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第3部 笑顔の裏に隠された真実
3-2生まれて初めての美術館は思いのほか楽しかった
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私は今〈中央区〉にある〈グリュンノア美術館〉に来ていた。美術館は、私には全く縁のない場所で、来るのは生まれて初めてだった。
芸術に無関心な私が、何でこんな高尚な場所にいるのか? それは、先日リリーシャさんに、美術館の『入場券』をもらったからだ。
ここ最近、雨が多く、私はフラストレーションが溜まっていた。それを見かねて、リリーシャさんが、わざわざチケットを、買ってきてくれたのだ。しかも、三人分。
芸術に興味はないけど、リリーシャさんの気遣いを、無下にする訳には行かない。それに、事務所でボーッとしているより、少しでも体を動かせる場所のほうがよかった。元々お出掛けは、大好きだし。
そんなわけで、ナギサちゃんとフィニーちゃんを誘って、美術館にやってきたのだ。ナギサちゃんは、珍しく一発返事でOKしてくれた。でも、今回はフィニーちゃんが、乗り気ではなかった。
しかし、ナギサちゃんが『美術館内のカフェのケーキが美味しい』と言ったとたん、フィニーちゃんが食いついた。何だかんだで、最終的には、この三人が集まるんだよね。
今日は雨なので、全員、傘をさして歩いて来た。そういえば、雨の日に、一緒にお出かけするのって、初めてだ。雨だと、エア・ドルフィンに乗れないから、行ける場所も限られるし。
目的地に着くと、私がイメージしていたのと違い、物凄く綺麗な、近代建築だった。見た感じ、かなり新しそう。
「美術館って言うから、もっと堅苦くて、古い感じだと思ってたけど。ずいぶんと、オシャレな建物だね。しかも、凄くキレイで新しそうだし」
美術イコール古臭い、というイメージが、頭から抜けない。私、学生時代、美術も超苦手だったからねぇ……。
「この美術館自体は、古くからあるけれど。昨年、大幅に改装したのよ」
「へぇー、じゃあ、リニューアルしたてなんだねぇ」
どうりで、真新しいわけだ。敷地はかなり広く、地面は、全てタイルで舗装されている。あちこちに、ベンチが置いてあり、ちょっとした広場みたいな感じだ。
ベンチに座り、マギコンをいじっている人や、飲み物を片手に、くつろいでいる人たちの姿も見える。スーツを着ている人もいるから、ここら辺の会社の人たちかな。
美術館の入り口前では、フィニーちゃんが、空中モニターに釘付けになっていた。『フィニーちゃんって、そんなに芸術に興味あったっけ?』と、覗き込んでみると、案内パネルを見ているようだった。
「フィニーちゃん、何を見てるの?」
「ケーキ、超おいしそう」
「へぇー、凄い種類が一杯あるね。しかも、見た目が超キレイ!」
ただの、おまけ程度に考えていたけど、有名なパティシエが、作っているケーキらしい。しかも、この美術館限定で、かなりアートにこだわった形になっていた。普通のショートケーキすら、超豪華なデコレーションになっている。
「ちょっと二人とも、何をやっているのよ? 私達は、芸術の鑑賞に来たのでしょ?」
案の定、真面目なナギサちゃんは、ご立腹だった。
「ケーキ食べに来た。絵を見るのは、ついで」
「はぁ?! 何を言っているの、まだ勤務時間なのよ。これも、一人前になるための、勉強でしょ」
相変わらず、フィニーちゃんは、全く気にせず、本音を口にする。全ての言葉に、嘘偽りがないので、とても信頼できるんだけど。でも、たまには、空気を読んだほうがいいと思う。
逆に、ナギサちゃんは、ちょっとでも間違いがあれば、全力で突っ込んでくる。言ってることは、全て正論なんだけど。ただ、もうちょい肩の力を抜いて、楽しんでもいいんじゃないかなぁ、なんて思う。
「まぁまぁ、二人とも。両方とも同じぐらい、堪能すればいいじゃない。私達シルフィードには、芸術もグルメも、どっちも必要でしょ? ここに、お客様を案内した時のために、両方、勉強しておいたほうが、いいと思うよ」
ナギサちゃんは、なにか言いたげであったが、とりあえず納得する。『勉強』という言葉を使うと、何でも納得してくれるんだよね。
いつも通りのやり取りがあったあと、三人でゆっくり入口をくぐる。中は思ったよりも、広々とした空間で、平日のせいか、人はまばらで空いていた。これなら、のんびり見られそうだね。
私達は順路に沿って、壁の絵を鑑賞して行く。なんかこう、思っていた難しい絵と違って、とても分かりやすく、親しみの持てる絵が多かった。なぜなら〈グリュンノア〉の町並みの絵が、ずらりと並んでいたからだ。
ある大きな絵の前で、私は足をとめた。不思議な魅力があって、思わず見入ってしまう。見ているだけで、心が温まる絵だった。
「これは〈南地区〉の景色ね」
隣に来たナギサちゃんが、静かに声をかけてきた。
「街の灯りが、凄く温かみがあって、とても優しい感じがする。それに、この時間帯の景色って、言葉では表しにくい、複雑な美しさがあるよね」
大きな風景画は、上空から見た、街の夜景を描いたもので、建物のオレンジ色の灯りが、とても美しかった。夜景と言っても、まだ、完全に夜ではない。遠くに見える、海の水平線上の空は、薄っすらと明るく、紫がかっていた。
この時間は、白・紫・青・オレンジ・黒など、様々な色が混じり合った、複雑な景色になっている。美しい代わりに、ちょっぴり寂しさを感じたり、建物の灯りが、とても暖かく感じたりと、街の表情が物凄く豊かになる時間帯だ。
「とても、いい絵ね。描いている人の心が、伝わって来るみたいだわ。きっと、この街が大好きなのでしょうね」
「確かに、そんな感じがするね。描いたのは地元の人かな? でも、ナギサちゃんが、そんなこと言うなんて、意外だね」
ナギサちゃんが、何かを素直に褒めたり認めたりするのは、とても珍しい。
「何が意外なのよ?」
「だって、ナギサちゃんって、何でも理論的に考えるから。そんな、情緒のあることを言うとは、思わなくて――」
ナギサちゃんは、あらゆる物事をロジカルに考える、とてもクールな性格だ。歳の割には、物の見方が、冷めている気がする。
「私を、なんだと思っているのよ?」
「歩く計算機みたいな……」
「あんたね、馬鹿にしてるの?」
ナギサちゃんは、キッと私をにらみつけた。
「違う違う、いい意味でだって。もっとこう、理論的に分析した批評を、淡々と言うものだと思ってたから」
私と違い、何となくじゃなくて、全てに理論や証明を付けるのが、ナギサちゃんだ。
「私だって、よい物は素直に感動するし。芸術は、普通に心で楽しんでいるわよ」
「あははっ、だよねぇ」
それを聴いて、少し安心した。以前に比べ、ナギサちゃんも、ずいぶんと、人間味が出て来たような気がする。それに、楽しめているなら何よりだ。
「あれっ、フィニーちゃんは――?」
ふと気付くと、フィニーちゃんの姿が消えている。
「いつの間に、あんな所に。まったく、あの子は、落ち着いて絵の鑑賞もできないの?」
ナギサちゃんの視線の先には、フィニーちゃんの、後ろ姿が見えた。いつの間にか、かなり先のほうまで進んでいる。
「何を見ているんだろ?」
私は、並んでいる絵をサッと見ながら、少し足早に進んで行く。フィニーちゃんは、どんな絵が好きなのか、ちょっと興味があったからだ。そもそも、絵に興味なんてあるのかな?
近づいていくと、フィニーちゃんが見入っている理由が、よく分かった。確かに、これはとてもいい絵だ。
「へぇー、超カワイイね」
「この絵、ほしい」
「でも、フィニーちゃんの会社には、スノウがいるでしょ?」
「部屋では飼えない。だから、自分の部屋にほしい」
「あー、そういうことね」
目の前には、二匹の子猫がじゃれ合っている姿が、とても繊細で、リアルなタッチで描かれていた。見ているだけで、頬がゆるむ。私の部屋も、こんな絵を飾ったら、少しは和むんじゃないかなぁ? 何もなくて、凄く殺風景だからね……。
「これは〈西地区〉の住宅街のようね」
少し遅れて、ナギサちゃんがやって来た。
「絵を見ただけで、分かるの?」
「建物と住宅街の雰囲気が、あの地区のものに、似ていたからよ」
「ナギサ、ここどこ?〈西地区〉のどこ?」
フィニーちゃんは、ナギサちゃんの腕を掴んで、必死に尋ねる。
「そこまでは、分からないわよ。そもそも、私は〈南地区〉が、ホームなんだから。フィニーツァのほうが、詳しいでしょ?」
「むっ――今度さがしてみる」
住宅街や裏路地まで把握してるのは、たいていは、自分の『ホームエリア』だけだ。私も〈東地区〉なら、小さな裏路地まで、細かく把握していた。
そのあとは、三人揃って、順路通りに見て回る。ただ、みんな好みが違うようで、フィニーちゃんは、動物の絵だけに反応。
私は街の風景。特に上空から見た景色。ナギサちゃんは、一つ一つじっくり鑑賞し、時折り絵の前で腕を組み、何か考え事をしていた。
美術館の中は、想像以上に広く、一周するだけで、かなりの時間が掛かった。でも、最初は興味がなかったけど、色々見ている内に、楽しくなってきた。こうして、のんびり絵を見て回るのも、意外と悪くないかも。
ぐるっと一周したところで、
「お腹すいた。ケーキ食べ行く」
フィニーちゃんお約束の、腹ペコ宣言が来た。
「まだ、全部、見ていないでしょ。上のフロアも、あるのよ」
「やだ、ケーキ食べる!」
「屋内だし、大して歩いてないじゃない。そもそも、絵を見に来たのでしょ?」
「違う。今日は、ケーキ食べに来た」
食べ物のこととなると、フィニーちゃんは、絶対に折れない。それに、相変わらず、ド直球の本音だ。
「そんな訳ないでしょ! 私達が、教養を身につけるために、わざわざリリーシャさんが、チケットを用意してくれたんじゃないの」
ナギサちゃんが言っているのは、物凄く正論だ。でも、多分リリーシャさんは、そんな深い意味は、込めていないと思う。単に『三人で楽しんできたら』って感じで、チケットを渡してくれたんじゃないかな?
「いったん、休憩をいれて。そのあと、上のフロアを見に行ったらどう? 雨で時間もたっぷり有ることだし。もうすぐ、お昼ごはんの時間だから」
とりあえず、二人の口論の仲裁に入る。そもそも、最初から、二人の目的が違うのは、分かっていた。ナギサちゃんは、真面目に芸術鑑賞だし。フィニーちゃんは、完全にスイーツ目当てだからね。私は……両方かなぁ。
「全部、見終わってから、と思っていたのに――。まぁ、しょうがないわね」
「おぉ、ご飯!! ケーキ!」
渋々了解するナギサちゃんとは対象的に、フィニーちゃんは、キラキラと目を輝かせていた。ま、これも、いつも通りの、平和な光景だよね。
私は、カフェに向かいながら、改めて美術館の中を見回す。普段は全く興味がなく、縁遠い場所だと思ってたけど、想像よりもずっと面白い。広々して居心地がいいし。何より、絵を描いた人たちの想いが、たくさん詰まった素敵な場所だ。
なんとなくだけど、雨の日の楽しい過ごし方が、分かった気がする。また今度、来てみようかな……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『体力だけでシルフィードやってる人間がここにいます』
大事なのはセンスと運と体力
芸術に無関心な私が、何でこんな高尚な場所にいるのか? それは、先日リリーシャさんに、美術館の『入場券』をもらったからだ。
ここ最近、雨が多く、私はフラストレーションが溜まっていた。それを見かねて、リリーシャさんが、わざわざチケットを、買ってきてくれたのだ。しかも、三人分。
芸術に興味はないけど、リリーシャさんの気遣いを、無下にする訳には行かない。それに、事務所でボーッとしているより、少しでも体を動かせる場所のほうがよかった。元々お出掛けは、大好きだし。
そんなわけで、ナギサちゃんとフィニーちゃんを誘って、美術館にやってきたのだ。ナギサちゃんは、珍しく一発返事でOKしてくれた。でも、今回はフィニーちゃんが、乗り気ではなかった。
しかし、ナギサちゃんが『美術館内のカフェのケーキが美味しい』と言ったとたん、フィニーちゃんが食いついた。何だかんだで、最終的には、この三人が集まるんだよね。
今日は雨なので、全員、傘をさして歩いて来た。そういえば、雨の日に、一緒にお出かけするのって、初めてだ。雨だと、エア・ドルフィンに乗れないから、行ける場所も限られるし。
目的地に着くと、私がイメージしていたのと違い、物凄く綺麗な、近代建築だった。見た感じ、かなり新しそう。
「美術館って言うから、もっと堅苦くて、古い感じだと思ってたけど。ずいぶんと、オシャレな建物だね。しかも、凄くキレイで新しそうだし」
美術イコール古臭い、というイメージが、頭から抜けない。私、学生時代、美術も超苦手だったからねぇ……。
「この美術館自体は、古くからあるけれど。昨年、大幅に改装したのよ」
「へぇー、じゃあ、リニューアルしたてなんだねぇ」
どうりで、真新しいわけだ。敷地はかなり広く、地面は、全てタイルで舗装されている。あちこちに、ベンチが置いてあり、ちょっとした広場みたいな感じだ。
ベンチに座り、マギコンをいじっている人や、飲み物を片手に、くつろいでいる人たちの姿も見える。スーツを着ている人もいるから、ここら辺の会社の人たちかな。
美術館の入り口前では、フィニーちゃんが、空中モニターに釘付けになっていた。『フィニーちゃんって、そんなに芸術に興味あったっけ?』と、覗き込んでみると、案内パネルを見ているようだった。
「フィニーちゃん、何を見てるの?」
「ケーキ、超おいしそう」
「へぇー、凄い種類が一杯あるね。しかも、見た目が超キレイ!」
ただの、おまけ程度に考えていたけど、有名なパティシエが、作っているケーキらしい。しかも、この美術館限定で、かなりアートにこだわった形になっていた。普通のショートケーキすら、超豪華なデコレーションになっている。
「ちょっと二人とも、何をやっているのよ? 私達は、芸術の鑑賞に来たのでしょ?」
案の定、真面目なナギサちゃんは、ご立腹だった。
「ケーキ食べに来た。絵を見るのは、ついで」
「はぁ?! 何を言っているの、まだ勤務時間なのよ。これも、一人前になるための、勉強でしょ」
相変わらず、フィニーちゃんは、全く気にせず、本音を口にする。全ての言葉に、嘘偽りがないので、とても信頼できるんだけど。でも、たまには、空気を読んだほうがいいと思う。
逆に、ナギサちゃんは、ちょっとでも間違いがあれば、全力で突っ込んでくる。言ってることは、全て正論なんだけど。ただ、もうちょい肩の力を抜いて、楽しんでもいいんじゃないかなぁ、なんて思う。
「まぁまぁ、二人とも。両方とも同じぐらい、堪能すればいいじゃない。私達シルフィードには、芸術もグルメも、どっちも必要でしょ? ここに、お客様を案内した時のために、両方、勉強しておいたほうが、いいと思うよ」
ナギサちゃんは、なにか言いたげであったが、とりあえず納得する。『勉強』という言葉を使うと、何でも納得してくれるんだよね。
いつも通りのやり取りがあったあと、三人でゆっくり入口をくぐる。中は思ったよりも、広々とした空間で、平日のせいか、人はまばらで空いていた。これなら、のんびり見られそうだね。
私達は順路に沿って、壁の絵を鑑賞して行く。なんかこう、思っていた難しい絵と違って、とても分かりやすく、親しみの持てる絵が多かった。なぜなら〈グリュンノア〉の町並みの絵が、ずらりと並んでいたからだ。
ある大きな絵の前で、私は足をとめた。不思議な魅力があって、思わず見入ってしまう。見ているだけで、心が温まる絵だった。
「これは〈南地区〉の景色ね」
隣に来たナギサちゃんが、静かに声をかけてきた。
「街の灯りが、凄く温かみがあって、とても優しい感じがする。それに、この時間帯の景色って、言葉では表しにくい、複雑な美しさがあるよね」
大きな風景画は、上空から見た、街の夜景を描いたもので、建物のオレンジ色の灯りが、とても美しかった。夜景と言っても、まだ、完全に夜ではない。遠くに見える、海の水平線上の空は、薄っすらと明るく、紫がかっていた。
この時間は、白・紫・青・オレンジ・黒など、様々な色が混じり合った、複雑な景色になっている。美しい代わりに、ちょっぴり寂しさを感じたり、建物の灯りが、とても暖かく感じたりと、街の表情が物凄く豊かになる時間帯だ。
「とても、いい絵ね。描いている人の心が、伝わって来るみたいだわ。きっと、この街が大好きなのでしょうね」
「確かに、そんな感じがするね。描いたのは地元の人かな? でも、ナギサちゃんが、そんなこと言うなんて、意外だね」
ナギサちゃんが、何かを素直に褒めたり認めたりするのは、とても珍しい。
「何が意外なのよ?」
「だって、ナギサちゃんって、何でも理論的に考えるから。そんな、情緒のあることを言うとは、思わなくて――」
ナギサちゃんは、あらゆる物事をロジカルに考える、とてもクールな性格だ。歳の割には、物の見方が、冷めている気がする。
「私を、なんだと思っているのよ?」
「歩く計算機みたいな……」
「あんたね、馬鹿にしてるの?」
ナギサちゃんは、キッと私をにらみつけた。
「違う違う、いい意味でだって。もっとこう、理論的に分析した批評を、淡々と言うものだと思ってたから」
私と違い、何となくじゃなくて、全てに理論や証明を付けるのが、ナギサちゃんだ。
「私だって、よい物は素直に感動するし。芸術は、普通に心で楽しんでいるわよ」
「あははっ、だよねぇ」
それを聴いて、少し安心した。以前に比べ、ナギサちゃんも、ずいぶんと、人間味が出て来たような気がする。それに、楽しめているなら何よりだ。
「あれっ、フィニーちゃんは――?」
ふと気付くと、フィニーちゃんの姿が消えている。
「いつの間に、あんな所に。まったく、あの子は、落ち着いて絵の鑑賞もできないの?」
ナギサちゃんの視線の先には、フィニーちゃんの、後ろ姿が見えた。いつの間にか、かなり先のほうまで進んでいる。
「何を見ているんだろ?」
私は、並んでいる絵をサッと見ながら、少し足早に進んで行く。フィニーちゃんは、どんな絵が好きなのか、ちょっと興味があったからだ。そもそも、絵に興味なんてあるのかな?
近づいていくと、フィニーちゃんが見入っている理由が、よく分かった。確かに、これはとてもいい絵だ。
「へぇー、超カワイイね」
「この絵、ほしい」
「でも、フィニーちゃんの会社には、スノウがいるでしょ?」
「部屋では飼えない。だから、自分の部屋にほしい」
「あー、そういうことね」
目の前には、二匹の子猫がじゃれ合っている姿が、とても繊細で、リアルなタッチで描かれていた。見ているだけで、頬がゆるむ。私の部屋も、こんな絵を飾ったら、少しは和むんじゃないかなぁ? 何もなくて、凄く殺風景だからね……。
「これは〈西地区〉の住宅街のようね」
少し遅れて、ナギサちゃんがやって来た。
「絵を見ただけで、分かるの?」
「建物と住宅街の雰囲気が、あの地区のものに、似ていたからよ」
「ナギサ、ここどこ?〈西地区〉のどこ?」
フィニーちゃんは、ナギサちゃんの腕を掴んで、必死に尋ねる。
「そこまでは、分からないわよ。そもそも、私は〈南地区〉が、ホームなんだから。フィニーツァのほうが、詳しいでしょ?」
「むっ――今度さがしてみる」
住宅街や裏路地まで把握してるのは、たいていは、自分の『ホームエリア』だけだ。私も〈東地区〉なら、小さな裏路地まで、細かく把握していた。
そのあとは、三人揃って、順路通りに見て回る。ただ、みんな好みが違うようで、フィニーちゃんは、動物の絵だけに反応。
私は街の風景。特に上空から見た景色。ナギサちゃんは、一つ一つじっくり鑑賞し、時折り絵の前で腕を組み、何か考え事をしていた。
美術館の中は、想像以上に広く、一周するだけで、かなりの時間が掛かった。でも、最初は興味がなかったけど、色々見ている内に、楽しくなってきた。こうして、のんびり絵を見て回るのも、意外と悪くないかも。
ぐるっと一周したところで、
「お腹すいた。ケーキ食べ行く」
フィニーちゃんお約束の、腹ペコ宣言が来た。
「まだ、全部、見ていないでしょ。上のフロアも、あるのよ」
「やだ、ケーキ食べる!」
「屋内だし、大して歩いてないじゃない。そもそも、絵を見に来たのでしょ?」
「違う。今日は、ケーキ食べに来た」
食べ物のこととなると、フィニーちゃんは、絶対に折れない。それに、相変わらず、ド直球の本音だ。
「そんな訳ないでしょ! 私達が、教養を身につけるために、わざわざリリーシャさんが、チケットを用意してくれたんじゃないの」
ナギサちゃんが言っているのは、物凄く正論だ。でも、多分リリーシャさんは、そんな深い意味は、込めていないと思う。単に『三人で楽しんできたら』って感じで、チケットを渡してくれたんじゃないかな?
「いったん、休憩をいれて。そのあと、上のフロアを見に行ったらどう? 雨で時間もたっぷり有ることだし。もうすぐ、お昼ごはんの時間だから」
とりあえず、二人の口論の仲裁に入る。そもそも、最初から、二人の目的が違うのは、分かっていた。ナギサちゃんは、真面目に芸術鑑賞だし。フィニーちゃんは、完全にスイーツ目当てだからね。私は……両方かなぁ。
「全部、見終わってから、と思っていたのに――。まぁ、しょうがないわね」
「おぉ、ご飯!! ケーキ!」
渋々了解するナギサちゃんとは対象的に、フィニーちゃんは、キラキラと目を輝かせていた。ま、これも、いつも通りの、平和な光景だよね。
私は、カフェに向かいながら、改めて美術館の中を見回す。普段は全く興味がなく、縁遠い場所だと思ってたけど、想像よりもずっと面白い。広々して居心地がいいし。何より、絵を描いた人たちの想いが、たくさん詰まった素敵な場所だ。
なんとなくだけど、雨の日の楽しい過ごし方が、分かった気がする。また今度、来てみようかな……。
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次回――
『体力だけでシルフィードやってる人間がここにいます』
大事なのはセンスと運と体力
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