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4(リリアナ)
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「お母様は馬鹿なの?傷ついている人にあれだけ言わせたのよ!?それで当のリリアナは何処をほっつき歩いているわけ!?これでどう優しくしろって言うの!」
ビビアンの大声が空から降って来て私はまた嫌な気持ちになった。
ああやって窓を開けて、わざと私に聞こえるようにしているのだ。
「私とダルネルの婚約と同等に祝福するって正気!?レディ・シンシアは優しいからそう仰ってくださっただけで、私たちが〝はい、喜んで〟って甘えていいわけじゃないのよ!絶対に慰謝料を受け取ってもらうべきだったのに!!」
大嫌いなビビアン。
後から産まれたくせに、私から全部奪った憎らしい妹。
両親は妹ばかり可愛がり、私を常に蔑ろにしてきた。私がそれを指摘しても自分たちが正しいという姿勢を貫いて、私を罵倒した。
本当に地獄のような毎日だった。
欲しいドレスも下品だと難癖をつけて買ってもらえず、ビビアンには剣を習わせたくせに私には触らせてもくれなかった。
お前には無理だ、できない、危ない、何度も言われた。
まるで剣を握らせたら私に殺されるとでも疑うような激しい口ぶりだった。酷い。私がそんな心無い人間に見えるのだろうか。親子なのに。
私の方が、こんなに傷ついているのに。
愛してくれない。大切にしてくれない。
いつもいつもいつも、ビビアンばかり。
ダルネルも私があれだけ愛していたのにビビアンを選んだ。
がさつで恐いビビアンの何処がいいのだろう。外見も私の方が優れている。
みんな大嫌い。
そうやってみんなが苛めるから私には優しくしてくれる人が必要だった。
その心の正しい人がやっと現れたと思ったら、家族そろって猛反対。私が幸せになるのが嫌なのだ。
どうして……
どうして私ばかりこんな辛い目に遇わなくてはいけないの?
私が何をしたの?
神様、どうか、私を正しく愛するようにみんなの心を入れ替えてください。
そう何度も何度も祈った。祈り続けてきた。
でも神様はちゃんと見ているのだ。
私には今、私だけを愛して大切にしてくれるパトリックがいる。今も私を抱きしめてくれている。
「クレイン伯爵家が許しても私は許さない!どうしてわからないの!?ラムリー伯爵なんかと結婚された日にはヒューソン伯爵家は一生非難の目を浴びることになるのよ!?」
「どうやら私も悪者に仕立て上げられたようだ」
パトリックが溜息を洩らす。
抱きしめられながら大きく仰け反り、愛しい人の顎を見上げた。パトリックも仰のいて声の洩れる窓を見上げている。
「君はこうして、幼い頃からずっと家族に怒鳴れ、罵られてきたんだね」
「そうなの」
「何もかもが正しくないからよ!私からダルネルを奪えなかった腹いせに、本当は自分が婚約するはずだったとずっと言い張ってるのよ!?そんな話ある!?根拠はなんなの!?自分が姉だから!?」
それにしてもビビアンの声は本当に癇に障る。何故あんなに通る声をしているのだろう。サーカスに入るわけでもないのに、本当に無駄な才能だ。
ビビアンは両親に贔屓されて育ったから、いつも自分が正しくて、私が間違っていると思っている。
偉そうに。何様だろう、妹のくせに。
本当に忌々しい。
ビビアンさえいなければ、私は周囲から正しく愛されて幸せだったのに。
「ああやって怒鳴って両親を手懐けて君を苛めて来たわけか。だが、もう終わりだ」
パトリックがぎゅうっと抱きしめてくれる。
私たちは互いに見つめ合うとキスをして、手を繋いで駆け足で屋敷に入っていった。そして大声の洩れる部屋に一直線で向かう。
ビビアンがあれだけ大声で騒いでいるのだから両親が一緒にいるはずだ。
もしビビアンが誰もいない部屋で一人で怒鳴り散らしているのなら面白いのに。本当に無駄ばかりで何一つ役に立たない惜しい妹。そのくせ私から愛される権利を奪って正義を気取っているのだから、恐い恐い。
でも、もう苛められる日々は終わり。
そう、私にはパトリックがいるのだから。
宮廷に重宝されるような伝統的名家のお嬢様であるレディ・シンシアより、私を選んでくれた。私にはそれだけの魅力と価値がある。
やっと、やっと見つけた。
私の王子様。
「!」
私は勢いよく扉を開けた。
「!?」
室内にいた両親と妹は目を見開いて同時に私を見つめた。
驚いている。
でも、もっと驚かせてあげる。
「結婚したわ!!」
私はついさっき麓の教会でパトリックと清らかな結婚式を挙げたばかり。
隣には、私が如何に素晴らしい妻かを証明してくれるパトリックがいて、勇気をくれる。
私とパトリックは凝然とする三人に交換したばかりの愛の指輪と熱いキスを見せつけた。
「やめて!」
母が叫んで妹ビビアンを羽交い絞めにする。
「あなたの力じゃリリアナの首が折れちゃうわ!!」
「……!」
横目に見ると、ビビアンは鼻を膨らませた不細工な顔で肩を上下させて汚い鼻息を繰り返し吐き出している。私を打つ気だったのだ。先を越されたから。悔しくて。
ああ、なんて汚い心なのかしら。
私が姉なんだから、私が先に結婚するのは当然。
私を出し抜こうとしたから力の差を見せつけてあげたのに。悔し紛れに、暴力なんて……
「これでリリアナは私の妻だ!もうあなた方にリリアナを邪険に扱う権利はない!今後、私の許可なく妻に接触した日には正式に裁きを受けてもらう」
頼もしいパトリック。
うっとりしちゃう。
男の人はこうじゃないと。
父なんか、本当に駄目。
母は見る目がない馬鹿だからビビアンみたいな妹が産めたのだ。私でやめておけばよかったのに、体まで壊してビビアンなんか産んで、本当に馬鹿。
体を壊してまで産んだからビビアンを大切にしないと勿体ないと思って、ビビアンばかりに期待をかけた。本当に自分本位な女だ。大嫌い。
そう、大嫌い。
もうお父様とお母様の愛なんていらない。
だって、そんなものは存在しないもの。
私を愛せない狂った人たちにはもう期待しない。
私はパトリックと結婚したのだもの。
これで、私の勝ちだ。
「じきにあなた方の本性も世に知れ渡り、メイウェザー伯爵家との縁談もなかったことにされるだろう。せいぜいその凶暴な令嬢を飼い慣らすんだな。貴族にあるまじき陰湿な乱暴者だ。恥を知れ!」
もっと言ってやって、パトリック!
私は心で喝采を送りながら愛しい夫の胸に顔を埋める。
これでもう安心。私の本当の人生が今日ここから始まった。
私はラムリー伯爵夫人。
母のような馬鹿な真似はしない。
ずっとずっと、世界一愛される可愛い妻でい続けるのだ。パトリックの為に。
ビビアンの大声が空から降って来て私はまた嫌な気持ちになった。
ああやって窓を開けて、わざと私に聞こえるようにしているのだ。
「私とダルネルの婚約と同等に祝福するって正気!?レディ・シンシアは優しいからそう仰ってくださっただけで、私たちが〝はい、喜んで〟って甘えていいわけじゃないのよ!絶対に慰謝料を受け取ってもらうべきだったのに!!」
大嫌いなビビアン。
後から産まれたくせに、私から全部奪った憎らしい妹。
両親は妹ばかり可愛がり、私を常に蔑ろにしてきた。私がそれを指摘しても自分たちが正しいという姿勢を貫いて、私を罵倒した。
本当に地獄のような毎日だった。
欲しいドレスも下品だと難癖をつけて買ってもらえず、ビビアンには剣を習わせたくせに私には触らせてもくれなかった。
お前には無理だ、できない、危ない、何度も言われた。
まるで剣を握らせたら私に殺されるとでも疑うような激しい口ぶりだった。酷い。私がそんな心無い人間に見えるのだろうか。親子なのに。
私の方が、こんなに傷ついているのに。
愛してくれない。大切にしてくれない。
いつもいつもいつも、ビビアンばかり。
ダルネルも私があれだけ愛していたのにビビアンを選んだ。
がさつで恐いビビアンの何処がいいのだろう。外見も私の方が優れている。
みんな大嫌い。
そうやってみんなが苛めるから私には優しくしてくれる人が必要だった。
その心の正しい人がやっと現れたと思ったら、家族そろって猛反対。私が幸せになるのが嫌なのだ。
どうして……
どうして私ばかりこんな辛い目に遇わなくてはいけないの?
私が何をしたの?
神様、どうか、私を正しく愛するようにみんなの心を入れ替えてください。
そう何度も何度も祈った。祈り続けてきた。
でも神様はちゃんと見ているのだ。
私には今、私だけを愛して大切にしてくれるパトリックがいる。今も私を抱きしめてくれている。
「クレイン伯爵家が許しても私は許さない!どうしてわからないの!?ラムリー伯爵なんかと結婚された日にはヒューソン伯爵家は一生非難の目を浴びることになるのよ!?」
「どうやら私も悪者に仕立て上げられたようだ」
パトリックが溜息を洩らす。
抱きしめられながら大きく仰け反り、愛しい人の顎を見上げた。パトリックも仰のいて声の洩れる窓を見上げている。
「君はこうして、幼い頃からずっと家族に怒鳴れ、罵られてきたんだね」
「そうなの」
「何もかもが正しくないからよ!私からダルネルを奪えなかった腹いせに、本当は自分が婚約するはずだったとずっと言い張ってるのよ!?そんな話ある!?根拠はなんなの!?自分が姉だから!?」
それにしてもビビアンの声は本当に癇に障る。何故あんなに通る声をしているのだろう。サーカスに入るわけでもないのに、本当に無駄な才能だ。
ビビアンは両親に贔屓されて育ったから、いつも自分が正しくて、私が間違っていると思っている。
偉そうに。何様だろう、妹のくせに。
本当に忌々しい。
ビビアンさえいなければ、私は周囲から正しく愛されて幸せだったのに。
「ああやって怒鳴って両親を手懐けて君を苛めて来たわけか。だが、もう終わりだ」
パトリックがぎゅうっと抱きしめてくれる。
私たちは互いに見つめ合うとキスをして、手を繋いで駆け足で屋敷に入っていった。そして大声の洩れる部屋に一直線で向かう。
ビビアンがあれだけ大声で騒いでいるのだから両親が一緒にいるはずだ。
もしビビアンが誰もいない部屋で一人で怒鳴り散らしているのなら面白いのに。本当に無駄ばかりで何一つ役に立たない惜しい妹。そのくせ私から愛される権利を奪って正義を気取っているのだから、恐い恐い。
でも、もう苛められる日々は終わり。
そう、私にはパトリックがいるのだから。
宮廷に重宝されるような伝統的名家のお嬢様であるレディ・シンシアより、私を選んでくれた。私にはそれだけの魅力と価値がある。
やっと、やっと見つけた。
私の王子様。
「!」
私は勢いよく扉を開けた。
「!?」
室内にいた両親と妹は目を見開いて同時に私を見つめた。
驚いている。
でも、もっと驚かせてあげる。
「結婚したわ!!」
私はついさっき麓の教会でパトリックと清らかな結婚式を挙げたばかり。
隣には、私が如何に素晴らしい妻かを証明してくれるパトリックがいて、勇気をくれる。
私とパトリックは凝然とする三人に交換したばかりの愛の指輪と熱いキスを見せつけた。
「やめて!」
母が叫んで妹ビビアンを羽交い絞めにする。
「あなたの力じゃリリアナの首が折れちゃうわ!!」
「……!」
横目に見ると、ビビアンは鼻を膨らませた不細工な顔で肩を上下させて汚い鼻息を繰り返し吐き出している。私を打つ気だったのだ。先を越されたから。悔しくて。
ああ、なんて汚い心なのかしら。
私が姉なんだから、私が先に結婚するのは当然。
私を出し抜こうとしたから力の差を見せつけてあげたのに。悔し紛れに、暴力なんて……
「これでリリアナは私の妻だ!もうあなた方にリリアナを邪険に扱う権利はない!今後、私の許可なく妻に接触した日には正式に裁きを受けてもらう」
頼もしいパトリック。
うっとりしちゃう。
男の人はこうじゃないと。
父なんか、本当に駄目。
母は見る目がない馬鹿だからビビアンみたいな妹が産めたのだ。私でやめておけばよかったのに、体まで壊してビビアンなんか産んで、本当に馬鹿。
体を壊してまで産んだからビビアンを大切にしないと勿体ないと思って、ビビアンばかりに期待をかけた。本当に自分本位な女だ。大嫌い。
そう、大嫌い。
もうお父様とお母様の愛なんていらない。
だって、そんなものは存在しないもの。
私を愛せない狂った人たちにはもう期待しない。
私はパトリックと結婚したのだもの。
これで、私の勝ちだ。
「じきにあなた方の本性も世に知れ渡り、メイウェザー伯爵家との縁談もなかったことにされるだろう。せいぜいその凶暴な令嬢を飼い慣らすんだな。貴族にあるまじき陰湿な乱暴者だ。恥を知れ!」
もっと言ってやって、パトリック!
私は心で喝采を送りながら愛しい夫の胸に顔を埋める。
これでもう安心。私の本当の人生が今日ここから始まった。
私はラムリー伯爵夫人。
母のような馬鹿な真似はしない。
ずっとずっと、世界一愛される可愛い妻でい続けるのだ。パトリックの為に。
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