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第4章 ミステリアス少女の秘密

第16話 佐倉雪

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 変身部の部室に通うのも、もうすっかり慣れてきた。私は美術部もあるから毎日行けるわけじゃないけど、居心地がよくて頻繁に足を運んでいる。
 そして蓮さんと雪さんは、ほとんど毎日部室にいる。

「こんにちは!」

 勢いよく扉を開けてすぐ、違和感に気づいた。蓮さんがいないのだ。
 更衣室で会わなかったから、てっきりもう先に部室にいるのかと思ったんだけど。

「蓮さんはまだなの?」

 天野望結じゃなくて、天使ももとしての振る舞いも、少しずつ慣れてきた。最初はすごく恥ずかしかったけれど、今では逆に、素が出る方が恥ずかしい、くらいの気持ちだ。
 如月さんだって、蓮さんモードと普段とじゃ、全然違うし。

「今日はこないと思う」
「えっ?」

 蓮さんがいないなんて珍しい。保健室にこなかった日でさえ、変身部には顔を出してくれていたのに。

「先生に呼び出されて、親と三者面談してるらしいから」
「三者面談……?」

 一年生の時は夏前に三者面談があったけれど、今年はないはずだ。
 たぶん、二年生がみんなするやつじゃなくて、如月さんが特別にしてることだよね。

「そうだったんだ」

 頷きながら、雪さんの正面に腰を下ろす。心の中で、もやもやが広がっていくのが分かった。
 どうして雪さんは、そんなことを知ってるの? なんで如月さんは、私には教えてくれなかったの?
 放課後変身部では、普段の話はほとんどしない。だから私は雪さんの正体を知らないし、雪さんと如月さんの関係も知らない。
 ……二人って、すごく仲良しだったりするのかな。
 如月さんと仲良くなれたと思ってたけど、まだまだなのかな。
 私がそんなことを考えている間に、雪さんはテーブルの上に数学の問題集を広げた。
 ……あれ? この問題集、私のと違うかも。

「もしかして雪さんって、三年生なの?」
「うん、そう」

 あっさり雪さんは頷いた。でも、私にとっては貴重な情報だ。
 だって、名前と見た目以外、全然雪さんのことを知らないんだから。
 雪さんは、大事な変身部の仲間だ。だから、雪さんとも仲良くなりたい。
 でも、どうすればいいのかな?
 変身部には、お互いのことをずけずけと質問しない、という暗黙のルールがある。特に、変身前のことに関しては。

「……あ、そうだ!」
「ちょっと、急に大声出してなに?」
「雪さん、ももが絵を描くの、手伝ってくれない!?」
「え? 私、絵なんて描けないけど」
「そうじゃなくて、モデルになってほしいの!」

 勢いで口にしたことだけれど、意外といいアイディアな気がする。
 そういえば私、誰かをモデルにして絵を描いたことってほとんどないし。

「雪さん、綺麗だしすごく絵になると思って」
「そういうことなら、仕方ないわね」

 そう言いつつも、雪さんはすごく嬉しそうだ。にやけた頬を隠しきれていない。
 雪さんって、褒められるのが好きなのかな。





 勉強をしている雪さんの横顔を見ながら、スケッチブックに下描きをしていく。

「うーん……」

 ラフ画の出来栄えは悪くない。でも、どこかピンとこない。
 これじゃ、目に映ったものをそのまま描いただけって感じ。別に、それだって悪いわけじゃないけど……。
 せっかくなら、目には映らないものも絵にしたい。
 雪さんをそのまま描くんじゃなくて、雪さんの雰囲気とか、雪さんが持つ世界観とかが一目で分かるような作品にしたい。
 そのためにも、もっと雪さんのことを知らなきゃ。ううん、知りたい。

「雪さん。今、話しかけてもいい?」
「いいけど。どうかした?」

 勉強の手を止めて、雪さんが私を見た。綺麗な黒髪が揺れる。
 この髪ってウィッグなのかな。それとも地毛? 黒だから、どっちか分からない。
 雪さんって、一見、見た目は普通なんだよね。すごく綺麗な子だけど、教室にいても違和感はないっていうか。
 でも、変身部にいる以上、本当の雪さんとは全く違う姿なんだろうな。

「えーっと……」

 本名は? とか、本当の姿は? なんて聞けない。
 でも、雪さんを知りたい。

「そうだ! 雪さんって、趣味とかある?」

 人のことを知りたいなら、好きなものとか、嫌いなものを聞くのが第一歩だよね。
 いきなり嫌いなものを聞くのはちょっと微妙だし、まずは好きなことについて聞いてみよう。

「読書かな。結構、いろいろ読むよ」
「へえ……具体的に、どんな作品が好きなの?」
「……私の話、めちゃくちゃ長くなるけど。いい?」

 雪さんは真剣な顔で私を見ていた。
 もしかして雪さんって、好きなことの話になると、かなり饒舌になっちゃうタイプ?

「うん。いっぱい聞かせて!」

 大歓迎だ。だって私は、いっぱい雪さんのことを知りたいから。
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