いいではないか。
妹も俺もレロヴァス王国の言葉は聞き取れるのである。
シンシアの最たる役目はセベトシュである。シンシアの発音は何ら障害にはならない。セベトシュに於いて発声する必要などないのだから。
「あたちは、カエのやしゃちしゃによいしょえニャかった」
とりあえず相手の男が全て悪いに決まっている。
裁きはレロヴァス王国の神に委ねるのもまた、当然の話である。俺が私怨で殺してしまっては、心移りしたその男と同等に落ちぶれてしまう。
「ほんちょーのコチョがどうえあっちぇも」
「……!」
俺はシンシアを抱きしめた。
そしてレロヴァス王国の言葉で伝えた。
「〝そなたが過ぎたことだと申すならば、もういい〟」
「さへゆしゃま……」
シンシアは特にラ行が壊滅的だ。
俺はサヘル、妹はレミア。幸運だった……。
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