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その後の世界
救世主
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その少年は集落の中央に降り立った。
それはお伽話に出て来る魔法の力。
まともに食べる物も無く、集落の人々が絶望を感じていたその日、空より白く輝く巨大な船が来訪する。
集落の住民が広場に集まって来た。
集落全体で100人にも満たない。
嘗ては、2000人規模の集落だったが、他の集落へ移動した者、新たな土地を目指して去った者、魔物や野生動物に襲われ命を落とした者。
しかし、もっとも多数を占めるのが、食べる物も無く、餓死していった者達だった。
ユキトは、ミルモと名乗った女の子が、酷く痩せているのに気付いた。いや、ミルモだけじゃなく、ミルモを追い掛け出て来た姉も、集落の人達全員が痩せていた。
ユキトは、通信の魔導具を取り出すと連絡を入れる。
「サティス、船を空き地に着陸させて、大量に食事を作る準備をお願い」
『かしこまりました』
上空に停泊していた船が、ゆっくり動き出して、集落の外れに降下して来る。
続けてユキトは、キングエイプのジーブルとカイザーウルフのヴァイスを呼び出す。
突然、魔法陣が輝き、巨大な猿の魔物と同じく巨大な狼の魔物が現れ、集落の住民達から悲鳴があがる。
「ジーブル、ヴァイス、集落周辺の魔物を狩って来てくれ」
『御意』『殲滅でよろしいですか?』
「好きに暴れてかまわないよ」
ユキトがそう言うとジーブルとヴァイスは、互いに競う様に飛び出して行った。
スケルトンロードのバルクがゴーレム馬のアルスヴィズを駆ってやって来る。
その後ろから、サティスやイリスがやって来た。
ユキトは、青龍のエリンをサティス達の護衛に呼び出す。
『ユキト様、私も周辺の魔物狩りに出掛けましょうか?』
「いや、バルクには周辺の調査を頼む。魔物狩りはついで位で構わない」
『了解いたしました』
バルクは、アルスヴィズを駆って走り去る。
その間も、サティスが中心になって、イリスやティアが手伝い、大量の食事が作られて行く。
大型の魔導コンロが二台出され、片方で大鍋にスープを、片方は肉を焼く準備をして行く。
周辺にサティスの作るスープの匂いが漂い始めると、ミルモがソワソワし始める。
ユキトは器にスープをよそうとミルモに手渡す。
「食べても良いの?」
「熱いから気をつけて食べるんだよ」
ユキトが安心させる様にミルモに微笑んで言う。
「あなたも遠慮なく食べてね」
サティスがハルにスープを手渡す。
「……あ、ありがとうございます」
ミルモとハルの姉妹は、涙を流しながらスープを飲む。美味しい、美味しいと言いながら。
「皆さんもどうぞ、たくさん有りますから、並んで下さい」
遠巻きに眺めていた集落の住民達に、イリスが声を掛ける。
ポツリポツリと並ぶ人が出始めると、やがて皆んなが列をなした。
ユキトは、解体して収納していた肉のストックを取り出して、塩胡椒を振ってどんどん焼いて行く。
スープを先にしたのは、いきなり肉を食べさせて、消化不良になるのを怖れたからだ。
肉の焼ける音と匂いに、ミルモがヨダレを垂らして見ている。
ユキトは焼けた肉を皿に盛ると、フォークと一緒にミルモに手渡す。
肉を渡されると直ぐにかじりつき、夢中で食べ続けるミルモ。
それを羨ましそうに見ていたハルにもユキトは、肉を皿に盛って渡す。
ハルは恥ずかしそうにしながらも、肉の誘惑に抗えずに、肉を食べ始める。
ユキトがどんどん肉を焼き、集落の人達へも振舞って行く。
そうするうちに、ヴァイスとジーブルが、大量の魔物を狩って帰って来た。
ジーブルに持たせていた、空間拡張された鞄から大量の魔物の死体が取り出された時、集落の人達から悲鳴があがるが、死んでいる事が分かると収まった。
ヴァイスとジーブルが狩って来た魔物の内、食肉に向く物を、ティアとイリスが解体して行く。
大量の肉を焼いて振る舞い、集落の住民が落ち着いた頃に、彼等の現状について話を聞く事にする。
そこで、この大陸なのか、この地域だけなのか分からないが、国というモノは存在せず、製鉄技術も持たず、武器と言えば石斧や石の穂先の槍があるだけだと言う。
石斧では木の伐採もままならず、魔物や野生動物から集落を守る柵を作る事さえ出来ずにいる。
狩猟も稀に獲れる獲物も、集落全員では常に足りないのだと言う。
彼等は、戦えないからレベルも低く、レベルが低いから獲物が捕れない。完全に行き詰まっている。
さらに、彼等は誰も魔法を使えないのだ。
確かに魔力を持つ人は少ないが、これもレベルアップで解決する人もいるだろうが、魔法の使い方を指導する者が居なくなって数百年、魔法を使うと言う意識がないのだろう。
ユキトは先ず、集落の周りに土魔法で防壁を造ってしまう。将来の拡張性を考えて大きめに囲う。
これだけで、野生動物や魔物からの脅威から身を守る事が出来るだろう。
続けて、井戸を何ヶ所か掘りる。
「……これが畑か」
ユキトはミルモとハルに案内されて、集落の畑に来ていた。
畑にはまともに作物が育っていない。
畑を耕す事が難しいのだから当然かもしれない。
「よく生活してこれたね」
「……生きるのに精一杯で、それでも皆んな死んでいって……」
ハルが涙を流しながら、この集落で生きるのが、いかに大変かを訴える。
ユキトは、土魔法で広範囲に開墾する。
あっという間に出来上がる畑に、ハルもミルモも目が点になる。
「もう大丈夫だよ。皆んなが自立出来る様に力を貸すから」
「毎日、ごはんが食べれるの?」
ミルモが嬉しそうにユキトに聞く。
毎日食事が出来なかった姉妹が、せめて飢える事がない様にしてあげようと思う。
完全に自分勝手な偽善だろうが、一度見てしまうと放っておけない。
ユキトには、彼等を助ける力があるのだから。
自身の持つ力を行使する事に迷いはなかった。
それはお伽話に出て来る魔法の力。
まともに食べる物も無く、集落の人々が絶望を感じていたその日、空より白く輝く巨大な船が来訪する。
集落の住民が広場に集まって来た。
集落全体で100人にも満たない。
嘗ては、2000人規模の集落だったが、他の集落へ移動した者、新たな土地を目指して去った者、魔物や野生動物に襲われ命を落とした者。
しかし、もっとも多数を占めるのが、食べる物も無く、餓死していった者達だった。
ユキトは、ミルモと名乗った女の子が、酷く痩せているのに気付いた。いや、ミルモだけじゃなく、ミルモを追い掛け出て来た姉も、集落の人達全員が痩せていた。
ユキトは、通信の魔導具を取り出すと連絡を入れる。
「サティス、船を空き地に着陸させて、大量に食事を作る準備をお願い」
『かしこまりました』
上空に停泊していた船が、ゆっくり動き出して、集落の外れに降下して来る。
続けてユキトは、キングエイプのジーブルとカイザーウルフのヴァイスを呼び出す。
突然、魔法陣が輝き、巨大な猿の魔物と同じく巨大な狼の魔物が現れ、集落の住民達から悲鳴があがる。
「ジーブル、ヴァイス、集落周辺の魔物を狩って来てくれ」
『御意』『殲滅でよろしいですか?』
「好きに暴れてかまわないよ」
ユキトがそう言うとジーブルとヴァイスは、互いに競う様に飛び出して行った。
スケルトンロードのバルクがゴーレム馬のアルスヴィズを駆ってやって来る。
その後ろから、サティスやイリスがやって来た。
ユキトは、青龍のエリンをサティス達の護衛に呼び出す。
『ユキト様、私も周辺の魔物狩りに出掛けましょうか?』
「いや、バルクには周辺の調査を頼む。魔物狩りはついで位で構わない」
『了解いたしました』
バルクは、アルスヴィズを駆って走り去る。
その間も、サティスが中心になって、イリスやティアが手伝い、大量の食事が作られて行く。
大型の魔導コンロが二台出され、片方で大鍋にスープを、片方は肉を焼く準備をして行く。
周辺にサティスの作るスープの匂いが漂い始めると、ミルモがソワソワし始める。
ユキトは器にスープをよそうとミルモに手渡す。
「食べても良いの?」
「熱いから気をつけて食べるんだよ」
ユキトが安心させる様にミルモに微笑んで言う。
「あなたも遠慮なく食べてね」
サティスがハルにスープを手渡す。
「……あ、ありがとうございます」
ミルモとハルの姉妹は、涙を流しながらスープを飲む。美味しい、美味しいと言いながら。
「皆さんもどうぞ、たくさん有りますから、並んで下さい」
遠巻きに眺めていた集落の住民達に、イリスが声を掛ける。
ポツリポツリと並ぶ人が出始めると、やがて皆んなが列をなした。
ユキトは、解体して収納していた肉のストックを取り出して、塩胡椒を振ってどんどん焼いて行く。
スープを先にしたのは、いきなり肉を食べさせて、消化不良になるのを怖れたからだ。
肉の焼ける音と匂いに、ミルモがヨダレを垂らして見ている。
ユキトは焼けた肉を皿に盛ると、フォークと一緒にミルモに手渡す。
肉を渡されると直ぐにかじりつき、夢中で食べ続けるミルモ。
それを羨ましそうに見ていたハルにもユキトは、肉を皿に盛って渡す。
ハルは恥ずかしそうにしながらも、肉の誘惑に抗えずに、肉を食べ始める。
ユキトがどんどん肉を焼き、集落の人達へも振舞って行く。
そうするうちに、ヴァイスとジーブルが、大量の魔物を狩って帰って来た。
ジーブルに持たせていた、空間拡張された鞄から大量の魔物の死体が取り出された時、集落の人達から悲鳴があがるが、死んでいる事が分かると収まった。
ヴァイスとジーブルが狩って来た魔物の内、食肉に向く物を、ティアとイリスが解体して行く。
大量の肉を焼いて振る舞い、集落の住民が落ち着いた頃に、彼等の現状について話を聞く事にする。
そこで、この大陸なのか、この地域だけなのか分からないが、国というモノは存在せず、製鉄技術も持たず、武器と言えば石斧や石の穂先の槍があるだけだと言う。
石斧では木の伐採もままならず、魔物や野生動物から集落を守る柵を作る事さえ出来ずにいる。
狩猟も稀に獲れる獲物も、集落全員では常に足りないのだと言う。
彼等は、戦えないからレベルも低く、レベルが低いから獲物が捕れない。完全に行き詰まっている。
さらに、彼等は誰も魔法を使えないのだ。
確かに魔力を持つ人は少ないが、これもレベルアップで解決する人もいるだろうが、魔法の使い方を指導する者が居なくなって数百年、魔法を使うと言う意識がないのだろう。
ユキトは先ず、集落の周りに土魔法で防壁を造ってしまう。将来の拡張性を考えて大きめに囲う。
これだけで、野生動物や魔物からの脅威から身を守る事が出来るだろう。
続けて、井戸を何ヶ所か掘りる。
「……これが畑か」
ユキトはミルモとハルに案内されて、集落の畑に来ていた。
畑にはまともに作物が育っていない。
畑を耕す事が難しいのだから当然かもしれない。
「よく生活してこれたね」
「……生きるのに精一杯で、それでも皆んな死んでいって……」
ハルが涙を流しながら、この集落で生きるのが、いかに大変かを訴える。
ユキトは、土魔法で広範囲に開墾する。
あっという間に出来上がる畑に、ハルもミルモも目が点になる。
「もう大丈夫だよ。皆んなが自立出来る様に力を貸すから」
「毎日、ごはんが食べれるの?」
ミルモが嬉しそうにユキトに聞く。
毎日食事が出来なかった姉妹が、せめて飢える事がない様にしてあげようと思う。
完全に自分勝手な偽善だろうが、一度見てしまうと放っておけない。
ユキトには、彼等を助ける力があるのだから。
自身の持つ力を行使する事に迷いはなかった。
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