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第4部 理想と現実
4-1防災用品は備えあれば憂いなしだよね
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私は今、会社の『物置部屋』にいた。部屋の清掃はふだんやっているので、今日は備品の、在庫チェックをするためだ。ちなみに、物置部屋は、一階と二階の二ヵ所ある。
一階は、主に消耗品や小物などを置く部屋。二階は、大きな物や、あまり使わない物。主に、装飾品関連が置かれている。イベントの時の装飾や、機体のオプションパーツとかだ。
今私がいるのは、一階の物置部屋。ここは、割とよく使う備品が多いため、マメに掃除や整理、補充を行っている。
今朝リリーシャさんから『防災用の備品の賞味期限が、そろそろ切れると思うから、確認してもらえるかしら』と言われたので、慎重にチェック中だった。備品管理は、全て私に任されているので、責任重大だ。
万が一、災害などがあった場合のために、保存食・水・救急セットなども、全て用意してある。これらの準備は、シルフィード協会の規定で決まっていた。場合によっては、一般人の避難場所になることも有るからだ。
私は積んであった保存食のダンボールを、一つずつチェックしていく。缶詰や缶のスープ。缶入りのパンやご飯もある。あとは、栄養食品のクッキーバーとか、粉ミルクもあった。結構、しっかり用意してあるよね。
「うん、ここら辺は全て大丈夫」
食品系は、まだ賞味期限に余裕があった。
それにしても、賞味期限が五年って、結構、長持ちするんだねぇ。しかも、割と美味しそう。私の普段の食事より、豪華なんじゃないだろうか……? 見ていたら、少しお腹が空いてきた。
いやいや、そんなこと考えてる場合じゃないよ。災害が起きた時、使えないと困るんだから、真面目にチェックしないと。
今度は、積んであった、水のペットボトルの箱のチェックだ。賞味期限を確認するために、ダンボール箱を、少し動かそうとする。でも、かさねてあるせいか、重くてさっぱり動かなかった。
これ、1ケースずつ、動かして確認したほうが早いかも――。
1ケースでも、かなり重いんだよね。積んであったケースを全て下ろして、一つずつチェックする。
箱の上面に書かれていた期限を確認するが、特に問題なさそうだ。しかし、最後の1ケースをチェックすると、あと三ヵ月ほどで、賞味期限が切れそうだった。
「何で、一つだけ短いの……?」
よく見ると、1ケースだけ、別のメーカーの水だった。他の水は、あとで買い足したのかもしれない。私は備品のチェックシートに書き込むと、事務所に向かう。
事務所では、書類仕事をしている、リリーシャさんの姿があった。次の予約まで、まだ少し時間があるからだ。
「防災用の備品チェックが終わりましたが、問題ありませんでした。ただ、水が1ケースだけ、賞味期限が三ヵ月ほどです。まだ、大丈夫ですか?」
私はチェック済みのリストを、リリーシャさんに見せた。
「水は最低でも半年以上は、賞味期限を見ておかないと。何かあった時に困るから、新しいのに交換したほうがいいわね」
「ですよね。なら、私が買いに行ってきます」
買い出しは、数少ない、私の活躍できる仕事だ。毎日、食事の買い出しもしてるので、すっかり得意になってしまった。食料品は、1ベル単位で相場を把握しているので、最安の店も知っている。
「でも、重いから、通販で大丈夫よ」
「いえ、大丈夫です。買いに行ったほうが、早いし安いですから。それに、1ケースなら、なんてことないですよ」
水のケースは、二十四本入っているので、十キロ以上の重さがある。でも、お客様を乗せれば、はるかに重いので、どうということはない。練習にもなるから、ちょうどいいよね。
「そうね――。じゃあ、お願いしようかしら」
リリーシャさんは、少し考えてから答えた。
リリーシャさんは、マギコンを操作し、私の前に空中モニターを表示する。私が確認ボタンを押すと、私のマギコンに、データが転送されて来た。
送られて来たのは、会社の『マナ・クレジット』のデータ。『マナ・クレジット』とは、向こうの世界の、クレジット・カードと同じ物だ。
ただ、この世界では、カード類も全てデータ化されていた。なので、カードの受け渡しも、データの送受信で行う。
マナ・クレジットは〈グリュンノア〉中の、全てお店で使うことが出来る。この町では『マナ・クレジット決済』の導入が、義務化されているからだ。これも、観光客誘致の、政策の一つなんだって。
なお、決済の時に、暗証番号は使わない。『魔力認証』を行い、カードの登録者との照合を行うシステムだ。
魔力は人によって全く違うので、他の人にカードを悪用される心配がない。このカードには、リリーシャさんと私の魔力登録がしてある。
小銭を持ち歩かなくて便利だし、出店などを含む、全店舗で使えるため、ほとんどの人はカード決済だ。
でも、私の場合は、現金を持ち歩かないと、どうにも落ち着かない。なので、プライベートの買い物は、全て現金で決済している。現金なら、使いすぎる心配もないからね。
「お預かりします。では、さっそく行ってきますね」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
私は元気に声を掛けると、軽快な足取りで外に向かい、エア・ドルフィンに乗り込んだ。
私、お使いって大好きなんだよね。リリーシャさんの役に立てるのもあるけど、何といっても、外に出て体を動かせるのが嬉しい。仕事もこなせて、自分も楽しめるから、一石二鳥だし。
エア・ドルフィンでゆっくり上昇すると、西のほうを目指し飛んでいった。
******
私がやって来たのは〈東地区〉の、西のはずれにあるホームセンター〈SLマート〉だ。目の前の通りを渡ると、そこはもう〈西地区〉だった。
ちなみに、小さい物 (スモール)から大きな物 (ラージ)まで、何でもそろってるから『SLマート』って名前をつけたんだって。以前、店内で流れているCMで、そう言ってた。
実際、ここのお店は、何でもそろっている。衣料品・薬・文房具・工具・雑貨・食料品・家庭用マナ機械など。全ての買い物が、ここだけで済んでしまう。
地下から二階までの、三フロアに分かれており、一つのフロアが広々として大きい。しかも、値段が物凄く安かった。なので、会社の備品は、ここに買いに来ることが多い。
会社の経費なので、そこまで気にしなくても、いいんだけど。どうせなら、安い方がいいよね。経費節減も、立派な会社への貢献なので。
店内に入ると、入口のすぐそばにあるフローターに乗り、地下の食料品フロアに降りて行った。値段が安いだけあって、昼間から結構、人が入っていた。スーパーと同じような生鮮品も売っており、そちらの区画に人が多い。
私は逆方向の『ドリンクコーナー』に向かう。長い通路を進んでいくと、段ボールが大量に積んである区画に到着する。色んなペットボトルや缶ジュースなど、とても種類が豊富だった。
単品は、保存庫のほうで冷やして売っており、ここでは、常温のドリンクが、ケース売りされている。私はミネラルウォーターを、一つずつチェックし、あるケースの前で立ち止まった。
「これで、いいかな。安いし、会社にも置いてあったから」
私が選んだのは『マナクリア』という商品。軟水で、サッパリした口当たりが特徴だ。ケースには、500mlのペットボトルが、二十四本入っている。
私は腕に力を入れケースを持ち上げると、レジに向かう。1ケースだから平気だと思って、カートを持って来なかったけど、結構、重い……。レジまで持って行き、台に置くと、清算画面が空中に表示された。
この世界のスーパーは、基本、レジは無人になっている。台に商品を置くだけで、自動的に感知し、一瞬で金額が表示される優れものだ。あとは、レジに付属の精算機に、お金を入れるか、マナ・クレジットで支払いができる。
私はリリーシャさんから預かった、マナ・クレジットのデータを呼び出した。自動的にリンクすると、清算画面に『魔力認証をしてください』と、表示が出てくる。私はレジの台に置いてある、魔力認証機に手を置いた。
一瞬、青く光ったあと『清算を完了しました。ご利用ありがとうございました』と、空中モニターに表示される。これで、清算は完了だ。手際よくやれば、二、三十秒で終わる。
いやー、楽ちん楽ちん。商品の合計金額も一発で出るし。清算も、マナ・クレジットを使えば、一瞬で終わる。余程お客さんが多くなければ、並ぶこともないので、実に快適だ。
ちなみに、各商品には『マナロック・タグ』が付いている。これは、各商品の金額や賞味期限などの、データが登録されている『魔力タグ』だ。レジで精算が済むと、自動的に解除されるようになっている。
もし、ロックが付いたまま『魔力関知ゲート』を通ると、ブザーが鳴る仕組みになっていた。商品の会計も、防犯セキュリティーも、全て魔法で管理されていて、凄くスマートだよね。
私は精算機から出てきたレシートを、ペットボトルのケースに張り付けた。このレシートは『マジックシール』になっているので、簡単に張り付けと取り外しができる。
「よいせっと」
私は再びケースを抱えると、フロ―タ―に乗って一階に戻った。いつもなら、ちょっと見物するんだけど、そのまま外に出て、駐車場に向かう。
思ったよりも重くて、腕がちょっと痛い。足は鍛えているけど、腕は特に鍛えてないんだよね。最近、腕立てとかも全然やってないし。普段、あまり重いものを、持つ機会もないので――。
少しよたよたしながら歩いていると、右足が何かに引っ掛かった。箱で足元がよく見えなかったのだ。
しまった!!
私は前のめりに倒れ込むが、次の瞬間、後ろから誰かに、箱ごと抱きかかえられた。私はすんでのところで、転倒を免れる。
体勢を立て直すと、すぐに振り向いて、相手を確かめた。それは、かなり長身の女性だった。しかも、全身黒づくめの、かなり変わった格好だ。胸には、白い花の飾を付けている。
髪も目も服も、全てが真っ黒。しかも、本人の気配が、物凄く薄い気がする。表情が、まるで凍り付いているような感じがした。それほどまでに、無表情だったのだ。フィニーちゃんの、生気のある無表情とは、全く違う。
彼女は無言のまま、ひょいっと、私の持っていたケースを持ち上げた。全く重そうな様子もなく、無表情のまま持っている。
「どこまで……?」
彼女は、体の大きさに似合わぬ、小さな声で尋ねて来た。
「あ、ええと――あそこの、エア・ドルフィンまでです」
あまりに不思議な雰囲気に、私は一瞬、固まっていた。
彼女はそのまま、軽々とケースを持ちながら、私の機体まで進んで行った。機体の前に立ち止まると、無言で視線を向けてきた。
「はい、それです」
彼女は、静かにうなずくと、そっと機体にケースをのせる。すると、何も言わずに立ち去っていった。
「あの、助けていただいて、ありがとうございました」
私が彼女の背に向かって頭を下げると、
「気を付けて」
小さな声が返って来た。
凄く不思議な人だった。何だろう、この微妙な違和感? とても穏やかだけど、どことなく、悲しそうな感じがした。
あの、黒い制服って、シルフィードのだよね? 腕章が付いていたし。でも、白が基本のシルフィードに、黒い制服の会社なんて、あるんだろうか?
何だか気になって、私は彼女の姿が見えなくなるまで、じっと見つめていたのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『闇色の瞳をしたシルフィードはとても愛の深い人だった』
愛と憎しみ、光と闇。 矛盾した二つの側面を併せ持つ存在
一階は、主に消耗品や小物などを置く部屋。二階は、大きな物や、あまり使わない物。主に、装飾品関連が置かれている。イベントの時の装飾や、機体のオプションパーツとかだ。
今私がいるのは、一階の物置部屋。ここは、割とよく使う備品が多いため、マメに掃除や整理、補充を行っている。
今朝リリーシャさんから『防災用の備品の賞味期限が、そろそろ切れると思うから、確認してもらえるかしら』と言われたので、慎重にチェック中だった。備品管理は、全て私に任されているので、責任重大だ。
万が一、災害などがあった場合のために、保存食・水・救急セットなども、全て用意してある。これらの準備は、シルフィード協会の規定で決まっていた。場合によっては、一般人の避難場所になることも有るからだ。
私は積んであった保存食のダンボールを、一つずつチェックしていく。缶詰や缶のスープ。缶入りのパンやご飯もある。あとは、栄養食品のクッキーバーとか、粉ミルクもあった。結構、しっかり用意してあるよね。
「うん、ここら辺は全て大丈夫」
食品系は、まだ賞味期限に余裕があった。
それにしても、賞味期限が五年って、結構、長持ちするんだねぇ。しかも、割と美味しそう。私の普段の食事より、豪華なんじゃないだろうか……? 見ていたら、少しお腹が空いてきた。
いやいや、そんなこと考えてる場合じゃないよ。災害が起きた時、使えないと困るんだから、真面目にチェックしないと。
今度は、積んであった、水のペットボトルの箱のチェックだ。賞味期限を確認するために、ダンボール箱を、少し動かそうとする。でも、かさねてあるせいか、重くてさっぱり動かなかった。
これ、1ケースずつ、動かして確認したほうが早いかも――。
1ケースでも、かなり重いんだよね。積んであったケースを全て下ろして、一つずつチェックする。
箱の上面に書かれていた期限を確認するが、特に問題なさそうだ。しかし、最後の1ケースをチェックすると、あと三ヵ月ほどで、賞味期限が切れそうだった。
「何で、一つだけ短いの……?」
よく見ると、1ケースだけ、別のメーカーの水だった。他の水は、あとで買い足したのかもしれない。私は備品のチェックシートに書き込むと、事務所に向かう。
事務所では、書類仕事をしている、リリーシャさんの姿があった。次の予約まで、まだ少し時間があるからだ。
「防災用の備品チェックが終わりましたが、問題ありませんでした。ただ、水が1ケースだけ、賞味期限が三ヵ月ほどです。まだ、大丈夫ですか?」
私はチェック済みのリストを、リリーシャさんに見せた。
「水は最低でも半年以上は、賞味期限を見ておかないと。何かあった時に困るから、新しいのに交換したほうがいいわね」
「ですよね。なら、私が買いに行ってきます」
買い出しは、数少ない、私の活躍できる仕事だ。毎日、食事の買い出しもしてるので、すっかり得意になってしまった。食料品は、1ベル単位で相場を把握しているので、最安の店も知っている。
「でも、重いから、通販で大丈夫よ」
「いえ、大丈夫です。買いに行ったほうが、早いし安いですから。それに、1ケースなら、なんてことないですよ」
水のケースは、二十四本入っているので、十キロ以上の重さがある。でも、お客様を乗せれば、はるかに重いので、どうということはない。練習にもなるから、ちょうどいいよね。
「そうね――。じゃあ、お願いしようかしら」
リリーシャさんは、少し考えてから答えた。
リリーシャさんは、マギコンを操作し、私の前に空中モニターを表示する。私が確認ボタンを押すと、私のマギコンに、データが転送されて来た。
送られて来たのは、会社の『マナ・クレジット』のデータ。『マナ・クレジット』とは、向こうの世界の、クレジット・カードと同じ物だ。
ただ、この世界では、カード類も全てデータ化されていた。なので、カードの受け渡しも、データの送受信で行う。
マナ・クレジットは〈グリュンノア〉中の、全てお店で使うことが出来る。この町では『マナ・クレジット決済』の導入が、義務化されているからだ。これも、観光客誘致の、政策の一つなんだって。
なお、決済の時に、暗証番号は使わない。『魔力認証』を行い、カードの登録者との照合を行うシステムだ。
魔力は人によって全く違うので、他の人にカードを悪用される心配がない。このカードには、リリーシャさんと私の魔力登録がしてある。
小銭を持ち歩かなくて便利だし、出店などを含む、全店舗で使えるため、ほとんどの人はカード決済だ。
でも、私の場合は、現金を持ち歩かないと、どうにも落ち着かない。なので、プライベートの買い物は、全て現金で決済している。現金なら、使いすぎる心配もないからね。
「お預かりします。では、さっそく行ってきますね」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
私は元気に声を掛けると、軽快な足取りで外に向かい、エア・ドルフィンに乗り込んだ。
私、お使いって大好きなんだよね。リリーシャさんの役に立てるのもあるけど、何といっても、外に出て体を動かせるのが嬉しい。仕事もこなせて、自分も楽しめるから、一石二鳥だし。
エア・ドルフィンでゆっくり上昇すると、西のほうを目指し飛んでいった。
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私がやって来たのは〈東地区〉の、西のはずれにあるホームセンター〈SLマート〉だ。目の前の通りを渡ると、そこはもう〈西地区〉だった。
ちなみに、小さい物 (スモール)から大きな物 (ラージ)まで、何でもそろってるから『SLマート』って名前をつけたんだって。以前、店内で流れているCMで、そう言ってた。
実際、ここのお店は、何でもそろっている。衣料品・薬・文房具・工具・雑貨・食料品・家庭用マナ機械など。全ての買い物が、ここだけで済んでしまう。
地下から二階までの、三フロアに分かれており、一つのフロアが広々として大きい。しかも、値段が物凄く安かった。なので、会社の備品は、ここに買いに来ることが多い。
会社の経費なので、そこまで気にしなくても、いいんだけど。どうせなら、安い方がいいよね。経費節減も、立派な会社への貢献なので。
店内に入ると、入口のすぐそばにあるフローターに乗り、地下の食料品フロアに降りて行った。値段が安いだけあって、昼間から結構、人が入っていた。スーパーと同じような生鮮品も売っており、そちらの区画に人が多い。
私は逆方向の『ドリンクコーナー』に向かう。長い通路を進んでいくと、段ボールが大量に積んである区画に到着する。色んなペットボトルや缶ジュースなど、とても種類が豊富だった。
単品は、保存庫のほうで冷やして売っており、ここでは、常温のドリンクが、ケース売りされている。私はミネラルウォーターを、一つずつチェックし、あるケースの前で立ち止まった。
「これで、いいかな。安いし、会社にも置いてあったから」
私が選んだのは『マナクリア』という商品。軟水で、サッパリした口当たりが特徴だ。ケースには、500mlのペットボトルが、二十四本入っている。
私は腕に力を入れケースを持ち上げると、レジに向かう。1ケースだから平気だと思って、カートを持って来なかったけど、結構、重い……。レジまで持って行き、台に置くと、清算画面が空中に表示された。
この世界のスーパーは、基本、レジは無人になっている。台に商品を置くだけで、自動的に感知し、一瞬で金額が表示される優れものだ。あとは、レジに付属の精算機に、お金を入れるか、マナ・クレジットで支払いができる。
私はリリーシャさんから預かった、マナ・クレジットのデータを呼び出した。自動的にリンクすると、清算画面に『魔力認証をしてください』と、表示が出てくる。私はレジの台に置いてある、魔力認証機に手を置いた。
一瞬、青く光ったあと『清算を完了しました。ご利用ありがとうございました』と、空中モニターに表示される。これで、清算は完了だ。手際よくやれば、二、三十秒で終わる。
いやー、楽ちん楽ちん。商品の合計金額も一発で出るし。清算も、マナ・クレジットを使えば、一瞬で終わる。余程お客さんが多くなければ、並ぶこともないので、実に快適だ。
ちなみに、各商品には『マナロック・タグ』が付いている。これは、各商品の金額や賞味期限などの、データが登録されている『魔力タグ』だ。レジで精算が済むと、自動的に解除されるようになっている。
もし、ロックが付いたまま『魔力関知ゲート』を通ると、ブザーが鳴る仕組みになっていた。商品の会計も、防犯セキュリティーも、全て魔法で管理されていて、凄くスマートだよね。
私は精算機から出てきたレシートを、ペットボトルのケースに張り付けた。このレシートは『マジックシール』になっているので、簡単に張り付けと取り外しができる。
「よいせっと」
私は再びケースを抱えると、フロ―タ―に乗って一階に戻った。いつもなら、ちょっと見物するんだけど、そのまま外に出て、駐車場に向かう。
思ったよりも重くて、腕がちょっと痛い。足は鍛えているけど、腕は特に鍛えてないんだよね。最近、腕立てとかも全然やってないし。普段、あまり重いものを、持つ機会もないので――。
少しよたよたしながら歩いていると、右足が何かに引っ掛かった。箱で足元がよく見えなかったのだ。
しまった!!
私は前のめりに倒れ込むが、次の瞬間、後ろから誰かに、箱ごと抱きかかえられた。私はすんでのところで、転倒を免れる。
体勢を立て直すと、すぐに振り向いて、相手を確かめた。それは、かなり長身の女性だった。しかも、全身黒づくめの、かなり変わった格好だ。胸には、白い花の飾を付けている。
髪も目も服も、全てが真っ黒。しかも、本人の気配が、物凄く薄い気がする。表情が、まるで凍り付いているような感じがした。それほどまでに、無表情だったのだ。フィニーちゃんの、生気のある無表情とは、全く違う。
彼女は無言のまま、ひょいっと、私の持っていたケースを持ち上げた。全く重そうな様子もなく、無表情のまま持っている。
「どこまで……?」
彼女は、体の大きさに似合わぬ、小さな声で尋ねて来た。
「あ、ええと――あそこの、エア・ドルフィンまでです」
あまりに不思議な雰囲気に、私は一瞬、固まっていた。
彼女はそのまま、軽々とケースを持ちながら、私の機体まで進んで行った。機体の前に立ち止まると、無言で視線を向けてきた。
「はい、それです」
彼女は、静かにうなずくと、そっと機体にケースをのせる。すると、何も言わずに立ち去っていった。
「あの、助けていただいて、ありがとうございました」
私が彼女の背に向かって頭を下げると、
「気を付けて」
小さな声が返って来た。
凄く不思議な人だった。何だろう、この微妙な違和感? とても穏やかだけど、どことなく、悲しそうな感じがした。
あの、黒い制服って、シルフィードのだよね? 腕章が付いていたし。でも、白が基本のシルフィードに、黒い制服の会社なんて、あるんだろうか?
何だか気になって、私は彼女の姿が見えなくなるまで、じっと見つめていたのだった……。
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