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第3章 変身レッスン

第15話 そういう場所だから

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「今日はありがとう。すっごく楽しかった!」

 水族館に行った後は、同じビルに入っているカフェでケーキを食べた。その後はウィンドーショッピング。
 本当に楽しくて、時間があっという間に過ぎてしまった。

「こちらこそありがとう。ももさんのおかげで、素敵な一日を過ごせたよ」

 そう言って笑った蓮さんは、少し悲しそうだ。
 私と一緒で、今日が終わるのが寂しいのかな。

「ねえ、ももさん。こうしてまた、僕とデートしてくれる?」
「もちろん!」

 私が元気よく頷くと、蓮さんはきょろきょろと周りを確認した後、私に一歩近づいてきた。
 そして、耳元で囁く。

「……私とも、遊んでくれる……?」

 それは間違いなく、如月さんの言葉だった。

「うん。絶対、誘うから」

 とっさに、私も天野望結として返す。私たちは笑顔で手を振り合って、そのまま解散した。





 電車に揺られながら、今日一日のことを思い出す。
 朝からずっと楽しくて、気づけば笑っていた。最初は天使ももらしく振る舞わなきゃ! なんて意気込んでいたけれど、いつの間にか、その意識も薄れていった。
 わざわざ意識しなくても、自然と天使ももとしてふるまえるようになっていたから。
 今日の私は、間違いなく天使ももだった。

『今日、本当にありがとう。誘ってくれて嬉しかった!』

 如月さんからメッセージが届いた。きっと、電車に乗ってすぐに送ってくれたんだろう。
 マメだよね、如月さんって。
 如月さんについて、まだまだ知らないことはたくさんある。でも、変身部に入る以前と比べると、たくさんのことを知れたし、いろんな表情を見ることもできた。

『私もすごく楽しかったよ。ありがとう』

 今回は水族館へ行ったから、次は動物園に行くのもいいかもしれない。
 如月さんも興味があるなら、美術館とか、博物館もいいよね。
 あ、せっかくお洒落をするんなら、写真映えするようなカフェやフォトスポットもいいな。
 いろんなアイディアが頭の中に浮かぶ。どれか一つを選ぶなんてできないから、全部一緒に行ってしまいたい。
 きっと、全部行けるよね。





 部室の前で、軽く深呼吸をする。中からは話し声が聞こえてくるから、きっともう二人は部室にきているのだろう。
 大丈夫。今日の私はきっと、今までで一番、天使ももだ。
 そしてたぶん、明日は今日よりももっと。

「おまたせ!」

 扉を開けるのと同時に笑顔で挨拶する。目が合った雪さんが、驚いたように目を丸くした。

「……なんか、雰囲気変わった?」
「そうかな? どこが、どんな風に?」

 にっこりと笑って、ちょっと得意げな感じで口角を上げてみる。
 褒められた気がして嬉しいけど、もっともっと、褒め言葉を引き出したいから。
 それが、天使ももの考え。

「前より、らしくなった気がする」

 くすっと笑うと、雪さんは立ち上がって私の前にやってきた。
 ビー玉みたいな瞳で見つめられて、ちょっとどきっとする。

「今の方がいいよ。自然な気がする」

 自然……そっか。
 今の私は天使ももの姿なんだから、天使ももでいるのが自然なんだ。

「ありがとう!」
「別に。思ったこと言っただけだから」

 そう言ってすぐに椅子へ戻っていった雪さんの言動も、すごく自然だ。普段の姿を知らない私にとっては、違和感なんて全くない、佐倉雪っていう一人の女の子。
 たぶん、私はまだ、そこまで上手に変身できているわけじゃない。
 だけどこれから、もっともっと、ももらしくなりたい。

「ももさん」

 蓮さんに名前を呼ばれた。

「なーに?」
「今の自分のこと、好き?」
「うん。好きだよ」

 ももなら、と意識した答えじゃない。紛れもない本音だ。
 だってももは私の理想で、私の好きが詰まった女の子なんだから。

「よかった。でもね……」

 蓮さんが私の目を見て、にっこりと笑った。

「これからもっと、自分のことを好きになれるよ。ここは、そういう場所だから」
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