筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人

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1話 まりあの恋慕

やあ、初めましてとしておこうか

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「えっ?」


 あまりに突然の出来事だった。

 まりあは驚いて顔を上げ、きょろきょろと部屋の中を見回した。

 ここはまりあの部屋なのだ、幼い少年のような声の持ち主など居るはずがない。


「憧れの姿を手に入れたい。純粋で素敵な願いだね。なっちゃえばいいじゃないか。僕が君を助けてあげる」
「だ、だあれ?」


 ゆっくりと身体を起こして、意味もなく数歩後退する。


「ここに居るじゃないか」
「ここって……」


 声に導かれるように視線を戻す。

 そこにあるのは何の変哲もない鏡と、そこに映っているまりあ。

 と、鏡の中のまりあがにっこりと笑みを浮かべたではないか。


「やあ、まりあ」
「うわっ」


 投げかけられた挨拶に、まりあは尻餅をつくほど大きく仰け反った。

 まりあの慌てふためく様子に、鏡に映ったまりあはくすくすと無邪気な笑顔を見せる。

 ありえないと全力で否定しながらも、まりあは戸惑いの声を投じる。


「今、しゃべったのって、もしかしてあなた?」
「そうだよ。それ以外に誰がいるって言うんだい?」


 まさかの肯定を返され、まりあの頬がひく、と引き攣る。

 パニックに陥りそうになるまりあに、さらなる奇奇怪怪が襲い来る。

 姿見の鏡面が、水面のように波打ったのだ。

 鏡の中のまりあは、鏡面にひたりと手のひらを合わせ―――、
 ずぶり、と。

 まるで、薄い膜を破るかのように、そのままこちらへ右手を伸ばした。


「……え?」


 B級ホラー映画さながらの光景だった。

 思考を凍りつかせるまりあに構わず、右手に続いて、左手も突き出てくる。


「やっ、ちょっと? なになにっ? 何が起きてるのっ!?」


 ズザザッと後ずさるも、すぐ後ろのベッドに阻まれる。

 追い詰められた思考が空回りを始める中、鏡から飛び出た両手を支えにして、そのまま一気に全身を引っ張り出した。

 悪戯っ子のような笑顔が間近に迫り、もう一人の自分が覆い被さってくる。


「きゃあっ」


 まりあは、頭を抱えて身体を丸くし、思考のすべてを放り投げた。

 鏡から自分が出てくるなどありえない。
 あってはならない。

 完全にまりあの許容範囲を超えている。対処できない。 


「そんなに驚かないでもらいたいな。ここしばらくの間、ずっと一緒にいたんだから」


 にもかかわらず、鏡のまりあは能天気にも嬉々と声を弾ませて、何事もなかったかのように話しかけてくる。

 正直、勘弁して欲しかった。


「ずっと一緒にって……?」


 瞳に涙を浮かべていると、空回りを続けていた頭が、ふと何かの記憶を思い起こした。

 姿形はそっくりそのまままりあだが、声だけがまりあのものとは違う。

 年若い少年のようなその声色は、どこか聞き覚えがあった。

 まりあは隠していた顔を上げ、彼の者と向き合う。


「あなた、もしかしてプールの時の?」


 プールで溺れ、苦しみのただ中にいたあの時だ。

 灯夜が助けてくれる直前に問いかけてきたあの声に違いない。


「やっと気づいたのかい?」


 鏡のまりあは、賞賛とばかりににっこりとした笑みを浮かべて、その正体を現す。

 まりあの形を真似ていた肉体は銀糸となって解かれ、靄のように空気中へ霧散していく。

 最後には猫と狐を混ぜ合わせたような、見たこともないおかしな生物がちょこんと座っていた。

 白銀の毛並みが羽のようにふわりと揺れ、特大のサファイアを埋め込んだような蒼色の瞳がこちらを見つめる。


「やあ、初めましてとしておこうか、まりあ」
「……」


 絶句。

 まりあはしばし、開いた口が塞がらなかった。
 
 
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