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第2部 母と娘の関係
4-5聖女にはなれないけど明るく元気なシルフィードになろう
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夜、静まり返った屋根裏部屋で、私は真剣に勉強中だった。古びた机の前に座布団を置いて、正座しながら、空中モニターをジッと凝視する。今日は昇級試験の内容ではなく、一般常識の勉強だ。
ナギサちゃんには、いつも言われているけど、私はこの世界の常識がなさ過ぎる。こっちに来て、数ヶ月だから、正直、子供並みの知識しかないんだよね。
全く違う世界ではなく、似てる部分も多いので、生活に支障はなかった。でも、たまに、ぽっかり抜けている知識と直面する。マリアさんの件が、まさにそれだ。
この町の誰もが知っている、超有名人かつ、シルフィードの大先輩。にもかかわらず、ただの店員さんだと勘違いしていた。これは、さすがに勉強不足だったと、深く反省している。
自分が無知なだけなら、まだ構わない。でも、大先輩に、礼儀を失する態度だったのが、実に痛かった。マリアさんが、とても寛容な人だったから、良かったけど……。
そんな訳で、今夜は『聖なる光』のマリアさんについて、徹底的に勉強することにした。
スピでちょっと検索するだけで、大量の情報が出て来て、いかに凄い人なのか、すぐに分かった。また、至るところに『聖女』という言葉が使われていた。
過去の経歴を調べてみると、彼女は元々孤児だったらしい。赤ん坊のころ、教会の前に捨てられており、アルテナ教会の孤児院で育てられた。
そのため、物心つく前から、神の教えを受け、清廉潔白に育って行った。幼いころから、毎日、礼拝を欠かさず、奉仕活動にも参加していた。
シルフィードになったあとも、シスターの仕事は続けており、平日は会社でお客様に奉仕し、休日はボランティアで奉仕する。彼女は、自分のプライベートな時間を、ほとんど取っていなかったのだ。
そのため、今までの人生の全てを、奉仕活動にささげている。さらに、シルフィード時代、お給料のほぼ全額を、孤児院に寄付していた。
中でも、最も驚いたのが『次期グランド・エンプレスに、最も近い位置にいるシルフィード』と言われていたことだった。
なので、彼女が引退を表明した際は、大変な騒ぎになったらしい。『もし、目の病を患わなければ、確実にグランド・エンプレスになっていた』と、多くの人が評している。
次期グランド・エンプレス候補とまで言われた人なのだから、教会の理事に誘われたのも、当然のことだった。
私は調べていく過程で、次々に出て来る驚きの事実に、息をのんだ。私が想像していた凄さとは、スケールが違いすぎる。これほど偉大な人を、全く知らなかったなんて――。ナギサちゃんが、本気で怒るのも当然だ。
私は、マギコンから目を離すと、大きく息を吐きだす。マリアさんに対して、畏敬の念が湧いたのと同時に、ショックで落ち込んできた。
だって、どんなに頑張ったって、絶対に同じこと出来ないよ。あまりにも、人としての格が違いすぎるもん……。奉仕活動なんて、一度もしたことないし。そこまで自分を捨てて、他人のために、献身的にはなれない。
人に喜んで貰いたい気持ちはあるけど、私はやっぱり、自分が一番、大切だ。皆が彼女を『聖女』と呼ぶ理由が、よく分かった。
「遠いなぁ――あまりにも、遠すぎるよ。こんなに凄い人を越えないと、グランド・エンプレスには、なれないのかぁ……」
操縦技術さえ磨いていれば、どうにかなると思っていた、昔の浅はかな自分が恥ずかしい。
私は脱力して、机に突っ伏した。しばらく、そのままダラーっと伸びていると、マギコンからメッセージの着信音が鳴った。もっさり動いて確認すると、ユメちゃんからだ。私はガバッと起きて、急いでELを起動する。
『風ちゃん、起きてる?』
『うん、起きてるよー。今ちょっと調べものしてた』
時計を見ると、二十二時四十分。十九時ごろからやってたから、結構、長いこと調べていたようだ。
ちなみに、ユメちゃんは夜型のせいか、この時間帯は、テンション高めなんだよね。昼の会話の時と、全然テンションが違ったりする。
『勉強してたの?』
『んー、勉強というか、一般常識レベルのことを調べてたんだ。まだまだ、この世界のこと、知らなさ過ぎて』
『こっちに来たばかりなんだから、知らないことが多いのは当然だよ。風ちゃん、凄い頑張ってるし。これから、自然に覚えていくよ』
ユメちゃんは、いつだって私を励ましてくれる。こっちに来てから、初めてできた友達だし、彼女に支えられたお蔭で、今までやって来られたんだよね。
『まぁ、そうなんだけど。シルフィードの友達には、勉強不足だって、いつも怒られてるんだよね(汗)』
『厳しい友達だね』
『でも、言ってることは正論だし、心配してくれてるのは分かってるんだ。もうちょい、頑張らないとね』
ナギサちゃんは、ユメちゃんとは正反対で、物凄く厳しい。褒めてくれたこと無いし、歯に衣着せぬストレートな物言いだ。なので、心にグサッと来ることも、結構あった。
でも、凄く友達想いで、本気で心配してるから厳しいのは、私もよく理解している。優しさにも、色んな形があるってことだよね。
『やっぱり、シルフィードの人って厳しいの?』
『んー、人によるのかなぁ。優しい先輩シルフィードも多いし、ゆるく楽しくやっている人も結構いるよ。でも、上を目指す人は、かなり厳しい感じかな』
志が高く真剣なほど、厳しくなるものだよね。楽しくやってるだけの人と、本気で上を目指す人は、気構えが全く違う。
『風ちゃんも、上を目指してるんだよね? 確かグランド・エンプレスになるって』
『そのつもり……だったんだけどね。色々と知れば知るほど、自信が無くなって来てしまって――』
周りに凄い人ばかりいるから、最近、今一つ自信が持てなくなってしまった。
『えー、何で? 頑張ってよ風ちゃん! 私、風ちゃんが凄いシルフィードになるの、楽しみにしてるんだから』
『ありがとう、ユメちゃん。もちろん、これからも上を目指して、最高のシルフィードになるつもりだよ。私って諦めが悪いから』
私は、とにかく諦めが悪い。気合や根性も、誰にも負けない自信がある。だからこそ、家を飛び出し、単身こっちの世界に来たんだから。
でも、私だって落ち込む時は、ドーンと落ち込む。というか、結構、落ち込んでる回数は多い。最終的に、立ち直るからいいんだけど。こっちに来てから、上がったり下がったりが多かった。
『そっかー、なら良かった』
いつも、心配かけてゴメンね、ユメちゃん。
『ちなみに、ユメちゃんは『聖なる光』は知ってる?』
『うん。元シルフィード・クイーンの、マリア・リミュエールさんだよね?』
『やっぱり、知ってるよね。私、最近まで全然しらなくて……』
『この町の人なら、誰でも知ってると思うけど。でも、風ちゃんは、異世界から来たんだから、しょうがないよ。何かあったの?』
やっぱ、誰でも知ってるぐらい、有名なんだね。それを、現役シルフィードの私が、全く知らなかったとは――。
『実は、マリアさんと一緒に、お茶したんだけど。その時まで、そんな有名人だとは知らなくて……』
『えー、凄い!! あの光のマリアさんとお茶したの?!』
その反応を見るだけで、どれだけ凄い人かよく分かる。芸能人レベルの有名人だもんね。
『ちょっとしたキッカケで、知り合ってね。お茶に誘ったら、快くOKしてくれたので』
『やっぱ、風ちゃん凄いよ! あんな凄い人と知り合いになって、お茶まで誘っちゃうなんて』
いやいや、知らなかったから出来たわけで。いくら私でも、知ってたら、恐れ多くて、そんなこと出来ないよ……。そもそも、同じ会社のリリーシャさんですら、お茶に誘ったこと無いんだから。
『そんな凄い人だと知ってたら、気楽には、話せなかったよー。まして、お茶に誘うなんて――』
本来なら、見習いの私が、気軽に声を掛けられるような相手ではないのだ。シルフィード業界って、物凄い縦社会なので。
『でも、風ちゃんらしいね。コミュ力が高いから、そういうことが出来るんだよ。いいなぁー』
『いやー、そういう問題じゃなくて、単に私が無知なだけで。一緒にいたシルフィードの友達には、あとで超怒られたもん』
お茶会が終わり、マリアさんが帰ったあと。ナギサちゃんに、滅茶苦茶、怒られた……。
『友達には「聖なる光」が来ること、言ってなかったんだ?』
『うん、知らなかったもん。普通の一般人だと思ってた』
『あははっ、きっとお友達も驚いだろうね』
『普段は、物凄く冷静な子なんだけど、めっちゃ驚いてたよ』
ナギサちゃんて、何でも前もって準備するタイプだから。突然の出来事に、意外と弱いんだよね。私は、何でもぶっつけ本番の性格だから、わりと平気なんだけど。
『私だって、そんな凄い人と急に会ったら、心臓止まっちゃうよ。で、どんな人だった?』
私の場合、お茶会の時は、あまり実感がわかなくて驚かなかった。でも、家に帰ってきて調べてから、すっごく冷や汗かいた。
『とにかく、凄く優しい人って印象かな。あと全然、欲がなくて、他の人のことばかり気遣ってる感じ』
『まさに、光のマリア様だね。でも、そんな凄い人と出会えて、風歌ちゃんラッキーだね』
『凄く勉強になったし、とても尊敬できる人だと思う。でも、今めっちゃ落ち込んでるんだ』
凄い人には、強いあこがれを持つ。それは、昔から変わらない。でも、あまりにも凄すぎる人を見ると、憧れの対象にはなり得ない。なぜなら、神のような存在で、全く手が届く気がしないからだ。
『え、何で?』
『だって、絶対、私には真似できないもん。あんなに無欲になれないし、そこまで奉仕できるかどうか』
もちろん、お客様に喜んで貰いたいとは、心から思っている。でも、ボランティアとかやったことないし、完全に無欲にはなれないよ。いつも、昇級やお金のことばかり考えてるし。私って、割と欲深いのかも――。
『私だって、絶対に無理だよそんなの。でも、風ちゃんはシスターじゃなくて、シルフィードを目指してるんでしょ?』
『まぁ、そうだけど』
『なら、関係ないよ。風ちゃんは、風ちゃんらしいシルフィードを目指せばいいじゃん。マリアさんとは、目指すものが違うんだから』
『うーむ、私らしいって、どんなんだろ?』
昔から、運動神経以外に取柄がないんだよね。走るのが得意って、シルフィードには関係ないし……。
『とても明るくて、元気なところかな』
『それって、シルフィードとして需要あるのかな?』
明るく元気。これは、小学校のころからずっと、通知表に書かれていたことだ。でも、これって、他に褒めるところがないから、書かれてる気もするんだよね。
『あるある、超需要あるよ! だって私は、風ちゃんのファン第一号だもん。人に元気を分けてあげられるって、凄い才能だと思うよ』
『そっかー、ありがとうユメちゃん。ファンのためにも頑張らないとね』
実際には、私のほうが、いつも元気づけられてる気がする。見習いの私を褒めてくれるのは、ユメちゃんだけだから。
『うん、頑張って。誰よりも、明るく元気なシルフィード・クイーンになってね』
『私まだ見習いだよ。流石にそれは、遠いなぁー』
1つ上の階級に昇級するのですら、かなり大変なことだ。『シルフィード・クイーン』になるためには、いったい、あとどれだけ勉強すればいいのだろうか?
『なれるなれる。なっちゃえば、こっちのもんだよ。風ちゃんがクイーンになれば、元気なシルフィードが、基本像になるよ』
『あははっ、それはいいね。じゃあクイーンになって、シルフィード業界を、もっと元気にしちゃおうかな』
『うん、なっちゃえ、なっちゃえー!』
こんな軽口が叩けるのは、相手がユメちゃんの時だけだ。もし、ナギサちゃんに、こんなこと言ったら『何甘いことを言ってるのよ!』と、怒られるに決まってる。でも、夢を持つのも、たまには大口叩くのも、悪いことじゃないと思う。
私だって、現実の厳しさは知ってるけど、それだけじゃ前に進めないもん。夢があるから頑張れるんだもんね。
その後も、ユメちゃんと、色んな世間話を続けた。たわいもない日常の話だけど、気兼ねなく何でも言えるので、心がとても軽くなった。ユメちゃんと話していると、何か学生時代に戻った気分になる。
いつもありがとね、ユメちゃん。私よりも凄い人たちが、上には一杯いるけど、比較したってしょうがないよね。無いものは無いんだし。これからも、私は私らしくやって行くよ。
よし、誰よりも明るく元気なシルフィードを目指して、頑張りまっしょい!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『私が言うのも何だけど凄く変なシルフィードを見つけた』
ほんっっっと痛々しいですねあんた!
ナギサちゃんには、いつも言われているけど、私はこの世界の常識がなさ過ぎる。こっちに来て、数ヶ月だから、正直、子供並みの知識しかないんだよね。
全く違う世界ではなく、似てる部分も多いので、生活に支障はなかった。でも、たまに、ぽっかり抜けている知識と直面する。マリアさんの件が、まさにそれだ。
この町の誰もが知っている、超有名人かつ、シルフィードの大先輩。にもかかわらず、ただの店員さんだと勘違いしていた。これは、さすがに勉強不足だったと、深く反省している。
自分が無知なだけなら、まだ構わない。でも、大先輩に、礼儀を失する態度だったのが、実に痛かった。マリアさんが、とても寛容な人だったから、良かったけど……。
そんな訳で、今夜は『聖なる光』のマリアさんについて、徹底的に勉強することにした。
スピでちょっと検索するだけで、大量の情報が出て来て、いかに凄い人なのか、すぐに分かった。また、至るところに『聖女』という言葉が使われていた。
過去の経歴を調べてみると、彼女は元々孤児だったらしい。赤ん坊のころ、教会の前に捨てられており、アルテナ教会の孤児院で育てられた。
そのため、物心つく前から、神の教えを受け、清廉潔白に育って行った。幼いころから、毎日、礼拝を欠かさず、奉仕活動にも参加していた。
シルフィードになったあとも、シスターの仕事は続けており、平日は会社でお客様に奉仕し、休日はボランティアで奉仕する。彼女は、自分のプライベートな時間を、ほとんど取っていなかったのだ。
そのため、今までの人生の全てを、奉仕活動にささげている。さらに、シルフィード時代、お給料のほぼ全額を、孤児院に寄付していた。
中でも、最も驚いたのが『次期グランド・エンプレスに、最も近い位置にいるシルフィード』と言われていたことだった。
なので、彼女が引退を表明した際は、大変な騒ぎになったらしい。『もし、目の病を患わなければ、確実にグランド・エンプレスになっていた』と、多くの人が評している。
次期グランド・エンプレス候補とまで言われた人なのだから、教会の理事に誘われたのも、当然のことだった。
私は調べていく過程で、次々に出て来る驚きの事実に、息をのんだ。私が想像していた凄さとは、スケールが違いすぎる。これほど偉大な人を、全く知らなかったなんて――。ナギサちゃんが、本気で怒るのも当然だ。
私は、マギコンから目を離すと、大きく息を吐きだす。マリアさんに対して、畏敬の念が湧いたのと同時に、ショックで落ち込んできた。
だって、どんなに頑張ったって、絶対に同じこと出来ないよ。あまりにも、人としての格が違いすぎるもん……。奉仕活動なんて、一度もしたことないし。そこまで自分を捨てて、他人のために、献身的にはなれない。
人に喜んで貰いたい気持ちはあるけど、私はやっぱり、自分が一番、大切だ。皆が彼女を『聖女』と呼ぶ理由が、よく分かった。
「遠いなぁ――あまりにも、遠すぎるよ。こんなに凄い人を越えないと、グランド・エンプレスには、なれないのかぁ……」
操縦技術さえ磨いていれば、どうにかなると思っていた、昔の浅はかな自分が恥ずかしい。
私は脱力して、机に突っ伏した。しばらく、そのままダラーっと伸びていると、マギコンからメッセージの着信音が鳴った。もっさり動いて確認すると、ユメちゃんからだ。私はガバッと起きて、急いでELを起動する。
『風ちゃん、起きてる?』
『うん、起きてるよー。今ちょっと調べものしてた』
時計を見ると、二十二時四十分。十九時ごろからやってたから、結構、長いこと調べていたようだ。
ちなみに、ユメちゃんは夜型のせいか、この時間帯は、テンション高めなんだよね。昼の会話の時と、全然テンションが違ったりする。
『勉強してたの?』
『んー、勉強というか、一般常識レベルのことを調べてたんだ。まだまだ、この世界のこと、知らなさ過ぎて』
『こっちに来たばかりなんだから、知らないことが多いのは当然だよ。風ちゃん、凄い頑張ってるし。これから、自然に覚えていくよ』
ユメちゃんは、いつだって私を励ましてくれる。こっちに来てから、初めてできた友達だし、彼女に支えられたお蔭で、今までやって来られたんだよね。
『まぁ、そうなんだけど。シルフィードの友達には、勉強不足だって、いつも怒られてるんだよね(汗)』
『厳しい友達だね』
『でも、言ってることは正論だし、心配してくれてるのは分かってるんだ。もうちょい、頑張らないとね』
ナギサちゃんは、ユメちゃんとは正反対で、物凄く厳しい。褒めてくれたこと無いし、歯に衣着せぬストレートな物言いだ。なので、心にグサッと来ることも、結構あった。
でも、凄く友達想いで、本気で心配してるから厳しいのは、私もよく理解している。優しさにも、色んな形があるってことだよね。
『やっぱり、シルフィードの人って厳しいの?』
『んー、人によるのかなぁ。優しい先輩シルフィードも多いし、ゆるく楽しくやっている人も結構いるよ。でも、上を目指す人は、かなり厳しい感じかな』
志が高く真剣なほど、厳しくなるものだよね。楽しくやってるだけの人と、本気で上を目指す人は、気構えが全く違う。
『風ちゃんも、上を目指してるんだよね? 確かグランド・エンプレスになるって』
『そのつもり……だったんだけどね。色々と知れば知るほど、自信が無くなって来てしまって――』
周りに凄い人ばかりいるから、最近、今一つ自信が持てなくなってしまった。
『えー、何で? 頑張ってよ風ちゃん! 私、風ちゃんが凄いシルフィードになるの、楽しみにしてるんだから』
『ありがとう、ユメちゃん。もちろん、これからも上を目指して、最高のシルフィードになるつもりだよ。私って諦めが悪いから』
私は、とにかく諦めが悪い。気合や根性も、誰にも負けない自信がある。だからこそ、家を飛び出し、単身こっちの世界に来たんだから。
でも、私だって落ち込む時は、ドーンと落ち込む。というか、結構、落ち込んでる回数は多い。最終的に、立ち直るからいいんだけど。こっちに来てから、上がったり下がったりが多かった。
『そっかー、なら良かった』
いつも、心配かけてゴメンね、ユメちゃん。
『ちなみに、ユメちゃんは『聖なる光』は知ってる?』
『うん。元シルフィード・クイーンの、マリア・リミュエールさんだよね?』
『やっぱり、知ってるよね。私、最近まで全然しらなくて……』
『この町の人なら、誰でも知ってると思うけど。でも、風ちゃんは、異世界から来たんだから、しょうがないよ。何かあったの?』
やっぱ、誰でも知ってるぐらい、有名なんだね。それを、現役シルフィードの私が、全く知らなかったとは――。
『実は、マリアさんと一緒に、お茶したんだけど。その時まで、そんな有名人だとは知らなくて……』
『えー、凄い!! あの光のマリアさんとお茶したの?!』
その反応を見るだけで、どれだけ凄い人かよく分かる。芸能人レベルの有名人だもんね。
『ちょっとしたキッカケで、知り合ってね。お茶に誘ったら、快くOKしてくれたので』
『やっぱ、風ちゃん凄いよ! あんな凄い人と知り合いになって、お茶まで誘っちゃうなんて』
いやいや、知らなかったから出来たわけで。いくら私でも、知ってたら、恐れ多くて、そんなこと出来ないよ……。そもそも、同じ会社のリリーシャさんですら、お茶に誘ったこと無いんだから。
『そんな凄い人だと知ってたら、気楽には、話せなかったよー。まして、お茶に誘うなんて――』
本来なら、見習いの私が、気軽に声を掛けられるような相手ではないのだ。シルフィード業界って、物凄い縦社会なので。
『でも、風ちゃんらしいね。コミュ力が高いから、そういうことが出来るんだよ。いいなぁー』
『いやー、そういう問題じゃなくて、単に私が無知なだけで。一緒にいたシルフィードの友達には、あとで超怒られたもん』
お茶会が終わり、マリアさんが帰ったあと。ナギサちゃんに、滅茶苦茶、怒られた……。
『友達には「聖なる光」が来ること、言ってなかったんだ?』
『うん、知らなかったもん。普通の一般人だと思ってた』
『あははっ、きっとお友達も驚いだろうね』
『普段は、物凄く冷静な子なんだけど、めっちゃ驚いてたよ』
ナギサちゃんて、何でも前もって準備するタイプだから。突然の出来事に、意外と弱いんだよね。私は、何でもぶっつけ本番の性格だから、わりと平気なんだけど。
『私だって、そんな凄い人と急に会ったら、心臓止まっちゃうよ。で、どんな人だった?』
私の場合、お茶会の時は、あまり実感がわかなくて驚かなかった。でも、家に帰ってきて調べてから、すっごく冷や汗かいた。
『とにかく、凄く優しい人って印象かな。あと全然、欲がなくて、他の人のことばかり気遣ってる感じ』
『まさに、光のマリア様だね。でも、そんな凄い人と出会えて、風歌ちゃんラッキーだね』
『凄く勉強になったし、とても尊敬できる人だと思う。でも、今めっちゃ落ち込んでるんだ』
凄い人には、強いあこがれを持つ。それは、昔から変わらない。でも、あまりにも凄すぎる人を見ると、憧れの対象にはなり得ない。なぜなら、神のような存在で、全く手が届く気がしないからだ。
『え、何で?』
『だって、絶対、私には真似できないもん。あんなに無欲になれないし、そこまで奉仕できるかどうか』
もちろん、お客様に喜んで貰いたいとは、心から思っている。でも、ボランティアとかやったことないし、完全に無欲にはなれないよ。いつも、昇級やお金のことばかり考えてるし。私って、割と欲深いのかも――。
『私だって、絶対に無理だよそんなの。でも、風ちゃんはシスターじゃなくて、シルフィードを目指してるんでしょ?』
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『なら、関係ないよ。風ちゃんは、風ちゃんらしいシルフィードを目指せばいいじゃん。マリアさんとは、目指すものが違うんだから』
『うーむ、私らしいって、どんなんだろ?』
昔から、運動神経以外に取柄がないんだよね。走るのが得意って、シルフィードには関係ないし……。
『とても明るくて、元気なところかな』
『それって、シルフィードとして需要あるのかな?』
明るく元気。これは、小学校のころからずっと、通知表に書かれていたことだ。でも、これって、他に褒めるところがないから、書かれてる気もするんだよね。
『あるある、超需要あるよ! だって私は、風ちゃんのファン第一号だもん。人に元気を分けてあげられるって、凄い才能だと思うよ』
『そっかー、ありがとうユメちゃん。ファンのためにも頑張らないとね』
実際には、私のほうが、いつも元気づけられてる気がする。見習いの私を褒めてくれるのは、ユメちゃんだけだから。
『うん、頑張って。誰よりも、明るく元気なシルフィード・クイーンになってね』
『私まだ見習いだよ。流石にそれは、遠いなぁー』
1つ上の階級に昇級するのですら、かなり大変なことだ。『シルフィード・クイーン』になるためには、いったい、あとどれだけ勉強すればいいのだろうか?
『なれるなれる。なっちゃえば、こっちのもんだよ。風ちゃんがクイーンになれば、元気なシルフィードが、基本像になるよ』
『あははっ、それはいいね。じゃあクイーンになって、シルフィード業界を、もっと元気にしちゃおうかな』
『うん、なっちゃえ、なっちゃえー!』
こんな軽口が叩けるのは、相手がユメちゃんの時だけだ。もし、ナギサちゃんに、こんなこと言ったら『何甘いことを言ってるのよ!』と、怒られるに決まってる。でも、夢を持つのも、たまには大口叩くのも、悪いことじゃないと思う。
私だって、現実の厳しさは知ってるけど、それだけじゃ前に進めないもん。夢があるから頑張れるんだもんね。
その後も、ユメちゃんと、色んな世間話を続けた。たわいもない日常の話だけど、気兼ねなく何でも言えるので、心がとても軽くなった。ユメちゃんと話していると、何か学生時代に戻った気分になる。
いつもありがとね、ユメちゃん。私よりも凄い人たちが、上には一杯いるけど、比較したってしょうがないよね。無いものは無いんだし。これからも、私は私らしくやって行くよ。
よし、誰よりも明るく元気なシルフィードを目指して、頑張りまっしょい!
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ほんっっっと痛々しいですねあんた!
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