神さまどうか、恵みの雨を

有箱

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復讐(1)

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 神さまは心の底から村人を嫌悪しているらしい。相変わらず村に水は落とされず、地面は乾き切っていた。確かに同じ祈りだけを淡々と繰り返されても、心が動かないのは分かる。
 ただ、それだと僕まで乾いてしまうと気付いるのだろうか――兎にも角にも、回答を決めるまでの猶予は短そうだ。

 今日も、村人に混じり水を回収する。細い水が更に細まった地点へ、追いやられたらどうなるか。
 収集に手間取り帰宅が遅くなる。それが答えだ。ただ、闇が落ちる間際になったからか、今日は強奪に遭わずに済んだ。

 疲れ切った体を引きずり、玄関へと入る。だが、いつもの声がどこからも聞こえなかった。 
 容器を持ったまま、灰色に翳った部屋を移動しつつ見渡す。狭い家の捜索は簡単に終了し、残るは裏庭だけとなった。

「ばあちゃん」

 呼びかけながら裏へと回る。瞬間、目に映った場面に一瞬脳が揺れた。
 連動して体も揺れていたのか、容器が落ちて地面を潤す。ただ、水の消失なんかは問題とすら認識されなかった。

「ばあちゃん!?」

 祖母が倒れており、畑の土が荒れている。掘り返された芋が静かに佇んでおり、時間の静止を錯覚させた。様子が変わり果てているせいか、架空の画像でも見ている気分だ。

 数秒立ち尽くし、我に返る。急いで祖母に駆け寄り、体を起こすべく肩に触れた。だが、弾かれる。予想だにしなかった冷たさが、僕の接触を拒んだ。
 脳内いっぱいに広がる現実が、弱り切った全身に熱い血を巡らす。声でなんとか温みを呼び起こそうとも、痞えて発声できなかった。

 嫌だ。嫌だよ、ばあちゃん。僕を一人にしないでよ――透明な訴えも虚しく、祖母が起き上がることはなかった。

 殺されたのだ。村人に。経緯は分からない。けれど、村人の冷酷さが、無慈悲さが、祖母を殺したのは確かだった。

「……ここまでされても許さなきゃ駄目なの? ばあちゃん」

 僕の声が戻ったのは、祖母を畑に埋葬した直後だった。
 貴重な水分が、頬を伝って落ちてゆく。このまま全て失われてしまえばいい。次々と消えゆく思考の中、祖母に寄り添う姿《イメージ》が描かれた。もう一つ、未消化だった一つの言葉も生き残る。

 仕返しでもするか? ――そう僕を誘った、神さまからの言葉が。

「……するか、仕返し」
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