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第1部 家出して異世界へ
5-8イベント最後の嬉しいサプライズに思わずほっこり
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『魔法祭』の七日目。最初は長く感じたお祭りも、何だかんだで、あっという間に最終日に。色んな経験や学びがあり、本当に充実した、素敵な一週間だった。
『シルフィード・パレード』には、二回とも参加。『七日参り』も七日間、全て回り終えた。屋台の料理も、一杯食べまくって、おなかも心も大満足だった。
でも、これだけ楽しめたのは、ナギサちゃんとフィニーちゃんが、ずっと一緒にいてくれたからだ。やっぱり、友達と参加するイベントって、最高に楽しいよね。
単身、見知らぬ世界に来た私にとって、二人は何ものにも代えがたい、大事な宝物だった。この一週間で、さらに友情が深まった気がする。
私たち三人は、無事に最終日の『七日参り』を終え、今はレストランのテラス席で、のんびりと夕食を楽しんでいた。周りも、沢山の人たちで、大いに賑わっている。
今日は『後夜祭』なので、どこのお店も満員だった。『前夜祭』で始まり『後夜祭』で終わるのが〈グリュンノア〉の、お祭りのルールだ。本当に、この町の人たちは、お祭りが大好きなんだよね。
今いるのは、前夜祭の時と同じ〈東地区〉にある、イタリアン・レストラン〈アクアマリン〉だ。前夜祭と後夜祭の、両方セットで、予約しておいたのだ。
同じ店のほうが楽だし、何といっても、ここは安くて美味しいからね。それに、普段みんなで集まる時も、よくこのお店を使っているので、居心地がいい。そういえば、初めての女子会も、ここだったよね。
食後のお茶をしながら、お祭りでの出来事や、世間話で盛り上がる。すると、私のマギコンから、コール音が鳴った。
「ちょっと、ゴメンね。リリーシャさんからだ……」
私は、立ち上がって席を離れると、受信画面を開いた。
「風歌ちゃん、こんばんは。今、大丈夫かしら?」
空中モニターに、リリーシャさんの顔が映る。まだ、会社にいるようだ。
「はい、ちょうど食後のお茶をしながら、まったりしてたところです。何か、お仕事ですか?」
「いえ、仕事ではないのだけれど。あとで、会社に来てくれるかしら。今お友達も、一緒にいるの?」
いつも通り、リリーシャさんは、穏やかな表情でやんわりと話す。
「ナギサちゃんとフィニーちゃんが、一緒です」
「なら、あとで三人で、一緒に来てちょうだい。それでは、またあとでね」
リリーシャさんは、ニッコリ微笑むと、通信は終わった。
うーん、今から会社に来るようにって、何だろ? 私、何かポカしちゃったかな? でも、仕事じゃないって、言ってたし。三人、一緒だからなぁ――。
「仕事の話?」
私が席に戻ると、ナギサちゃんが声を掛けてきた。
「仕事じゃないみたいだけど。なんか、三人で会社に来るようにって」
「何かの、お手伝いかしら?」
「さぁ、それが、よく分からないんだよねぇ。あとでいいらしいから、急ぎでは、ないみたいだけど」
色々考えてみたけど、やっぱり、思い当たることがなかった。いつもなら、ハッキリ要件を、言うはずなんだけどなぁ……。
「でも、行くなら、急いだ方がいいと思うわよ」
ナギサちゃんは、フィニーちゃんに視線を向けた。
すると、いつにも増して眠そうな表情で、今にも寝てしまいそうだった。そういえば、フィニーちゃんって、寝るの早いって、言ってた気がする。
「じゃ、今から行こっか?」
「そうね。リリーシャさんを、お待たせするのも失礼だし」
私は、ウトウトしているフィニーちゃんを、ゆっくり立ち上がらせる。その間に、ナギサちゃんが、ササッと会計を、済ませてくれた。流石はナギサちゃん、手際がいい。
店を出ると、一路〈ホワイト・ウイング〉に向かい、歩いて行く。今日一杯は『飛行規制』があるので、歩かなければならない。
といっても、店と同じ〈東地区〉なので、徒歩で十分ぐらいだ。食後の散歩には、ちょうどいい距離だよね。歩いていると、お祭りの余韻も楽しめるし。
******
三人揃って〈ホワイト・ウイング〉に到着すると、リリーシャさんは、事務所のマギコンで、仕事中だった。
そういえば、私はここ一週間、朝の手伝い以外は、ずっと『魔法祭』に参加していた。だから、仕事は全部、リリーシャさんに、任せっきりだったんだよね。自分だけ楽しんじゃって、物凄く申しわけない……。
「あら、早かったのね。お帰りなさい」
リリーシャさんは立ち上がると、笑顔で迎えてくれた。
「ただいま、戻りました」
「お仕事中にお邪魔して、大変、申し訳ありません」
「こん……ばんわ」
三人それぞれに、挨拶をする。
「今日の分の仕事は、もう終わっているから、気にしないで。それより、急に呼び出してしまって、ごめんなさいね」
「えーと、何かあったんですか?」
「実は、みんなに……」
リリーシャさんの声を、遮るかのように、入口のほうから、聞き覚えのある声が響いてきた。
「やぁ、リリーはいるかい?」
このよく通る声は、ツバサさんだ。
「あら、ちょうど良かったわ」
「いやー、仕事のあとの打ち上げに、捕まっちゃって。中々抜けられなくてさー」
ツバサさんは、軍服のような制服を着ている。何ていうか、宝塚の人が着てるみたいな服。これって、お祭りの仮装なのかな? でも、超カッコよくて、すっごく似合ってる。
「ツバサさん、お仕事お疲れ様です」
「こんばんは、風歌ちゃん。お祭りは楽しめたかい?」
「お蔭様で、とっても楽しかったです。パレードの時は、ありがとうございました。物凄いコントロールでしたね」
あれだけの大観衆の中で、狂いなくピタリと、狙った場所に投げるコントロールは、神業的だった。
「学生時代は、野球をやってたからね」
「おぉー、どうりで、切れのある投げ方だった訳ですね」
私とツバサさんで、盛り上がっていると、
「どうして風歌が、ツバサお姉様と、仲いいのよ?」
ナギサちゃんは、肘で私をつつき、小声で話し掛けてきた。
「だってツバサさん、リリーシャさんに会いに、たまにうちの会社に来るし。ナギサちゃんは、同じ会社だから、仲いいんじゃないの?」
私も小声で返す。
「擦れ違ったりとかは、よくあるけど。挨拶しか、したことないわよ……。うちの会社は、ここと違って、そんな気軽に、先輩には接したりできないの」
うーん、そうなのかなぁ? ツバサさんって、そんなの気にするような人じゃ、ないと思うけど。物凄く、大らかな性格だし。
「やぁ、うちの子も来てたんだね。ナギサちゃんも、お祭りは楽しめたかい?」
私たちのやり取りを見ていた、ツバサさんが、声を掛けてきた。
「は、はい。楽しめた――というか、とても勉強になりました。その、なぜ、私の名前を、ご存じなんですか?」
ナギサちゃんにしては珍しく、緊張しながら話している。誰に対しても、物怖じしないのにね。
「そりゃ、同じ会社の子の名前ぐらい、覚えてるさ。君は、特に目立つからね」
「えっ? 特に目立つことは、した覚えがありませんが……」
「今年、入った子の中では、君がダントツで可愛いからね。それに、皆がやりたがらない仕事も、いつも率先して、やってるでしょ?」
ツバサさんは、サラッと言い放つ。
ナギサちゃんは、顔を真っ赤にして、固まっていた。おそらく、後半部分は、聞こえてないんじゃないかなぁ。
ナギサちゃんは、褒められるのが苦手だし。ツバサさんみたいな、カッコイイ先輩に『可愛い』なんて言われたら、固っても、しょうがないよねぇ……。
「ところで、みんなで集まって、何かあるんですか?」
本題をまだ知らないので、リリーシャさんに訊いてみた。
「みんな、こちらに来てくれるかしら」
リリーシャさんは、優しい笑顔を浮かべると、奥のダイニング・キッチンに入っていく。
皆で、ゾロゾロついていくと、テーブルには、特大サイズの、ホールケーキが置いてあった。皆の口から『おぉー!』と、感嘆の声が漏れる。
とても綺麗なデコレーションで、側面には、生クリームで、白い翼のマークが、いくつも描かれていた。中央には、砂糖菓子の、シルフィード像も立っている。
つい先ほどまで、今にも寝てしまいそうな、表情をしていたフィニーちゃんも、キラキラと目を輝かせていた。普段、難しそうな顔ばかりの、ナギサちゃんも、表情が柔らかくなっている。
やっぱり、甘いものは正義だよね。一瞬で、心を鷲掴みにし、みんなを笑顔にしてしまう。私も甘いものは、超大好きなので、テンションが一気に急上昇する。
「リリーの作るケーキは、絶品だからなぁ。祭の締めとしては、最高だね」
「これって、リリーシャさんが作ったんですか?! まるで、プロが作ったみたいじゃないですか!」
手の込み方と完成度から、どう見ても、素人の作ったケーキには見えない。間違いなく、お店に置いてあるレベルだ。
「アリーシャさんは、お菓子作りが趣味でね。実家が、洋菓子店だったから。シルフィードにならなけらば、店を継いでたんじゃないかな? リリーのお菓子作りの腕前は、アリーシャさん譲りだね」
「へぇーー。って、そうだったんですか?!」
ツバサさんの説明に、私は驚きの声を上げた。今明かされる、意外な真実。伝説の『グランド・エンプレス』が、洋菓子店の娘だったとは……。
「まだ、母には、遠く及ばないけれどね」
リリーシャさんは微笑みながら、みんなのお茶を淹れていく。
「あ、お茶は私が淹れます」
「大丈夫。それよりも、みんな座ってちょうだい。あと、ケーキの切り分けは、ツバサちゃん、よろしくね」
「任せといて。僕は、お菓子は作れないけど。ケーキの切り分けは、凄く得意なんだよね」
ツバサさんは、自信ありげな表情で、ケーキナイフを手にすると、指先でクルクルと回して見せる。
相変わらず、リリーシャさんの手際がいいので、私の出る幕はなさそうだ。大人しく、席に着くことにする。
ツバサさんは、急に真剣な表情になると、スーッとケーキに切れ目を入れた。途中、何度かケーキを回転させ、綺麗に切り分けていく。
切り分けられられたケーキは、寸分たがわず、正確に五等分されていた。六等分だって難しいのに、五等分でこの精度とは……。
「滅茶苦茶、綺麗に等分されてますね。凄いです!」
あまりの正確さに、思わず見とれてしまった。
「ケーキの切り分けだけは、子供のころから得意なんだよね。子供って、大きさが違うと、喧嘩になるでしょ? うちは、五人兄妹で、男が四人もいたから。そこんとこ、超重要でね」
なるほど――。ツバサさんが、少し男っぽいのって、男兄弟が多かったからなんだね。
お茶とケーキが行きわたると、
「じゃあ、食べましょうか。一週間の『魔法祭』お疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
みんなで労をねぎらい合い、さっそくケーキを食べ始めた。
「うーん、超美味しいです! 美味し過ぎますよ、リリーシャさん!!」
甘いものが大好きな私には、最高のご褒美だった。
「本当に、美味しいです」
「やっぱり、リリーのケーキが一番だね。でも、これを食べると、お店のケーキが、食べれなくなるんだよなぁ」
ナギサちゃんもツバサさんも、大満足のようだ。
フィニーちゃんは、黙々と食べていた。だが、その目の輝きと集中力で、いかに美味しいかは、見ていれば伝わってくる。
このあと、二時間ほど、皆でケーキを食べながら、この一週間の思い出話に、花を咲かせた。毎日がとても楽しかったけど、この時間が、今までの中で一番かも。
尊敬する先輩や、大好きな友人と過ごす、大切なひと時。これから先も、宝石のように、素敵な思い出として、永遠に忘れないと思う。
来年も、そのまた来年も、このメンバーで、ワイワイ楽しめたらいいなぁー……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回 第1部・最終話――
『楽しいお祭りの後にやって来たものは……』
銀河の歴史がまた1ページ
『シルフィード・パレード』には、二回とも参加。『七日参り』も七日間、全て回り終えた。屋台の料理も、一杯食べまくって、おなかも心も大満足だった。
でも、これだけ楽しめたのは、ナギサちゃんとフィニーちゃんが、ずっと一緒にいてくれたからだ。やっぱり、友達と参加するイベントって、最高に楽しいよね。
単身、見知らぬ世界に来た私にとって、二人は何ものにも代えがたい、大事な宝物だった。この一週間で、さらに友情が深まった気がする。
私たち三人は、無事に最終日の『七日参り』を終え、今はレストランのテラス席で、のんびりと夕食を楽しんでいた。周りも、沢山の人たちで、大いに賑わっている。
今日は『後夜祭』なので、どこのお店も満員だった。『前夜祭』で始まり『後夜祭』で終わるのが〈グリュンノア〉の、お祭りのルールだ。本当に、この町の人たちは、お祭りが大好きなんだよね。
今いるのは、前夜祭の時と同じ〈東地区〉にある、イタリアン・レストラン〈アクアマリン〉だ。前夜祭と後夜祭の、両方セットで、予約しておいたのだ。
同じ店のほうが楽だし、何といっても、ここは安くて美味しいからね。それに、普段みんなで集まる時も、よくこのお店を使っているので、居心地がいい。そういえば、初めての女子会も、ここだったよね。
食後のお茶をしながら、お祭りでの出来事や、世間話で盛り上がる。すると、私のマギコンから、コール音が鳴った。
「ちょっと、ゴメンね。リリーシャさんからだ……」
私は、立ち上がって席を離れると、受信画面を開いた。
「風歌ちゃん、こんばんは。今、大丈夫かしら?」
空中モニターに、リリーシャさんの顔が映る。まだ、会社にいるようだ。
「はい、ちょうど食後のお茶をしながら、まったりしてたところです。何か、お仕事ですか?」
「いえ、仕事ではないのだけれど。あとで、会社に来てくれるかしら。今お友達も、一緒にいるの?」
いつも通り、リリーシャさんは、穏やかな表情でやんわりと話す。
「ナギサちゃんとフィニーちゃんが、一緒です」
「なら、あとで三人で、一緒に来てちょうだい。それでは、またあとでね」
リリーシャさんは、ニッコリ微笑むと、通信は終わった。
うーん、今から会社に来るようにって、何だろ? 私、何かポカしちゃったかな? でも、仕事じゃないって、言ってたし。三人、一緒だからなぁ――。
「仕事の話?」
私が席に戻ると、ナギサちゃんが声を掛けてきた。
「仕事じゃないみたいだけど。なんか、三人で会社に来るようにって」
「何かの、お手伝いかしら?」
「さぁ、それが、よく分からないんだよねぇ。あとでいいらしいから、急ぎでは、ないみたいだけど」
色々考えてみたけど、やっぱり、思い当たることがなかった。いつもなら、ハッキリ要件を、言うはずなんだけどなぁ……。
「でも、行くなら、急いだ方がいいと思うわよ」
ナギサちゃんは、フィニーちゃんに視線を向けた。
すると、いつにも増して眠そうな表情で、今にも寝てしまいそうだった。そういえば、フィニーちゃんって、寝るの早いって、言ってた気がする。
「じゃ、今から行こっか?」
「そうね。リリーシャさんを、お待たせするのも失礼だし」
私は、ウトウトしているフィニーちゃんを、ゆっくり立ち上がらせる。その間に、ナギサちゃんが、ササッと会計を、済ませてくれた。流石はナギサちゃん、手際がいい。
店を出ると、一路〈ホワイト・ウイング〉に向かい、歩いて行く。今日一杯は『飛行規制』があるので、歩かなければならない。
といっても、店と同じ〈東地区〉なので、徒歩で十分ぐらいだ。食後の散歩には、ちょうどいい距離だよね。歩いていると、お祭りの余韻も楽しめるし。
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三人揃って〈ホワイト・ウイング〉に到着すると、リリーシャさんは、事務所のマギコンで、仕事中だった。
そういえば、私はここ一週間、朝の手伝い以外は、ずっと『魔法祭』に参加していた。だから、仕事は全部、リリーシャさんに、任せっきりだったんだよね。自分だけ楽しんじゃって、物凄く申しわけない……。
「あら、早かったのね。お帰りなさい」
リリーシャさんは立ち上がると、笑顔で迎えてくれた。
「ただいま、戻りました」
「お仕事中にお邪魔して、大変、申し訳ありません」
「こん……ばんわ」
三人それぞれに、挨拶をする。
「今日の分の仕事は、もう終わっているから、気にしないで。それより、急に呼び出してしまって、ごめんなさいね」
「えーと、何かあったんですか?」
「実は、みんなに……」
リリーシャさんの声を、遮るかのように、入口のほうから、聞き覚えのある声が響いてきた。
「やぁ、リリーはいるかい?」
このよく通る声は、ツバサさんだ。
「あら、ちょうど良かったわ」
「いやー、仕事のあとの打ち上げに、捕まっちゃって。中々抜けられなくてさー」
ツバサさんは、軍服のような制服を着ている。何ていうか、宝塚の人が着てるみたいな服。これって、お祭りの仮装なのかな? でも、超カッコよくて、すっごく似合ってる。
「ツバサさん、お仕事お疲れ様です」
「こんばんは、風歌ちゃん。お祭りは楽しめたかい?」
「お蔭様で、とっても楽しかったです。パレードの時は、ありがとうございました。物凄いコントロールでしたね」
あれだけの大観衆の中で、狂いなくピタリと、狙った場所に投げるコントロールは、神業的だった。
「学生時代は、野球をやってたからね」
「おぉー、どうりで、切れのある投げ方だった訳ですね」
私とツバサさんで、盛り上がっていると、
「どうして風歌が、ツバサお姉様と、仲いいのよ?」
ナギサちゃんは、肘で私をつつき、小声で話し掛けてきた。
「だってツバサさん、リリーシャさんに会いに、たまにうちの会社に来るし。ナギサちゃんは、同じ会社だから、仲いいんじゃないの?」
私も小声で返す。
「擦れ違ったりとかは、よくあるけど。挨拶しか、したことないわよ……。うちの会社は、ここと違って、そんな気軽に、先輩には接したりできないの」
うーん、そうなのかなぁ? ツバサさんって、そんなの気にするような人じゃ、ないと思うけど。物凄く、大らかな性格だし。
「やぁ、うちの子も来てたんだね。ナギサちゃんも、お祭りは楽しめたかい?」
私たちのやり取りを見ていた、ツバサさんが、声を掛けてきた。
「は、はい。楽しめた――というか、とても勉強になりました。その、なぜ、私の名前を、ご存じなんですか?」
ナギサちゃんにしては珍しく、緊張しながら話している。誰に対しても、物怖じしないのにね。
「そりゃ、同じ会社の子の名前ぐらい、覚えてるさ。君は、特に目立つからね」
「えっ? 特に目立つことは、した覚えがありませんが……」
「今年、入った子の中では、君がダントツで可愛いからね。それに、皆がやりたがらない仕事も、いつも率先して、やってるでしょ?」
ツバサさんは、サラッと言い放つ。
ナギサちゃんは、顔を真っ赤にして、固まっていた。おそらく、後半部分は、聞こえてないんじゃないかなぁ。
ナギサちゃんは、褒められるのが苦手だし。ツバサさんみたいな、カッコイイ先輩に『可愛い』なんて言われたら、固っても、しょうがないよねぇ……。
「ところで、みんなで集まって、何かあるんですか?」
本題をまだ知らないので、リリーシャさんに訊いてみた。
「みんな、こちらに来てくれるかしら」
リリーシャさんは、優しい笑顔を浮かべると、奥のダイニング・キッチンに入っていく。
皆で、ゾロゾロついていくと、テーブルには、特大サイズの、ホールケーキが置いてあった。皆の口から『おぉー!』と、感嘆の声が漏れる。
とても綺麗なデコレーションで、側面には、生クリームで、白い翼のマークが、いくつも描かれていた。中央には、砂糖菓子の、シルフィード像も立っている。
つい先ほどまで、今にも寝てしまいそうな、表情をしていたフィニーちゃんも、キラキラと目を輝かせていた。普段、難しそうな顔ばかりの、ナギサちゃんも、表情が柔らかくなっている。
やっぱり、甘いものは正義だよね。一瞬で、心を鷲掴みにし、みんなを笑顔にしてしまう。私も甘いものは、超大好きなので、テンションが一気に急上昇する。
「リリーの作るケーキは、絶品だからなぁ。祭の締めとしては、最高だね」
「これって、リリーシャさんが作ったんですか?! まるで、プロが作ったみたいじゃないですか!」
手の込み方と完成度から、どう見ても、素人の作ったケーキには見えない。間違いなく、お店に置いてあるレベルだ。
「アリーシャさんは、お菓子作りが趣味でね。実家が、洋菓子店だったから。シルフィードにならなけらば、店を継いでたんじゃないかな? リリーのお菓子作りの腕前は、アリーシャさん譲りだね」
「へぇーー。って、そうだったんですか?!」
ツバサさんの説明に、私は驚きの声を上げた。今明かされる、意外な真実。伝説の『グランド・エンプレス』が、洋菓子店の娘だったとは……。
「まだ、母には、遠く及ばないけれどね」
リリーシャさんは微笑みながら、みんなのお茶を淹れていく。
「あ、お茶は私が淹れます」
「大丈夫。それよりも、みんな座ってちょうだい。あと、ケーキの切り分けは、ツバサちゃん、よろしくね」
「任せといて。僕は、お菓子は作れないけど。ケーキの切り分けは、凄く得意なんだよね」
ツバサさんは、自信ありげな表情で、ケーキナイフを手にすると、指先でクルクルと回して見せる。
相変わらず、リリーシャさんの手際がいいので、私の出る幕はなさそうだ。大人しく、席に着くことにする。
ツバサさんは、急に真剣な表情になると、スーッとケーキに切れ目を入れた。途中、何度かケーキを回転させ、綺麗に切り分けていく。
切り分けられられたケーキは、寸分たがわず、正確に五等分されていた。六等分だって難しいのに、五等分でこの精度とは……。
「滅茶苦茶、綺麗に等分されてますね。凄いです!」
あまりの正確さに、思わず見とれてしまった。
「ケーキの切り分けだけは、子供のころから得意なんだよね。子供って、大きさが違うと、喧嘩になるでしょ? うちは、五人兄妹で、男が四人もいたから。そこんとこ、超重要でね」
なるほど――。ツバサさんが、少し男っぽいのって、男兄弟が多かったからなんだね。
お茶とケーキが行きわたると、
「じゃあ、食べましょうか。一週間の『魔法祭』お疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
みんなで労をねぎらい合い、さっそくケーキを食べ始めた。
「うーん、超美味しいです! 美味し過ぎますよ、リリーシャさん!!」
甘いものが大好きな私には、最高のご褒美だった。
「本当に、美味しいです」
「やっぱり、リリーのケーキが一番だね。でも、これを食べると、お店のケーキが、食べれなくなるんだよなぁ」
ナギサちゃんもツバサさんも、大満足のようだ。
フィニーちゃんは、黙々と食べていた。だが、その目の輝きと集中力で、いかに美味しいかは、見ていれば伝わってくる。
このあと、二時間ほど、皆でケーキを食べながら、この一週間の思い出話に、花を咲かせた。毎日がとても楽しかったけど、この時間が、今までの中で一番かも。
尊敬する先輩や、大好きな友人と過ごす、大切なひと時。これから先も、宝石のように、素敵な思い出として、永遠に忘れないと思う。
来年も、そのまた来年も、このメンバーで、ワイワイ楽しめたらいいなぁー……。
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次回 第1部・最終話――
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