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「やあ、会いたかったよ。僕の愛しい奥さん。こっちへ来て」
夕食でやっとエディに再会。
朝ぶり。
「お疲れ様、エディ。私も会いたかったわ」
豪華な食卓を前に身を寄せ合ってキスをした。甘いキスを。
夫の両親の前で。
そう。
夕食は一家四人でとるのだ。まあ、予想はしていた。許容範囲内だと思っていた。
エディは晩婚だった妖精爺の愛してやまない一人息子なのだから、そう簡単には手放さないだろうと踏んでいた。
義母ティルダが想定外だった。
「まあ、仲良し」
嬉しそうにしている。
なんならときめいてさえいそうな目の輝きは、今となっては若干どころか充分な狂気を孕んでいるように見えた。
ただ幸いにも夫と息子の存在はティルダを鎮静化させるようだった。
一見すると息子の結婚を喜んでいる明るくて優しい母親であり、私の食事に手を出す真似もしなかった。
すると、日中をべったりくっついて過ごしたがるティルダの真の目的は、夫と息子の目の届かない場所で私にアレを摂取させるためだと考えるのが妥当だろう。
或いは、息子の妻への歪んだ愛。
「……」
気持ち悪い。
併しいくらティルダに嫌悪感を募らせようと、エディの存在は絶大だった。
最愛の夫から眼差しで愛を注がれながらの夕食は楽しく、昼を抜いた分、食欲も暴走した。とはいえ、はしたなく暴食に走るほど愚かではない。私は食欲を手懐けながら可憐な小食さえ装い和やかに夕食を終えた。
夜。
待ちに待った夜。
私はエディと抱き合いながら寝室にもつれ込み、ベッドに飛び込んだ。
「ずっと君のことばかり考えていたんだ。ノーラ。抱きしめたかった。キスしたかったよ。ああ、可愛い奥さん。もっと見つめて。僕を見て」
「愛しているわ、エディ」
熱く甘いキスを繰り返しながら、愛を囁き合う。
そうしながら互いの体をまさぐっていたのはそうなのだが、ふいにティルダの上機嫌な笑顔が脳裏をかすめた。
「……」
愛の営みを邪魔するなんて、碌なものじゃない。
結婚生活は始めが肝心だと本能的に察した私は、エディに今日の出来事を打ち明けるのが得策だと気づいた。エディが真のマザコンであれば、もっと母親が会話に登場するはずだ。エディは私に集中している。というか私しか見ていない。私に夢中なのだから当然だ。
問題は、私がティルダに勝ろうと解決しないであろう歪んだ愛情表現にある。
「ねえ、エディ」
「ん?……どうしたの?」
私が乗り気ではないと気づいたエディは、紳士的に勢いを弱めると労わるような優しい眼差しで私の前髪を撫でつけた。
ベッドに折り重なって、夫の重みや体温を全身で受け止めているのは幸せな気持ちになれたし、私の肉体もエディの熱い愛を欲している。
今はぐっと我慢して、まずは義母を私たち夫婦の間から追い出さなければならない。
「お義母様が、爵位継承を発表するパーティーが済んでからにしなさいって」
「……ええっ!?」
エディのうっとりするような美しい顔から性的な熱が吹き飛んだ。
私の体の脇で腕をつっぱり上半身を持ち上げると、長い睫毛をはためかせ激しく瞬きを繰り返す。
「母上がそんなこと言ったの!?」
私は、勝利を確信した。
エディは完全に起き上がり、ベッドに腰かける態勢になって額を覆った。
「ごめん。嫌な気持ちにさせたよね。僕から言っておくよ」
エディ自身、ショックを受けているのが伝わってくる。
当たり前だ。愛する妻との営みに母親が口を挟むなんて、言語道断。エディはマザコンではなかった。
「あまり刺激しないようにして。お願い」
「ありがとう。嫌な思いをしたのに、優しいね。ノーラ」
そうではない。
初夜おあずけ宣言は序の口だから、これだけを忠告して済ませて欲しくはないのだ。そのためには加減が不可欠に思えた。
労わりと謝罪の篭った手つきで私の頬を撫でるエディの手を握り、目を潤ませて見上げる。
「お義母様、娘が欲しかったのかしら。私を大切に思ってくれるのはありがたいのだけど、生まれたての赤ちゃんじゃないのよ」
「え?どういうこと?」
エディは表情に若干の緊迫感を漂わせ問うてきた。
私は表現を和らげて全てぶちまけた。
「私が舌を火傷しないように料理全部に口をつけたり、赤ちゃんを産むための健康を維持できるようにって色々なハーブをかけてしまうの」
「ええっ?」
「それに、日焼けはよくないから日中は館に篭るようにも言われたわ」
「はあっ?」
「嫁いできたというより、三才まで若返って養子になった気分よ。悪い人ではないのだけど、ちょっと……」
エディは両手で頭を抱え、ぐったりと項垂れてしまった。
その背中を見つめながら、私は安堵して深く息をつく。
よかった。
エディはまともで、私を深く愛している。
「否、行き過ぎているよ。本当にごめん。二度とこんなことは起きないと約束する」
「ありがとう、エディ。お義母様と喧嘩だけはしないでね」
「ノーラ……君の愛を失ったら、僕は……」
「エディ」
「生きていけないよ」
私は項垂れるエディの背中を撫で、腕を引っ張りこちらを向くように誘う。
「あなたを愛しているから結婚したのよ。お義母様とちょっと性格が合わなくても、あなたを嫌いになったりしないわ」
だいたい領主はもうあの妖精爺ではなくエディなのだ。
女主はこの私。
ティルダには好き勝手させない。
あの女の時代は終わったのだ。それをわからせてやる。
「愛しているよ、ノーラ」
エディが身を捩り私の方に不安そうな頼りない笑みを向ける。
私はエディの手に自らの手を重ね、頬を撫で続けてもらいながら愛の篭った笑みを返す。
「私も。愛しているわ、エディ」
「今日はゆっくり休もう。僕なんかと寝るの嫌だろ?」
「いいえ」
私は両手を広げた。
「来て」
「……」
エディの表情が蕩け、熱い溜息とともに覆い被さってくる。
初夜に口出しされたのは不愉快だったが、これも解決。私たちは愛を育むし、勿論これが初めてではない。
愛の前に鬱陶しい義母など無力だと、この夜の私は信じて疑わなかった。
それに忘れてしまった。気持ちよかったから。
夕食でやっとエディに再会。
朝ぶり。
「お疲れ様、エディ。私も会いたかったわ」
豪華な食卓を前に身を寄せ合ってキスをした。甘いキスを。
夫の両親の前で。
そう。
夕食は一家四人でとるのだ。まあ、予想はしていた。許容範囲内だと思っていた。
エディは晩婚だった妖精爺の愛してやまない一人息子なのだから、そう簡単には手放さないだろうと踏んでいた。
義母ティルダが想定外だった。
「まあ、仲良し」
嬉しそうにしている。
なんならときめいてさえいそうな目の輝きは、今となっては若干どころか充分な狂気を孕んでいるように見えた。
ただ幸いにも夫と息子の存在はティルダを鎮静化させるようだった。
一見すると息子の結婚を喜んでいる明るくて優しい母親であり、私の食事に手を出す真似もしなかった。
すると、日中をべったりくっついて過ごしたがるティルダの真の目的は、夫と息子の目の届かない場所で私にアレを摂取させるためだと考えるのが妥当だろう。
或いは、息子の妻への歪んだ愛。
「……」
気持ち悪い。
併しいくらティルダに嫌悪感を募らせようと、エディの存在は絶大だった。
最愛の夫から眼差しで愛を注がれながらの夕食は楽しく、昼を抜いた分、食欲も暴走した。とはいえ、はしたなく暴食に走るほど愚かではない。私は食欲を手懐けながら可憐な小食さえ装い和やかに夕食を終えた。
夜。
待ちに待った夜。
私はエディと抱き合いながら寝室にもつれ込み、ベッドに飛び込んだ。
「ずっと君のことばかり考えていたんだ。ノーラ。抱きしめたかった。キスしたかったよ。ああ、可愛い奥さん。もっと見つめて。僕を見て」
「愛しているわ、エディ」
熱く甘いキスを繰り返しながら、愛を囁き合う。
そうしながら互いの体をまさぐっていたのはそうなのだが、ふいにティルダの上機嫌な笑顔が脳裏をかすめた。
「……」
愛の営みを邪魔するなんて、碌なものじゃない。
結婚生活は始めが肝心だと本能的に察した私は、エディに今日の出来事を打ち明けるのが得策だと気づいた。エディが真のマザコンであれば、もっと母親が会話に登場するはずだ。エディは私に集中している。というか私しか見ていない。私に夢中なのだから当然だ。
問題は、私がティルダに勝ろうと解決しないであろう歪んだ愛情表現にある。
「ねえ、エディ」
「ん?……どうしたの?」
私が乗り気ではないと気づいたエディは、紳士的に勢いを弱めると労わるような優しい眼差しで私の前髪を撫でつけた。
ベッドに折り重なって、夫の重みや体温を全身で受け止めているのは幸せな気持ちになれたし、私の肉体もエディの熱い愛を欲している。
今はぐっと我慢して、まずは義母を私たち夫婦の間から追い出さなければならない。
「お義母様が、爵位継承を発表するパーティーが済んでからにしなさいって」
「……ええっ!?」
エディのうっとりするような美しい顔から性的な熱が吹き飛んだ。
私の体の脇で腕をつっぱり上半身を持ち上げると、長い睫毛をはためかせ激しく瞬きを繰り返す。
「母上がそんなこと言ったの!?」
私は、勝利を確信した。
エディは完全に起き上がり、ベッドに腰かける態勢になって額を覆った。
「ごめん。嫌な気持ちにさせたよね。僕から言っておくよ」
エディ自身、ショックを受けているのが伝わってくる。
当たり前だ。愛する妻との営みに母親が口を挟むなんて、言語道断。エディはマザコンではなかった。
「あまり刺激しないようにして。お願い」
「ありがとう。嫌な思いをしたのに、優しいね。ノーラ」
そうではない。
初夜おあずけ宣言は序の口だから、これだけを忠告して済ませて欲しくはないのだ。そのためには加減が不可欠に思えた。
労わりと謝罪の篭った手つきで私の頬を撫でるエディの手を握り、目を潤ませて見上げる。
「お義母様、娘が欲しかったのかしら。私を大切に思ってくれるのはありがたいのだけど、生まれたての赤ちゃんじゃないのよ」
「え?どういうこと?」
エディは表情に若干の緊迫感を漂わせ問うてきた。
私は表現を和らげて全てぶちまけた。
「私が舌を火傷しないように料理全部に口をつけたり、赤ちゃんを産むための健康を維持できるようにって色々なハーブをかけてしまうの」
「ええっ?」
「それに、日焼けはよくないから日中は館に篭るようにも言われたわ」
「はあっ?」
「嫁いできたというより、三才まで若返って養子になった気分よ。悪い人ではないのだけど、ちょっと……」
エディは両手で頭を抱え、ぐったりと項垂れてしまった。
その背中を見つめながら、私は安堵して深く息をつく。
よかった。
エディはまともで、私を深く愛している。
「否、行き過ぎているよ。本当にごめん。二度とこんなことは起きないと約束する」
「ありがとう、エディ。お義母様と喧嘩だけはしないでね」
「ノーラ……君の愛を失ったら、僕は……」
「エディ」
「生きていけないよ」
私は項垂れるエディの背中を撫で、腕を引っ張りこちらを向くように誘う。
「あなたを愛しているから結婚したのよ。お義母様とちょっと性格が合わなくても、あなたを嫌いになったりしないわ」
だいたい領主はもうあの妖精爺ではなくエディなのだ。
女主はこの私。
ティルダには好き勝手させない。
あの女の時代は終わったのだ。それをわからせてやる。
「愛しているよ、ノーラ」
エディが身を捩り私の方に不安そうな頼りない笑みを向ける。
私はエディの手に自らの手を重ね、頬を撫で続けてもらいながら愛の篭った笑みを返す。
「私も。愛しているわ、エディ」
「今日はゆっくり休もう。僕なんかと寝るの嫌だろ?」
「いいえ」
私は両手を広げた。
「来て」
「……」
エディの表情が蕩け、熱い溜息とともに覆い被さってくる。
初夜に口出しされたのは不愉快だったが、これも解決。私たちは愛を育むし、勿論これが初めてではない。
愛の前に鬱陶しい義母など無力だと、この夜の私は信じて疑わなかった。
それに忘れてしまった。気持ちよかったから。
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