私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第2部 母と娘の関係

2-2近くて遠く感じる実家で久しぶりに母との会話

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 水曜日。今日は〈ファースト・クラス〉の定休日だ。しかし、会社が休みとはいえ、私の行動は何も変わらない。朝六時に起き朝食を済ませると、身だしなみを整え、朝の散歩に出掛けた。

 今日は、事務や清掃、運送など、全ての業務がお休みなので、敷地内は、完全に静寂に包まれている。

 でも、私はこの静けさが大好きだ。一人で心を落ち着けるには丁度いい。早朝の爽やかな空気を吸いながら、敷地内をぐるりと一周する。いつもよりも、ゆっくり時間をかけて散歩してから、寮に戻った。

 部屋に着くと、ちょうど七時。今日は、九時五十分になったら外出するが、まだ時間はたっぷりある。私は机の前に座ると、マギコンを起動し、学習用ファイルを選択した。開いたのは、地理学の『グリュンノア観光名所』だ。

 観光都市として、行政府が力を入れて整備しているだけあって、観光名所が非常に多い。その由来や歴史、特徴や見どころなどを、全てチェックしていった。お客様を案内する際に、完璧に説明できるようにするためだ。

 ただ読むだけでなく、後日、実際に行ってみることも忘れないために、しっかりメモを取っておく。

 しばらく勉強をしていると、時間は八時十分。切りのよいところで終了して、キッチンに向かった。

 紅茶を用意すると、再び机に戻り、今日のニュースをチェックしていく。気になる話題を一通り確認すると、最後に天気予報と風予報を開いた。

「今日は、晴れのち曇りで微風。特に問題はなさそうね……」

 空を飛ばない日も、予報をチェックするのが習慣になっている。天気や風の具合で、その日の調子や気分が変わるからだ。私にとって、天気や風は『占い』に近いのかもしれない。

 全て見終わったところで、九時三分。まだ時間があるので、クローゼットから、はたきを持ってきた。机の上や窓枠などに、入念はたきを掛け、埃をとっていく。

 次に濡らした雑巾を持ってきて、机の上を拭いて行った。ついでに、窓と窓枠も拭いておく。最後に、掃除機を持って来て『無音モード』にして、床を掃除した。

『無音モード』は、『物質転送』でごみを取るため、音が出ない。『通常モード』より吸引力が小さく、マナ消費量も大きいが、まだ寝ている人のことも考慮し、静かに掃除をしていく。

 軽くやるつもりだったが、結局、隅から隅まで全て掃除してしまった。中途半端なのは嫌いなので、なかなか途中で止めらない。

 掃除が終わると、九時三十分。ちょうどいい頃合いだ。私は洗面所に向かうと、髪と制服を念入りに整えた。

 私は休日の外出時でも、制服で行動することが多い。身が引き締まるし〈ファースト・クラス〉の一員であることを、忘れないためだ。準備が終わると部屋に戻り、ティーカップを片手に、外を眺めて、少しだけ時間を潰す。 

 九時四十五分。玄関で靴に履き替えると、静かに部屋を出た。寮を出て会社の敷地を抜けると、目的地に向かう。

 今日はあまり遠くないので、徒歩で移動だ。普段は、エア・ドルフィンに乗りっぱなしなので、休日は、なるべく歩くようにしている。

 一度、十字路を左折すると、あとは直進するだけだ。やがて大きなマンションが見えてくる。会社から、徒歩十分も掛からない場所にある、私の実家だった。

 とても近いが、帰って来るのは、月に一、二回ぐらい。家に帰っても、誰もいないことが多いし、寮暮らしで特に不自由はないので、帰る理由がないからだ。

 マンションの入口をくぐって、すぐのところで、壁に設置された『魔力関知パネル』に掌をあてる。次に、ポケットから取り出したマギコンを、パネルの前にかざした。パネルが青く光った直後、自動ドアがゆっくり左右に開く。

 魔力関知のみの『シングルロック』が一般的だが、このマンションはセキュリティが徹底されていた。そのため、魔力関知に加え、個人情報の確認も行う『ダブルロック方式』だ。

 中に入ると警備員が立っており『おかえりなさい』と声を掛けられた。軽く会釈して通り過ぎると、フローターに向かう。操作パネルで『R』を選ぶと、扉が開いた。フローターに乗ると、スーッと上昇して行く。

 ちなみに、このマンションは十二階建てだが、私が向かうのは、その一つ上の屋上部分だ。屋上の半分が部屋になっており、あとの半分は空中庭園になっていた。

 ワンフロアを丸ごと占有しているので、かなりの広さがある。ただ、この大きさの部屋に一人でいるのは、居心地が悪い。こじんまりした寮の一人部屋のほうが、ずっと落ちつく。あまり帰って来ない理由の一つが、それだった。

 目的の階に着くと、フローターを降りて、まずはゲートを通過した。これは、空港などにも置かれている『金属感知ゲート』で、危険物の持ち込みが、すぐに分かる。危険物や不審者を感知すると、警報が鳴る仕組みになっていた。

 次に、扉の前にある円マークの中に立つと、全身の魔力スキャンが行われる。個人の確認が取れると、重い鉄の扉がスライドして開く。

 他にも至る所に、監視装置や魔力感知センサーが設置されており、国の重要施設並みのハイセキュリティが、このマンションの売りだ。そのせいか、政府の高官や大企業の社長などが、多く住んでいる。

 私は玄関でスリッパに履き替えると、
「ただいま、帰りました」
 誰もいない空間に向かって、小さな声で形式的な挨拶をした。

 いつも一人なのは、昔からなので、もう慣れている。とりあえず、自室に向かうと、制服をハンガーにかけ、動きやすい私服にサッと着替えた。

「さて、今日はキッチン周りの掃除をしようかしら」

 自室の掃除は、前回きた時にやったので、今日はキッチンを掃除する。掃除が終わったら昼食を済ませ、のんびり読書をしてから、夕方、寮に戻る予定だ。帰宅の理由は、ほぼ掃除をするためだった。

 私は髪を後ろで束ねると、颯爽と部屋を出た。天気の良いうちに終わらせて、庭でランチにしよう。そんなことを考えながら、ダイニングに向かうと、そこには予期せぬ人物がいた。

 ダイニングのテーブルに着き、マギコンで複数のモニターを開いて、資料作成をしているようだ。

「あら、帰っていたのね」
「お母様……今日は、仕事はお休みなのですか?」

 この時間に鉢合わせることなど、滅多にないので、思わず驚いてしまった。昔から、朝早くに家を出て、帰って来るのは夜遅くがほとんどだ。

「今日の講演会は、午後からだから、まだ時間があるわ。終わったあとは、懇親会があるから、帰りは遅くなると思うけど」
「そうですか」

 特に何の感情もなく、少し離れた距離で、淡々とした事務的な会話が進む。これが、私と母の、いつも通りの距離感だ。

 私が次の言葉に迷っていると、母のほうから声を掛けてきた。

「そんなところで立っていないで、座ったら?」
「いえ、これからキッチンの掃除をしようと、思っていましたので」 

「掃除なら、業者に頼めばいいでしょ? お茶もあるから、座りなさい」
「はい」

 私は母には逆らわない。いや、逆らえないのだ。目上の者の言葉には、絶対に従う。これが我が家のルールであり、子供のころから、ずっと言って聴かされていた。

 ただ、これに関しては、特に疑問に思ったことはない。母の言葉は、いつだって正しいからだ。

 私が席に着くと、母はお茶を入れたティーカップを、静かに差し出してきた。

「仕事はどうなの?」
「全て滞りなく、こなしています。規律ある〈ファースト・クラス〉は、私には合っていると思います」

 私は背筋をまっすぐに伸ばして、はきはきと答える。

「それは良かったわ。定期考査でも、毎回一位を取っているようね」
「はい――。でも、どうしてそれを?」

 母は、あまり深くは関わってこない。学生時代も、特に成績について訊かれたことはなかった。もっとも、常に学年首位だったのだが。興味がないのか、信頼しているのか、どちらなのかは、よく分からない。

「先日、とある会合で〈ファースト・クラス〉の社長さんと、お会いする機会があったの。そこで、あなたの話も少し出たのよ」
「そうですか」

 母は現役時代、とても有名な人気シルフィードだった。加えて、現在はシルフィード協会の理事を務めているので、非常に顔が広い。なので、この業界のことは、何でも耳に入って来る。

 ただ、いつも忙しいので、調べたのではなく、偶然、耳に入っただけだろう。どんな時でも、仕事が最優先な人だ。

「同期の子たちはどうなの?」
「まだ、見習いなのでよく分かりませんが、皆、真剣に取り組んでいます。昇級後、活躍する人も多いかと思います」

「そうではなくて、交友関係の話よ。しっかり、親交は深まったのかしら?」
「適度な関係を保っています。仕事と学業が優先ですので、今はそちらに専念しています」

 母は軽くため息をついたあと、お茶を口にする。

「シルフィードにとって、人間関係はとても大切よ。お客様はもちろん、同業者ともね。会社の友人は、いないのかしら?」
「それは……他社の友人ならいますが」

 私は少し口ごもりながら答えた。会社の同期とは、あまり関わりを持っていないからだ。成績さえ良ければ、慣れ合う必要はないと思う。どうせ、一人前になれば競い合う、ライバルなのだから――。

「あら、他社のシルフィードと交流を持つとは、素晴らしいことね。どんな方かしら?」

「一人は〈ホワイト・ウイング〉の新人で、マイアからやって来た子です。もう一人は〈ウィンドミル〉の新人で、カリバーン家の一員です」

 今のところ、シルフィードで関わりがあるのは、この二人しか思い浮かばない。

「随分と、凄い友人ね。しかも、二人とも一流企業に所属。あなたが、他社の人と積極的に交流を持つとは、珍しいわね。どうやって、知り合ったのかしら?」

 確かに、肩書だけ見れば、とても立派だ。ただ、あの二人を見たら、母はきっと驚くだろう。一人は全く無知など素人。もう一人は、やる気がなく礼儀知らず。あまり深くは、話さないほうがいいだろう。

「練習飛行中に、偶然、出会いました。特に、交流の努力をしたわけでは――」
「出会いの九割は、偶然によるもの。でも、一生に一度の、偶然の出会いもあるのだから、友人は大切になさい」

「はい、肝に銘じておきます」
 実際、二人とは良好な関係だと思う。

 ただ、他社の人間と、ここまで深く付き合うつもりはなかった。しかし、風歌がやたらと連絡してくるうえに、フィニーツァもいつの間にか、一緒にいるのが当たり前になっていた。

「それにしても〈ホワイト・ウイング〉が再開していたとは、知らなかったわ」
 
「今は、リリーシャさんと、新しく入った風歌の二人で、営業しているようです。彼女が入社したのが、今年の三月末らしいので、ちょうどその頃に、再開したのだと思います」

 私も、風歌に会うまでは、もう閉業してしまったものだと思っていた。

「最悪、会社を閉めてしまうかと思っていたので、とても喜ばしいわ。あれは、この町全ての人が衝撃を受けた、とても痛ましい事件だったから」
「そうですね……」 

 風歌は、あの出来事を、どう考えているのだろうか? それより、ずっと休業していた会社に、なぜ入社できたのだろうか? そちらのほうが、大きな謎だ。

「他社のシルフィードとの交流は、とても良いことだけれど。自社内の人間関係は、それ以上に大切よ。特に、同期との交友関係はね」

「社内では、家柄や人脈などを、考慮して付き合っている人が、多いように感じます。私は、そういう利害関係での付き合いは、好きではありませんので」

 人の力を利用するつもりがない代わりに、利用されるのもお断りだ。そもそも、利害関係で付き合うのが、友人と言えるのだろうか? 姉妹関係は、多少の利害はからんでも、しょうがないと思うが――。

 それに、お世辞を言ったり、媚びたりするのは、私の性に合わない。だから、つまらない連中と、仲良くするつもりは全くなかった。

 風歌やフィニーツァは、色々と問題はあるものの、言いたいことは遠慮なく言える。それに、二人とも、利害関係には無関心な性格なので、社内の人間よりも付き合いやすかった。

「人脈はシルフィードにとって、非常に強力な武器よ。それを考慮して人付き合いするのは、至って当然だわ。一人前になったあとも、仕事のアドバイスや助力、昇級などの時の推薦。誰もが、それを今から考えているのでしょう」

「でも、私は自分の実力で、上に行きたいのです。他人の力を期待するのは、何か違う気がしますので」

 母の現役時代の二つ名は『白金の薔薇』プラチナローズだ。歴代の中で『最も高潔なシルフィード』と評され、毅然とした態度と、研ぎ澄まされた美しさは、多くの人を魅了した。

 あまりにも、完璧で隙がないことから『全能の女神』や『完璧な才女』とも言われ、私の目指すシルフィード像は、まさにそれだった。

「人脈も、立派な実力の一つ。私がここまでやって来れたのも、多くの仲間や人脈があったからこそよ。他社の友人も大事だけれど、まずは社内の人と親交を深めなさい。今は関係なくても、いずれ必要になる時が来るわ」

「……はい、お母様」 

 今一つ納得は行かないが、母が言うことは正しいのだろう。今までだって、ずっとそうだったから。でも私は、何でも一人で出来る、母のような強い女性になりたいのだ――。

 母は視線を空中のモニターに移すと、作業を再開した。それっきり会話はなかった。昔はもっと、色々話していた気がするが、どう話していたのかは、全く思い出せない。

 私は席を立つと、静かに部屋に戻るのだった……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『いくらなんでも突っ込みどころが多過ぎよ』

 じゃあ無限じゃないじゃーんっていうツッコミはおいといて
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