お姉様から奪った結婚ですので泣き言なんて洩らせません!

希猫 ゆうみ

文字の大きさ
10 / 26

10

しおりを挟む
新婚早々、昼食は夫ではなく義母ととる私。
朝十時から夕方四時まで館の外に出てはいけないという馬鹿馬鹿しい主張を取り合えずは受け入れたふりをするにしても、私が一緒にいたいのは夫のエディであって義母ティルダではない。

腹立たしさと、鬱陶しいティルダへの爆速で募る嫌悪感を巧みに隠し、私は笑顔で昼食に臨もうとしていた。

ところが。
恐ろしい事件が待ち受けていたのだ。

「待って!」

私が口を潤そうとした刹那、ティルダはけたたましい金切り声をあげた。

「!?」

まるで私がありえない行動を取ったかのような勢いだったことから、さすがに私の手も止まる。

ほら、虫とか。
食事に入っていてはいけない何かが、義母の角度からは見えたのかもしれないから。

併し、違った。

「大事なノーラには安全な食事をとってもらわなくちゃね。私が確かめてあげる」
「……」

え?
なに?

ノルドマン伯爵家の料理人は日常的に毒を入れるって言うわけ?

と、私が困惑している僅かの隙に、ティルダは私に配膳された器全ての中身の臭いを嗅いで料理や飲み物に舌の先をちろりとあてた。

「……」

気持ちが悪い。

唖然としていた私は抗議や口答えと呼ばれるあらゆる行為を忘れ、奇妙な生き物に遭遇した気持ちで義母ティルダに釘付けになっていた。

やがて〝毒見〟を終えたティルダは満面の笑みを私に向けて言った。

「さあ、ママが確かめてあげましたからね。ノーラ、どうぞ」
「……」

いや、どうぞじゃないでしょ。
馬鹿にしてるの?

「……お義母様」
「いいのよ!気にしないで!」

さも特別な施しをしてあげたという態度で、ティルダは私に的外れな厚意を示す。

「お母様にしてもらっていたこと全部、これからは私がやってあげるからね。可愛いノーラのためだもの、私、なんだってやれちゃうわ」
「……」

本気で言っていそうな満面の笑みには、愉快というより歓喜が込められている。
指し示しているのが私の母なのかティルダの母親のことなのか定かではないが、それは些末な問題だ。

嫌悪感はより深刻で現実的なものになり、私は頭の片隅ではまさかエディもこの行き過ぎた溺愛を受けて育ったのだろうかという邪念が生まれた。

……マザコン……。

「うっ」
「まあっ、どうしたの!?」

吐気を堪えきれず声が洩れてしまった私は咄嗟に口を押さえた。

「いいえ、なんでもありませんわ。お義母様。私、結婚式からずっと忙しくて、疲れがとれなくて。食欲がありません」
「まあ!」
「今日は、昼食を抜いて部屋で休みますわ」
「あらそう?」

わりと簡単に騙せる相手であることが、ティルダのいいところ。
一応は私を大切に思っているらしいというのもまた、扱い様によっては便利な一面だった。

「じゃあ、お昼寝にしましょうか?勿体ないけど」
「はい。ごめんなさい、お義母様」
「あ、待って!舞い上がっていたらうっかり忘れていたわ」
「……」

今度は何?

「跡継ぎを産むのに、ノーラには健康でいてもらわなくちゃいけないでしょう?こ・れ・よ!」

ティルダが小さな鉄の小瓶を取り出し、さかさまにして、薄茶色の粉を私の料理にだけ振りかけ始めた。

「…………」
「これをかけたらきっと食欲不振も治るはず!疲れも吹き飛ぶわよ!」
「……あ、ええと……」
「騙されたと思って、一口食べてみて!ほら、ノーラ!!」

母がすすめられたハーブティーがまともな代物だったのか、私は猛烈に気になった。
それより義母の正気を疑った。

何度も姉から言われた嫌味な一言。

正気?

あれを今、義母に問いかけてやりたい。
というか絶対正気ではない。

私はいつも正気だったけど。

もしかして、溺愛する息子が結婚したのを実は心底嫌がっていて、妻の私に激しく嫉妬していて、歓迎するふりで本心では私を虐め抜いてやろうと思っているとか?
だとしたら始終ご機嫌な態度をとり続けているのだから凄い演技力だ。

とりあえず回避したい。
料理には絶対に口を付けたくない。

「ふわぁぁあ」

私は体力の限界を渾身の演技で義母ティルダに見せつけ、欠伸と伸びをしてから首を回し、その勢いでがくりと項垂れ、狸寝入りを決め込んだ。

「あら、寝ちゃったの?そんなに疲れていたのかしら」

ティルダはまんまと騙され、そう独り言ちてからは黙々と昼食をとり始めた。
私の口に無理矢理スプーンでも突っ込もうものなら、寝惚けたふりで殴ってやろうかとも思っていたが、幸いにもそうはならなかった。

一人で食事を終えたティルダはまた独り言を洩らす。

「あんまり勝手なことをやりすぎると、エディも怒るかしらね……」

エディが気色悪い母親とどれだけ結託しているかによって私も怒る。
そんな自分の本心に気づきながら尚も気絶したふりを続けていると、ティルダは私にブランケットをかけて消えた。

「……」

しばらく寝たふりを続け、薄目を開けて辺りを警戒し、安全を確かめたあとで私はブランケットを丸めて床に叩きつけた。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

処理中です...