放課後の秘密~放課後変身部の活動記録~

八星 こはく

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第6章 化学反応

第31話 確かなこと

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「だ、だって……!」
「本当は修学旅行に行きたいし、教室にも行きたいんじゃないの? それなのに、二人がこうやって歩み寄ってくれても、うじうじそんな態度とって」

 雪さんが呆れたように言う。さすがに言い過ぎだと思うけれど、二人の間に割って入ることはできなかった。
 悔しいけど、私よりもずっと如月さんのことを知っているだろうから。

「そんなんじゃ、いつまで経っても変われないよ」
「……っ! そ、そんな言い方、しなくてもいいのに……!」
「じゃあ、どう言えばよかった? 優しく言ったって、いつもみたいにはぐらかすだけでしょ」
「あ、あ……わ、私にばっかり、言わないでよ……! 自分だって、ずっと、は、早瀬くんに隠し事してるくせに……!」

 いきなり名前を出されて、早瀬くんは驚いた表情をした。
 もう、だめだ。完全に今、変身部としての活動は崩壊している。
 見た目が違うだけで、みんな、いつもの性格に戻ってしまっている。辛うじて優斗くんが、雪さんの口調を保っているだけ。
 早瀬くんの入部が与えた影響は、あまりにも大きかった。
 まるで劇薬だ。
 言いたくないことは言わない。やたらと人に踏み込まない。
 そういう、ぬるま湯のような温かい雰囲気だった。でも、早瀬くんは違う。
 真っ直ぐに自分の感情を相手にぶつけて、自分のことも開示して。
 そしてそれが関係を深めるために必要だと分かっているからこそ、私たちの心が乱れてしまう。

「私が隠し事してることと、姫乃の今の態度、なにか関係あるの?」
「い、いつものこと、ここに持ち込まないでって言いたいの……!」
「それで、どうするの? いつまでも、ここでだけ過ごすの? せっかく、二人が教室でも歩み寄ろうとしてくれてるのに?」
「え、偉そうなこと言わないでよ……!」

 如月さんは両手の拳をぎゅっと握って俯いてしまった。そんな如月さんを見て、優斗くんが盛大に溜息を吐く。

「じゃあ、お前はこれで満足か?」

 吐き捨てるように言って、優斗くんはウィッグを外した。
 それを見て、如月さんの顔がどんどん青くなっていく。

「早瀬」

 優斗くんは、雪さんの時とは違う低い声で早瀬くんを呼んだ。早瀬くんが、真剣な表情で優斗くんを見つめる。

「お前には隠してたけど、実は男なんだ。……お前が女の俺を好きになったのが分かってたから、気まずくて、言い出せなかった」
「……雪ちゃん」
「当たり前だけど、雪ってのは本名じゃない。本名は如月優斗。こいつの従兄だ」

 それだけ言うと、優斗くんは再び如月さんに視線を戻した。

「姫乃。俺はちゃんと、こいつに本当のことを言ったぞ」
「……そ、それは」
「なんでだか分かるか? こいつと、ちゃんと向き合いたいって思ってるからだ。ずっと本当のことを隠して、本音を言わずにいたら関係は進まない」

 優斗くんは最初、早瀬くんからの好意に戸惑い、困惑していた。その気持ちはきっと、今も変わっていない。
 だけど二人はどんどん仲良くなっていった。
 だからこそ優斗くんは、ちゃんと向き合わなきゃって思ったんだ。本当のことを話したら、早瀬くんがどんな反応をするのかは分からないのに。
 騙してたなんて、と責められるかもしれない。
 それでも、優斗くんは早瀬くんと向き合うことを選んだ。

「お前はまだ、天野とも本気で向き合えないのか?」

 ちら、と優斗くんが私を見た。

「そ、それは……わ、私は……っ!」

 如月さんの瞳から涙がこぼれ落ちた。姫乃、と強く名前を呼ばれ、とうとう如月さんが部室を飛び出してしまう。

「委員長、さっさと追いかけなきゃ!」

 そう叫んだのは、早瀬くんだった。
 早瀬くんだってきっと、雪さんの正体を知って動揺しているはずなのに。
 向き合うことから逃げていたのは、如月さんだけじゃない。私もだ。
 ずっとこのままでいい、なんて、思ってたわけじゃないのに。
 行かなきゃ。今、如月さんを追いかけなきゃ!

「待って、如月さん!」

 部室を飛び出す。如月さんの背中は、まだ見える。

「如月さんと話したいことが、いっぱいあるの!」

 叫びながら、全速力で走る。
 頭の中はまだまとまっていない。いきなりのことで、どうしたらいいのかも分からない。
 でも、確かなことが一つだけある。
 如月さんは、すごく大切で、大好きな友達で。
 そんな子が泣いているのに、放ってなんかおけないってこと。
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