ひきこもり×シェアハウス=?

某千尋

文字の大きさ
上 下
5 / 37

俺、仕事を探す1

しおりを挟む
 シェアハウスの家賃を払ってもらえるのは半年間だけ。渡された現金は30万円で、残念ながら俺にそれ以外の財産はない。
 だから、どうせ仕事は探さないといけないのだ。
 でも、どうせ仕事を探すなら、この心の余韻が残っているうちの方がやる気が出るってもんだろう。
 中里から母親の話を聞いた俺は、いよいよ就活をしよう、と決意した。

 職歴無しの三十五歳。
 最終学歴高卒で資格無し。

 ここだけみるとやばさしかない。
 でも、俺は卒業はしていないもののそこそこの私立大学には合格したんだ。高校もそこそこな進学校なんだ。
 俺は何故か、そうはいっても俺ってそこそこエリートだよね、と思っていた。

 もちろん、勘違いだった。



 職業斡旋所で最初に紹介されたのは清掃業だった。
 いや、俺力仕事とかできないし、なんでブルーカラーの仕事しなきゃいけないんだよ、と思った。肉体労働など却下だ。言えないけど。

「いやあの……俺事務員とかがよくて……」

 人と接するのは無理なので、接客は最初から考えていない。
 ネトゲばかりやっていた俺だが、ずっとパソコンしていただけあってタイピングは速いし事務系ソフトもそれなりに使いこなせる……はずだ。

「事務員ですか……以前そういった仕事をされたことは?」

「……ないです」

「パソコンはどれくらい使えますか?」

「……基本的な使い方は問題ないと……思います」

「事務員の募集はですね、そんなに多くないのと、パートタイム募集が多いんですよ。最近は派遣も多いですね。正社員の募集は人気なので、難しいもしれませんが面接申し込みますか?」

「……はい。お願いします」

 難しいと言われてカチンときた。別に高収入なところや有名企業を望んだわけじゃない。見せられた募集も、正社員といえど手取り20万円もいかない。こんなのに群がるようなやつらに俺が負けるわけがない、と思った。

 しかし、予想に反し、俺は面接すら受けることができなかった。
 履歴書の段階で落ちたのだ。

 その後もいくつか事務員の募集に応募したものの、軒並み履歴書落ちし続け、あっという間に1ヶ月が経過した。
 何度目かの履歴書落ちの際、斡旋所の人からは人手が足りていない介護職をすすめられたが、何で俺がそんな仕事しなきゃいけないんだと思って拒否した。
 俺は、ホワイトカラーの仕事がしたいんであって、力仕事とか汚い仕事は絶対やりたくない。そんな誰でもできるような仕事やりたくない。

 チョロいた思っていたのにうまくいかず、当初のやる気はすっかり萎んでしまって俺は再び家で引きこもり気味になっていた。
 ネトゲでフレンドとまたいつものように盛り上がる。
 ネット上ならこんなに自由なのに、なんで俺がこんな思いをしなければならないんだ。仕事なんて糞食らえだ。
 くさくさしていると、そんな俺を見かねたのか、また中里が俺の部屋にやってきた。

「その後どうだ野口さん」

 正直仕事については何も聞かれたくないし、触れられたくなかった。俺の能力があれば適当な事務員になるのは簡単だと思っていたにもかかわらず、今のところ全敗なのだ。面接すらしてもらえない。そんなこと、中里に知られたくない。
 けれど悲しいかな、俺はこの目つきの悪い若者を無視したり、邪険にしたりすることなんて怖くてできないのだ。

「なかなか……うまくは……」

 絞り出すように小声で返すと、中里はうーんと唸った。空気読んで出てけよ。うーんじゃねえよ。

「野口さん、まずはバイトでもなんでもいいからやりながら、希望の仕事関係の資格とか取ってアピールポイント増やしたらいいんじゃないか」

「……バイト……」

 三十五歳でバイト。いや、社会的にはそりゃ引きニートよりはいいのかもしれない。けれど、引きニートなら外に出ないから誰に馬鹿にされることもない。なぜなら誰も俺を知らないから。
 でも、バイトならどうだ。他のバイトなんて二十代そこそこの若者とか小遣い稼ぎしてる主婦だろう。その中に三十五歳の俺がいたら、浮くどころの話じゃない。絶対馬鹿にされる。もし優しくされたとしても、そんなの多分憐れみだろう。そんなのは、俺には耐えられない。

「まずは長く続けようとか正社員とかを考えすぎずにいろんな分野に応募してみたらどうだ」

 多分中里が言ってることは正しいんだろうし、俺を心配して言ってくれてるんだろう。
 でも、俺の中で沸き上がったのは怒りだった。
 だって、中里は関係ないだろう。家賃が払えなくなったら、俺がここから出て行くだけだ。頼んでもないのに口出しやがって。次々と言いたいことが頭に浮かんでくる。

「……考えてみます」

 でも、小心者の俺にそんなことは言えない。自分でも情けねえとは思うけど、言ったところで中里と険悪になるだけだし、言い返されたら俺は多分それ以上何も言えない。中里は親切な奴なんだろうが、口調も強いし怖いのだ。こういうのは、嵐が過ぎ去るのを待てばいい。

 頑なな俺の態度に呆れたのか、中里は一つため息をついて俺の部屋を出て行った。望んだ通りだったが、それがなんだか下に見られてるみたいで不快だった。

 ただ、頭に血が上ったことで、何がなんでも事務職に就いてやる、という気持ちになった。
 俺は怒りを抱えたまま職業斡旋所に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

君と踏み出す

西沢きさと
BL
そうだ、外出しよう。 ブラック企業のせいで心身ともに擦り切れ、ひきこもりになってしまった詠月《よつき》。そんな彼が突然、外に出ることを決意した。 しかし、思い立った理由はひどく後ろ向きなもので……。 ◆ 酔って一線を越えてしまった友達同士による翌朝のやり取りと、それがきっかけで前を向こうとするひきこもりの話です。 明るい友人×ひきこもり。 ブラック企業は滅びれば良いと思います。

シムヌテイ骨董店

藤和
ライト文芸
とある骨董店と、そこに訪れる人々の話。 日常物の短編連作です。長編の箸休めにどうぞ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

私たちは、お日様に触れていた。

柑実 ナコ
ライト文芸
《迷子の女子高生》と《口の悪い大学院生》 これはシノさんが仕組んだ、私と奴の、同居のお話。 ◇ 梶 桔帆(かじ きほ)は、とある出来事をきっかけに人と距離を取って過ごす高校2年生。しかし、バイト先の花屋で妻のために毎月花を買いにくる大学教授・東明 駿(しのあき すぐる)に出会い、何故か気に入られてしまう。お日様のような笑顔の東明に徐々に心を開く中、彼の研究室で口の悪い大学院生の久遠 綾瀬(くどお あやせ)にも出会う。東明の計らいで同居をする羽目になった2人は、喧嘩しながらも友人や家族と向き合いながら少しずつ距離を縮めていく。そして、「バカンスへ行く」と言ったきり家に戻らない東明が抱えてきた秘密と覚悟を知る――。

マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
田舎の古民家を改装し、カフェを開いたマキノの奮闘記。 やさしい旦那様と綴る幸せな結婚生活。 試行錯誤しながら少しずつ充実していくお店。 カフェスタッフ達の喜怒哀楽の出来事。 自分自身も迷ったり戸惑ったりいろんなことがあるけれど、 ごはんをおいしく食べることが幸せの原点だとマキノは信じています。 お店の名前は 『Cafe Le Repos』 “Repos”るぽ とは フランス語で『ひとやすみ』という意味。 ここに訪れた人が、ホッと一息ついて、小さな元気の芽が出るように。 それがマキノの願いなのです。 - - - - - - - - - - - - このお話は、『Café Le Repos ~マキノのカフェ開業奮闘記~』の続きのお話です。 <なろうに投稿したものを、こちらでリライトしています。>

処理中です...