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3話 アルルとリンネ
こうなったら自棄でした
しおりを挟む「リンネさん一度冷静に、ね?」
「しかしアルル様。ここは急いでこの横穴について調査し、スライムをですね」
「スライムから離れて!」
思わず声を張り上げます。
「さっきからスライムスライムって。だいたい敵はそれだけじゃないって、さっきあなたが言っていたことでしょう? もっと強くて大きな怪物が出てきてしまったらどうす―――る?」
その時です、説教を遮ってリンネさんが飛びかかってきました。
突然のことに思考が停止します。
さすがは第二級の冒険者。その瞬発力は私の目では追い切れません。
「やっ、何をっ?」
抱きかかえられるまま、横っ飛びに倒れ込みます。
状況を把握するよりも先に、べちゃん、という粘着質な足音が鼓膜を震わせました。
一瞬前まで私が立っていたその場所に、巨大スライムが落ちてきたのです。
まったく気が付きませんでした。
天井に張り付き、虎視眈々と獲物を狙っていたに違いありません。
「無事ですか、アルル様! さ、走りますよ! こちらへ!」
「ええっ、いやでも、これはっ」
どさくさに紛れて猛然とトンネルの奥へと駆けていくリンネさん。
何故でしょう、奇襲に対し一度距離を取るという行動選択に間違いはないのですが、チャンスとばかりに嬉々と瞳を輝かせる様を見せつけられると、素直に腹が立ちます。
躊躇い、迷い、一度足を止めてしまいました。
いち早くギルドへ向かわなければならないというのに、水路はスライムの巨大ボディの向こう側。
どうにかして横をすり抜けて、戻らなければなりません。
「いけるか……」
もらったばかりの新兵器、”黒刀”を正中線に構えます。
応じるように巨大スライムが身を膨らませ、跳躍の前準備。
トンネル内は水路と違って天井はそこまで高くありませんから、直線的な体当たりと予測できます。
奴の体液に捕まればアウト。
衝突の瞬間核を叩き、そのまま勝負を決めなくては命はありません。
「……」
「……」
両者じりじりと近づき、仕掛ける間合いへ入ります。
場に一発触発の空気が満ちる中、
「―――っ!」
私は回れ右をして、全力で走り出していました。
無理。
あんなでかいの相手にできない。
だって捕まったら一発アウトですよ? チートですよ、チート。
情けなくも背中を見せた獲物へ向けて、巨大スライムは容赦なく触腕を伸ばします。
「ひいいっ」
めちゃくちゃに振り回した黒刀が、迫り来る触腕をかろうじて弾き、その先端を喰らい潰しました。
しかし、まるで怯むことなくスライムは巨体をのたうち、追い迫ります。
「リンネさん! リンネさん!」
「はい、ここに」
助けを呼ぶと、リンネさんは走る速度を落として私と並走し始めました。
彼女に向かい、必死になって叫びます。
「さっさと食べてよ、あれ!」
「いいえ。このまましばらく追われましょう。都合が良いです、わたしにとって」
「利己的な理由に私を巻き込むな!」
涼しい顔してとんだ性悪女です、この人。
「時に助け合い、時に足を引っ張り合う。それこそ冒険者。これこそ冒険の醍醐味。さあさ、心行くまで楽しみましょう」
「だから嫌なの、誰かとパーティー組むなんて!」
仲間。
窮地に立たされた時それはもはや足枷でしかありません。
見捨てるか見捨てられるか、究極の二者択一を迫るものでしかないのです。
少なくとも私はそういう世界で生きてきて、今も大して変わりないように思います。
「幸か不幸か、道は真っ直ぐ一本道です。迷うことなく全力で駆け抜けましょう」
「ああもう!」
こうなったら自棄でした。
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