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第8部 分かたれる道
1-2血統と伝統は何があっても守るべきものだ
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私は〈新南区〉にある、会員制の高級バー〈プレリュード〉に来ていた。天井には、大きなシャンデリアが付いており、周囲の壁には、絵画やオブジェが、たくさん飾られている。床には、複雑な模様のじゅうたんが、敷き詰められていた。
我々は、この広々した部屋を、丸ごと貸し切りで使っている。目の前のポーカー・テーブルには、カードとチップが置かれていた。サイドテーブルには、各種料理や、高級酒のボトルが、所せましと並んでいる。
先ほどから、五人でポーカーをやりながら、様々な話をしていた。皆、高価なスーツや、宝飾品を身につけた、身なりの整った者たちだ。話し方や立ち振る舞いも、上品で洗練されており、上流階級の風格が漂っている。
ここに集まっているのは、シルフィード協会の理事、五名だ。理事会があった日は、よくこのメンバーで、飲みに来ている。
彼らは、理事が本業ではなく、会社の経営などの、各種事業を行っていた。いずれも、政財界で名の通った、権力者ぞろいだ。
理事たちは、それぞれが、独立した発言権を持っていた。そのため、議決の際は、各理事が一票ずつ投じ、公平な判断や決定が下される。しかし、理事会の中にも、派閥が存在していた。
一つは『議長派』だ。現議長は、かなり、柔軟な考えの持ち主で、あまり、伝統にはこだわらず、様々な改革を、推し進めようとしていた。そのため、革新的な考えを持つ者たちが、議長を支持している。
近年の客層の変化により、革新派が、力を増していた。最近の客は、常に、斬新さや刺激を求めているからだ。風情も伝統も、あったものではないが、ある意味、時代の流れと言える。
もう一つの派閥が、我々『ゴドウィン派』だ。このメンバーは皆、財閥や富豪、大企業の経営者などの、由緒正しき血統を持つ、名門の出身者たちだ。そのため、上流階級の紳士として、古くからの伝統を重んじている。
我々は、何らかの案件の議決の際には、必ず歩調を合わせていた。つまり、五票は確実に、片方に入る訳だ。どんな時でも、五人の意見は、常に一致している。『伝統を重んじる』これが最優先事項だ。
しかし、現議長は、庶民の出のせいか、あまりにも、伝統を軽んじている。ただ、彼自身は、問題ではない。なぜなら、大した、発言力がないからだ。だが、議長派の一人が、実に厄介だった。
彼女は、ローゼリカ・ムーンライト。『白金の薔薇』の二つ名で知られる、元シルフィード・クイーンだ。現役を退いたあとも、彼女の発言力は、絶大だった。単に地位だけではなく、圧倒的な気品や存在感があり、誰も彼女には逆らえない。
我々は、伝統や礼節を重んじている。そのため、彼女が、偉大な元クイーンであることには、敬意を表していた。だが、最近の彼女の発言には、いささか、疑問を禁じ得ない。
「やれやれ、今日は、ゴドウィン卿の一人勝ちですか」
「その割には、ご機嫌が、斜めなご様子ですな?」
ヴィンセントとローレンスが、声を掛けて来る。
ちょうど、一勝負、終わったところだ。色々考え事をしていたが、今日は、カード回りが、とてもよい。だが、昼間の会議で、非常に不快なことがあったので、とても喜べる気分ではなかった。思い出すだけで、怒りがこみ上げて来る。
「フンッ、気分がよい訳がなかろう。諸卿らは、なんとも思わないのか? 今日の理事会の、非常識、極まりない決定を」
「確かに、異例中の異例ですね。しかし、決まってしまったものは、しかたありませんよ。あとは、なるように、なるでしょう」
グレゴリーは、ワイングラスを揺らしながら、楽しそうに答える。
「あの議長は、常に、改革を目指していますからね。今回も、新しい風を入れようと、考えられた結果でしょう」
ヨハンは、温和な表情で語った。
「何が、新しい風か? 多少の改革には、目をつぶって来たが。今回のは、いくらなんでも、度が過ぎているだろう? よりによって、どこの馬の骨とも知れない、異世界人だぞ。伝統あるシルフィードを、汚す行為だ!」
私は、ウイスキーのグラスを手に取ると、一気に飲み干した。
「ゴドウィン卿は、異世界人の、排斥思想でしたかな?」
ローレンスが、静かに尋ねて来る。彼は、この中でも、一番の常識人だ。
「別に、排斥とまでは言わん。まぁ、余計な人間たちが、入り込んできたことは、気分がよくないがな。だが、シルフィードは、全く話が別だ。ずっと、伝統を守り続けて来た、由緒ある存在なのだぞ」
「しかも、上位階級は、我々、上流階級の選ばれた人間と、同じ立場になるということだ。あんな、気品の欠片もない、庶民の小娘がだぞ。そんなもの、容認できる訳があるまい。貴族の家系である卿なら、よく分かるだろう?」
上位階級への昇進とは、昔で言えば、貴族の称号を得るのと同じこと。つまり、それ相応の人物にこそ、与えられるべきものだ。
貴族制度は、ずいぶん昔に廃止されているため、庶民出身なのは、目をつぶるとしよう。しかし、異世界人の上に、大した実績もなく、気品もない。また、何のとりえもない、至って平凡な人間だ。
加えて、過去には査問会に呼ばれており、理事に対しても反抗的な、問題児。そんな、非常識かつ、下賤な者に、相応しい訳がない。
あと、理事の立場上、あえて公言はしないが。正直、異世界人は、汚らわしく感じている。あんな、魔法技術すらない、未開で低レベルな世界の人間など。できれば、一生、関わり合いたくないものだ。
「お気持ちは、お察しいたします。確かに、素性の知れぬ者には、過分な待遇ですな。しかし、理事会で決まったことなので、容認するしかありますまい」
「それに『白金の薔薇』が、賛成に回っては、手の打ちようがありません。浮動票は全て、彼女のほうに、流れてしまいますから」
ローレンスの言葉に、ヴィンセントも、納得した表情で答える。
「事実上『白金の薔薇』が、決定権を握っているようなものですからね。議長殿とも、足並みがそろっていますし。中立の理事も、結局は、彼女の意見に乗る訳ですから。本来、彼女も、こちら側の人間なのに、困ったものですよ」
グレゴリーは、両手を広げ、やれやれといった表情を浮かべた。
彼女の名が出るたびに、イラッとする。本当に、目の上のたんこぶだ。けっして、自分の意見は曲げない上に、金銭や利権でも、一切なびかない。何度も、我が派閥に誘おうとしたが、どれも不発だった。
彼女は、業界一、伝統を重んじる〈ファースト・クラス〉の出身だ。加えて、歴代のクイーンの中で、最も伝統を重んじていた『伝統の象徴』とも言える、貴重な存在だった。だから、本来は、我々と同じ、保守派のはずなのだ。
しかし、理事になってからは、かなり、革新的な発言が多い。あの考えの浅い議長と組んでいるのが、問題なのではなかろうか? もっとも、他人に染まるような性格では、ないと思うが……。
「あの御仁が、白と言えば、白なのです。彼女は、名実ともに、力がありますからな。私のような、元貴族よりも、元クイーンのほうが、地位も上ですし」
「それも、ありますが。おそらくは、時代なのでしょう。もはや、一般人は、シルフィードに、伝統や格式を、求めてはおりません。ただの、娯楽に、なってしまったのでしょう」
ローレンスの言葉に、ヨハンは静かに答えた。
「まったく、庶民どもは、何も分かっておらんのだ。かつてのシルフィードは、もっと高貴で、神格化された存在であったのに。どんどん、堕落して行く一方だ。まして、異世界人など入れたら、もう、伝統も何も、あったものではないだろう」
「そもそも、査問会に呼び出されたような、人格破綻者が昇進など、あり得ん話だ。常識もない、気品の欠片もない。しかも、学校にすら行っていない、異世界人がだぞ――」
査問会の時の、如月風歌の顔を思い出したら、再び、イライラが大きくなってきた。あの尊大で、全く悪びれたところのない態度。そもそも、シルフィードをやっていること自体が、間違っているのだ。
私は、ウイスキーのボトルを開くと、ドボドボとグラスに注ぐ。
「まぁ、今の時代は、話題性が重要ですからね。一般人は皆、刺激を求めているんです。異世界人の彼女は、客寄せパンダととしては、最高の素材じゃありませんか? 皆、珍しいものが、大好きですから」
グレゴリーは、ワイングラスを片手に、楽しそうに語る。
「それも、そうですね。一人ぐらい、ああいった、変わり者がいても、いいでしょう。要は、客が増えれば、いいだけですから」
「ふむ。あまり、拝金主義には、なりたくありませんが。シルフィード業界も、結局はビジネス。そう、割り切るしか、ないでしょうな」
ヨハンとローレンスも、概ね納得している様子だ。
私とて、ビジネスであることは、重々承知している。それに、時代と一般大衆の心理の変化も。今は、崇高な理想や目的をもって、生きている者は少ない。だから、伝統が徐々に失われていくのは、ある程度、仕方がないことだ。
だが、あの小娘だけは、どうしても、許容できなかった。とても、上位階級にふさわしい人物とは、思えない。
そもそも、私は〈ホワイト・ウイング〉が、大嫌いだった。アリーシャ・シーリングは、どうにも、虫が好かなかったからだ。あの小娘を見ると、彼女のことを、思い出してしまう。
「フンッ、だが、まだ決まった訳ではない。面接でボロを出したら、徹底的に糾弾して、叩き潰すだけだ」
再び、コップの中の酒を、一気に飲み干した。
「とはいえ、我らが反対したところで、全部で五票。残り全員が賛成すれば、是非もないでしょう」
ローレンスは、ヒゲをいじりながら、静かに答える。
「結局『白金の薔薇』が、考えを変えない限り、他の票も全て、そちらに回ってしまいますよ」
「議長派は、四名とはいえ、他の理事は『白金の薔薇』を、尊重していますからね。つまり、実質は十名。十対五では、分が悪すぎます」
グレゴリーの言葉に、ヴィンセントも迎合した。
悔しいが、まさにその通りだ。『議長派』とは言うものの、他の理事は全て『白金の薔薇』の意見を支持する。つまり、実際には、彼女の派閥なのだ。
しかも、困ったことに、彼女は、無駄に公正な人間だ。人種や家柄での、差別の類は、一切、行わない。なので、いくら、異世界人であることを叩いたところで、意味がないだろう。
本来なら、彼女こそが、異物を排除する立場であるというのに。彼女も、現役を退いてから、伝統や理想を守ることを、忘れてしまったのだろうか?
「なるようにしか、なりませんよ。でも、小娘一人で、この業界は変わりませんし。それより、今夜は、思う存分、楽しみましょう。さ、ゴドウィン卿も、もう一勝負」
グレゴリーは言いながら、手際よくカードを配って行く。
まぁ、今は、せいぜい、浮かれているがいいだろう。だが、伝統を汚す異分子は、何人たりとも認めない。折を見て、排除するだけだ。できれば、あの厄介な女も、一緒にな……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『持つべきものは親友だってつくづく思う』
友情の重要な任務は、友人の幻想を力添えしてやることにある
我々は、この広々した部屋を、丸ごと貸し切りで使っている。目の前のポーカー・テーブルには、カードとチップが置かれていた。サイドテーブルには、各種料理や、高級酒のボトルが、所せましと並んでいる。
先ほどから、五人でポーカーをやりながら、様々な話をしていた。皆、高価なスーツや、宝飾品を身につけた、身なりの整った者たちだ。話し方や立ち振る舞いも、上品で洗練されており、上流階級の風格が漂っている。
ここに集まっているのは、シルフィード協会の理事、五名だ。理事会があった日は、よくこのメンバーで、飲みに来ている。
彼らは、理事が本業ではなく、会社の経営などの、各種事業を行っていた。いずれも、政財界で名の通った、権力者ぞろいだ。
理事たちは、それぞれが、独立した発言権を持っていた。そのため、議決の際は、各理事が一票ずつ投じ、公平な判断や決定が下される。しかし、理事会の中にも、派閥が存在していた。
一つは『議長派』だ。現議長は、かなり、柔軟な考えの持ち主で、あまり、伝統にはこだわらず、様々な改革を、推し進めようとしていた。そのため、革新的な考えを持つ者たちが、議長を支持している。
近年の客層の変化により、革新派が、力を増していた。最近の客は、常に、斬新さや刺激を求めているからだ。風情も伝統も、あったものではないが、ある意味、時代の流れと言える。
もう一つの派閥が、我々『ゴドウィン派』だ。このメンバーは皆、財閥や富豪、大企業の経営者などの、由緒正しき血統を持つ、名門の出身者たちだ。そのため、上流階級の紳士として、古くからの伝統を重んじている。
我々は、何らかの案件の議決の際には、必ず歩調を合わせていた。つまり、五票は確実に、片方に入る訳だ。どんな時でも、五人の意見は、常に一致している。『伝統を重んじる』これが最優先事項だ。
しかし、現議長は、庶民の出のせいか、あまりにも、伝統を軽んじている。ただ、彼自身は、問題ではない。なぜなら、大した、発言力がないからだ。だが、議長派の一人が、実に厄介だった。
彼女は、ローゼリカ・ムーンライト。『白金の薔薇』の二つ名で知られる、元シルフィード・クイーンだ。現役を退いたあとも、彼女の発言力は、絶大だった。単に地位だけではなく、圧倒的な気品や存在感があり、誰も彼女には逆らえない。
我々は、伝統や礼節を重んじている。そのため、彼女が、偉大な元クイーンであることには、敬意を表していた。だが、最近の彼女の発言には、いささか、疑問を禁じ得ない。
「やれやれ、今日は、ゴドウィン卿の一人勝ちですか」
「その割には、ご機嫌が、斜めなご様子ですな?」
ヴィンセントとローレンスが、声を掛けて来る。
ちょうど、一勝負、終わったところだ。色々考え事をしていたが、今日は、カード回りが、とてもよい。だが、昼間の会議で、非常に不快なことがあったので、とても喜べる気分ではなかった。思い出すだけで、怒りがこみ上げて来る。
「フンッ、気分がよい訳がなかろう。諸卿らは、なんとも思わないのか? 今日の理事会の、非常識、極まりない決定を」
「確かに、異例中の異例ですね。しかし、決まってしまったものは、しかたありませんよ。あとは、なるように、なるでしょう」
グレゴリーは、ワイングラスを揺らしながら、楽しそうに答える。
「あの議長は、常に、改革を目指していますからね。今回も、新しい風を入れようと、考えられた結果でしょう」
ヨハンは、温和な表情で語った。
「何が、新しい風か? 多少の改革には、目をつぶって来たが。今回のは、いくらなんでも、度が過ぎているだろう? よりによって、どこの馬の骨とも知れない、異世界人だぞ。伝統あるシルフィードを、汚す行為だ!」
私は、ウイスキーのグラスを手に取ると、一気に飲み干した。
「ゴドウィン卿は、異世界人の、排斥思想でしたかな?」
ローレンスが、静かに尋ねて来る。彼は、この中でも、一番の常識人だ。
「別に、排斥とまでは言わん。まぁ、余計な人間たちが、入り込んできたことは、気分がよくないがな。だが、シルフィードは、全く話が別だ。ずっと、伝統を守り続けて来た、由緒ある存在なのだぞ」
「しかも、上位階級は、我々、上流階級の選ばれた人間と、同じ立場になるということだ。あんな、気品の欠片もない、庶民の小娘がだぞ。そんなもの、容認できる訳があるまい。貴族の家系である卿なら、よく分かるだろう?」
上位階級への昇進とは、昔で言えば、貴族の称号を得るのと同じこと。つまり、それ相応の人物にこそ、与えられるべきものだ。
貴族制度は、ずいぶん昔に廃止されているため、庶民出身なのは、目をつぶるとしよう。しかし、異世界人の上に、大した実績もなく、気品もない。また、何のとりえもない、至って平凡な人間だ。
加えて、過去には査問会に呼ばれており、理事に対しても反抗的な、問題児。そんな、非常識かつ、下賤な者に、相応しい訳がない。
あと、理事の立場上、あえて公言はしないが。正直、異世界人は、汚らわしく感じている。あんな、魔法技術すらない、未開で低レベルな世界の人間など。できれば、一生、関わり合いたくないものだ。
「お気持ちは、お察しいたします。確かに、素性の知れぬ者には、過分な待遇ですな。しかし、理事会で決まったことなので、容認するしかありますまい」
「それに『白金の薔薇』が、賛成に回っては、手の打ちようがありません。浮動票は全て、彼女のほうに、流れてしまいますから」
ローレンスの言葉に、ヴィンセントも、納得した表情で答える。
「事実上『白金の薔薇』が、決定権を握っているようなものですからね。議長殿とも、足並みがそろっていますし。中立の理事も、結局は、彼女の意見に乗る訳ですから。本来、彼女も、こちら側の人間なのに、困ったものですよ」
グレゴリーは、両手を広げ、やれやれといった表情を浮かべた。
彼女の名が出るたびに、イラッとする。本当に、目の上のたんこぶだ。けっして、自分の意見は曲げない上に、金銭や利権でも、一切なびかない。何度も、我が派閥に誘おうとしたが、どれも不発だった。
彼女は、業界一、伝統を重んじる〈ファースト・クラス〉の出身だ。加えて、歴代のクイーンの中で、最も伝統を重んじていた『伝統の象徴』とも言える、貴重な存在だった。だから、本来は、我々と同じ、保守派のはずなのだ。
しかし、理事になってからは、かなり、革新的な発言が多い。あの考えの浅い議長と組んでいるのが、問題なのではなかろうか? もっとも、他人に染まるような性格では、ないと思うが……。
「あの御仁が、白と言えば、白なのです。彼女は、名実ともに、力がありますからな。私のような、元貴族よりも、元クイーンのほうが、地位も上ですし」
「それも、ありますが。おそらくは、時代なのでしょう。もはや、一般人は、シルフィードに、伝統や格式を、求めてはおりません。ただの、娯楽に、なってしまったのでしょう」
ローレンスの言葉に、ヨハンは静かに答えた。
「まったく、庶民どもは、何も分かっておらんのだ。かつてのシルフィードは、もっと高貴で、神格化された存在であったのに。どんどん、堕落して行く一方だ。まして、異世界人など入れたら、もう、伝統も何も、あったものではないだろう」
「そもそも、査問会に呼び出されたような、人格破綻者が昇進など、あり得ん話だ。常識もない、気品の欠片もない。しかも、学校にすら行っていない、異世界人がだぞ――」
査問会の時の、如月風歌の顔を思い出したら、再び、イライラが大きくなってきた。あの尊大で、全く悪びれたところのない態度。そもそも、シルフィードをやっていること自体が、間違っているのだ。
私は、ウイスキーのボトルを開くと、ドボドボとグラスに注ぐ。
「まぁ、今の時代は、話題性が重要ですからね。一般人は皆、刺激を求めているんです。異世界人の彼女は、客寄せパンダととしては、最高の素材じゃありませんか? 皆、珍しいものが、大好きですから」
グレゴリーは、ワイングラスを片手に、楽しそうに語る。
「それも、そうですね。一人ぐらい、ああいった、変わり者がいても、いいでしょう。要は、客が増えれば、いいだけですから」
「ふむ。あまり、拝金主義には、なりたくありませんが。シルフィード業界も、結局はビジネス。そう、割り切るしか、ないでしょうな」
ヨハンとローレンスも、概ね納得している様子だ。
私とて、ビジネスであることは、重々承知している。それに、時代と一般大衆の心理の変化も。今は、崇高な理想や目的をもって、生きている者は少ない。だから、伝統が徐々に失われていくのは、ある程度、仕方がないことだ。
だが、あの小娘だけは、どうしても、許容できなかった。とても、上位階級にふさわしい人物とは、思えない。
そもそも、私は〈ホワイト・ウイング〉が、大嫌いだった。アリーシャ・シーリングは、どうにも、虫が好かなかったからだ。あの小娘を見ると、彼女のことを、思い出してしまう。
「フンッ、だが、まだ決まった訳ではない。面接でボロを出したら、徹底的に糾弾して、叩き潰すだけだ」
再び、コップの中の酒を、一気に飲み干した。
「とはいえ、我らが反対したところで、全部で五票。残り全員が賛成すれば、是非もないでしょう」
ローレンスは、ヒゲをいじりながら、静かに答える。
「結局『白金の薔薇』が、考えを変えない限り、他の票も全て、そちらに回ってしまいますよ」
「議長派は、四名とはいえ、他の理事は『白金の薔薇』を、尊重していますからね。つまり、実質は十名。十対五では、分が悪すぎます」
グレゴリーの言葉に、ヴィンセントも迎合した。
悔しいが、まさにその通りだ。『議長派』とは言うものの、他の理事は全て『白金の薔薇』の意見を支持する。つまり、実際には、彼女の派閥なのだ。
しかも、困ったことに、彼女は、無駄に公正な人間だ。人種や家柄での、差別の類は、一切、行わない。なので、いくら、異世界人であることを叩いたところで、意味がないだろう。
本来なら、彼女こそが、異物を排除する立場であるというのに。彼女も、現役を退いてから、伝統や理想を守ることを、忘れてしまったのだろうか?
「なるようにしか、なりませんよ。でも、小娘一人で、この業界は変わりませんし。それより、今夜は、思う存分、楽しみましょう。さ、ゴドウィン卿も、もう一勝負」
グレゴリーは言いながら、手際よくカードを配って行く。
まぁ、今は、せいぜい、浮かれているがいいだろう。だが、伝統を汚す異分子は、何人たりとも認めない。折を見て、排除するだけだ。できれば、あの厄介な女も、一緒にな……。
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