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3話 アルルとリンネ
事態の裏で暗躍するものは
しおりを挟む下等な怪物を利用して人の息づく住処を襲い、味方のふりしてやってきて漁夫の利ですべてを掻っ攫う。
その狡賢い思考回路はとても人間的です。
そういうことを生業とする人たちに覚えがあるのです。
そう、例えば盗賊とか。
「いぃ、一体誰が何のためにこんなものをっ」
「声、裏返ってますよ?」
「……得体の知れない恐怖に襲われて?」
嘘はありません。誤魔化しは少しだけ。
迷います。
何一つ確証はありませんが、リンネさんが考察する手助けになるはず。
素性を明かすべきです。
ですがしかし、もし本当に彼らの仕業だとしたら……。
「でも、だとすると、目的は何?」
独り言を零しますが、あまり意味のない考察な気がします。
彼らはゴブリンと同程度の略奪民族。
奪うことに意味を見出す人間。
理由なんて、そこに大きな街があったからです。
……ただ。
それにしても用意周到が過ぎる気がします。
このトンネルの存在に気付くには、湖に隣接するこの街の特性を熟知する必要があるはず。
この街の教会できちんとした教育を受けて育ったリンネさんだからこそ、ここまで推察を広げられるのです。
果たして、盗賊団の皆にそんな理知的な人物はいたでしょうか。
とても思い当たりません。
「確かめなければ。この先がどこへ続くのか」
「えっ、待ってよ、私たちだけで?」
考えに煮詰まる私を置いて、リンネさんは堂々と巨悪が待ち構えているトンネルに身を投じます。
それはさすがに無茶が過ぎるというものでした。
「行方知れずの娘はきっと、この先へ連れ去られたのです。一刻も早く助け出さなければ」
「あれから何日経っていると思ってるの? もはや生きてはいないでしょうに」
リンネさんを思い止まらせるためとはいえ、身も蓋もないことを口走ります。
ただ、こちらも我が身を賭ける以上冷酷であろうと現実的に考えるべきでしょう。
生きていたとしてもきっと、目も当てられない有様に違いありません。
リーフさんと同じ運命を辿っているのかも知れません。
ふと、彼女が辿った末路を思い出し、私は躊躇します。
とても、これ以上の冒険に踏み込もうという勇気は出てきません。
「では、どうしようと?」
「ギルドに応援を頼みましょう」
リンネさんに真を問われ、私は即座にもっともらしい答えを返しました。
「信じられない、こんなことが街のすぐ下で行われていただなんて……。街全体を揺るがす大事件だよ。一刻も早くギルドに報告して、然るべき人員を集めて対処してもらわないと」
このトンネルがいつどのようにして開けられ、どこから続いているのか。
この件に元仲間たちが関わっているのか。
今の段階では何も分かりません。
一つ分かっているのは、このトンネルが持つ脅威だけです。
「これを使えば、危険度の高い怪物を人知れず街の中心まで運べてしまうってことだよね? もしも本当に誰かが意図的にやっているんだとしたら、つまりこれって」
「ええ、大規模な侵攻作戦の一端でしょう」
きっと、何か月も前から準備は進められてきたに違いありません。
そんな重大事件、私のようなひよっこが関わって良い事案ではないのです。
「まずはギルドに報告して、適切な対応を協議。それこそ腕利きの冒険者をたくさん集めて対処すべきなんじゃないかな」
「一理ありますが」
パーティーリーダーとして考え得る限りの最善策を提示しますが、リンネさんは同意しかねる様子。
「何か懸念が?」
「ギルドに報告して、冒険者を集めて、作戦会議を開いて、対策を決めて……。とてもではありませんが、そんなの待っていられません」
決意の籠った眼差しで真っ暗なトンネルの先を見据え、力強く言い切りました。
「この先にはきっと、スライムが居るに違いありません。ならば今すぐ行かなくてはならないでしょう!」
「あなたほんとそればっかりか!」
真剣な顔して何を言い出すかと思いきや……。
脱力でした。
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