私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第8部 分かたれる道

3-3悲しみを乗り越え前を向いて進んで行こう

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 朝、五時ごろ。まだ、時間が早いが、今日は、自然に目が覚めた。というよりも、昨夜は、あまり眠れなかった。今日は、イベントの日なので、上位階級の私は、強制参加だ。でも、眠れなかった原因は、それではない。

 今日は、三月二十一日。『三・二一事件』のあった日で、町をあげての『慰霊祭』が行われる。この町にとって、この日は、とても特別だ。

 行政機関は、全てお休みになり、ほとんどのお店も、シャッターが閉まっている。あと、航空規制が掛かり、この日は、町の上空を飛ぶことが、禁止されていた。そのため、空の仕事は、全てお休みになる。

 また、各家庭の前には、白い花が置かれていた。白は、幸運の象徴であると同時に、死者が天国で幸せに暮らせるようにとの、願いが込められている。そのため、町中が、白い花で埋まっていた。

 辺り一面に、甘い花の香りが漂い、とても幻想的で、美しい風景になる。でも、町中が静寂に包まれ、空気が重い。普段は、常にイベントをやっていて、一年中、明るく賑やかな〈グリュンノア〉が、この日だけは、別世界のようになる。

 事故から、四年の月日が経った。だが、いまだに、この町の人たちの中には、つい先日のことのように、鮮明に記憶に残っている。

 普通の事故なら、とっくに、忘れられていたはずだ。しかし『伝説のシルフィード』が、この世を去ることになった、とても悲しい事件だ。おそらく、これから先も、ずっと人々の記憶に、残り続けるのだと思う。

 今日の慰霊祭は、上位階級のシルフィードと、事理会メンバーも、全員参加。加えて、行政府のトップである『評議会議長』や、各機関の高官たち。

 さらに、他の国や都市国家の元首や大臣も、大勢、訪れる予定だ。『グランド・エンプレス』であった『白き翼』ホワイトウイングが、どれほど、高い地位にあったかが、よく分かる。

 加えて、彼女自身、誰からも好かれる、とても愛嬌のある性格だった。そのため、世界中から、彼女のファンたちが、集まってきている。

 今日は、飛空艇や時空航行船も、運航数が、普段の三分の一になるため、昨日の内に、多く人がこの町に来る、前乗りラッシュになっていた。そのため、どこの宿泊施設も、満室になっている。
 
 私も昨日は、慰霊祭に訪れたお客様を、何人も、観光案内した。ただ、昨夜までは、町中に人があふれ、賑やかだったが、今は静寂に包まれ、見る影もない。

 私は、屋根裏部屋の窓から、そっと外を眺めた。まだ、日は登っておらず、辺りは、真っ暗で、物音一つ聴こえない。私の目の前には、緑色のマナラインが、ゆらゆらと、あちこちで揺れ動いてた。まるで、オーロラのように見える。

 その光景を、しばらく見つめたあと、すぐに、身支度を始めた。顔を洗うために、一階の流しまで往復したあと、制服を着て、鏡を見ながら微調整する。あと、髪も念入りにブラッシングして、綺麗に整えた。

 普段なら、大きなあくびをして、ボンヤリしているところだけど。今日ばかりは、気持ちが、ギュッと引き締まっていた。ユメちゃんや、リリーシャさんのことを考えると、とても、そんな緩んだ気持にはなれない。

 私ですら、重い気分になって、なかなか寝れなかったのだから。当事者だった、ユメちゃんや、大事な人を失ったリリーシャさんは、いったい、どんな気持ちで、一夜を過ごしたのだろうか……?

 私は、買い置きしておいた、パンの袋を開けると、一口だけ食べる。でも、すんなり、喉と通らなかった。なんだか、胃のあたりが、重い感じがする。私は、すぐに手を止め、パンを片付けた。

「かなり、早いけど。もう、向かおうかな――」
 私は、サッと立ち上がった。 
 
 時間は、まだ、六時前だ。慰霊祭は、十時からだから、かなり時間がある。歩いて行っても、そうとう、早く着いてしまう。でも、部屋の中で、ジッとしていられる気分ではなかった。とにかく、今は、一人でいたくない……。

 もう一度、鏡で、服装をチェックしたあと、私はゆっくり、一階に向かって行った。この時間だと、まだ、みんな寝ていると思うので、音をたてずに、慎重に、階段を下りて行った。

 だが、一階にたどり着くと、すぐに声を掛けられた。

「今日は、珍しく、静かじゃないか。いつもなら、バタバタと駆け回ってるのに」
「ノーラさん、おはようございます、早いですね。流石にもう、階段を走ったりしませんよ。一応、上位階級なんですから」

 実際、上位階級になってからは、行動には、かなり気を遣っている。歩き方も、おしとやかにしてるので、階段を駆け下りたりはしない。まぁ、走りたくて、うずうずはしてるんだけど……。

「あまり、顔色がよくないな。朝食は、ちゃんと食べたのか?」 
「いやー、それが、あまり食欲なくて。パンを、一口だけ。でも、今日は式典で、ただ、座ってるだけですし。大丈夫ですよ」

「静まり返った式典中に、腹の音が鳴ったら、どうするんだ? それこそ、前代未聞だぞ。シルフィード史上初の、珍事を起こしたいのか?」
「んがっ――。確かに、それはマズイですね……」

 やっぱり、無理してでも、食べておいたほうが、よかったのだろうか?

「ったく、相変わらず、お前は、考えなしだな。それに、この時間から行っても、早く着きすぎるだろ?」 
「まぁ、ゆっくり歩いて行けば、それなりに時間が掛かるかなぁー、なんて」

「ちょうど、パンが焼けたところだから、食べていきな。あと、食後、エア・カートで、会場まで送ってやるよ」

「えっ?! いいんですか? 朝食だけなら、まだしも。送ってもらうのは、流石に、悪いですよ」 

 見習い時代に比べ、生活に、ゆとりはできたけど。それでも、たまに、ノーラさんに、食事をご馳走になっている。それ以外にも、色々と、お世話になりっぱなしだ。でも、これといって、お返しが出来てないんだよね――。

「遠慮なしのお前が、言うセリフじゃないだろ? それに、私も、昔はシルフィードだったから、毎年、参加してるんだよ。アリーシャとも、何かと縁があったからな」 

「あぁ……そういえば、そうですよね」
 
 アパートの大家さんのイメージが強すぎて、つい忘れちゃうけど。ノーラさんは、れっきとした『元シルフィード・クイーン』だ。当然、重要な式典には、呼ばれているはずだよね。

 それに、リリーシャさんと、仲がいいのだから。アリーシャさんとも、親しかったんだと思う。

「ぼさっと、突っ立ってないで。さっさと、中に入りな」 
「はい――。では、失礼します」

 私は、ノーラさんの背中を見つめながら、静かに、部屋に入って行くのだった……。


 ******


 時間は、八時を少し回ったころ。私は〈中央区〉にある〈シルフィード広場〉に来ていた。ここは、この町のシンボルである、高さ七十メートルの『シルフィード像』が立っている。

 この町には、物凄く、たくさんの広場があるけど、ここは最大級の広さだ。百万人が集まれる、非常に広大な敷地になっている。

『グリュンノア創成期』から、ここが町の中心地で、戦時中は、ここに兵を集結させたり、四魔女の演説が、行われていたらしい。今でも、町中の人たちが集まるイベントは、ここで行われている。

 駐機場にエア・カートを停めると、私とノーラさんは、綺麗に整えられた植え込みがある、遊歩道を歩きながら、中央広場に向かった。

 今日は、ノーラさんも、スーツを着込み、ビシッと正装している。いつも、ラフな格好が多いから、まるで別人のようだ。でも、流石は、元シルフィード・クイーン。正装すると、貫禄が凄い。

 かなりの距離を歩いて、関係者用の入口に着くと、警備員にIDを提示して、中央広場に入って行く。今日は、VIPもたくさん参加するので、大勢の警備員が立っていた。金属探知ゲートや、魔力関知ゲートも、複数設置されている。

 なお、一般の人たちの入場は、八時半になってからだ。来る時に、上空から見たが、一般の入り口前には、すでに、大群衆ができていた。

 入り口をくぐると、広大な広場の中央にある『シルフィード像』に向かう。像の前には、特設ステージが設置されていた。大きなステージ上には、講壇があり、その後ろには、椅子が並べられている。

 また、その周囲には、白い花が、たくさん飾られていた。様々な花が置いてあるが、中でも多いのが、デイジーの花。これは、生前、アリーシャさんが、大好きだった花だからだ。

 デイジーには『希望』や『平和』という、花言葉がある。世界中の人たちの希望だった、アリーシャさんに、ピッタリの花だと思う。

 ステージに近付くと、すでに、ナギサちゃんと、リリーシャさん。あと『白金の薔薇プラチナローズ』も来ていた。私は、全員に、静かに頭を下げ、挨拶をする。

 いつもなら、笑顔で明るく挨拶をして、そのあと、談笑するところだ。しかし、今日は、一様に静かだった。広場内には、重々しい空気が漂っている。

 時間が経つにつれ、関係者たちが、続々と集まって来た。フィニーちゃんとメイリオさん。ツバサさんやミラージュさん。上位階級が、全員、勢ぞろいし、さらには、協会の理事たちも、皆集まって来た。

 また、大手シルフィード企業の社長や、関連会社の重役たち。さらに、政財界の重鎮である、偉い人たち。その中には、先日、会った、ユメちゃんのご両親の姿もあった。ユメちゃんも一緒に来ており、私に小さく手を振ってくれた。

 あとは、政府高官や大臣たち。この町のトップである『評議会議長』も、周囲をSPに囲まれ、やってきた。

 ステージの後ろには、ちょっとした、ケータリングの料理や、飲み物が用意されている。しかし、誰も手を付けず、神妙な表情で、静かに挨拶をしていた。

 ただ一人、フィニーちゃんだけは、ちらちらと、料理に視線を向けている。だが、隣にいた、メイリオさんに注意されたのか、じっと我慢している様子だ。フィニーちゃんだけは、相変わらず、マイペースだよねぇ……。

 しばらくすると、係員に誘導されながら、続々と、一般参列者たちが入って来る。全員、白い花束を、大事そうに抱えていた。

 皆、ステージの少し前にある、献花台に行くと、そっと花束を置き、手を組んでお祈りしている。中には、お菓子などを、置いていく人もいた。花を置き終えると、ステージ前に、順に整列して行く。

 開始、十分前になると、係の人に案内され、私たち関係者は、全員、ステージに上がった。それぞれ、指定の椅子に腰かけ、開会を待つ。

 私は、一番、後ろの席で、リリーシャさんや、ノーラさんは、最前列だ。前のほうに、ユメちゃんの後姿も見える。

 やがて、十時になると同時に、町中の時計塔の鐘が鳴り始めた。これは、黙祷の鐘で、三分間、鳴り続ける。私たちは、一斉に立ち上がると、目を閉じ、手を組んで、お祈りを始めた。

 黙祷が終わると、再び着席し、今度は、関係者の挨拶と、追悼の言葉が始まる。まず最初は、この町のトップである『評議会議長』から。続いて、他の国から来た、首相や大臣たち。

 そのあとは、経済界の重鎮たちだ。ニュースでも、よく見かける、早々たる面々が揃っている。ユメちゃんのお父さんも、登壇していた。あと、シルフィード協会の代表として『白金の薔薇』が、スピーチする。

 場内には、大群衆が集まっているのに、声一つ聴こえずに、静まり返っていた。全員、それぞれの言葉に、真剣に耳を傾けている。

『白金の薔薇』の話が終わると、偉い人たちのあいさつは、終了。いよいよ、このあと、本日のスペシャル・ゲストの登場だ。

 前列に座っていた、リリーシャさんと、ユメちゃんが、そっと立ち上がる。二人そろって、ステージの正面に向かった。講壇の前に立つと、静かにお辞儀をする。

 リリーシャさんが、壇上で話すのは、今回が初めてだ。今までは、ずっと断っていたらしい。でも、あの事故で、一番、悲しんだのは彼女なのだから、やむを得ないと思う。

 ただ、今年は、あることをきっかけに、登壇を決意した。それは、ユメちゃんが、ステージに立つことを、決めたからだ。人見知りのユメちゃんが、これほどの大群集の前に立つのは、大変な勇気が必要だったのは、言うまでもない。

 しかし『前に進むためと、アリーシャさんへのお礼だから』と、ユメちゃんは言っていた。その彼女の決意を見て、リリーシャさんも『心の区切りを付けるために』と、今回、参加を決めたのだ。

 二人の事情を、よく知っている私は、とても複雑な気持ちだった。二人とも、とても大きな苦しみと、深い心の傷を負っている。だから、二人が立ち上がった瞬間、私も、物凄く緊張して、心臓が、ギュッと締め付けられた。

「――私は、ユーメリア・アッシュフィールドです。四年前の今日。〈西地区〉の〈ウインド・ストリート〉を歩いている時、事故に巻き込まれました。あの事故の、唯一の生存者です」 

 彼女の言葉の直後、会場内がざわざわとする。生存者が一名いた話は、皆知っているが、名前は、公表されていなかったからだ。

 ユメちゃんが、未成年だったのもあるけど。場合によっては、彼女に批判が集まる可能性があるからだ。彼女を救うために、アリーシャさんは、命を落としたのだから。ファンたちからの、怒りや憎しみの対象に、なりかねない。

 そう考えると、今回、ユメちゃんが壇上に立つのは、並大抵の勇気ではなかった。今後、直接的、間接的な、攻撃対象になるリスクが高すぎる。当然、両親からは止められたが、頑として、ユメちゃんは、決意を崩さなかった。

「私のこの命、この人生は『白き翼』に与えて貰った、とても貴重で、尊いものです。彼女の勇敢で慈愛に満ちた行為に、心より感謝し、ご冥福をお祈りいたします」

「私は今、彼女の遺志をつぐため、学校に通い、シルフィードになるべく、日々邁進しています。いつか必ず、彼女に並ぶ、最高のシルフィードになりたいと思います」

「この命は、私一人のものでは有りません。命懸けで助けてくださった『白き翼』と、不幸にも、事故で命を落とされた方々」

「その全員の想いを抱え、強く生きて行こうと思います。また、世界中の人が、平和で幸せに生きられるよう、生涯を懸けて、努力を続けるつもりです」

 かなり緊張した様子だったが、とても立派なスピーチだった。頭を下げ、挨拶すると、今度は、リリーシャさんが、話し始めた。

「私は〈ホワイト・ウイング〉所属の、リリーシャ・シーリングと申します。四年前の今日。私が、世界で最も尊敬する女性であり、最愛の母を、突然に、失ってしまいました……」

「あまりの深い悲しみに、一時は、生きる気力すらなくし、一年近く休業して、引退も考えていました」

「しかし、周りの方々の、温かい支えのお蔭で、無事に復帰し、クイーンの大役も与えていただきました。たくさんの支えて下さった方々、応援してくださった方々には、感謝の言葉もありません」

「また、この事故で、愛すべき、ご家族を失った方々には、心よりお悔やみを申し上げます」

 聴衆の中には、涙を流して聴いている人たちもいた。他の関係者と違い、事件に巻き込まれた、遺族の一人だからこそ、彼女の言葉は、とても重く響いてくる。冷静に話してはいるが、その言葉からは、大きな悲しみが伝わって来た。 

 ツバサさんが言った通り、まだ、完全に、吹っ切れた訳ではないのだ。今もまだ、心の中では、日々苦しんでいるのだと思う――。

「例え、何年、経っても、この悲しみは、消えないと思います。しかし、私たちは、前を向いて、進んで行かなければなりません。悲しい過ちを、二度と起こさないように。大きな悲しみを、強い希望に変えて……」

「私は、これからも、彼女たちと共に、前に進んで行こうと思います。母が望んでいた『世界中の人を笑顔にする』という、大きな夢を叶えるために」

 リリーシャさんは、そっと横を向くと、ユメちゃんも、静かに頷いた。

 二人で同時に、
「亡くなられた方々に、永遠の風の祝福と、シルフィードのご加護を」
 言いながら、胸の前で手を組み、お祈りする。

 それと同時に、場内いた人たち全員が、目を閉じ、祈りをささげた。私も立ち上がり、心を込めて、ご冥福をお祈りする。

 しばらくすると、再び、町中の時計塔の鐘が、一斉に鳴り始めた。それと同時に、大量の風船が、空に飛ばされる。その風船には、小さな紙が付いていた。これは、たくさんの人たちの手による、天国にいる人への、想いを書いた手紙だ。

 皆、空に舞い上がって行く風船に、そっと視線を向け、静かに見守る。私も、その光景をみながら、願わずには、いられなかった。

 亡くなられた方々が、天国で、幸せに暮らせますように。遺族の方々が、笑顔で前に進めますように。リリーシャさんと、ユメちゃんの未来が、明るく幸せでありますように――。 
 
 そして、世界中の人たちが、笑顔で幸せに暮らせますように。そのために、私は、これからも、前に進み続けて行こう。

 この地位と称号は、自分のためではなく、みんなの幸せのために使いたいから。偉大なシルフィードの、アリーシャさんが、そうだったように……。


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次回――
『僕の一番の願いは彼女が笑顔になることだけだ』

 生きている限り願いは生まれ続けるから。諦めてしまわないで
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