7 / 9
復讐(1)
しおりを挟む
神さまは心の底から村人を嫌悪しているらしい。相変わらず村に水は落とされず、地面は乾き切っていた。確かに同じ祈りだけを淡々と繰り返されても、心が動かないのは分かる。
ただ、それだと僕まで乾いてしまうと気付いるのだろうか――兎にも角にも、回答を決めるまでの猶予は短そうだ。
今日も、村人に混じり水を回収する。細い水が更に細まった地点へ、追いやられたらどうなるか。
収集に手間取り帰宅が遅くなる。それが答えだ。ただ、闇が落ちる間際になったからか、今日は強奪に遭わずに済んだ。
疲れ切った体を引きずり、玄関へと入る。だが、いつもの声がどこからも聞こえなかった。
容器を持ったまま、灰色に翳った部屋を移動しつつ見渡す。狭い家の捜索は簡単に終了し、残るは裏庭だけとなった。
「ばあちゃん」
呼びかけながら裏へと回る。瞬間、目に映った場面に一瞬脳が揺れた。
連動して体も揺れていたのか、容器が落ちて地面を潤す。ただ、水の消失なんかは問題とすら認識されなかった。
「ばあちゃん!?」
祖母が倒れており、畑の土が荒れている。掘り返された芋が静かに佇んでおり、時間の静止を錯覚させた。様子が変わり果てているせいか、架空の画像でも見ている気分だ。
数秒立ち尽くし、我に返る。急いで祖母に駆け寄り、体を起こすべく肩に触れた。だが、弾かれる。予想だにしなかった冷たさが、僕の接触を拒んだ。
脳内いっぱいに広がる現実が、弱り切った全身に熱い血を巡らす。声でなんとか温みを呼び起こそうとも、痞えて発声できなかった。
嫌だ。嫌だよ、ばあちゃん。僕を一人にしないでよ――透明な訴えも虚しく、祖母が起き上がることはなかった。
殺されたのだ。村人に。経緯は分からない。けれど、村人の冷酷さが、無慈悲さが、祖母を殺したのは確かだった。
「……ここまでされても許さなきゃ駄目なの? ばあちゃん」
僕の声が戻ったのは、祖母を畑に埋葬した直後だった。
貴重な水分が、頬を伝って落ちてゆく。このまま全て失われてしまえばいい。次々と消えゆく思考の中、祖母に寄り添う姿《イメージ》が描かれた。もう一つ、未消化だった一つの言葉も生き残る。
仕返しでもするか? ――そう僕を誘った、神さまからの言葉が。
「……するか、仕返し」
ただ、それだと僕まで乾いてしまうと気付いるのだろうか――兎にも角にも、回答を決めるまでの猶予は短そうだ。
今日も、村人に混じり水を回収する。細い水が更に細まった地点へ、追いやられたらどうなるか。
収集に手間取り帰宅が遅くなる。それが答えだ。ただ、闇が落ちる間際になったからか、今日は強奪に遭わずに済んだ。
疲れ切った体を引きずり、玄関へと入る。だが、いつもの声がどこからも聞こえなかった。
容器を持ったまま、灰色に翳った部屋を移動しつつ見渡す。狭い家の捜索は簡単に終了し、残るは裏庭だけとなった。
「ばあちゃん」
呼びかけながら裏へと回る。瞬間、目に映った場面に一瞬脳が揺れた。
連動して体も揺れていたのか、容器が落ちて地面を潤す。ただ、水の消失なんかは問題とすら認識されなかった。
「ばあちゃん!?」
祖母が倒れており、畑の土が荒れている。掘り返された芋が静かに佇んでおり、時間の静止を錯覚させた。様子が変わり果てているせいか、架空の画像でも見ている気分だ。
数秒立ち尽くし、我に返る。急いで祖母に駆け寄り、体を起こすべく肩に触れた。だが、弾かれる。予想だにしなかった冷たさが、僕の接触を拒んだ。
脳内いっぱいに広がる現実が、弱り切った全身に熱い血を巡らす。声でなんとか温みを呼び起こそうとも、痞えて発声できなかった。
嫌だ。嫌だよ、ばあちゃん。僕を一人にしないでよ――透明な訴えも虚しく、祖母が起き上がることはなかった。
殺されたのだ。村人に。経緯は分からない。けれど、村人の冷酷さが、無慈悲さが、祖母を殺したのは確かだった。
「……ここまでされても許さなきゃ駄目なの? ばあちゃん」
僕の声が戻ったのは、祖母を畑に埋葬した直後だった。
貴重な水分が、頬を伝って落ちてゆく。このまま全て失われてしまえばいい。次々と消えゆく思考の中、祖母に寄り添う姿《イメージ》が描かれた。もう一つ、未消化だった一つの言葉も生き残る。
仕返しでもするか? ――そう僕を誘った、神さまからの言葉が。
「……するか、仕返し」
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる