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二人の来訪者と追憶
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薄らと話し声が聞こえた。
瞼が重くて、目が思うように開けられない。
「──こっちに連れてくればこうはならなかっただろう」
「ですが、そうされたら晒し者になるのは目に見えてわかっていたでしょう」
「カノンはそんな視線に屈したりしない」
そんな時間は立っていない気がするが気が遠くなって一瞬眠っていたかもしれない。
恐らくディー叔父さんが運んでくれたベットの上。誰かの話し声が微睡みの中に聞こえる。
「昔と今の状態を比べないで貰いたい。カノンの今の経験上から耐えられたかなんてわからないでしょうが」
「だからって、甘やかして言い訳じゃない。せめて、別の室内での仕事をやらせていたら熱を出すなんて起きる筈が無いだろ」
「それは割り振られた仕事を終わらせた後に、カノンは働き者ですから」
「それが甘やかしていると言っているんだ。配慮をしろと言ってる訳じゃない。体質に合わせた仕事をさせるべきだって話をしてるんだ」
瞼を開けるのは気だるくて、目を閉じたまま、どこかふわふわと、覚醒しない意識をさ迷っているような感覚だった。
声の主は叔父さんとシオン様?
何か、揉めているのだろうか。
「本人の意志を尊重しているだけです」
「だが、結果どうだ? いくらカノンが頑張ろうとしても人魚族は繊細だ。たく、お前の言い分からてっきり庇護しているだけかと思っていたんだがな、まさか使用人として働いてるとは」
「監督責任者は私です。認識不足だった私に責任が有りますからあまりシオン様を責めないで下さい。それにここは色んな種族が居ますが、そう言うのは自己責任ですよ。あと小言煩いので」
「相変わらずだな、テオ。自己責任は大いに結構だよ。だけど最終責任者はシオンだ。預かる立場に籍を置いてる以上は中途半端に囲うんだったら今すぐ手放せ」
「ッ……」
苦々しく言葉に詰まるシオン様。テオもいるようで、すかさず便宜を取り反論、庇っているように話すがディー叔父さんは取り合おうとはしない様子だ。
「やっぱりこっちに早々に引き取るべきだったな。こっちなら俺の側仕えに置けば何ら問題ない。カノンは昔から器用だからな」
「そんな事したら皇宮で働く事になるじゃないですか! 貴方だってそんな待遇になった元奴隷がどうなっていったか身を持ってご存知では無いですか!」
シオン様が声を荒らげる。
初めてだ、いつも優しくて穏やかで、気遣いも上手くて、だからこんな風になるなんて知らない。
「彼奴らは余計な種族の威厳を持ち合わせ過ぎたんだ。カノンはそうはならない」
「だとしても苦しまないとは限らない。俺はこれ以上、傷付くのは見たくないんですよ。だから少しずつ信頼して貰えるように動いていたんです。それにせっかく再会出来たのに」
苦虫をかみ潰したような声。それでも、認められないと話す声に収拾がつかない。
「お前の話はわからないわけじゃない。だが……はあ。兎に角、カノンは俺の元に連れて行く。水場にも直ぐに行けるし、そう言う財団の役職においても良いしな」
「それはカノンが決める事です。それに水場ならここからでも行ける場所はあります」
並行戦が続きどちらも妥協する気は無い。
当事者だけは渦中の外だ。僕の知らないところで、シオン様はこんな風に揉める事があったのかもしれない。きっと僕が迷惑を掛けているからだ。迷惑は掛けたくないわかってる、わかってるけど。
「あ、カノンさん」
テオが呼ぶ声に視線が集まる。
無理矢理にでも身体を起こし、重たい瞼をゆっくりと開ける。
「僕はここに……居たいです」
視界は狭く何処か朧気で、僕は何を言っているのかも把握出来なかった。それでも、纏まりも支離滅裂な言葉でも言わなきゃいけない気がした。
「せっかく……慣れて来て、良くして貰ってるのにシオン様にも他の人にも御恩をまだ何も返せてません。それに探してる人も見つけられてないのに、……僕だけが待遇が良くなるのはおかしいです。僕は人を傷付けて、お嬢様を、お嬢様も守れなくて……だから奴隷になったのに、ここにいるのもやっぱりおかしいのかもしれなくて、も、出来る事は、やらなきゃ何も」
「カノン落ち着け。一旦落ち着いて、寝てなさい」
「でも、ディー……叔父さ」
「良いから寝なさい。熱が下がってから話を聞くから」
何処か辛そうな心配そうな困ったようなシオン様の顔が見えた気がした。
そんな顔が見たい訳じゃないのに。直ぐに叔父さんにまたベットに寝るように促され、ベットに倒されると僕は落ちるように意識を手放した。
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