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第2章 宿屋
無言
しおりを挟むクリスさんとノエルさんも参加することになったので、フォルティスさんからはロックバードの追加をもらって、ひたすら揚げ続けて何とか夜に間に合った。
どれだけ食べるのか分からないけど、軽く10人前はあると思う。最悪評価が悪くても、アイテムボックスに入れておけば保存がきくから、俺とセレナで消化できるので問題はない。
それでも、せっかく作ったんだから美味しく食べて欲しいのが正直なところだ。
とりあえずは、いきなり大量の唐揚げを見せるのも何なので、もったいぶって皿に1つずつ乗せてテーブルに置いておく。
「おっ、シーマ。待たせて悪かったな」
「いえいえ。こちらも準備に時間が欲しかったのでちょうど良かったです」
フォルティスさんたちが食堂に入ってきたので出迎えて、テーブルへと促す。
「へぇー。やっぱり食べたことない料理だね。でも美味しそう!」
「そうだな」
エテルナさんとオルテガさんは早くも目の前の唐揚げが気になるようだ。
「遅くなってすみません!」
「いや、俺たちも来たばかりだ。腹空かせて来たんだろ? いい心掛けじゃねえか」
少し遅れてやってきたクリスさんたちをフォルティスさんが制してテーブルへ誘う。
みんなお腹が空いてるようなので、あれこれ説明するよりも、まずは食べてもらおう。
「それでは皆さん揃いましたね。フォルティスさんからいただいたロックバードを、俺が調理したものがそちらの皿になります。あったかいうちに食べてください」
「おう! 」
「ふふふ...。」
みんなそれぞれに反応を示した上で、唐揚げに手を伸ばし、口へと頬張る。
「…」×人数分
ん?
あれ?
何だか予想してた感じと随分違うなー。
もっとワイワイ騒ぐかと思ってたけど。
みんなひたすら無言で食べてる…。
感想を聞いてみたいけど、そんな空気でもない。
「あっ! 無くなっちゃった」
沈黙を破ったのは意外にもノエルさんだった。ちょうどいいので感想を聞いてみることにする。
「ノエルさん、味はどうでした?」
「それがね、覚えてないの。もちろん美味かったよ。でも、夢中で食べててあっという間に無くなっちゃったから...」
「それなら、もう1つ食べてみます? まだまだありますから」
「じゃあ、もう1つ『ありったけ持って来い!』」
「えっ?」
ノエルさんの言葉に被せるようにしてフォルティスさんが叫んだ。そんなに急がんでも...。
「ねぇシーマ。いっぱい作ったんだったら最初から出して置いてくれなきゃ。1個だけかと思って大事に食べてたんだよ?」
あれ? 若干怒り気味?のエテルナさんの言葉にみんな頷いてるな。そうか。道理でみんな無言だった訳だー。ちょっと悪いことしたかな。
「すみません。皆さんの口に合うのか分からなくて、まずは1個だけ出したんです。作った分を全部持ってきますね」
すぐにキッチンへ残りを取りに行く。とはいっても実際にはアイテムボックスの中にあるものを取り出すだけだけど。今度は大きな皿に山盛りにして持っていく。
「やったー! いっぱいあるー!」
「なぁシーマ。エールはあるのか? 」
エテルナさんがはしゃいでいる横で、フォルティスさんがエールを要求してきた。
エールとは麦のお酒で、酒場でも出される一般的なお酒だ。元の世界のビールみたいなものだが炭酸はない。この世界には炭酸が存在しないので仕方ないことだが、それでも冷やして飲めば美味しいらしい。
「何本かありますので、お出ししますよ」
「悪いな。これはエールが欲しくなる味だ」
塩とにんにくが効かせてるからな。当然と言えば当然だ。すぐにエールを持ってきてテーブルに置く。
みんな腹を空かせて来たせいか、唐揚げの山が見る見るうちに削られていく。男性陣はともかく、女性陣もよく食べている。
ん?
セレナがノエルさんたちと喋りながらも、シレっと何食わぬ顔で唐揚げを食べてるぞ。そんな事せんでも後で作ってあげるのに...って、まぁ、これはこれでいいか。
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