花の心

有箱

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残酷に生きる中で、君は美しさを

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 僕たちの生きる世界は、ほぼ四色で出来ている。
 土と枯木の茶色、空の青。それから武器の灰色と、血の赤だ。それ以外の色は、ほぼ存在しない。

 だが、そんな場所にいるのにも関わらず、君は"花"と言うものが好きだった。
 一度で良いから本物が見たい。それが君の夢だった。



 甲高い風の音がする。木陰に身を置いても尚、容赦なく吹き付けてくる。折角眠りにつけたのに、甲斐なく起きてしまった。

 この国の夜は寒い。だが、マッチは愚か、温かな衣服さえ与えられなかった。薄い毛布に身を埋め、凌ぐしかない。

 僕らは、戦う為だけに遣わされた、言わば少年兵士だ。いや、少年だけでなく、少女だって構わず駆り出されている。
 結局、戦争の道具でしかないのだ。

 真横から、微小なラジオの音声が聞こえる。風の音とノイズが混じるそれに、君は懸命に耳を傾けていた。
 ラジオは無線機の役割も兼ね、渡された唯一の高級品だ。

「アルルテ、そろそろ寝なよ。明日も殺さなきゃいけないんだから」

 声を潜めて告ぐ。と言っても、声量の抑制は最早習慣行為だ。

「ちょっと待って、ニイチ。あと少しなの。この時間だけが楽しみだから許して」

 アルルテが聞いているのは、花を題材にした番組である。発信源は知らないが、理解可能な言語ゆえ近場だと推測出来た。

 それでも、僕らにとって遠方であることに変わりないが。花の姿を知らない僕らにとっては。

「分かった。もう少しだよ」

 アルルテは僕の相棒だ。ランダムに決められた相手だったが、今では彼女以外考えられない。

 僕の所属する隊は、二人一組の行動を基本としている。現在、敵の本拠地に向かって進行中だ。

 敵兵に見つかった際、一斉に殺されない為、別の班とは間隔を開けて進んでいる。だから、他の仲間がいるのは少し離れた場所だ。
 乱戦での接触が時折あるが、制服で判別出来るため問題はない。

 とにもかくにも、周囲にいるとすれば敵だけだ。だから、何時でも対応出来るよう、夜は交代で眠ることにしていた。

 ――のだが、順番が来ても彼女は眠ろうとしなかった。かなり熱中している模様だ。

「……花って一体どれ程可愛いのかしら。一度で良いから本物を見てみたいわ」

 これまで、幾度も繰り返された言葉が吐かれる。聞く度、チリリと胸が痛んだ。

「戦いが終わったら見られるさ。さぁ、もう寝よう」
「明日も頑張らなくちゃいけないものね」
「そうだよ、おやすみ」

 電源が落とされる。世界との繋がりが切れる瞬間は、なぜかいつも寂しくなる。
 電波向こうの地を、僕らが踏むことは無いのにね。
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