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使用人達の遊戯場
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「そう言えばカノンくんはテオと何処に向かう予定だったの?」
「あ、えっと、庭園に行く予定で」
「そっか、もしかしてお嬢様のところ?」
そう言われて頷くとリリーも頷いて笑った。可愛らしく無邪気な笑顔に自然と気持ちも穏やかになる気がする。
「私も花をもらいに行かないといけないから一緒に行きましょう!」
さっきの事など何も無かったような気軽さになんとも言えない気持ちになるが、うん。後でやっぱりさり気なく伝えといた方が良いよね。と思い直した。
「あ、カノン君、一応テオ君にそういう兆候があったら止めて貰えたら……今シオンが留守なので」
「え? えっと、はあ……善処します」
「君ならきっと大丈夫だと思うんですよね」
何を根拠にとは思ったものの、媚薬の話ならまあやれる事は助力出来るかもしれない。ただもっと前に気掛かりな事を言われていたような気がしたが、次の予定も有り、テオなら何とか出来るのでは? 等と何の確信も無いが、この時はそう思っていた。
ルシェル先生は別件があるらしくそのまま別れてからリリーと一緒に庭園へと足を進めた。たわいも無い話をしながらもやはりリリーはテオの事を随分と慕っていて、一方でテオは確かに仲が良いけれど、一歩引いているように感じているらしい。
だからたまに何か色々とチェルシーやルシェル先生に相談をしていたりするらしい。所謂、恋愛相談のようなものだった。
何となく、相談する相手の提案がとんでもない気がして、きっと相談相手を間違っている可能性がある気がするのだけれども。
「……リリー、とりあえず今回みたいな怪しい薬で、とかはあんまり良くないと思うよ」
「うーん、やっぱり? 今日は偶然本人に掛かったんだけど、前のは知らない間に無くなってて、その前のは落として割って…更に前は」
どうやらわりと頻繁に行われているらしい。ルシェル先生に関しては良いように実験に利用している気がしてならない。恐らくテオが事前に処理している可能性があった。色々苦労しているんだろうな、と遠い目をしてしまうくらいには申し訳ない気持ちになった。今度、出来る事があったら何か労えたらいいなぁと思う。
「リリーは、気持ちと身体どっちが欲しいの?」
「えっ、と……両方!」
「あはは……それなら良いけど、心が伴わない関係は結局何にもならないから」
やや確信的な質問に間はあったが、ほぼ即答するリリーに自然と表情が緩むと思った事が口から出た。
そんな自分に少し驚きながらも実際ただ虚しいそれだけだった。でも、そうする事で、誰かの何かになれた気でいた。勿論、そんな訳も無かったし、ただただ息苦しかったし、心はずっと空虚で何もわからなかった。
そう言えば、今更ながら前の屋敷にいた時はところどころ、いや、結構な頻度で記憶が曖昧だった気がする。その度にあの甘い匂いがしていたような……。
「──カノンくん、カノンくん!」
「あっ、」
物思いに耽っていたようで呼ばれている事に気付かなかった。慌てて謝るとリリーは首を振る。
「大丈夫ですよ、それよりも」
気付けば庭園は目の前だったが、何だかそこには異様な光景が広がっていた。
「だから言っておりますの! 雲は柔らかくてふわふわしてて美味しいのですわ!」
「へぇーそれはそれはお嬢様は雲に触った事があるんですか?」
「食べた事も?」
フリルの着いた淡い桃色の可愛いらしいワンピースを身に纏った小さな少女が屈強な騎士数人を目の前に何やら話していた。騎士の中には毛色の違う種族も混ざっており、微笑ましいように見えるその光景だったが、少女は少し怒っているのか、ムッとした表情をしており、戸惑って不安げに見つめているお嬢様付きだろう侍女と呆れや止めるにもと躊躇い、見守っている数人のお屋敷の使用人で少し空気が違っていた。
「わ、私はまだありません。でも、父上も母上も食べて触った事があるって言ってましたわ。物語りのお話でも乗る事が出来るって書いてありましたもの!」
「へぇ、物語かあ! そりゃ凄いなぁー。でも、そりゃ有り得ないだろ。なあ?」
「あんなに空高くにあるのにどうやって触ったんだろうな?」
「魔法か? いやいやそんな魔法聞いた事ない」
「魔法で空まで? 世紀の大発見じゃないっすか、それ」
「ご両親はきっと、お嬢の夢を壊さないようにしてんだろうな、くぅー泣かせるな……」
この世界では確かに空を高くまで飛ぶ魔法は聞いた事がない。ただ優しい雰囲気の中にある窘めるような馬鹿にしたような騎士達の言葉はほとんど全てが否定で、こういう一つ一つは人をただ暴言で罵るよりも残酷で陰湿だと感じる。と言うか、寄って集って一人の女の子をからかって何してるんだろう、この人達。
「また、あの人達はお嬢様をからかって……叱ってくる」
「ま、待ってリリー」
けたけたと笑っている騎士達にリリーが間に入ろうとするが、何かリリーが入ったら余計にからかわれる相手が増えるだけな気がして、手を取り止めると一段と大きな甲高い声が響いた。
「あ、えっと、庭園に行く予定で」
「そっか、もしかしてお嬢様のところ?」
そう言われて頷くとリリーも頷いて笑った。可愛らしく無邪気な笑顔に自然と気持ちも穏やかになる気がする。
「私も花をもらいに行かないといけないから一緒に行きましょう!」
さっきの事など何も無かったような気軽さになんとも言えない気持ちになるが、うん。後でやっぱりさり気なく伝えといた方が良いよね。と思い直した。
「あ、カノン君、一応テオ君にそういう兆候があったら止めて貰えたら……今シオンが留守なので」
「え? えっと、はあ……善処します」
「君ならきっと大丈夫だと思うんですよね」
何を根拠にとは思ったものの、媚薬の話ならまあやれる事は助力出来るかもしれない。ただもっと前に気掛かりな事を言われていたような気がしたが、次の予定も有り、テオなら何とか出来るのでは? 等と何の確信も無いが、この時はそう思っていた。
ルシェル先生は別件があるらしくそのまま別れてからリリーと一緒に庭園へと足を進めた。たわいも無い話をしながらもやはりリリーはテオの事を随分と慕っていて、一方でテオは確かに仲が良いけれど、一歩引いているように感じているらしい。
だからたまに何か色々とチェルシーやルシェル先生に相談をしていたりするらしい。所謂、恋愛相談のようなものだった。
何となく、相談する相手の提案がとんでもない気がして、きっと相談相手を間違っている可能性がある気がするのだけれども。
「……リリー、とりあえず今回みたいな怪しい薬で、とかはあんまり良くないと思うよ」
「うーん、やっぱり? 今日は偶然本人に掛かったんだけど、前のは知らない間に無くなってて、その前のは落として割って…更に前は」
どうやらわりと頻繁に行われているらしい。ルシェル先生に関しては良いように実験に利用している気がしてならない。恐らくテオが事前に処理している可能性があった。色々苦労しているんだろうな、と遠い目をしてしまうくらいには申し訳ない気持ちになった。今度、出来る事があったら何か労えたらいいなぁと思う。
「リリーは、気持ちと身体どっちが欲しいの?」
「えっ、と……両方!」
「あはは……それなら良いけど、心が伴わない関係は結局何にもならないから」
やや確信的な質問に間はあったが、ほぼ即答するリリーに自然と表情が緩むと思った事が口から出た。
そんな自分に少し驚きながらも実際ただ虚しいそれだけだった。でも、そうする事で、誰かの何かになれた気でいた。勿論、そんな訳も無かったし、ただただ息苦しかったし、心はずっと空虚で何もわからなかった。
そう言えば、今更ながら前の屋敷にいた時はところどころ、いや、結構な頻度で記憶が曖昧だった気がする。その度にあの甘い匂いがしていたような……。
「──カノンくん、カノンくん!」
「あっ、」
物思いに耽っていたようで呼ばれている事に気付かなかった。慌てて謝るとリリーは首を振る。
「大丈夫ですよ、それよりも」
気付けば庭園は目の前だったが、何だかそこには異様な光景が広がっていた。
「だから言っておりますの! 雲は柔らかくてふわふわしてて美味しいのですわ!」
「へぇーそれはそれはお嬢様は雲に触った事があるんですか?」
「食べた事も?」
フリルの着いた淡い桃色の可愛いらしいワンピースを身に纏った小さな少女が屈強な騎士数人を目の前に何やら話していた。騎士の中には毛色の違う種族も混ざっており、微笑ましいように見えるその光景だったが、少女は少し怒っているのか、ムッとした表情をしており、戸惑って不安げに見つめているお嬢様付きだろう侍女と呆れや止めるにもと躊躇い、見守っている数人のお屋敷の使用人で少し空気が違っていた。
「わ、私はまだありません。でも、父上も母上も食べて触った事があるって言ってましたわ。物語りのお話でも乗る事が出来るって書いてありましたもの!」
「へぇ、物語かあ! そりゃ凄いなぁー。でも、そりゃ有り得ないだろ。なあ?」
「あんなに空高くにあるのにどうやって触ったんだろうな?」
「魔法か? いやいやそんな魔法聞いた事ない」
「魔法で空まで? 世紀の大発見じゃないっすか、それ」
「ご両親はきっと、お嬢の夢を壊さないようにしてんだろうな、くぅー泣かせるな……」
この世界では確かに空を高くまで飛ぶ魔法は聞いた事がない。ただ優しい雰囲気の中にある窘めるような馬鹿にしたような騎士達の言葉はほとんど全てが否定で、こういう一つ一つは人をただ暴言で罵るよりも残酷で陰湿だと感じる。と言うか、寄って集って一人の女の子をからかって何してるんだろう、この人達。
「また、あの人達はお嬢様をからかって……叱ってくる」
「ま、待ってリリー」
けたけたと笑っている騎士達にリリーが間に入ろうとするが、何かリリーが入ったら余計にからかわれる相手が増えるだけな気がして、手を取り止めると一段と大きな甲高い声が響いた。
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