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第2部 母と娘の関係
4-6私が言うのも何だけど凄く変なシルフィードを見つけた
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私は今〈新南区〉に来ていた。実はこの地区って、ほとんど来たことないんだよね。上空を飛ぶ機会は、たまにあるんだけど、直接、降りるのは初めてだった。
〈南地区〉のさらに南に位置し、とても長い橋でつながっていた。この橋は〈ドリーム・ブリッジ〉と呼ばれ、全長一キロもある。夜になるとライトアップされ、物凄く綺麗で、夜景の名所としても人気があった。
〈新南区〉は、最も新しくできた地区で、あらゆるリゾート施設が揃っている。遊園地・プール・カジノ・グルメタウン・飲み屋街・リゾートホテルなど。地元の人はもちろん、世界中から観光客が集まる、巨大な歓楽街だ。
とても楽しそうではあるんだけど、お金のかかる施設ばかりだし、この地区は、かなり物価が高い。いわゆる『観光地価格』だ。お茶だって、普段よく行く安いカフェの、倍以上のお値段はする。なので、私には全く無縁の場所だった。
それに、カジノや飲み屋街があるから、未成年の私には、来づらい場所なんだよね。シルフィードが案内するような場所じゃないと思っていたので、今までは、完全にスルーしていた。
でも、全く行ったことがないと、もし、お客様から要望があった場合はマズイよね。そんなわけで、今日はナギサちゃんが、案内してくれることになった。フィニーちゃんも、美味しいものを食べる目的で、一緒に来ている。
私たちは、町の中央にある、最も大きな通りの〈アクア・ストリート〉を歩いていた。通りは、ざわざわと賑やかで、物凄く混雑している。
〈南地区〉も賑わっているけど、それよりも、さらに人通りが多かった。気を抜くと、人の流れに飲み込まれてしまいそうだ。
私はこういう賑やかな場所は好きだけど、ナギサちゃんたちは、あまり好きではないようだった。ナギサちゃんは、やや不機嫌な顔をし、フィニーちゃんは、すでに疲れた表情を浮かべている。
まぁ〈グリュンノア〉って、静かでのんびりした場所が多いからね。たまに、こういうところに来ると、疲れちゃうのかも。
しかし、私の場合は、賑やかな所に来るとテンションが上がるので、意気揚々と進んで行った。人が一杯いて活気があるだけで、何か体の奥から、エネルギーが湧きだして来るんだよね。
あちこちの、お店や建物を眺めながら、ゆっくり進んで行くと、ふと不審な人物が目に入った。
何やら、周囲をキョロキョロ見回し、唐突に四つん這いになり、地面をジーッと見つめていた。制服を着ているので、シルフィードのようだ。でも、見たことのない腕章だった。
シルフィードなんだから、不審者……ってことはないよね? となると、何か探し物かな?
私は近付いて行き、
「大丈夫ですか?」
四つん這いになっている女の子に、そっと声を掛けた。
彼女は、私に気付くと立ち上がり、制服の乱れをサッと整えると、左手を顔に当てた。その指の隙間から、こちらを覗きこむと、
「クフフフッ、どうやら見つかってしまったようだな」
口元に薄っすらと笑みを浮かべて答える。
「いや、見つかるも何も、超目立ってますけど――」
先ほどから、通り掛かる人が皆、チラチラと怪訝な視線を向けていた。
「何だと?! 姿隠しの結界が、効いていなかったというのか? いや、そんなはずはない。我の結界術式は完璧だ! さては貴様、魔眼の持ち主だな?」
「えっ?! えーと……?」
何言ってるんだか、さっぱり分からない。でも、この世界って、魔法を使える人がいるんだよね? 魔法技術があるんだから、いても、おかしくはないけど。でも、実際に、魔法を使っている人なんて、今まで見たことがない。
「何をやってるのよ、風歌。行くわよ」
私が困惑していると、ナギサちゃんがやって来た。
「でも、この人が――結界やら魔眼やら、何かよく分からないことを……」
「頭のおかしなのは放っておいて、さっさと目的地に行くわよ」
言いながら、ナギサちゃんは私の腕を引っ張る。だが、
「だれが、頭のおかしなのだ! 我は高貴なる闇の支配者の血族、キラリス・ローランド。さらに〈アクア・リゾート〉所属の、超天才シルフィードだぞ!」
言い終えたあと、フッと口元をつり上げ、ドヤ顔をした。
「もしかして、有名な人なの?」
また、私が知らないだけかと思い、二人に尋ねるが、
「聞いたことないわよ。こんな馬鹿がシルフィードをやってるなんて、世も末ね」
「キラリン――聞いたことない」
二人ともあっさり答える。
「って、誰が馬鹿だ! ていうか、キラリンじゃなくて、キ・ラ・リ・ス!」
彼女は顔を真っ赤にして、甲高い声で反論した。
普通に話すと、とてもカワイイ女の子だ。
「キラリン……」
「キラリンのほうが呼びやすいわ」
「キラリンのほうが可愛いよね」
私たちは、完全に同調した。でも、三人の意見が合うなんて珍しい。
「むきーっ! そんなチョロイ名前で呼ぶんじゃない! 我は高貴な闇の血を引く者なんだぞ! 暗黒騎士キラリス、もしくは、キラリス様と呼んでよね」
まともに受け止めちゃいけない気がするので、聞かなかったことにする。
「ところで、何をしていたの? 探し物をしていたみたいだけど」
「フッ。まぁ、どうしても聴きたいというなら、特別に話さないでもないがな」
キラリスは両腕を組んで、偉そうに答えた。
「さっ、行きましょ」
「お腹すいた、なんか食べる」
ナギサちゃんとフィニーちゃんは、気にせず、さっさと歩いて行く。置いていかれては困るので、私もそのあとに続いた。
「って、待った待ったー!! まだ、話の途中でしょ? お願いだから、私の話を聴いてー!」
キラリスは、私たちの前に回り込むと、ウルウルした目で見つめて来る。
「何があったの? 助けが必要なら、分かるように普通に話して」
私が尋ねると、ナギサちゃんたちは、あからさまに嫌そうな表情を浮かべた。でも、このまま放っておくのも、かわいそうじゃない。同じシルフィードだし、ちょっと変だけど、悪い子ではなさそうだし。
「実は、とても大事な指輪を、落としてしまって――」
しゅんとした表情で彼女は答えた。
「どんな指輪?」
「青い石。ブルーナイトが付いている指輪」
「よし、じゃあ一緒に探してあげるよ」
「本当かっ! ありがとう、前世よりの我が魂の盟友よ!」
キラリスは、私の手をヒシっと握ってくる。
隣をチラリと見ると、二人は『何で受けたのよ』『メンドクサー』と言いたげな表情で、私を見てきた。その刺さるような視線、心が痛いからやめて……。
「四人で探せばすぐだから、ササッと見つけちゃおう」
言いながら、私は指輪を探し始めた。ナギサちゃんたちも、渋々動き始める。
しかし、人通りが多いうえに、道も広いので、一筋縄ではいかなかった。沢山の人の足が次々と行きかい、地面が思うように見えない。人の流れを避けるだけでも、一杯一杯だ。
キラリスは、そうとう必至なのか、四つん這いになって探しており、相変わらず周囲の視線を集めていた。私はあまり人目を気にしないほうだけど、さすがに、制服姿であれは無理――。
でも、あれだけ必死に探しているってことは、きっと物凄く大事な物なんだろうね。何とかして、見付けてあげないと。
黙々と探している内に、すでに、ニ十分以上が経過していた。この混雑状態の中で見つけるのは、かなり厳しいと思う。念のため、見つかったかを確認するため、私はキラリスの所に向かった。
私が声を掛けようとすると、
「ふぎゃっ!」
と悲鳴を上げ、キラリスは頭を抱えてしゃがみこんだ。
「って、何するんだ!! この馬鹿もの……が――」
彼女は振り向くと、青ざめた顔でゆっくり立ち上がった。
そこには、キラリスを険しい表情で睨みつける、仁王立ちの女性がいた。
「何やっているんだ、キラリス! 待ち合わせの時間に、三十分以上も遅刻して」
「げっ、ミラ先輩?! い、いや……これには、深いわけがありまして。その、大事な指輪を無くしてしまって。今みんなで、捜索中みたいな――」
キラリスは、しどろもどろに説明する。
「みんな?」
「あ、ほら、そこにいる人たちが、手伝ってくれて」
何事かと、ナギサちゃんたちも集まってきていた。
先輩と呼ばれた女性は、キラリスをキッと睨みつけると、容赦なく脳天に拳を叩きこんだ。
ゴスッという鈍い音と同時に、
「ぎゃーっ!!」
キラリスは悲鳴を上げ、頭を抱えて再びしゃがみこんだ。
「いったぁー……暴力反対っ! 馬鹿になったら、どうするんですか?」
「安心しろ。お前は元々馬鹿だから、それ以上は馬鹿にならん」
「超天才の私に向かって、なんてことを!」
「もう一発、いっとくか?」
涙目で反論するキラリスに、その女性は容赦なく言い放つ。
「いえ――結構です」
キラリスは目じりの涙をぬぐいながら、ゆっくり立ち上がった。
同じ腕章をつけているから、おそらく会社の先輩なんだと思う。それにしても、ただならぬ威圧感だ。これって、ノーラさんに匹敵するかも。
「うちの馬鹿が、ご迷惑をおかけして、大変申しわけなかった。あとで締めておくから、ご容赦願いたい」
「ええっ、しめるって……?!」
キラリスの顔が、思いっ切り青ざめる。
「あの、私たち別に、大したことしてませんし、好きで手伝っただけですから。彼女のことは、許してあげてください」
私は何とかフォローするが、
「いや、筋を通すのは大事だし、手間を取らせたのは事実なので。この件のお詫びは、いずれまた改めて」
左手でガシッとキラリスの頭を掴むと、強引に頭を下げさせた。
「す……すびばせんでした」
「では、我々は急ぎの用があるので、失礼する」
会釈をすると、彼女は踵を返し、颯爽と立ち去って行く。キラリスも、慌ててそのあとについて行った。
ひゃー、すっごく厳しい先輩だなぁ。でも、私はこういう体育会系のノリの人は、大好きだ。
私たち三人は、二人の姿が見えなくなるまで、呆然としながら見送った。突然の出来事で、何が何だか、状況よく呑み込めていない。
「疲れた――おなかもすいた」
「私も同感ね、どっと疲れたわ。どこかでお茶にしましょうか?」
「うん、そだね」
それにしても、本当に変わった子だったなぁ。今まで、色んな人を見てきたけど、ああいうタイプは、初めてだ。
私たちと同じ新人みたいだけど、ちゃんとシルフィードとして、やっていけるのかなぁ……?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『何も言われないほうがやる気が出るタイプもいるよね』
夢。それはやる気の源。
〈南地区〉のさらに南に位置し、とても長い橋でつながっていた。この橋は〈ドリーム・ブリッジ〉と呼ばれ、全長一キロもある。夜になるとライトアップされ、物凄く綺麗で、夜景の名所としても人気があった。
〈新南区〉は、最も新しくできた地区で、あらゆるリゾート施設が揃っている。遊園地・プール・カジノ・グルメタウン・飲み屋街・リゾートホテルなど。地元の人はもちろん、世界中から観光客が集まる、巨大な歓楽街だ。
とても楽しそうではあるんだけど、お金のかかる施設ばかりだし、この地区は、かなり物価が高い。いわゆる『観光地価格』だ。お茶だって、普段よく行く安いカフェの、倍以上のお値段はする。なので、私には全く無縁の場所だった。
それに、カジノや飲み屋街があるから、未成年の私には、来づらい場所なんだよね。シルフィードが案内するような場所じゃないと思っていたので、今までは、完全にスルーしていた。
でも、全く行ったことがないと、もし、お客様から要望があった場合はマズイよね。そんなわけで、今日はナギサちゃんが、案内してくれることになった。フィニーちゃんも、美味しいものを食べる目的で、一緒に来ている。
私たちは、町の中央にある、最も大きな通りの〈アクア・ストリート〉を歩いていた。通りは、ざわざわと賑やかで、物凄く混雑している。
〈南地区〉も賑わっているけど、それよりも、さらに人通りが多かった。気を抜くと、人の流れに飲み込まれてしまいそうだ。
私はこういう賑やかな場所は好きだけど、ナギサちゃんたちは、あまり好きではないようだった。ナギサちゃんは、やや不機嫌な顔をし、フィニーちゃんは、すでに疲れた表情を浮かべている。
まぁ〈グリュンノア〉って、静かでのんびりした場所が多いからね。たまに、こういうところに来ると、疲れちゃうのかも。
しかし、私の場合は、賑やかな所に来るとテンションが上がるので、意気揚々と進んで行った。人が一杯いて活気があるだけで、何か体の奥から、エネルギーが湧きだして来るんだよね。
あちこちの、お店や建物を眺めながら、ゆっくり進んで行くと、ふと不審な人物が目に入った。
何やら、周囲をキョロキョロ見回し、唐突に四つん這いになり、地面をジーッと見つめていた。制服を着ているので、シルフィードのようだ。でも、見たことのない腕章だった。
シルフィードなんだから、不審者……ってことはないよね? となると、何か探し物かな?
私は近付いて行き、
「大丈夫ですか?」
四つん這いになっている女の子に、そっと声を掛けた。
彼女は、私に気付くと立ち上がり、制服の乱れをサッと整えると、左手を顔に当てた。その指の隙間から、こちらを覗きこむと、
「クフフフッ、どうやら見つかってしまったようだな」
口元に薄っすらと笑みを浮かべて答える。
「いや、見つかるも何も、超目立ってますけど――」
先ほどから、通り掛かる人が皆、チラチラと怪訝な視線を向けていた。
「何だと?! 姿隠しの結界が、効いていなかったというのか? いや、そんなはずはない。我の結界術式は完璧だ! さては貴様、魔眼の持ち主だな?」
「えっ?! えーと……?」
何言ってるんだか、さっぱり分からない。でも、この世界って、魔法を使える人がいるんだよね? 魔法技術があるんだから、いても、おかしくはないけど。でも、実際に、魔法を使っている人なんて、今まで見たことがない。
「何をやってるのよ、風歌。行くわよ」
私が困惑していると、ナギサちゃんがやって来た。
「でも、この人が――結界やら魔眼やら、何かよく分からないことを……」
「頭のおかしなのは放っておいて、さっさと目的地に行くわよ」
言いながら、ナギサちゃんは私の腕を引っ張る。だが、
「だれが、頭のおかしなのだ! 我は高貴なる闇の支配者の血族、キラリス・ローランド。さらに〈アクア・リゾート〉所属の、超天才シルフィードだぞ!」
言い終えたあと、フッと口元をつり上げ、ドヤ顔をした。
「もしかして、有名な人なの?」
また、私が知らないだけかと思い、二人に尋ねるが、
「聞いたことないわよ。こんな馬鹿がシルフィードをやってるなんて、世も末ね」
「キラリン――聞いたことない」
二人ともあっさり答える。
「って、誰が馬鹿だ! ていうか、キラリンじゃなくて、キ・ラ・リ・ス!」
彼女は顔を真っ赤にして、甲高い声で反論した。
普通に話すと、とてもカワイイ女の子だ。
「キラリン……」
「キラリンのほうが呼びやすいわ」
「キラリンのほうが可愛いよね」
私たちは、完全に同調した。でも、三人の意見が合うなんて珍しい。
「むきーっ! そんなチョロイ名前で呼ぶんじゃない! 我は高貴な闇の血を引く者なんだぞ! 暗黒騎士キラリス、もしくは、キラリス様と呼んでよね」
まともに受け止めちゃいけない気がするので、聞かなかったことにする。
「ところで、何をしていたの? 探し物をしていたみたいだけど」
「フッ。まぁ、どうしても聴きたいというなら、特別に話さないでもないがな」
キラリスは両腕を組んで、偉そうに答えた。
「さっ、行きましょ」
「お腹すいた、なんか食べる」
ナギサちゃんとフィニーちゃんは、気にせず、さっさと歩いて行く。置いていかれては困るので、私もそのあとに続いた。
「って、待った待ったー!! まだ、話の途中でしょ? お願いだから、私の話を聴いてー!」
キラリスは、私たちの前に回り込むと、ウルウルした目で見つめて来る。
「何があったの? 助けが必要なら、分かるように普通に話して」
私が尋ねると、ナギサちゃんたちは、あからさまに嫌そうな表情を浮かべた。でも、このまま放っておくのも、かわいそうじゃない。同じシルフィードだし、ちょっと変だけど、悪い子ではなさそうだし。
「実は、とても大事な指輪を、落としてしまって――」
しゅんとした表情で彼女は答えた。
「どんな指輪?」
「青い石。ブルーナイトが付いている指輪」
「よし、じゃあ一緒に探してあげるよ」
「本当かっ! ありがとう、前世よりの我が魂の盟友よ!」
キラリスは、私の手をヒシっと握ってくる。
隣をチラリと見ると、二人は『何で受けたのよ』『メンドクサー』と言いたげな表情で、私を見てきた。その刺さるような視線、心が痛いからやめて……。
「四人で探せばすぐだから、ササッと見つけちゃおう」
言いながら、私は指輪を探し始めた。ナギサちゃんたちも、渋々動き始める。
しかし、人通りが多いうえに、道も広いので、一筋縄ではいかなかった。沢山の人の足が次々と行きかい、地面が思うように見えない。人の流れを避けるだけでも、一杯一杯だ。
キラリスは、そうとう必至なのか、四つん這いになって探しており、相変わらず周囲の視線を集めていた。私はあまり人目を気にしないほうだけど、さすがに、制服姿であれは無理――。
でも、あれだけ必死に探しているってことは、きっと物凄く大事な物なんだろうね。何とかして、見付けてあげないと。
黙々と探している内に、すでに、ニ十分以上が経過していた。この混雑状態の中で見つけるのは、かなり厳しいと思う。念のため、見つかったかを確認するため、私はキラリスの所に向かった。
私が声を掛けようとすると、
「ふぎゃっ!」
と悲鳴を上げ、キラリスは頭を抱えてしゃがみこんだ。
「って、何するんだ!! この馬鹿もの……が――」
彼女は振り向くと、青ざめた顔でゆっくり立ち上がった。
そこには、キラリスを険しい表情で睨みつける、仁王立ちの女性がいた。
「何やっているんだ、キラリス! 待ち合わせの時間に、三十分以上も遅刻して」
「げっ、ミラ先輩?! い、いや……これには、深いわけがありまして。その、大事な指輪を無くしてしまって。今みんなで、捜索中みたいな――」
キラリスは、しどろもどろに説明する。
「みんな?」
「あ、ほら、そこにいる人たちが、手伝ってくれて」
何事かと、ナギサちゃんたちも集まってきていた。
先輩と呼ばれた女性は、キラリスをキッと睨みつけると、容赦なく脳天に拳を叩きこんだ。
ゴスッという鈍い音と同時に、
「ぎゃーっ!!」
キラリスは悲鳴を上げ、頭を抱えて再びしゃがみこんだ。
「いったぁー……暴力反対っ! 馬鹿になったら、どうするんですか?」
「安心しろ。お前は元々馬鹿だから、それ以上は馬鹿にならん」
「超天才の私に向かって、なんてことを!」
「もう一発、いっとくか?」
涙目で反論するキラリスに、その女性は容赦なく言い放つ。
「いえ――結構です」
キラリスは目じりの涙をぬぐいながら、ゆっくり立ち上がった。
同じ腕章をつけているから、おそらく会社の先輩なんだと思う。それにしても、ただならぬ威圧感だ。これって、ノーラさんに匹敵するかも。
「うちの馬鹿が、ご迷惑をおかけして、大変申しわけなかった。あとで締めておくから、ご容赦願いたい」
「ええっ、しめるって……?!」
キラリスの顔が、思いっ切り青ざめる。
「あの、私たち別に、大したことしてませんし、好きで手伝っただけですから。彼女のことは、許してあげてください」
私は何とかフォローするが、
「いや、筋を通すのは大事だし、手間を取らせたのは事実なので。この件のお詫びは、いずれまた改めて」
左手でガシッとキラリスの頭を掴むと、強引に頭を下げさせた。
「す……すびばせんでした」
「では、我々は急ぎの用があるので、失礼する」
会釈をすると、彼女は踵を返し、颯爽と立ち去って行く。キラリスも、慌ててそのあとについて行った。
ひゃー、すっごく厳しい先輩だなぁ。でも、私はこういう体育会系のノリの人は、大好きだ。
私たち三人は、二人の姿が見えなくなるまで、呆然としながら見送った。突然の出来事で、何が何だか、状況よく呑み込めていない。
「疲れた――おなかもすいた」
「私も同感ね、どっと疲れたわ。どこかでお茶にしましょうか?」
「うん、そだね」
それにしても、本当に変わった子だったなぁ。今まで、色んな人を見てきたけど、ああいうタイプは、初めてだ。
私たちと同じ新人みたいだけど、ちゃんとシルフィードとして、やっていけるのかなぁ……?
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『何も言われないほうがやる気が出るタイプもいるよね』
夢。それはやる気の源。
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