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3話 すずの鬱屈
現れた魔術師
しおりを挟む「こっち? いや、あっちかな。よく分かんないや」
「たぶんこっちだと思う」
魔力の痕跡を辿り、逃げた魔女を追うまりあ。
その足取りはあっちこっちに揺れ、ひどく頼りない。
半歩後ろからしぐれが控えめにナビゲーションして、軌道修正を繰り返す。
そうして二人が辿り着いたのは、通学路横にある『このはな公園』。
芝生の中頃に設置されている円形のミラーオブジェだった。
普段なら覗き込む者の姿を反射している大鏡は黒々と色づき、その身の内へ獲物を引っ張り込もうと、とぐろを巻いている。
「本当にあった。結界の入り口だ」
まりあは、「ほほう」と口を円の形にする。
「すごいね、しぐれ。本当に魔女の気配が分かるんだ?」
「ん、なんとなく? ……でも、ほとんど当てずっぽうみたいなものだし」
「第六感ってやつだね。しぐれの隠された才能が顕わに!」
「そ、そそそそんな大層なものじゃ……っ」
しぐれは激しく狼狽して謙遜するが、まりあはこの感知能力にいたく感心した。
魔力の痕跡を探るなど、まりあにとっては空に浮かぶ雲をひたすらに追いかけ続けるような所業。
きっと一人ではここまで辿り着けなかった。
しぐれのお手柄を素直に褒め称え、ここからの作戦を決める。
前衛は当然まりあが務め、しぐれは後方待機。
何かあってもすぐに鏡へ飛び込めるよう心構えを作りつつ、可能な限り変身を試みる。
「魔女本体は大鎌しか持ってないみたいだし、飛んでくる使い魔も全部倒したから、しばらくは大丈夫なはず。疲れているところを一気に叩こう」
「うんっ」
「よし、それじゃあ」
二人は頷き合い、最後に示し合せて鏡の前に立つ。
「いち、にぃの、さ―――、うわ!」
「きゃ!」
いざ飛び込もうとしたその時、鏡面を覆っていた黒い幕にヒビが走り、バシッと弾けるような音を立てて粉々に崩れ落ちた。
「な、何?」
警戒しながら、咄嗟に顔を庇った両腕をゆっくりと下げる。
何の変哲もないミラーオブジェの鏡面が、驚いた顔をする二人を映し出していた。
二人は揃って眉根を寄せる。
「どういうこと? 何が起きたの、まりあちゃん」
「魔女の結界が壊れた……。結界の中の魔女が誰かに倒されたんだよ」
しぐれの質問に答えた直後、まりあは背後に立つ人影に気が付いた。
ぞわり、とうなじが総毛立つ感覚が脳髄を貫き、バッと後ろを振り返る。
「誰っ?」
「……」
鋭く声を飛ばした先から、無言が返された。
そこにいたのは、まりあたちと同い年くらいの女の子だった。
先の折れ曲がったとんがり帽子に、黒衣のマント。
紅い玉石が光る錫杖のような長いステッキを右手に持つ。
一般的に想起される魔女のイメージをそのまま真似たような出で立ち。
一見すると幼いコスプレイヤーだが、魔法という力の存在を知っているまりあには全く違って見えた。
「魔法少女……」
身に纏う異質な雰囲気が雄弁に語る。
目の前に佇む少女は、自分たちと同じ存在だと。
「……」
「……えっと、何か用?」
いまだ無言でこちらを観察する少女に、まりあはややむっとして切り出した。
広い鍔の下からこちらを見据える無感動な瞳に、どこか既視感を覚える。
酷く腹の底をざわつかせ、今すぐにでも頭部を鷲掴みにしてぶん投げてやりたい衝動に駆られる。
「違う」
「え?」
相手の出方を待つ探り合いの最中、発せられた否定の言葉。
ビクッとして我に返ったまりあに、少女は毅然とした声できっぱりと告げた。
「魔法少女じゃない。ボクは魔術師。間違えないで」
「魔術師……?」
「そう。歴代最強にして稀代の天才魔術師、クロイツ・フォン・グランド・ベル」
少女は、マントの裾を高々と持ち上げて風になびかせ、宝杖を優雅に振るった。
アニメか何かのキャラクターをそっくりそのまま踏襲するかのような、迷いのなさ。
随分と格好つけた自己紹介だが、相も変わらず表情のない能面顔なので、大変ちぐはぐな印象を受ける。
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