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使用人達の遊戯場

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「でも、父上と母上は私に嘘は吐きませんわ!!」


「お、お嬢様もうやめましょう。わかって貰える方だけに話せば良いんですよ」

「ッどうして! だって本当の事だもの! 夢何かじゃないもの……」

「そうそうやめましょうや。お嬢様はお花でも見て可愛らしく気飾れば充分ですよ。なあ?」


 わざとらしい笑い声は嘲笑だ。お嬢様付きの侍女も嗜めているようで、理解はしているが、それが夢見がちなお嬢様がこれ以上傷つかないようにする為の配慮だろうか。誰も信じているわけじゃなさそうだった。ただ一人、両親の言葉だけは信じているお嬢様だけを除いて。それはおかしな状況だった。何故ならこの中で最も立場が上なのは、お嬢様だ。


「出来ますよ」


 あまり大きい声とは言えないが、透きとおるようにハッキリと良く通る声だった。それは確かに僕の口から出た声で、隣にいるリリーが驚いて口を開けているのと一斉にこちらに視線が集まるのに思わず、顔を手で隠してしまいそうになった。
 まさか、ここまで注目されると思わなかった為、怖気付くのと逃げ出したい衝動に駆らながらも届いてしまった以上、後には引けなかった。胸元に手を置いて、深呼吸をすると真っ直ぐ双方を見て続けた。


「雲は作れますし、触れますし、何なら食べれますよ。夢では無くて本当に生み出す事が可能です」


 涙目でポカーンとするお嬢様の横に歩み寄ると今度はハッキリと詳細に言い切る。前の方で対峙している騎士達では無く後ろに控えている騎士がヒソヒソと話、笑いだした。
 聞こえていている言葉は露骨に聞こえるように言っており、確実に嫌味をこれ見よがしに言っている。

 あれは奴隷で、主様のお気に入りだの、新人の癖に立場を弁えろよ、と。僕の事をとやかく言うのは気にする程の事では無いが、立場を言えた義理なのかは別に見えた。


「いやいや、まさか新人ちゃんまで何を言い出すのかと」

「出来ますよ、必要な材料は有りますけど、少なくとも何もせずに決め付けてただ諦めてしまうよりはよっぽど良い」


 表情を変えないまま至って真剣な顔で断言すると面食らったように騎士は息を飲んだ。此処で使用人として働き始めてからも特に何かを主張したりはしていない。リリーやテオ以外とは話す事も挨拶や業務程度で極力少なかった。自ら話すのは正直苦手で、視線を合わせるのも得意ではない。


「寧ろ諭すならまだしも一方的に揶揄って馬鹿にする方が騎士として、大人としてもどうかと思いますが」

「ッな! それは……しかし」

「いやー、お嬢様にも取り入ろうとしてるだけじゃね?」

「確かに……」


 だから周囲もこんなに喋る僕に驚いているようで、的を射た発言だったのか、視線を彷徨わせる筆頭だろう騎士は耳を動かし、唸る。後ろに控えていた騎士はそれでも揚げ足を取り出して、筆頭騎士は頷き出す。
何だろうこの雰囲気は、このままでは収拾がつかない。



「いい加減にしなさいよ! この朴念仁共!! 夢は叶える為に有るのよー! 馬鹿にするのも大概にしなさいよ!」

 そんな時、一人の侍女が大声を出した。怒声に思わずビクッと驚いて振り向くとリリーが怒ってくれたのだ。


「そうだそうだ! だからモテないんだわ体力だけ!!」
「女の敵ぃー野蛮人」
「もうちょっと紳士ならねえ……相手してあげるんだけど」
「まあ、隊長はね、ちょっと腕は良いんですけどね。女の気持ちはからっきしです」


 それを皮切りにするように反撃する数人の使用人と寝返った(?)若い騎士が反論し出す。

「うるせぇえ!! ああもうわかったよ! だったら証明してみて下さいよ。そこまで言うなら!」

「勿論です」


 流石に謂れの無い事か、気にしていたのか、筆頭していた騎士である獣人隊長は啖呵を切った。同じく同意すれば引き返せないのは重々承知だったが、自信が無いわけでも無かった。ざわめく周囲に後ろに控えている騎士が提案する。


「それじゃあ、出来なかったら彼に御奉仕して貰うってのはどうですか」

「おっ、良いねぇ。シオン様をもお気に入りにさせた宝器何だろ? どんな風な締まりか気になるしね」


 ニヤニヤと笑いながら僕の様子を伺う騎士に知らぬ間に冷めた視線になっていたかもしれない。


「うわっ、最低」

「信じらんない」


 幻滅する侍女の言葉にしっかりとお嬢様は耳を塞がれていた。何なら僕はお嬢様の前に出て一部の騎士の顔を見えないように遮っていた。
 そもそもいつから僕はシオン様のお気に入りになったんだ。シオン様はただ奴隷だった僕に手を差し伸べてるだけだ。何でそういう話になるんだろう。呆れはすれど、あまり自分の身体にどうこうされるのを躊躇うほど気にしていなかったわけで、ムキになっていたのも事実だった。


「──構いませんよ、僕はそれで」

「ちょ、カノンくん!」

「その代わり僕が口約通りに本当に食べられる雲を作れたらお嬢様に土下座謝罪をして下さい。そこにいる全員」

「あ、ああ! 当然だ。構わない」

 隊長は咄嗟に頷いた。止めるリリーを後目に言質を取る。何回か挨拶を交わしてはいたが、物静かに職務を全うしていた僕の行動に驚いている者も少なくなかった。
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