いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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10巻

10-2

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 そして、優勝したウィンディーネが希望したのは……

「東の草原地帯に、泉をつくってもいい?」
「えっ? それでいいの?」
「ええ、私の眷属である、水の精霊達に前からずっと言われてたのよ。もっと水場が欲しいって」
「まあ、ウィンディーネがいいなら構わないけど、あまり道に近い場所はやめてね」
「ええ、邪魔にならない所にするから大丈夫よ」

 ウィンディーネの希望したものはちょっと予想外だったな。二位には副賞はないけど、一応ソフィアに何が希望か聞いてみた。

「……そ、その、タクミ様と、デートはダメでしょうか」
「デ、デート、そ、それは構わないけど、そんなのでいいの?」
「はい! ありがとうございます!」

 ソフィアは常に僕の護衛に付いているので、いつもデートしてるようなものだと思うんだけど……それは言わない方がいいだろうね。

「じゃあ、ミリは何か欲しい物はないかい?」
「あ、あの、ミリ達のお洋服が欲しいニャ」
「服か……確かに女の子なんだから、オシャレしたいよね。そうだね、王都の服屋でみんなの服を買おうか」

 僕達の服はすべて、糸はカエデ製でデザインはマリアとカエデにお任せといった感じ。
 一方聖域の住民達はというと、パペック商会から仕入れた布を使って自作しているのがほとんどらしい。
 子供達は、大人達が作ってくれた物を着ているけど、基本的に機能性重視だから、オシャレという感じではないのかもね。

「タクミ、私とマリアに任せてちょうだい。王都でガッツリと買ってくるわ」
「はい! ミリとララだけじゃなく、サラ、コレット、シロナ、メラニー、マロリーの分も買ってきます」

 アカネとマリアが自分達に任せてと言うので、ファッションにうとい僕は丸投げする事にした。この際、初期に聖域にのがれてきた子供達みんなの分も服を買うつもりみたい。
 こうして、アカネとマリアが子供達を王都へ連れていく事に決まった。まあ、言うまでもなく送迎するのは僕なんだけど。
 メンバーは、アカネとマリアにマーニとルルちゃん、ミリとララのお母さんのポポロさん、エルフのメラニーとマロリー姉妹のお母さんメルティーさん、それと子供達だ。
 僕はお出掛けメンバーを見ながら呟く。

「人数が人数だから、護衛が必要だな」
「タクミ、わしとゴラン兄貴が護衛に付こう。じゃから、米の収穫から酒用に少し回してくれんか」

 意外にもドガンボさんが手を挙げ、護衛を申し出てくれた。ただしその代わりに、米の収穫から酒用にもう少し融通してほしいとの事。
 うーん、現状お米を食べているのは僕達くらいだし、少しくらいなら大丈夫かな。

「わかりました。今年の秋の収穫から回すようにしますね」
「おお! 助かるぞ」
「マスター、カエデも行くから大丈夫だよ」
「カエデは姿を見せないようにするんだよ」
「はーーい!」

 カエデも一緒なら万に一つも危険はないだろう。
 ふう、色々あったけど、無事に第一回聖域ボウリング大会は幕を下ろしたかな。凄く盛り上がったイベントになったと思う。
 ……でも、この盛り上がりすぎたボウリング大会のせいで、色々責められる事になるとは、この時の僕は思っていなかったのだった。


 ◇


 マリア、アカネ、ポポロさん、メルティーさんと子供達をまとめて王都近くまで転移てんいで送る。その場で迎えに行く日を決めて、僕一人で聖域の屋敷に戻ってきた。
 ソファーに座って一息き、今日はもうゆっくりしようと思っていた僕に、休息の時間は与えられなかった。
 バタンッ!
 リビングの扉が勢いよく開く。
 文字通り飛んで入ってきたのは、有翼人族ゆうよくじんぞくのベールクトだった。

「タクミ様! ズルい! ズルい! ズルいです!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて、ベールクト」
「落ち着いてなんていられません! 聞きましたよ! ぽーりんぐ大会ってお祭りをしたんですよね!」

 ベールクトが凄い剣幕けんまくまくし立ててくる。

「私達、有翼人族全員を誘えとは言いません! けど、私はタクミ様の弟子と言っても過言じゃありませんよね! そんな私をものにして楽しそうな事してるなんて!」
「ちょっとちょっと、落ち着いて、ベールクト。確かにボウリング大会はしたけど、ボウリングって何かわかってる?」
「わかるわけないじゃないですか!」
「いや、そんなに堂々と言いきらなくても」
「……タクミ様、ベールクトをボウリング場に連れていってあげればいいのではないですか」

 ソフィアが助け船を出してくれた。
 とりあえずベールクトをボウリング場に連れていき、ボウリングがどんなものか知ってもらおうという事になった。


「お、おお! これがぽーりんぐですか!」
「ボウリングね。とりあえず遊んでみるかい?」

 レーンが並び、そこで住民達がボールを投げている光景を見て、興奮するベールクト。一度試してみるかと聞くと、ベールクトはブンブンと首を縦に振った。
 今日も混んでいるので少し待ってから、僕達は二ゲームだけボウリングを楽しんだ。相変わらずソフィアは上手い。

「……やっぱりズルいです、タクミ様。ボウリングって面白いじゃないですか!」
「わかった、わかった。次の大会には有翼人族も呼ぶようにするから」
「それだけじゃ足りません! 天空島てんくうとうにもボウリング場が欲しいです!」
「うっ、そう来たか……どうしようかソフィア」
「天空島にも造ってはどうでしょうか。そうすれば私達も、ここが混んでいる時は天空島のボウリング場を使えますし」

 何だか後半部分がソフィアの本音みたいな気がする。そう思ってしまったのは、僕の気のせいだろうか。

「はぁ、わかったよ。バルカンさんとバルザックさんの許可が取れたらね」
「ヤッタァーー!! じゃあすぐに行きましょう!」
「ちょっと、待って! 引っ張らないで!」

 ベールクトに引っ張られ、僕は有翼人族専用の転移ゲートへと向かう。
 有翼人族の中でも限られた人にだけ使用権限を与えている、聖域と天空島をつないでいる転移ゲートだ。
 天空島には他に、魔大陸またいりくの拠点とを結ぶ転移ゲートがあるが、聖域に繋がるゲートはセキュリティーが何段も厳重になっている。現状、この聖域と天空島を結ぶ転移ゲートを使える有翼人族は、族長のバルカンさん、そのお兄さんのバルザックさん、ベールクトの三人だけだ。


 天空島に連れてこられ、早速さっそくバルカンさんのもとを訪ねる。バルカンさんが僕を名字で呼んできた。

「お久しぶりです、イルマ殿」
「ご無沙汰ぶさたしてます、バルカンさん」
「何やらボウリング場なる物を建てていただけるとか。娯楽の少ない天空島ですから、大歓迎です」
「やっぱりそうですか。じゃあ、場所の選定をしましょうか」
「はい。我らは人数が少ないので、今ある建物を取り壊せば、スペースはいくらでも確保出来ます」
「……建築資材の節約にもなりますね。は、ははっ……」

 思っていたよりも前のめりのバルカンさんと、ボウリング場の建設場所を決めると、一気に建物を造り上げる。
 木材はバルカンさん達が確保してあった物を使わせてもらい、レーンを敷いていく。

「十レーンもあればいいよね」
「私達は人数が少ないから大丈夫だと思います。足りなかったら、タクミ様にまたオネダリしますね」
「……勘弁してほしいかな」

 その後、ボールを重さを変えながらいくつも作り、ピンを並べる魔導具まどうぐと、投げたボールを戻す魔導具を一人で造っては取り付けていく。
 椅子いすやテーブルなど細かな設備は有翼人族達に任せ、照明の魔導具を取り付ける。
 点数の付け方を解説しつつ、一度バルカンさんとベールクトに遊んでもらう。教えるのはソフィアだ。
 ゲーム終了後、バルカンさんとベールクトが目を輝かせながらお礼を言ってくる。

「イルマ殿、ありがとうございます! ボウリングのおかげで、我らの生活にもメリハリが出来るでしょう!」
「タクミ様! ありがとう!」
「楽しんでもらえて何よりです。何か不具合があれば教えてください」

 しかし、マリア達が王都にショッピングに出掛けている間くらい、のんびりと過ごせるかと思っていた僕が甘かったな。
 何だかんだで一日かかってしまった。
 マリア達は王都で二泊してくる予定なので、明日こそは聖域の屋敷でのんびり出来るかな。



 4 マリア一行爆買ばくが


 タクミがベールクトにねだられ、天空島にボウリング場を建てている頃――マリア達一行は王都でのショッピングを楽しんでいた。
 マリア、マーニ、アカネ、ケットシーのポポロ、エルフのメルティーら大人組が子供達を引率して、王都の大通りをワイワイと歩いている。
 美少女のマリア、アカネ、妖艶ようえんな色気を振り撒く兎人族マーニ、エルフのメルティー、そうした女性達の集団は、様々な種族が混在して暮らすバーキラ王国の王都であっても、ひときわ目立ってしまう。
 エルフの姉妹や猫人族の兄妹、人族の姉妹も子供ながら可愛く目をくが、何よりも王都の人達を驚かせたのは、伝説に語られるレベルで希少な種族のケットシーの親子の姿だった。
 微笑ほほえましく見る人、物珍しそうに見る人もいるが、当然中にはよからぬ事を考える者はいるわけで――


 王都で活動する非合法組織、要するにやみギルドの構成員が、それぞれの組織のボスへと連絡を飛ばしていた。

「オイ、いい女がいるぜ」
「オオッ、赤髪の女もいいが、あのウサギも色っぽくていいな」
「金髪の女もなかなかだぜっ……と、エルフまでいるじゃねぇか」
「馬鹿野郎! お前達はそんな事だからいつまでもしたなんだ。よく見てみやがれ、ケットシーの親子だ! 金持ち連中に売れば、どれだけの金になるかわからねぇぞ!」
「アレがケットシーか。俺、初めて見たぜ」
「すぐにボスにしらせろ。残りは監視だ」
「オゥ!」

 闇のギルドの構成員達が走り去っていく。
 このような光景が王都のそこかしこで繰り広げられていた。
 マリア達には護衛としてドガンボとゴランが付いているのだが、たかがドワーフのオヤジ二人など、欲にまみれた者どもには関係ない。
 ちなみに、マリア達を狙う闇ギルドには一つの共通点があった。
 それは、どの組織も中小規模という事。
 マリアは冒険者としてランクが高く、冒険者ギルドの中でトップクラスの実力をほこるタクミのパーティーメンバーだと知られている。それに気づけないのは、情報収集能力のとぼしい組織というわけであった。


 ◆


 マリア達を見て動き出したのは、闇ギルドだけではない。
 マリア達一行が王都の門をくぐった時点で、王城へすぐに報告されていた。当然、一行の中に希少種のケットシーがいる事も伝えられる。
 そこからバーキラ王国の動きは早かった。
 宰相サイモンはその事を知ると、バーキラ王と騎士団長ガラハットとすみやかに情報を共有、この機に王都の掃除そうじをしようと決断した。つまり、マリア達をまもる人員を手配しただけでなく、一行を狙うであろう組織のアジトを割り出すべく動き出したのだ。
 なおこの作戦には、正規の王都防衛の近衛このえ騎士団だけでなく、各騎士団から精鋭、諜報ちょうほう組織までが動員されたのだった。


 一通り指示を終え、サイモンが溜息ためいき混じりに口にする。

「……やれやれ、イルマ殿も事前に一言連絡してほしかったですな」

 ガラハット、バーキラ王が応える。

「まあ、それも仕方ないぞ、サイモン殿。イルマ殿にとっては、ただのショッピングだからな」
「うむ、ガラハットの言う通りだ。善良な国民が王都で買い物をするだけだ」

 そのように三人で話していると、マリア達一行をかげながら護衛していた諜報部の者が現れ、三人に告げる。

「……報告いたします。エサに獲物が食いつきました。現在、獲物の連絡係がアジトへと走っています。アジトが判明し次第、騎士団と衛兵の配置をいたします」

 バーキラ王、サイモンが反応する。

「ふむ、早かったな」
「ケットシーなど、我らでも聖域で初めて見ましたからな。欲深よくふかな連中が食いつかぬわけがありませぬ」

 すると、普段バーキラ王の側を離れる事の少ないガラハットが口を開く。

「では、儂も現場に向かいます。あとは頼んだぞ」
「「はっ!」」

 近衛騎士団員二人が、王の護衛を引き継いだ。
 本来闇ギルドの殲滅せんめつ程度で、騎士団長ガラハットが出向く事はない。これには、タクミに対してバーキラ王国はここまで気を遣うというアピールの側面があった。
 こうして、中小規模の闇ギルド組織には過剰とも思える戦力を動員した「キツネ狩り」が始まろうとしていた。


 ◆


 王都の服屋巡りを楽しむマリア達一行。だが、彼女達とてただ無防備に買い物をしているわけではない。
 姿こそ見えないが、マリア達の側にはカエデがひそんでいるのだ。
 今にも鼻歌を唄い出しそうなカエデは、高レベルの隠密おんみつスキルと認識阻害の外套がいとうの力で誰にも見つかる事なく、マリア達によこしまな視線を向ける者達を監視していた。
 一体だけで、街の一つや二つ簡単に壊滅させられると言われる災害級の魔物、アラクネ。カエデはそのさらに特異種である。当然、王都の冒険者ギルドにも、カエデとまともにやり合える冒険者はいない。中小規模の闇ギルド構成員など言うまでもない。
 今も、マリア達に近づこうするバカが、誰も気づかぬうちに糸でぐるぐる巻きにされていた。
 また、護衛のドワーフのドガンボとゴランの実力も、そこらの闇ギルドのチンピラに負けるものではない。聖域で暮らす以前は、危険な場所で採掘する事や、魔物の素材目当てに狩りに行く事もあったのだから。


 庶民向けの服屋に入り、マリア達が服を物色し出す。
 なお、聖域にはタクミがパペック商会を通して仕入れた布が豊富にある。聖域の住民なら自由に使っていいので、住民は服に困る事はない。
 とはいえ、自作の服とプロの仕立てた服の違いは明らかだ。そんなわけで、ケットシーのお母さんポポロやエルフ姉妹のお母さんメルティーは、この機会を逃すものかと服をあさっていた。
 一方、マリア、マーニ、アカネにそんな必死さはなかった。彼女達の服はカエデの糸から作られた特別製であり、マリアやカエデの仕立てレベルはプロの職人以上だからだ。
 そんな彼女達がどうして服を見ているのかというと――王都の流行のデザインを参考にするためだった。

「わあ、お姉ちゃん、この服キレイだニャ!」
「ホントね、こっちのもキレイニャよ」

 ケットシーのミリとララが楽しそうに服を選んでいる。
 二足歩行の猫のようなケットシーは、もこもこの毛に包まれているのであまり服を着ない。今もミリとララの服装は、首のリボンくらいだ。
 アカネとマリアが服を手に取りつつ話し合う。

「ねえねえ、マリア。この辺のデザインなんてどう思う?」
「流石、王都ですね。色々なデザインがあって参考になります」
「でも、アカネさんの考えるデザインの服も負けてないのでは?」

 マリアがそう言うと、アカネは謙遜けんそんして首を横に振る。

「私のは自分で考えてるんじゃないもの。元の世界のデザインを真似しているだけ。私のあまり上手くない絵から服を仕立て上げている、マリアとカエデちゃんが凄いのよ」

 そこへ、ルルが口を挟む。

「お二人も凄いけど、アカネ様だって凄いニャ。アカネ様のおかげでルルは、こんな可愛いメイド服を着られるニャ」
「そ、それもタクミから見ればコスプレだもの」
「こすぷれニャ?」
「いいからルルも良さげな服を選びなさい」
「まあまあ。私達もデザインの参考になりそうな服は全部買いましょう」

 マリアがその場を収めるようにそう言うと、皆、再び服を物色し始める。
 ちなみに、王都で服を買うにあたって、タクミからかなり余裕を持って軍資金を渡されていた。
 だが、それは店ごと買うつもりなのかと疑うくらいの金額だった。ファッションに疎いタクミは、服の相場さえよくわかっていなかったのだ。
 一軒の服屋で買い物を終えただけで、大量の荷物がマジックバッグに入れられていく。そして、一行また当然のように次の服屋へと向かった。


 そのあとをウンザリとついていくのは、ドガンボとゴランである。
 ドガンボは既に後悔していた。お酒のためと思い我慢してきたが、それでも女性の買い物に付き合うのが、こんなにも大変だとは思わなかったのだ。

「……タクミが簡単に米を融通してれた時点で、察するべきじゃったか」
「愚痴るな、ドガンボ。諦めて修業だと思え」

 げんなりとするドガンボに、ゴランが悟った表情で告げた。
 二人の試練は始まったばかりだ。
 マリア達の買い物は、このあと数日にわたって続くのだから――


 ◆


 お買い物ツアーは二日目に入った。
 この間に、いくつかの闇ギルドが騎士団や諜報部隊により捕縛された。この日も朝一で、マリア一行襲撃のためにアジトに集合していた闇ギルドの構成員を、諜報部隊の手引きで騎士団が急襲していた。

「大人しくばくにつけ! 逆らう者は容赦ようしゃせん!」
「ぐわっ! 何だ! テメェら!」
「ガァッ!」
「に、逃げろぉ!」

 騎士団と王都守備隊の兵士が男達を包囲している。言うまでもないが、たかだか中小規模の闇ギルドに、この大軍を打ち破る力はない。
 なお、捕らえられた構成員は、厳しく取り調べたあと、その多くは犯罪奴隷として遇される事になる。軽犯罪者程度なら、数日牢屋に入れられてから解放されるのだが、闇ギルドの構成員に軽犯罪程度の者はいない。
 結果としてほぼ全員が犯罪奴隷となり、鉱山や街道整備などのキツい強制労働へ送られるのだ。


 ともかくそんなわけで、朝から闇ギルドの捕縛が盛んに行われ、多くの騎士や兵士が走り回っていたが、そんな光景を尻目に、マリア達一行は買い物ツアーを楽しんでいた。

「今日は王都の北寄りのお店を回りましょうか」
「貴族街に近い方ね。いいんじゃない」
「アカネ様、高い服が売ってるお店ニャ?」
「そうよ。昨日は子供達の服はいっぱい買えたから、今日は私達やポポロさんとメルティーさんの服ね」

 マリア達の会話を聞き、ポポロとメルティーの表情が青くなる。自分達が高級店に行くのは分不相応ぶんふそうおうに感じたのだ。
 二人はおびえながら口にする。

「……あの、私達の服は古着で十分ですニャ」
「そうです。布を買っていただければ、自分で縫います」

 アカネとマリアは、ポポロとメルティーの不安を察知すると、二人に笑みを浮かべて告げる。

「お金の事は心配しなくても大丈夫よ。タクミからお店を買えるくらい預かっているから」
「そうですよ。タクミ様が言ってましたよ。日頃聖域で子供達のお世話と、畑や果樹園のお仕事を頑張ってくれているお礼だって」

 涙ぐむポポロとメルティーに、さらにアカネは話す。

「それに今日は、下着屋さんも回って、流行の下着デザインをチェックするのと、子供達用の下着を買うわよ」

 バーキラ王国では、タクミ発信の下着がロックフォード伯爵夫人経由で流行した。さらに今では、国内ばかりかロマリア王国やサマンドール王国にも広がり、独自のトレンドを生み出しているという。アカネはそれらを確認するつもりだったのだ。
 続いてマリアが言う。

「ポポロさんとメルティーさんも、遠慮なくいっぱい買ってね。聖域だと自作しないとダメでしょ。私とカエデちゃんは家族の分を全部作っているけど、服と違って下着はなかなか難しいからね」
「「はい!」」

 ポポロとメルティーは飛び上がって喜んだ。
 そうした微笑ましい光景を、少し離れた場所で見ているのは、ドガンボとゴランである。
 こうしてずっと待たされるのも、もう二日目になるのだ。うんざりした表情になってしまうのも仕方ないだろう。

「……なぁ、ゴランの兄貴、儂もう帰りたい」
「……儂らは護衛なんじゃ。帰ったら酒の増産が出来ると思って我慢するんじゃ」

 悲壮な覚悟で、我慢を決意するドワーフのオヤジ二人。たまの日曜日に、買い物に付き合わされるお父さんの苦労は、異世界でも同じように存在するらしい。


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