46 / 70
3話 すずの鬱屈
願った想いは
しおりを挟む果てのない思考のループに陥るしぐれ。
まりあは助け舟の出し方を少し考え、こんな提案をした。
「ね、しぐれ。逃げちゃったあの魔女どうしようか?」
「え、どうするって?」
しぐれは咄嗟のことでオウム返ししてしまったが、少し考えれば分かりそうなことだ。
魔女をあのまま放っておくわけにはいかない。
魔女を打倒し、人々を守ることこそが、魔法少女の使命なのだから。
「や、私は別にそういうの気にしてるわけじゃないんだ」
「え、そうなの?」
びっくりして問い返せば、まりあは言葉を選ぶような素振りを見せて、
「私はね、我が身を犠牲にしてみんなを助けたいとか、そんな風には考えてないの。魔法少女のくせに薄情だって言われそうけど、でもそうなんだ」
魔法少女となり、望む姿を手に入れた代償として魔女と戦う使命を負う。
それが魔獣との契約。
それによってより多くの利を得るのは、他ならぬかがみんだ。
まりあはそれが気に入らない。
「確かに魔女は人も襲う。このままにしておけば、誰かどこかで悲しい思いをするかも知れない。そんな誰かを助けることってとっても大切ですごいことだと思う。……でも、魔女と戦うのって怖いじゃない?」
「え? ええっ! まりあちゃんも怖いの?」
「怖いよ。だってみんな変な見た目してるし。それに攻撃されると痛いもん。いくら治るって言ったって、好き好んでやりたいことじゃない。そんなことをしているよりも、こうしてしぐれとおしゃべりしたり、一緒にトレーニングしている方が楽しい。だから」
まりあはしぐれの手を取り、きゅっと握って微笑みかける。
「だからね、悩んでいる友達の助けにはなりたいんだ」
「まりあちゃん……」
まりあの笑みに見守られながら、しぐれは申し訳なさで一杯だった心の内が優しく解かれていくのを感じた。
しぐれだけじゃなかった。
友達と遊ぶ時間が楽しいのも、
魔女を怖いと思うのも、
情けない自分を恥じて、もっと理想に近づきたいと願う心も。
想いのすべてをまりあと共有できる。
そのことが何よりも嬉しくて、握る手に力が籠った。
「さっきの魔女追ってみない? もしかしたら今度こそ変身できるかも知れないよ?」
「……でも、またまりあちゃんが傷ついたら、わたし……」
「しぐれのためなら頑張れるよ、私」
「……」
「授かった魔法の力を発現させるのは強くて純粋な願いの力だって、かがみんは言ってた。しぐれは何を願って魔法少女になったの?」
「願い……。あの時、わたしは……」
言葉に詰まる。
今のしぐれがまりあを守りたいなどと、口が裂けても言えることじゃない。
そんな卑屈な葛藤も、すべてを受け入れる聖母のように、まりあは優しく頷いた。
「言葉にできなくてもいいと思う。ひと言じゃ言い表せない気持ちかも知れないし、私に聞かせたくないくらい身勝手なものかも知れない。けれど魔法少女になった時のその気持ちは、きっとしぐれにとって特別で、大切なものだから。どうか無くさないで」
「まりあちゃん……」
伝えることができなくても、許されないことだったとしても、譲れない想いだ。
まりあを守りたい。
その願いのためにも、ここで退くわけにはいかない。
「わたし、もう一回頑張ってみる」
しぐれは顔を上げ、まりあを見つめ返す。
真っ直ぐな決意を受け止めたまりあは、
「うん、その意気だよ」
もう一度にっこりとはにかんだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
原初の星/多重世界の旅人シリーズIV
りゅう
SF
多重世界に無限回廊という特殊な空間を発見したリュウは、無限回廊を実現している白球システムの危機を救った。これで、無限回廊は安定し多重世界で自由に活動できるようになる。そう思っていた。
だが、実際には多重世界の深淵に少し触れた程度のものでしかなかった。
表紙イラスト:AIアニメジェネレーターにて生成。
https://perchance.org/ai-anime-generator
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜
紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。
第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。
Solomon's Gate
坂森大我
SF
人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。
ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。
実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。
ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。
主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。
ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。
人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる