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第9部 夢の先にあるもの
5-5この世界のためなら私の全人生を懸けてもいいと思う
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私は〈シルフィード協会〉に来ていた。病院に寄っていたので、遅刻してしまったけど。ゴドウィン理事が、連絡をしてくれたお蔭で、何とか無事に、面接を受けられそうだ。私は、受付で手続きを済ませると、八階の会議室に向かった。
私は今、上に向かうフローターに乗っていた。だが、空気が物凄く重い。なぜなら、ゴドウィン理事と、二人きりだからだ。彼は、病院を出てからもずっと、不機嫌そうな表情のままだった。
でも、孫のイザベラさんへの態度を見る限り、悪い人じゃないと思う。一件、気難しそうでも、優しい人もいるからね。とはいえ、異世界人に、偏見があるみたいだし。過去のいざこざも有るので、何を話していいか、さっぱり分からなかった。
色々考えていると、意外にも、彼のほうから話しかけて来た。
「如月風歌。遅くなったが、孫を助けてくれた件は、礼を言う」
「えっ?! あぁ、いえ。別に、当たり前のことをしただけですから」
「だが、それで、面接の審査を、甘くするつもりはないぞ」
「もちろんです。厳しく、公正に判断してください」
「相変わらず、口の減らん小娘だな……」
彼は、それきり、黙り込んでしまった。八階に着くと、私は、彼のあとについて、会議室に向かうのだった――。
******
遅れて到着した、私とゴドウィン理事が席に着くと、すぐに、面接が開始された。どうやら、遅刻の件に関しては、一切、おとがめ無しのようだった。これについては、ゴドウィン理事に、心から感謝だ。
「それでは、全員、揃いましたので、会議を始めたいと思います。今回は、長らく空席だった『グランド・エンプレス』を決める、極めて重要な会議です。どうか、公正かつ、慎重な判断をお願いします」
「詳細については、お手元の資料の通りですが。ご不明な点があれば『天使の翼』に、直接、質疑を行ってください」
理事長は、いつも通り、淡々と話を進める。
前置きの説明が終わると、さっそく質問がやって来た。
「先日の大地震の際は、大変な活躍でしたね。沢山の被災者を、がれきの中から救出していましたが。あれは、どのようにして、分かったのですか?」
「あぁ、それは、私もとても気になっていました」
「よく、あのような状況で、見つけられましたね」
「中には、地中深くに、閉じ込められていた人もいたとか」
皆の視線が、一斉に、私に集中する。誰もが、興味津々な様子だ。
「上手くは、説明できないのですが、声が聞こえたのです。私はただ、その場所に向かっただけで」
「それは、がれきの下から、声が聞こえたということですか? 数キロ、離れた場所の人も、見付けたようですが」
「おそらく、実際の声ではなく、心の声だと思います。中には、負傷して、全く声を出せない状態の人も、いましたので」
私の答えに、室内が静まり返った。皆『信じられない』といった表情をしている。普通は、心の声が聞こえるだなんて、信じられないよね。
「しかし、心の声が聞こえたとして、どうして正確な位置が、分かったのですか? 倒壊した建物だらけで、場所の判断すら、難しい状況で」
「それが、不思議と、いる場所が分かったんです。『違和感』とでも、言うのでしょうか。あと『風の精霊』が、教えてくれた場所もありました」
あの大地震の際、風の精霊たちには、物凄くお世話になった。地震が起きる直前にも、私に知らせに来てくれたし。
「……今、何と言いました? 風の精霊――ですか?」
「はい。意識を集中すると、見えるんです」
「えぇと、それは、事実なのですか……?」
「最近は、私の声にも反応してくれて。簡単なコミュニケーション程度なら、できるようになりました」
私が答えた途端、室内がザワザワし始めた。
「いや――そんな、まさか……?」
「でも、それなら、あの不思議な救出劇も、納得できませんか――?」
「しかし、魔法の存在しない世界の住人が、なぜ……?」
「とはいえ、証明する方法も、ありませんし――」
次々と疑問の声が飛び交う。
そりゃ、そうだよね。私だって、見えなかったころは、絶対に疑っていたと思う。一応、証明できるには、できるんだけど……。
私は、少し考えたあと、
「もし、よろしければ、少しだけ立ち上がっても、よろしいでしょうか?」
理事長に声を掛けた。
「別に、構いませんが。何を……?」
「では、少しだけ、失礼いたします」
私は答えると、すぐに、部屋の奥にある窓に向かった。
窓の外に目を向け集中すると、そこには、無数の風の精霊たちが見えた。皆、思い思いに飛んでいる。その時、近くを飛んでいた精霊と、目があった。
「お願い、ちょっとだけ、こっちに来てくれる?」
私が声を掛けると、彼女は、スーッとこちらに近付いてくる。
『おいで』と声を掛けると、風の精霊は、窓をすり抜け、部屋の中に入って来た。彼女は、部屋の中を、ぐるぐる飛び回る。次の瞬間、密閉された部屋の中に、風が吹いた。
「なっ――?! これは一体? どこから風が……?」
「風の精霊を呼びました。今、部屋の中を飛んでいるんです」
私が説明すると、再び、部屋の中がザワザワし始めた。
「ありがとう。帰っていいよ」
私が精霊に微笑みかけると、彼女は、私の前でクルッと宙返りしたあと、外に飛び出して行った。
私は、自分の席に戻ると『失礼いたしました』と、頭を下げてから、静かに着席する。
「あ――あの、その力は、昔から持っていたのですか?」
「いえ、精霊が見えるようになったのは、割と最近です。最初は、マナラインしか、見えなかったんですが。だんだん、見えるようになって来たんです」
「えっ?! マナラインが見えるんですか?」
「見えるようになったのは、確か『ノア・グランプリ』辺りからだったと思います。お蔭で、風の吹く方向や、天候の変化が、よく分かるようになりました」
再び、部屋の中が騒然とする。
「実は、以前、知り合いの占い師さんに、見てもらったところ。私には『風の加護』が、あるらしいのです。それも、普通の加護ではなく『シルフィードの加護』だと言われました」
「なっ!? それは『蒼空の女王』の加護を、直接、受けているのですか?」
「おそらく、そうだと思います。向こうの世界にいた時から、風の歌を聞いていたのですが。どうやら、シルフィードの歌声だったようですので」
そもそも、私は、二度も、直接シルフィードに会っている。でも、流石に『風の世界』に行って来た話は、信じて貰えないと思うので、伏せておく。
まだ、信じられない人もいるようで、次々と意見が飛び出し、いつの間にか、熱い議論になっていた。だが、徐々に、肯定的な意見も増えている。
しばらく議論が突いたあと『ゴホンッ!』と、大きな咳払いが聞こえた。物凄く不機嫌そうな表情の、ゴドウィン理事だ。
「不可思議な力など、どうでもいい。それは、エンプレスたるに、全く関係ない話だ。必要なのは、人格と決意ではないのか?」
彼が言葉を発した瞬間、室内が、急に静かになった。
確かに、彼の言う通りだ。そもそも、この能力は、私自身のものではない。シルフィードが、力を貸してくれているだけだ。なので、このことで、評価してもらおうとは思わない。
「一つ訊くが、エンプレスの重責を、本当に理解しているのか? 今回のように、一時の活躍で、英雄になるのとは違う。これから先、一生、背負って生きていくことになる。一度、引き受けたら、もう、あとには引けんのだぞ」
「もし、エンプレスになれば、世界中の人々の、大きな期待を背負うことになる。当然、今までような、好き勝手行動も、一切できなくなるのだ。大変、不自由な生活になるが、それも分かっているのか?」
彼は、私に鋭い目を向けて来た。私は、その視線を、真正面から受け止める。
「もちろん、理解しています。それが、とてつもなく、重いものであることを。世界中の人々の、希望の光として、常に注目を集めることも」
「でも、私は、誓ったのです。四人の魔女の遺志を継ぎ、この世界の平和を守ることを。また、世界中の人々を、幸せにすることを。そのためなら、私の人生の全てを懸けても、いいと思っています」
四人の魔女たちが、その命を懸けて、この町を作り、世界を救ったのと同じで。私も、持てる全てを使って、この世界を守ると決めたのだ。
「元々シルフィードは、伝統的で神聖な職業で、エンプレスは、その中でも、特に重要な地位だ。常に、誰もが納得する、最高のシルフィードでなければならん。異世界から来た者に、それが出来るのか?」
「確かに、私は、異世界人です。でも、だからこそ、伝統の大切さを、深く理解しています。おそらく、今いるシルフィードの中で、誰よりも、伝統を大切にしていると思います」
「何っ? それは、どういう意味だ……?」
彼は、いかぶしげな表情を浮かべる。周囲の視線も、私に集中した。
「私の世界にも、伝統的な職業があります。しかし、同じの国の人たちは、意外と知らないものです。むしろ、外国の人のほうが、深く興味を持って、よく知っていたりするのです。身近にないからこそ、大切に感じるのだと思います」
「私の世界には、シルフィードという職業が、ありませんでした。なので、ずっと憧れ、尊敬し、大切に思っていました。この世界で、生まれ育った人には、当たり前でも。私にとっては、とても貴重で、かけがえのない存在なのです」
「だからこそ、私は、この伝統的で素晴らしい職業を、もっと多くの人に知って欲しいですし。後世にも、受け継いで行きたいと、心から願っているのです」
私が答えると、ゴドウィン理事は、腕を組んだまま考え込む。しばらく間を置いてから『分かっているなら、それでいい』と、ぽつりと言葉を発した。それ以降、彼は、何も言わなかった。
しばしの静寂のあと、今度は『白金の薔薇』が、質問してきた。
「あなたの想いは、よく分かりました。しかし、エンプレスになれば、想像を超える忙しさになります。それに、この業界だけではなく、この世界全体の象徴ですから。向こうの世界に帰るのも、難しくなります」
「ゴドウィン理事が言われた通り、とても不自由な生活になりますし、心身ともに、大変な負担になるでしょう。本来、異世界人のあなたが、この世界の責任を、負う必要はありません。それでも、あなたは、引き受けますか?」
静かではあるが、とても強く響く言葉だった。だが、私は、迷わず即答した。
「私は、この業界に、いえ、この世界に、骨をうずめるつもりです。それは、私が、この世界に来る際に、考えていたことですし。シルフィードになった時から、覚悟はできていました」
「それに、私は、この世界と、この世界の人々が、心から大好きです。もう、私の心は、この世界の人間ですから。第二の故郷を守るのが、負担だとは思いません」
私が答えると、彼女は静かに頷いた。
しばらくの沈黙が続いたあと、議長が口を開く。
「大方の意見は出たようですし、本人からも、納得のいく回答が得られました。つきましては、彼女には退出していただき、最終的な採決に入りたいと思います。みなさん、よるしいでしょうか?」
周囲にいた理事たちは、皆、静かに頷いた。ゴドウィン理事は、相変わらず、不機嫌そうな顔ではあったが、腕を組んだまま、小さく頷く。
「それでは、天使の翼。ご足労いただき、大変お疲れ様でした。結果につきましては、このあと採決を行い、後日、連絡させていただきます」
「はい。よろしくお願いいたします。本日は、お忙しいところ、ありがとうございました」
正直、結果は、どうなるかは分からない。でも、私の想いや、言いたいことは、全て伝えられた。やるだけのことは、やったのだから。どんな結果になって、悔いはない。
私は、深々と頭を下げたあと、静かに部屋をあとにするのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『まだ大きな目標を果たすためのスタート地点に立ったに過ぎない』
目標がある限り、劣等感があるのは当然のことだ
私は今、上に向かうフローターに乗っていた。だが、空気が物凄く重い。なぜなら、ゴドウィン理事と、二人きりだからだ。彼は、病院を出てからもずっと、不機嫌そうな表情のままだった。
でも、孫のイザベラさんへの態度を見る限り、悪い人じゃないと思う。一件、気難しそうでも、優しい人もいるからね。とはいえ、異世界人に、偏見があるみたいだし。過去のいざこざも有るので、何を話していいか、さっぱり分からなかった。
色々考えていると、意外にも、彼のほうから話しかけて来た。
「如月風歌。遅くなったが、孫を助けてくれた件は、礼を言う」
「えっ?! あぁ、いえ。別に、当たり前のことをしただけですから」
「だが、それで、面接の審査を、甘くするつもりはないぞ」
「もちろんです。厳しく、公正に判断してください」
「相変わらず、口の減らん小娘だな……」
彼は、それきり、黙り込んでしまった。八階に着くと、私は、彼のあとについて、会議室に向かうのだった――。
******
遅れて到着した、私とゴドウィン理事が席に着くと、すぐに、面接が開始された。どうやら、遅刻の件に関しては、一切、おとがめ無しのようだった。これについては、ゴドウィン理事に、心から感謝だ。
「それでは、全員、揃いましたので、会議を始めたいと思います。今回は、長らく空席だった『グランド・エンプレス』を決める、極めて重要な会議です。どうか、公正かつ、慎重な判断をお願いします」
「詳細については、お手元の資料の通りですが。ご不明な点があれば『天使の翼』に、直接、質疑を行ってください」
理事長は、いつも通り、淡々と話を進める。
前置きの説明が終わると、さっそく質問がやって来た。
「先日の大地震の際は、大変な活躍でしたね。沢山の被災者を、がれきの中から救出していましたが。あれは、どのようにして、分かったのですか?」
「あぁ、それは、私もとても気になっていました」
「よく、あのような状況で、見つけられましたね」
「中には、地中深くに、閉じ込められていた人もいたとか」
皆の視線が、一斉に、私に集中する。誰もが、興味津々な様子だ。
「上手くは、説明できないのですが、声が聞こえたのです。私はただ、その場所に向かっただけで」
「それは、がれきの下から、声が聞こえたということですか? 数キロ、離れた場所の人も、見付けたようですが」
「おそらく、実際の声ではなく、心の声だと思います。中には、負傷して、全く声を出せない状態の人も、いましたので」
私の答えに、室内が静まり返った。皆『信じられない』といった表情をしている。普通は、心の声が聞こえるだなんて、信じられないよね。
「しかし、心の声が聞こえたとして、どうして正確な位置が、分かったのですか? 倒壊した建物だらけで、場所の判断すら、難しい状況で」
「それが、不思議と、いる場所が分かったんです。『違和感』とでも、言うのでしょうか。あと『風の精霊』が、教えてくれた場所もありました」
あの大地震の際、風の精霊たちには、物凄くお世話になった。地震が起きる直前にも、私に知らせに来てくれたし。
「……今、何と言いました? 風の精霊――ですか?」
「はい。意識を集中すると、見えるんです」
「えぇと、それは、事実なのですか……?」
「最近は、私の声にも反応してくれて。簡単なコミュニケーション程度なら、できるようになりました」
私が答えた途端、室内がザワザワし始めた。
「いや――そんな、まさか……?」
「でも、それなら、あの不思議な救出劇も、納得できませんか――?」
「しかし、魔法の存在しない世界の住人が、なぜ……?」
「とはいえ、証明する方法も、ありませんし――」
次々と疑問の声が飛び交う。
そりゃ、そうだよね。私だって、見えなかったころは、絶対に疑っていたと思う。一応、証明できるには、できるんだけど……。
私は、少し考えたあと、
「もし、よろしければ、少しだけ立ち上がっても、よろしいでしょうか?」
理事長に声を掛けた。
「別に、構いませんが。何を……?」
「では、少しだけ、失礼いたします」
私は答えると、すぐに、部屋の奥にある窓に向かった。
窓の外に目を向け集中すると、そこには、無数の風の精霊たちが見えた。皆、思い思いに飛んでいる。その時、近くを飛んでいた精霊と、目があった。
「お願い、ちょっとだけ、こっちに来てくれる?」
私が声を掛けると、彼女は、スーッとこちらに近付いてくる。
『おいで』と声を掛けると、風の精霊は、窓をすり抜け、部屋の中に入って来た。彼女は、部屋の中を、ぐるぐる飛び回る。次の瞬間、密閉された部屋の中に、風が吹いた。
「なっ――?! これは一体? どこから風が……?」
「風の精霊を呼びました。今、部屋の中を飛んでいるんです」
私が説明すると、再び、部屋の中がザワザワし始めた。
「ありがとう。帰っていいよ」
私が精霊に微笑みかけると、彼女は、私の前でクルッと宙返りしたあと、外に飛び出して行った。
私は、自分の席に戻ると『失礼いたしました』と、頭を下げてから、静かに着席する。
「あ――あの、その力は、昔から持っていたのですか?」
「いえ、精霊が見えるようになったのは、割と最近です。最初は、マナラインしか、見えなかったんですが。だんだん、見えるようになって来たんです」
「えっ?! マナラインが見えるんですか?」
「見えるようになったのは、確か『ノア・グランプリ』辺りからだったと思います。お蔭で、風の吹く方向や、天候の変化が、よく分かるようになりました」
再び、部屋の中が騒然とする。
「実は、以前、知り合いの占い師さんに、見てもらったところ。私には『風の加護』が、あるらしいのです。それも、普通の加護ではなく『シルフィードの加護』だと言われました」
「なっ!? それは『蒼空の女王』の加護を、直接、受けているのですか?」
「おそらく、そうだと思います。向こうの世界にいた時から、風の歌を聞いていたのですが。どうやら、シルフィードの歌声だったようですので」
そもそも、私は、二度も、直接シルフィードに会っている。でも、流石に『風の世界』に行って来た話は、信じて貰えないと思うので、伏せておく。
まだ、信じられない人もいるようで、次々と意見が飛び出し、いつの間にか、熱い議論になっていた。だが、徐々に、肯定的な意見も増えている。
しばらく議論が突いたあと『ゴホンッ!』と、大きな咳払いが聞こえた。物凄く不機嫌そうな表情の、ゴドウィン理事だ。
「不可思議な力など、どうでもいい。それは、エンプレスたるに、全く関係ない話だ。必要なのは、人格と決意ではないのか?」
彼が言葉を発した瞬間、室内が、急に静かになった。
確かに、彼の言う通りだ。そもそも、この能力は、私自身のものではない。シルフィードが、力を貸してくれているだけだ。なので、このことで、評価してもらおうとは思わない。
「一つ訊くが、エンプレスの重責を、本当に理解しているのか? 今回のように、一時の活躍で、英雄になるのとは違う。これから先、一生、背負って生きていくことになる。一度、引き受けたら、もう、あとには引けんのだぞ」
「もし、エンプレスになれば、世界中の人々の、大きな期待を背負うことになる。当然、今までような、好き勝手行動も、一切できなくなるのだ。大変、不自由な生活になるが、それも分かっているのか?」
彼は、私に鋭い目を向けて来た。私は、その視線を、真正面から受け止める。
「もちろん、理解しています。それが、とてつもなく、重いものであることを。世界中の人々の、希望の光として、常に注目を集めることも」
「でも、私は、誓ったのです。四人の魔女の遺志を継ぎ、この世界の平和を守ることを。また、世界中の人々を、幸せにすることを。そのためなら、私の人生の全てを懸けても、いいと思っています」
四人の魔女たちが、その命を懸けて、この町を作り、世界を救ったのと同じで。私も、持てる全てを使って、この世界を守ると決めたのだ。
「元々シルフィードは、伝統的で神聖な職業で、エンプレスは、その中でも、特に重要な地位だ。常に、誰もが納得する、最高のシルフィードでなければならん。異世界から来た者に、それが出来るのか?」
「確かに、私は、異世界人です。でも、だからこそ、伝統の大切さを、深く理解しています。おそらく、今いるシルフィードの中で、誰よりも、伝統を大切にしていると思います」
「何っ? それは、どういう意味だ……?」
彼は、いかぶしげな表情を浮かべる。周囲の視線も、私に集中した。
「私の世界にも、伝統的な職業があります。しかし、同じの国の人たちは、意外と知らないものです。むしろ、外国の人のほうが、深く興味を持って、よく知っていたりするのです。身近にないからこそ、大切に感じるのだと思います」
「私の世界には、シルフィードという職業が、ありませんでした。なので、ずっと憧れ、尊敬し、大切に思っていました。この世界で、生まれ育った人には、当たり前でも。私にとっては、とても貴重で、かけがえのない存在なのです」
「だからこそ、私は、この伝統的で素晴らしい職業を、もっと多くの人に知って欲しいですし。後世にも、受け継いで行きたいと、心から願っているのです」
私が答えると、ゴドウィン理事は、腕を組んだまま考え込む。しばらく間を置いてから『分かっているなら、それでいい』と、ぽつりと言葉を発した。それ以降、彼は、何も言わなかった。
しばしの静寂のあと、今度は『白金の薔薇』が、質問してきた。
「あなたの想いは、よく分かりました。しかし、エンプレスになれば、想像を超える忙しさになります。それに、この業界だけではなく、この世界全体の象徴ですから。向こうの世界に帰るのも、難しくなります」
「ゴドウィン理事が言われた通り、とても不自由な生活になりますし、心身ともに、大変な負担になるでしょう。本来、異世界人のあなたが、この世界の責任を、負う必要はありません。それでも、あなたは、引き受けますか?」
静かではあるが、とても強く響く言葉だった。だが、私は、迷わず即答した。
「私は、この業界に、いえ、この世界に、骨をうずめるつもりです。それは、私が、この世界に来る際に、考えていたことですし。シルフィードになった時から、覚悟はできていました」
「それに、私は、この世界と、この世界の人々が、心から大好きです。もう、私の心は、この世界の人間ですから。第二の故郷を守るのが、負担だとは思いません」
私が答えると、彼女は静かに頷いた。
しばらくの沈黙が続いたあと、議長が口を開く。
「大方の意見は出たようですし、本人からも、納得のいく回答が得られました。つきましては、彼女には退出していただき、最終的な採決に入りたいと思います。みなさん、よるしいでしょうか?」
周囲にいた理事たちは、皆、静かに頷いた。ゴドウィン理事は、相変わらず、不機嫌そうな顔ではあったが、腕を組んだまま、小さく頷く。
「それでは、天使の翼。ご足労いただき、大変お疲れ様でした。結果につきましては、このあと採決を行い、後日、連絡させていただきます」
「はい。よろしくお願いいたします。本日は、お忙しいところ、ありがとうございました」
正直、結果は、どうなるかは分からない。でも、私の想いや、言いたいことは、全て伝えられた。やるだけのことは、やったのだから。どんな結果になって、悔いはない。
私は、深々と頭を下げたあと、静かに部屋をあとにするのだった……。
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