上 下
9 / 70
1話 まりあの恋慕

鏡の妖精かがみん★彡

しおりを挟む
 
 
 まりあは抜き足差し足忍び足でこっそりとリビングに侵入し、キッチンへ向かう。

 小皿とミルクを手に入れ、速やかに退散しようとする。


「あ、まりあ」


 しかし杏奈に見つかってしまった。


「ちょうど良かったわ。私と灯夜くん、お昼食べに行こうと思うんだけど、一緒行かない? 私から離れないって約束できるのなら……って、どうかしたの?」
「うえっ、何にもないよ?」
「嘘。ミルクなんて持って。子犬でも拾ってきたんじゃないでしょうね?」
「い、犬じゃないよ……」
「じゃあ猫?」
「いや、えっと……」


 まりあはしどろもどろになりながら、必死で言い訳の言葉を捻り出す。


「いやいや、お姉ちゃん。そもそも、私謹慎中の身だし。外出られないし。拾って来られないよ? これは私が飲むんだよ」
「……それじゃあ、その格好は何?」
「えっ、ええっと。暑くって?」


 ミルクを小皿で飲むと主張する裸オーバーオール姿の妹は、だいぶ奇怪に映ったらしい。

 杏奈は、疑わしげに眉根を寄せる。


「……まりあ、何か様子が変よ? さっきも部屋で騒いでいたみたいだし」
「そ、そんなことないよ」
「何故目を逸らすの?」
「ええっと……」


 これ以上の言い訳は思いつかない、もう強行突破だ。


「まりあ、あのね。もしかして何だけど、私と灯夜くんのこと……」
「二人でお昼行くんでしょ? ごゆっくり~っ」
「あ、ちょっと!」


 杏奈の追及を無理やり振り切って、まりあは慌てて部屋に逃げ帰った。

 扉越しに聞き耳を立てて警戒するが、どうやら追ってくる気配はない。
 ひとまず放っておいてもらえるらしい。

 外出を禁じている件について、杏奈は杏奈で思うところがあるのだろう。


「はい」
「やあ、ありがとう」


 戦利品のミルクを小皿に注いで、差し出した。

 人の言葉で礼を言う不思議な生き物は、早速ミルクに舌を垂らし、美味しそうに飲み始める。


「丁寧なもてなしを受けたのは久しぶり。たいていの娘は野兎みたいに逃げ出したり、狂ったように泣き叫んだり。そうそう、思い切り蹴り飛ばされたこともあったんだ。酷いだろう?」
「そうなの? 大変だね」
「その通り、大変だ。もっと慰めてもらってもいいくらいだと思うんだ」


 九つに割れた尾をパタパタと振り、何かを期待する眼差し。

 何故か自慢げに語られる苦労話に、まりあは「ふうん……」と率直な感想を返して、とりあえず小さな頭をひと撫で。


「話聞いてないね」
「そんなことはないけれど」


 実際、まりあはそわそわと身体を揺らして、ちらちらと白い獣の様子を探っていた。

 彼の機嫌を損ねないよう極力気を付けているが、胸中では「もっと早く飲み干して!」と急かしている。

 そうでなければ、先ほどの話の続きができない。

 まりあは何も、この人語を解する不思議生物を無償でもてなしているわけではない。

 当然、相応の見返りがあると踏んでの行動だ。


「そうだ、あなた名前はあるの?」
「名前? そうだね……。かがみんとでも名乗っておこう」
「え、かがみん?」
「そうさ! 鏡の妖精かがみん★彡さ」


 まりあは、怪訝と不満を顔に表した。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

その聖女、脳筋につき取扱注意!!

月暈シボ
ファンタジー
突如街中に出現した怪物に襲われ、更に謎の結界によって閉鎖された王国の避暑地ハミル。 傭兵として王都に身を寄せていた主人公ダレスは、女神官アルディアからそのハミルを救う依頼を受ける。 神々に不信を抱くダレスではあったが、彼女の説得(怪力を使った脅迫)によって協力を約束する。 アルディアの従者である少女ミシャも加え、三人で現地に向かった彼らは、ハミルで数々の謎を解き明かしながら怪物と事件の真相、そして自身らの運命に立ち向かうのだった。

処理中です...