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第2部 母と娘の関係
5-2元陸上部魂がメラメラと燃えてきたー!
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仕事が終わったあとの夜。私は、ナギサちゃんとフィニーちゃんの三人で集まっていた。場所は〈東地区〉にある、イタリアン・レストラン〈アクアマリン〉だ。最近、みんなで集まる時は、ここが定番になっている。
ただ、今日は、いつもの女子会とは少し違う。明日から『蒼海祭』が始まるため、恒例の『前夜祭』だからだ。
前夜祭は、町が取り仕切っているのではなく、町の人たちが自主的にやっている。毎月、何かしらのイベントがあるので、その度に前夜祭が行われていた。
本当に、この町の人たちは、お祭りが大好きだよね。でも、私もお祭りが超大好きなので、すっごく楽しい。
ちなみに〈グリュンノア〉は、最初はたった十数名で、無人島の開拓をするところから始まった。お金も物資も乏しい上に、少人数での町作りは、本当に大変なことだったらしい。
そんな中、毎日、仕事が終わると皆で集まり、少ない食料を分け合い、わいわい騒いで結束を強めていった。これが『前夜祭』の起源だ。
世界大戦中、ちっぽけな都市国家が生き残れたのは、ずば抜けた結束力と士気の高さにあったと言われている。
昔とは、だいぶ変わったけど、この町の人たちは、とても仲が良く結束力が強かった。それは、各種お祭りや、前夜祭、広場会議など、古くからある良き伝統を、引き継いで来たからだと思う。
『蒼海祭』の日程は、五日間。『魔法祭』ほど盛大ではないけれど、沢山の観光客が集まり、とても賑やかになる。
ただ、開催は五日間なんだけど、スーパーや食料品店では、月初めから『蒼海祭フェア』をやっていた。なので、実際には、結構、期間が長いんだよね。
私は、運ばれて来た料理を食べながら、周りをキョロキョロと見回した。みんな明るい笑顔を浮かべ、とても楽しそうに話している。
ウキウキした感じが、そこかしこから伝わって来た。このお祭り独特の、浮かれた感じが、たまらなく大好きだ。
「本当に、この町の人たちって、お祭りが大好きだよねぇ。これが終わっても、来月もまた、何かイベントがあるんでしょ?」
「来月は『スポーツ・フェスタ』よ。私は、あまり好きではないけれど」
ナギサちゃんは、興味なさげに淡々と説明する。基本、運動系は好きじゃないみたいだ。
「それって、運動会みたいな?」
運動会と言えば、昔から私の唯一の活躍の場だった。元陸上部なので、特に走る系が超得意だ。
「運動会と競技会の、中間みたいな感じね。地元の人たちだけが参加する競技もあれば、プロのスポーツ選手が参加する競技もあるわ。特に『ノア・マラソン』は、世界的にも有名で、プロも参加するし、それを見に来る観光客も多いのよ」
「おぉー、何か超楽しそうだね。マラソン一緒に参加しようよ!」
私は元気一杯に、二人に声を掛ける。だが、二人は完全に無反応だった。ま、なんとなく予想はしてたけどね……。
「それよりも、イベントぐらいは、ちゃんと勉強しておきなさいよ。毎月のイベントは、最初から決まっているのだから」
ナギサちゃんは、さっと話題を切り替える。
「あははっ、確かに。でも、一つずつ参加すれば覚えるかなぁー、なんて」
「私たちシルフィードの存在理由を、ちゃんと理解しているの? 毎月のイベントこそ、私たちが活躍する、一番の場なのよ」
ここからは、お約束の、ナギサちゃんのお説教&講義が始まった。フィニーちゃんは、最初から知っているのか、単に興味がないのか、我関せずで黙々と食事を続ける。
ナギサちゃんの話によると、元々はこんなに沢山のイベントは、なかったそうだ。ほとんどが、戦後、町の復興の際に作られたもので、イベントが増えるにつれ、シルフィードの活躍の場も増えて行った。
なお、設立時のシルフィードは、行政府の『治安維持局』に所属する国家公務員。当時は観光客も少なく、観光案内より、施設や道の案内がメインで、町の治安維持の活動も行っていた。
実際に、昔のシルフィードは、揉め事の仲裁や事故の対処なども行っており、戦闘訓練も受けていたらしい。人手が足りなかったため、時には配送業務なども行っていた。
しかし、観光客が増えるにつれ、観光案内がメインになった。さらに、より観光に力を入れるため、イベントがどんどん増え、毎月、何かしら行われるように。
結果、シルフィードの活躍の場も、飛躍的に増えて行き、どんどん人気が出てきた。やがて民営化され、今のようなアイドル的な存在になった。
つまり、今のシルフィードがあるのは、毎月のイベントのお蔭と言える。私はまだ、お客様を乗せることが出来ないから実感がない。でも、リリーシャさんは、イベントの度に大忙しだった。
やっぱり、シルフィードって、イベント案内がメインのお仕事なんだね。一応、年間行事の一覧には、目を通しているんだけど。あまりにも、学ぶことが多すぎて、まだ覚え切れていない――。
ナギサちゃんの講義が、一段落したところで、
「今回の『蒼海祭』は、毎日いくの? 私は全然オッケーだけど」
二人に予定をきいてみる。
前回の『魔法祭』の時のような、七度参りなどはないので、毎日、行く必要はない。でも、できれば、また三人で楽しみたいなぁー。友達と一緒に回るお祭りって、最高に楽しいもんね。
「当然、毎日、回るに決まっているわ。私たち新人にとって、イベントは大事な実地研修なのだから」
「毎日、出店をまわる」
ナギサちゃんは、真剣な表情で。フィニーちゃんは、ワクワクした顔で。二人とも、違う意味で気合が入っていた。
「ちょっと、遊びじゃないのよ、遊びじゃ。ちゃんと、スケジュールも立ててあるから。効率よく回って、しっかり勉強するわよ」
ナギサちゃんは、マギコンを開くと、ササッと操作する。直後、私とフィニーちゃんのマギコンに、着信音が鳴った。
マギコンを確認すると、ファイルが送られて来ていた。開いてみると、お祭り五日分のスケジュールが、みっちりと組まれている。
人気のある出店、回る順番、イベントの解説、注意事項など、詳細に書かれていた。まるで、修学旅行のしおりみたいだ。
「うわぁー、いつの間にこんなの作ったの? めっちゃ細かいね」
「あらかじめ、日程が分かっているのだから、いくらでも作る時間はあるわよ。それに、魔法祭と違って、一定のルートを進むわけではないから。計画的に動かないと、全て回り切れないわ」
資料を見る限り、全てを回る気満々だ。本人は勉強だの研修だのと言ってるけど、やっぱり楽しみなんじゃないかな? じゃなきゃ、ここまで細かくは作らないよね。
資料をめくって五日目を見ると、私の参加するレースの、応援の予定が書かれていた。
「覚えていてくれたんだ、レースのこと。ありがとね、ナギサちゃん!」
「べ……別に、後学のためよ。お客様を案内する機会も、あるかもしれないし」
言いながらナギサちゃんは、顔を背けた。
いやー、分かりやすいなぁ。ナギサちゃんは、図星を突かれると、視線を逸らしたり、顔を背ける癖があるからだ。相変わらず厳しいし、トゲトゲしてるところも有るけど、さりげない優しさや思いやりは忘れない。
「私、ナギサちゃん達のためにも、頑張って優勝するからね!」
「何で、私たちのためなのよ?」
「だって、十万ベルの商品券もらえるんだよ。優勝したら、みんなで美味しいもの食べようね」
「おぉー、おいしいもの!! 風歌、がんばれ!」
フィニーちゃんの目が、キラリと輝いた。私の優勝より、明らかに食べ物が目当てっぽいけど。でも、応援してくれるのは、純粋に嬉しい。
「まったく――二人とも打算的ね。レースだって、大事な行事の一つなのよ。それよりも、ちゃんと、ウォーター・ドルフィンには、乗れるようになったの?」
「普通に走れる程度にはね。毎日、練習は行ってるんだけど、圧倒的に練習時間が足りてないんだぁ。私の場合、エア・ドルフィンの登場経験も少ないから、どうしても魔力制御には差がでちゃうよね……」
機体の操縦法は、数日あれば、十分マスターできる。しかし、魔力制御は、一朝一夕で、どうにかなるものでは無かった。特に、魔力の概念がなかった世界で生まれ育った私には、物凄く難しい。
「この世界に住んでいる人間に比べれば、経験不足は、しょうがないわよ。皆、子供のころから、乗っているのだから」
ちなみに、子供用の『セーフ・ドルフィン』という乗り物もある。地面から数センチしか浮かず、スピードも歩く程度だが、魔力制御で動くのは同じだ。向こうの世界だと、三輪車とか足こぎ自動車みたいな感じかな。
あと、十二歳になると、エア・ドルフィンの『セミ・ライセンス』が取れる。セミ・ライセンスで乗れるのは、高度やスピードに制限の付いた『ミニ・ドルフィン』まで。十五歳になると、正式なライセンスが取得できる。
つまり、この世界の人は皆、子供のころから『魔力制御』をしているのだ。特に、将来、空の仕事に就きたい人は、物心ついたころから練習施設に通っているらしい。
練習施設の敷地内で、指導員が同伴だと、ノーライセンスでも、エア・ドルフィンに乗ることが可能なんだって。
「足りない分は、運動神経で何とかするつもり。あと、昔から、本番には強いからね」
「あまり、張り切り過ぎないようにしなさいよ。ケガでもしたら、元も子もないのだから」
ナギサちゃんは、本当に心配症だ。というか、うちの母親と、ほとんど台詞が同じなんだよね……。
「大丈夫、大丈夫。レースとはいえ、お祭りの一環なんだし、命を懸けてまでやるつもりはないから。楽しく走ってくるよ」
「なら、いいのだけど」
でも、実際のところ、かなりガチで頑張っている。もちろん、賞品も物凄く欲しいけど、私はかなりの負けず嫌いなので。
ナギサちゃんみたいに、露骨に表には出さないけど、スポーツ系は絶対に負けたくない。なので、心の中では、メラメラと熱い炎が燃えているのだった。
今の私には何もない。しいて言うなら、ちょっと体力と運動神経に自信があるぐらいだ。だからこそ、こういう機会に活躍しないと、意味がない。勉強や知識じゃ、ナギサちゃんには、遠く及ばないからね。
よしっ、元陸上部魂で頑張りまっしょい!
ただ、今日は、いつもの女子会とは少し違う。明日から『蒼海祭』が始まるため、恒例の『前夜祭』だからだ。
前夜祭は、町が取り仕切っているのではなく、町の人たちが自主的にやっている。毎月、何かしらのイベントがあるので、その度に前夜祭が行われていた。
本当に、この町の人たちは、お祭りが大好きだよね。でも、私もお祭りが超大好きなので、すっごく楽しい。
ちなみに〈グリュンノア〉は、最初はたった十数名で、無人島の開拓をするところから始まった。お金も物資も乏しい上に、少人数での町作りは、本当に大変なことだったらしい。
そんな中、毎日、仕事が終わると皆で集まり、少ない食料を分け合い、わいわい騒いで結束を強めていった。これが『前夜祭』の起源だ。
世界大戦中、ちっぽけな都市国家が生き残れたのは、ずば抜けた結束力と士気の高さにあったと言われている。
昔とは、だいぶ変わったけど、この町の人たちは、とても仲が良く結束力が強かった。それは、各種お祭りや、前夜祭、広場会議など、古くからある良き伝統を、引き継いで来たからだと思う。
『蒼海祭』の日程は、五日間。『魔法祭』ほど盛大ではないけれど、沢山の観光客が集まり、とても賑やかになる。
ただ、開催は五日間なんだけど、スーパーや食料品店では、月初めから『蒼海祭フェア』をやっていた。なので、実際には、結構、期間が長いんだよね。
私は、運ばれて来た料理を食べながら、周りをキョロキョロと見回した。みんな明るい笑顔を浮かべ、とても楽しそうに話している。
ウキウキした感じが、そこかしこから伝わって来た。このお祭り独特の、浮かれた感じが、たまらなく大好きだ。
「本当に、この町の人たちって、お祭りが大好きだよねぇ。これが終わっても、来月もまた、何かイベントがあるんでしょ?」
「来月は『スポーツ・フェスタ』よ。私は、あまり好きではないけれど」
ナギサちゃんは、興味なさげに淡々と説明する。基本、運動系は好きじゃないみたいだ。
「それって、運動会みたいな?」
運動会と言えば、昔から私の唯一の活躍の場だった。元陸上部なので、特に走る系が超得意だ。
「運動会と競技会の、中間みたいな感じね。地元の人たちだけが参加する競技もあれば、プロのスポーツ選手が参加する競技もあるわ。特に『ノア・マラソン』は、世界的にも有名で、プロも参加するし、それを見に来る観光客も多いのよ」
「おぉー、何か超楽しそうだね。マラソン一緒に参加しようよ!」
私は元気一杯に、二人に声を掛ける。だが、二人は完全に無反応だった。ま、なんとなく予想はしてたけどね……。
「それよりも、イベントぐらいは、ちゃんと勉強しておきなさいよ。毎月のイベントは、最初から決まっているのだから」
ナギサちゃんは、さっと話題を切り替える。
「あははっ、確かに。でも、一つずつ参加すれば覚えるかなぁー、なんて」
「私たちシルフィードの存在理由を、ちゃんと理解しているの? 毎月のイベントこそ、私たちが活躍する、一番の場なのよ」
ここからは、お約束の、ナギサちゃんのお説教&講義が始まった。フィニーちゃんは、最初から知っているのか、単に興味がないのか、我関せずで黙々と食事を続ける。
ナギサちゃんの話によると、元々はこんなに沢山のイベントは、なかったそうだ。ほとんどが、戦後、町の復興の際に作られたもので、イベントが増えるにつれ、シルフィードの活躍の場も増えて行った。
なお、設立時のシルフィードは、行政府の『治安維持局』に所属する国家公務員。当時は観光客も少なく、観光案内より、施設や道の案内がメインで、町の治安維持の活動も行っていた。
実際に、昔のシルフィードは、揉め事の仲裁や事故の対処なども行っており、戦闘訓練も受けていたらしい。人手が足りなかったため、時には配送業務なども行っていた。
しかし、観光客が増えるにつれ、観光案内がメインになった。さらに、より観光に力を入れるため、イベントがどんどん増え、毎月、何かしら行われるように。
結果、シルフィードの活躍の場も、飛躍的に増えて行き、どんどん人気が出てきた。やがて民営化され、今のようなアイドル的な存在になった。
つまり、今のシルフィードがあるのは、毎月のイベントのお蔭と言える。私はまだ、お客様を乗せることが出来ないから実感がない。でも、リリーシャさんは、イベントの度に大忙しだった。
やっぱり、シルフィードって、イベント案内がメインのお仕事なんだね。一応、年間行事の一覧には、目を通しているんだけど。あまりにも、学ぶことが多すぎて、まだ覚え切れていない――。
ナギサちゃんの講義が、一段落したところで、
「今回の『蒼海祭』は、毎日いくの? 私は全然オッケーだけど」
二人に予定をきいてみる。
前回の『魔法祭』の時のような、七度参りなどはないので、毎日、行く必要はない。でも、できれば、また三人で楽しみたいなぁー。友達と一緒に回るお祭りって、最高に楽しいもんね。
「当然、毎日、回るに決まっているわ。私たち新人にとって、イベントは大事な実地研修なのだから」
「毎日、出店をまわる」
ナギサちゃんは、真剣な表情で。フィニーちゃんは、ワクワクした顔で。二人とも、違う意味で気合が入っていた。
「ちょっと、遊びじゃないのよ、遊びじゃ。ちゃんと、スケジュールも立ててあるから。効率よく回って、しっかり勉強するわよ」
ナギサちゃんは、マギコンを開くと、ササッと操作する。直後、私とフィニーちゃんのマギコンに、着信音が鳴った。
マギコンを確認すると、ファイルが送られて来ていた。開いてみると、お祭り五日分のスケジュールが、みっちりと組まれている。
人気のある出店、回る順番、イベントの解説、注意事項など、詳細に書かれていた。まるで、修学旅行のしおりみたいだ。
「うわぁー、いつの間にこんなの作ったの? めっちゃ細かいね」
「あらかじめ、日程が分かっているのだから、いくらでも作る時間はあるわよ。それに、魔法祭と違って、一定のルートを進むわけではないから。計画的に動かないと、全て回り切れないわ」
資料を見る限り、全てを回る気満々だ。本人は勉強だの研修だのと言ってるけど、やっぱり楽しみなんじゃないかな? じゃなきゃ、ここまで細かくは作らないよね。
資料をめくって五日目を見ると、私の参加するレースの、応援の予定が書かれていた。
「覚えていてくれたんだ、レースのこと。ありがとね、ナギサちゃん!」
「べ……別に、後学のためよ。お客様を案内する機会も、あるかもしれないし」
言いながらナギサちゃんは、顔を背けた。
いやー、分かりやすいなぁ。ナギサちゃんは、図星を突かれると、視線を逸らしたり、顔を背ける癖があるからだ。相変わらず厳しいし、トゲトゲしてるところも有るけど、さりげない優しさや思いやりは忘れない。
「私、ナギサちゃん達のためにも、頑張って優勝するからね!」
「何で、私たちのためなのよ?」
「だって、十万ベルの商品券もらえるんだよ。優勝したら、みんなで美味しいもの食べようね」
「おぉー、おいしいもの!! 風歌、がんばれ!」
フィニーちゃんの目が、キラリと輝いた。私の優勝より、明らかに食べ物が目当てっぽいけど。でも、応援してくれるのは、純粋に嬉しい。
「まったく――二人とも打算的ね。レースだって、大事な行事の一つなのよ。それよりも、ちゃんと、ウォーター・ドルフィンには、乗れるようになったの?」
「普通に走れる程度にはね。毎日、練習は行ってるんだけど、圧倒的に練習時間が足りてないんだぁ。私の場合、エア・ドルフィンの登場経験も少ないから、どうしても魔力制御には差がでちゃうよね……」
機体の操縦法は、数日あれば、十分マスターできる。しかし、魔力制御は、一朝一夕で、どうにかなるものでは無かった。特に、魔力の概念がなかった世界で生まれ育った私には、物凄く難しい。
「この世界に住んでいる人間に比べれば、経験不足は、しょうがないわよ。皆、子供のころから、乗っているのだから」
ちなみに、子供用の『セーフ・ドルフィン』という乗り物もある。地面から数センチしか浮かず、スピードも歩く程度だが、魔力制御で動くのは同じだ。向こうの世界だと、三輪車とか足こぎ自動車みたいな感じかな。
あと、十二歳になると、エア・ドルフィンの『セミ・ライセンス』が取れる。セミ・ライセンスで乗れるのは、高度やスピードに制限の付いた『ミニ・ドルフィン』まで。十五歳になると、正式なライセンスが取得できる。
つまり、この世界の人は皆、子供のころから『魔力制御』をしているのだ。特に、将来、空の仕事に就きたい人は、物心ついたころから練習施設に通っているらしい。
練習施設の敷地内で、指導員が同伴だと、ノーライセンスでも、エア・ドルフィンに乗ることが可能なんだって。
「足りない分は、運動神経で何とかするつもり。あと、昔から、本番には強いからね」
「あまり、張り切り過ぎないようにしなさいよ。ケガでもしたら、元も子もないのだから」
ナギサちゃんは、本当に心配症だ。というか、うちの母親と、ほとんど台詞が同じなんだよね……。
「大丈夫、大丈夫。レースとはいえ、お祭りの一環なんだし、命を懸けてまでやるつもりはないから。楽しく走ってくるよ」
「なら、いいのだけど」
でも、実際のところ、かなりガチで頑張っている。もちろん、賞品も物凄く欲しいけど、私はかなりの負けず嫌いなので。
ナギサちゃんみたいに、露骨に表には出さないけど、スポーツ系は絶対に負けたくない。なので、心の中では、メラメラと熱い炎が燃えているのだった。
今の私には何もない。しいて言うなら、ちょっと体力と運動神経に自信があるぐらいだ。だからこそ、こういう機会に活躍しないと、意味がない。勉強や知識じゃ、ナギサちゃんには、遠く及ばないからね。
よしっ、元陸上部魂で頑張りまっしょい!
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