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第1章 王子様との出逢い
第2話 放課後変身部
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「と、とりあえず、ここに入って……」
如月さんに連れていかれたのは、旧部室棟4階奥にある部屋だった。王子様みたいな見た目なのに、表情と声は如月さんで頭が混乱する。
それにしても如月さん、格好いいな。
アイドルだとかモデルだって言われても信じちゃうくらい、今の如月さんは格好いい。よく見れば如月さんだって分かるけど、顔の雰囲気だってまるで違う。
「うん」
ゆっくりと部屋の扉を開ける。中には、黒髪の少女がいて、椅子に座って読書をしていた。腰まで伸びた綺麗な髪に、雪みたいに真っ白な肌。とんでもない美少女だ。
私と目が合うと、美少女はびっくりした顔で立ち上がった。
「誰?」
私が名乗るより先に、ごめん! と如月さんが勢いよく頭を下げた。
「あ、あのさ……私だって、クラスの子にバレちゃって……」
「はあ?」
見た目に反した野太い声に驚くと、こほん、と美少女が軽く咳払いをした。
「とりあえず、ちゃんと説明して」
先程の声ほどではないけれど、女の子にしては低めのハスキーな声だ。
「私、つい、この姿のまま中庭に行っちゃって、そこでバレたの。私が姫乃だって、委員長はすぐに気づいちゃって……」
美少女は深い溜息を吐いた。そして、鋭い視線を如月さんに向ける。びくっと身体を震わせた如月さんが、なんだか気の毒だった。
如月さんって気づいたの、まずかったのかな?
「……委員長」
「うん」
「お、お願いだから、今日のこと内緒にしてくれないかな……その、本当、お願い……!」
泣きそうな声で言って、如月さんはいきなり土下座した。頭を地面にこすりつけ、お願いします、と何度も繰り返す。
これじゃあ、まるで私がいじめているみたいだ。
それに、この見た目の如月さんが土下座なんてするのは、すごく違和感がある。
「とりあえず、土下座はやめて。そんなことしなくていいから」
「で、でも……」
「いいから、やめて?」
「……はい」
如月さん立ち上がり、怯えたような表情で私を見つめてくる。
どうしよう。あまりにも混乱していて、頭の中が上手く整理できない。
えーっと、私は放課後に中庭に行って、そしたら王子様みたいな格好いい男の人がいて、実はその正体は如月さんで……。
ちょっと待って。本当に意味が分からないんだけど。
「如月さん。謝らなくていいから、もうちょっと説明してくれない?」
「えっと、それは……」
如月さんは許可を求めるような目を美少女へ向けた。美少女が頷くと、如月さんが続きを話し始める。
「実はここ、放課後変身部の部室なの。えっと、まあ、部って言っても、もちろん非公認だし、私たちが勝手に名乗ってるだけだし、部員も二人だけなんだけど」
「放課後変身部?」
「うん。名前の通り、放課後に変身するだけの部活。実は、部活ネームっていうのもあるの。私の部活ネームは、月城蓮」
月城蓮。確かにその名前は、王子様みたいな見た目にぴったりだ。
「それで、この子が佐倉雪」
そう言って、如月さんは美少女に視線を向けた。改めて美少女……雪さんの顔をじっと観察してみる。
如月さんと違って、この子は正体が分かんないな。
たぶん、知らない子なのだろう。
「別に、ここに集まって、なにかをしてるってわけじゃないの。ただ、こうやって好きな格好をして、なりたい自分になるだけ」
「なりたい自分に……」
「勝手に部屋を使ったりしてるのは悪いって分かってるけど……内緒にしてほしいの。委員長、お願い……!」
泣きそうな目で如月さんに懇願される。涙目の王子様を無視できるほど、私の心臓は強くない。
「……分かった」
二人がやっていることは、立派な校則違反だ。旧部室棟への立ち入りは許可がない限り禁止されている。
それに、学校でコスプレみたいなことをしているなんて、先生たちが知ったら怒るに違いない。
私が先生に言ったら、二人が怒られるだけじゃなくて、ここも簡単に出入りできないようになるだろうな。
「放課後変身部のことは、誰にも言わない」
真面目な委員長なら、校則違反は先生にすぐ報告するんだろう。だけど、私は好きで真面目な委員長をやってるわけじゃない。
「それで、これは単純な疑問なんだけど……どうやって変身してるの?」
私はたまたま正体に気づいたけれど、きっとほとんどの人は気づけないだろう。
「ウィッグとメイクだよ」
安心した顔で言うと、如月さんはウィッグを勢いよく外した。ウィッグネットも外せば、髪型はいつもの如月さんだ。
「目の色はカラコンで、メイクで男の人っぽくしてて……あっ、あとね、身長はシークレットシューズで盛ってるの」
如月さんが靴を脱ぐ。すると、いつもの身長に戻った。
シークレットシューズって、こんなに違和感ないんだ……。
「すごいね。如月さん、王子様みたいだったよ」
「本当っ!?」
如月さんはぱあっと顔を輝かせた。如月さんの笑顔を見たのは初めてだ。保健室ではいつも、怯えたような顔で俯いていたから。
「普段は外に出ないようにしてるんだけど、つい、中庭で写真を撮りたくなっちゃって……この時間なら、誰もいないかなって思って」
「確かに、中庭の花は綺麗だもんね」
王子様と綺麗な花。ものすごく絵になっていたし、写真を撮りたくなる気持ちは分かる。
まあ、先生の見回りもあるかもしれないし、かなり危険な行為だったとは思うけど。
「……バレたのが委員長で、助かった。本当にありがとう、委員長」
私の目を真っ直ぐ見て、如月さんが笑う。
控えめな如月さんの笑顔が、私にはすごく眩しく見えた。
如月さんに連れていかれたのは、旧部室棟4階奥にある部屋だった。王子様みたいな見た目なのに、表情と声は如月さんで頭が混乱する。
それにしても如月さん、格好いいな。
アイドルだとかモデルだって言われても信じちゃうくらい、今の如月さんは格好いい。よく見れば如月さんだって分かるけど、顔の雰囲気だってまるで違う。
「うん」
ゆっくりと部屋の扉を開ける。中には、黒髪の少女がいて、椅子に座って読書をしていた。腰まで伸びた綺麗な髪に、雪みたいに真っ白な肌。とんでもない美少女だ。
私と目が合うと、美少女はびっくりした顔で立ち上がった。
「誰?」
私が名乗るより先に、ごめん! と如月さんが勢いよく頭を下げた。
「あ、あのさ……私だって、クラスの子にバレちゃって……」
「はあ?」
見た目に反した野太い声に驚くと、こほん、と美少女が軽く咳払いをした。
「とりあえず、ちゃんと説明して」
先程の声ほどではないけれど、女の子にしては低めのハスキーな声だ。
「私、つい、この姿のまま中庭に行っちゃって、そこでバレたの。私が姫乃だって、委員長はすぐに気づいちゃって……」
美少女は深い溜息を吐いた。そして、鋭い視線を如月さんに向ける。びくっと身体を震わせた如月さんが、なんだか気の毒だった。
如月さんって気づいたの、まずかったのかな?
「……委員長」
「うん」
「お、お願いだから、今日のこと内緒にしてくれないかな……その、本当、お願い……!」
泣きそうな声で言って、如月さんはいきなり土下座した。頭を地面にこすりつけ、お願いします、と何度も繰り返す。
これじゃあ、まるで私がいじめているみたいだ。
それに、この見た目の如月さんが土下座なんてするのは、すごく違和感がある。
「とりあえず、土下座はやめて。そんなことしなくていいから」
「で、でも……」
「いいから、やめて?」
「……はい」
如月さん立ち上がり、怯えたような表情で私を見つめてくる。
どうしよう。あまりにも混乱していて、頭の中が上手く整理できない。
えーっと、私は放課後に中庭に行って、そしたら王子様みたいな格好いい男の人がいて、実はその正体は如月さんで……。
ちょっと待って。本当に意味が分からないんだけど。
「如月さん。謝らなくていいから、もうちょっと説明してくれない?」
「えっと、それは……」
如月さんは許可を求めるような目を美少女へ向けた。美少女が頷くと、如月さんが続きを話し始める。
「実はここ、放課後変身部の部室なの。えっと、まあ、部って言っても、もちろん非公認だし、私たちが勝手に名乗ってるだけだし、部員も二人だけなんだけど」
「放課後変身部?」
「うん。名前の通り、放課後に変身するだけの部活。実は、部活ネームっていうのもあるの。私の部活ネームは、月城蓮」
月城蓮。確かにその名前は、王子様みたいな見た目にぴったりだ。
「それで、この子が佐倉雪」
そう言って、如月さんは美少女に視線を向けた。改めて美少女……雪さんの顔をじっと観察してみる。
如月さんと違って、この子は正体が分かんないな。
たぶん、知らない子なのだろう。
「別に、ここに集まって、なにかをしてるってわけじゃないの。ただ、こうやって好きな格好をして、なりたい自分になるだけ」
「なりたい自分に……」
「勝手に部屋を使ったりしてるのは悪いって分かってるけど……内緒にしてほしいの。委員長、お願い……!」
泣きそうな目で如月さんに懇願される。涙目の王子様を無視できるほど、私の心臓は強くない。
「……分かった」
二人がやっていることは、立派な校則違反だ。旧部室棟への立ち入りは許可がない限り禁止されている。
それに、学校でコスプレみたいなことをしているなんて、先生たちが知ったら怒るに違いない。
私が先生に言ったら、二人が怒られるだけじゃなくて、ここも簡単に出入りできないようになるだろうな。
「放課後変身部のことは、誰にも言わない」
真面目な委員長なら、校則違反は先生にすぐ報告するんだろう。だけど、私は好きで真面目な委員長をやってるわけじゃない。
「それで、これは単純な疑問なんだけど……どうやって変身してるの?」
私はたまたま正体に気づいたけれど、きっとほとんどの人は気づけないだろう。
「ウィッグとメイクだよ」
安心した顔で言うと、如月さんはウィッグを勢いよく外した。ウィッグネットも外せば、髪型はいつもの如月さんだ。
「目の色はカラコンで、メイクで男の人っぽくしてて……あっ、あとね、身長はシークレットシューズで盛ってるの」
如月さんが靴を脱ぐ。すると、いつもの身長に戻った。
シークレットシューズって、こんなに違和感ないんだ……。
「すごいね。如月さん、王子様みたいだったよ」
「本当っ!?」
如月さんはぱあっと顔を輝かせた。如月さんの笑顔を見たのは初めてだ。保健室ではいつも、怯えたような顔で俯いていたから。
「普段は外に出ないようにしてるんだけど、つい、中庭で写真を撮りたくなっちゃって……この時間なら、誰もいないかなって思って」
「確かに、中庭の花は綺麗だもんね」
王子様と綺麗な花。ものすごく絵になっていたし、写真を撮りたくなる気持ちは分かる。
まあ、先生の見回りもあるかもしれないし、かなり危険な行為だったとは思うけど。
「……バレたのが委員長で、助かった。本当にありがとう、委員長」
私の目を真っ直ぐ見て、如月さんが笑う。
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