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知らぬは互いの為ならず③
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それからというもの。
ジョルジュ様はこっそりと甘いものを差し入れてくれるようになりました。
「僕がおススメするパティスリーのフィナンシェ。他の役員には内緒だよ」
わざわざふたりきりの時に手渡してくれるのはありがたいのですが。
ジョルジュ様の笑顔が眩しすぎて、心臓の鼓動が早くなってしまうので困っています。
「いつもありがとうございます。先日いただいたピスタチオのマカロン、美味しかったですわ」
「副会長ならそう言ってくれると思ってたよ。あのクリームは絶品だね!」
甘いものの話をしている時のジョルジュ様は本当に楽しそうです。
私もつい釣られて笑みが漏れてしまいます。
淑女としてははしたないのかも知れませんが、好きな甘いものを前にしている時くらいは許していただきたいものです。
「こんなにいつも貰ってばかりなのは心苦しいのですが……」
「副会長はずっと頑張ってきたんだし、少しくらい自分を甘やかしても誰も文句は言わないよ」
「ですが……」
私としましては、一方的にいただいてばかりでは心苦しいのです。
本当に毎回毎回、私の好みのど真ん中を打ち抜いてくるのです。どうしてそこまで分かってしまうのか不思議でなりません。
私だってジョルジュ様に喜んでいただきたいのです。こんなにも良くしてくださるのだから。
「僕は自分が好きなものをこうして嬉しそうに食べてくれるのを見るのがご褒美なんでね」
「!!」
だからそんな笑顔でさらりとすごい台詞を言わないでくださいってば!
目の毒です、目の毒!
……ちなみにフィナンシェはバターが効いていて、とっても美味しかったです。
また食べたいと思わせる逸品でしたわ。
自宅に戻った私は、真っ先に部屋に入ると、着替えもそこそこに机の引き出しを開けました。
引き出しにしまっていた文箱を取り出すと、今日いただいたフィナンシェを包んでいた袋とリボンを、綺麗に折りたたんで仕舞います。
最近のお菓子屋さんって包装紙やリボンにも凝っていて、どれも綺麗で捨てるのがもったいなかったからです。
箱に少しずつ増えていくたびに、心が温かくなっていきます。
たとえいただいているのがお菓子であっても、私のために選んでくださっていると思うと、嬉しいものですね。
あのバカからは手紙ひとつ、花一輪頂いたことはありませんでした。
私も私で勉強のカリキュラムが連日山のようにあったから、次第に気にすることもなくなりましたしね。
文字通り「形だけの婚約」だったのです。
私が歩み寄って交流すれば少しは違った結果になったかも知れませんが、今更言っても意味はありませんから。
「お嬢様、お茶をお持ちしましたよ」
「ありがとう、ユミ」
メイドのユミが持ってきてくれた紅茶を飲む……美味しい。
ジョルジュ様が淹れて下さった紅茶も美味しかったなぁと思い出します。
今度、茶葉の銘柄を教えていただきましょう。
「あら、またお嬢様のコレクションが増えたのですね。スタークス公爵子息様は本当、マメでいらっしゃる」
私ったら、包装紙を入れた箱をしまっていなかったのが悔やまれます。
ユミは仕事ができるいいメイドなのですが、ちょっと目敏すぎて恋の話になると食いつきが増してくるのが玉に瑕なのです。
「ユミったら!会長は単なる好意でくださっているのに」
「あら、下心なしでこんなに頻繁にお菓子なんかくださらないですよ!」
あ、やっぱり食いついてきましたね。
目が輝いていますもの。
でも彼女は人脈が広いし、お友達がたくさんいるようなので、何かいい知恵をくれるかも知れません。
「下心って……そんな言い過ぎでは?」
分かっておりませんね、お嬢様と首を横に振るユミです。
「お嬢様が甘いものをお好きだから、食べてくれるって分かっていて差し入れてくださるんですもの。本気に決まってます!」
そ、そうなのだろうか……。
「で、お嬢様はお返しをなさっているのですか?」
「それが……『自分が好きなものをこうして嬉しそうに食べてくれるのを見るのがご褒美』だから不要だと……」
グハッ……っと謎の呻き声をあげてユミが膝から崩れ落ちましたわ。どうしたのかしら?
「お嬢様……何かお礼しましょう、お礼!」
「そうよね。いつも貰いっぱなしは申し訳ないですし」
やっぱりそう思いますよね。
でも、何を差し上げたら良いのか分からないのです。
最後に異性に贈り物をしたのは……いつだったでしょうか?
あのバカの誕生日に手紙とペーパーナイフを贈ったら趣味が悪いと怒られて以来、贈り物は控えていたのです。
ジョルジュ様に何かしていただく度に、あのバカと比べてしまうのはジョルジュ様に失礼なので、そろそろ止めておきましょう。
「向こうが消え物でくるなら、こちらは形に残るものにしましょう!ハンカチに刺繍してお渡ししましょうよ!お嬢様、刺繍お得意ですし!!」
ユミの助言で私は絹のハンカチに刺繍を入れる事にしたのです。
さっそくユミが裁縫箱と真っ白な絹のハンカチを持ってきてくれましたので、あらかじめ書いておいた図案を布に下書きをしてから丁寧にひと針ずつ縫っていきます。
学院に進学して、生徒会に入って、忙しくなったから刺繍をする余裕なんてなかったから、腕が落ちていないか心配です。
お気に召していただけるといいのだけれど。
※食べ物の事を消え物って言うのは確かTV用語だったと記憶……
2024.12.10
一部表現を修正しました
ジョルジュ様はこっそりと甘いものを差し入れてくれるようになりました。
「僕がおススメするパティスリーのフィナンシェ。他の役員には内緒だよ」
わざわざふたりきりの時に手渡してくれるのはありがたいのですが。
ジョルジュ様の笑顔が眩しすぎて、心臓の鼓動が早くなってしまうので困っています。
「いつもありがとうございます。先日いただいたピスタチオのマカロン、美味しかったですわ」
「副会長ならそう言ってくれると思ってたよ。あのクリームは絶品だね!」
甘いものの話をしている時のジョルジュ様は本当に楽しそうです。
私もつい釣られて笑みが漏れてしまいます。
淑女としてははしたないのかも知れませんが、好きな甘いものを前にしている時くらいは許していただきたいものです。
「こんなにいつも貰ってばかりなのは心苦しいのですが……」
「副会長はずっと頑張ってきたんだし、少しくらい自分を甘やかしても誰も文句は言わないよ」
「ですが……」
私としましては、一方的にいただいてばかりでは心苦しいのです。
本当に毎回毎回、私の好みのど真ん中を打ち抜いてくるのです。どうしてそこまで分かってしまうのか不思議でなりません。
私だってジョルジュ様に喜んでいただきたいのです。こんなにも良くしてくださるのだから。
「僕は自分が好きなものをこうして嬉しそうに食べてくれるのを見るのがご褒美なんでね」
「!!」
だからそんな笑顔でさらりとすごい台詞を言わないでくださいってば!
目の毒です、目の毒!
……ちなみにフィナンシェはバターが効いていて、とっても美味しかったです。
また食べたいと思わせる逸品でしたわ。
自宅に戻った私は、真っ先に部屋に入ると、着替えもそこそこに机の引き出しを開けました。
引き出しにしまっていた文箱を取り出すと、今日いただいたフィナンシェを包んでいた袋とリボンを、綺麗に折りたたんで仕舞います。
最近のお菓子屋さんって包装紙やリボンにも凝っていて、どれも綺麗で捨てるのがもったいなかったからです。
箱に少しずつ増えていくたびに、心が温かくなっていきます。
たとえいただいているのがお菓子であっても、私のために選んでくださっていると思うと、嬉しいものですね。
あのバカからは手紙ひとつ、花一輪頂いたことはありませんでした。
私も私で勉強のカリキュラムが連日山のようにあったから、次第に気にすることもなくなりましたしね。
文字通り「形だけの婚約」だったのです。
私が歩み寄って交流すれば少しは違った結果になったかも知れませんが、今更言っても意味はありませんから。
「お嬢様、お茶をお持ちしましたよ」
「ありがとう、ユミ」
メイドのユミが持ってきてくれた紅茶を飲む……美味しい。
ジョルジュ様が淹れて下さった紅茶も美味しかったなぁと思い出します。
今度、茶葉の銘柄を教えていただきましょう。
「あら、またお嬢様のコレクションが増えたのですね。スタークス公爵子息様は本当、マメでいらっしゃる」
私ったら、包装紙を入れた箱をしまっていなかったのが悔やまれます。
ユミは仕事ができるいいメイドなのですが、ちょっと目敏すぎて恋の話になると食いつきが増してくるのが玉に瑕なのです。
「ユミったら!会長は単なる好意でくださっているのに」
「あら、下心なしでこんなに頻繁にお菓子なんかくださらないですよ!」
あ、やっぱり食いついてきましたね。
目が輝いていますもの。
でも彼女は人脈が広いし、お友達がたくさんいるようなので、何かいい知恵をくれるかも知れません。
「下心って……そんな言い過ぎでは?」
分かっておりませんね、お嬢様と首を横に振るユミです。
「お嬢様が甘いものをお好きだから、食べてくれるって分かっていて差し入れてくださるんですもの。本気に決まってます!」
そ、そうなのだろうか……。
「で、お嬢様はお返しをなさっているのですか?」
「それが……『自分が好きなものをこうして嬉しそうに食べてくれるのを見るのがご褒美』だから不要だと……」
グハッ……っと謎の呻き声をあげてユミが膝から崩れ落ちましたわ。どうしたのかしら?
「お嬢様……何かお礼しましょう、お礼!」
「そうよね。いつも貰いっぱなしは申し訳ないですし」
やっぱりそう思いますよね。
でも、何を差し上げたら良いのか分からないのです。
最後に異性に贈り物をしたのは……いつだったでしょうか?
あのバカの誕生日に手紙とペーパーナイフを贈ったら趣味が悪いと怒られて以来、贈り物は控えていたのです。
ジョルジュ様に何かしていただく度に、あのバカと比べてしまうのはジョルジュ様に失礼なので、そろそろ止めておきましょう。
「向こうが消え物でくるなら、こちらは形に残るものにしましょう!ハンカチに刺繍してお渡ししましょうよ!お嬢様、刺繍お得意ですし!!」
ユミの助言で私は絹のハンカチに刺繍を入れる事にしたのです。
さっそくユミが裁縫箱と真っ白な絹のハンカチを持ってきてくれましたので、あらかじめ書いておいた図案を布に下書きをしてから丁寧にひと針ずつ縫っていきます。
学院に進学して、生徒会に入って、忙しくなったから刺繍をする余裕なんてなかったから、腕が落ちていないか心配です。
お気に召していただけるといいのだけれど。
※食べ物の事を消え物って言うのは確かTV用語だったと記憶……
2024.12.10
一部表現を修正しました
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