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一章
06, 対面
しおりを挟む翌日、紅雪の不安を代弁するかのような雨がしとしとと降り続いていた。
地面はぬかり、歩くだけで泥が跳ねそう。
朝からせっせと仕事をする下男や下女の足元は泥で汚れていた。
「…紅雪、逢いに行くか?」
隣に座る紫攸の問い掛けに紅雪は空を眺めながら迷っていた。
馬匠の娘の紅銘は朱津国に嫁ぎ、第三皇子の紅淡を産んだ後、紅雪を産んだ。
しかし、紅雪は皇族の主張でもある赤髪で産まれず紅銘は不忠を疑われて、悲観しながら亡くなった。
紅雪が赤髪で産まれていれば、紅銘は死なずに済んだかもしれない。
負い目や罪悪感を感じているのか苦しそうな表情を浮かべる紅雪の横顔を紫攸は静かに眺める。
自分が無理矢理にでも連れて行けば紅雪は逢わざる負えない。
しかし自分で行動しなければ、負い目や罪悪感は根強く残ってしまうだろう。
自分で行く気になるまで紫攸は紅雪を見守る事に決めていた。
「・・・・行きます」
「紅淡、馬匠に拝見を求めて来い」
深呼吸をした紅雪が決意したように呟く。
寝室の奥で警護しているだろう紅淡に声を掛けると、衣服が擦る音が聞こえ足音が遠ざかった。
「・・・大丈夫だ」
「…ありがとう…っ…ん」
緊張で手が震えてしまう。
やっぱり行けないと言葉にしようとした時、紫攸の温かい手が紅雪の冷たくなった手を握り締めた。
紅雪の頭上から落ちてくる紫攸の優しい言葉に紅雪は胸が暖かくなり、お礼を伝えると額に感じる唇の感触、顔を上げると唇が降って来る。
握ってくれていた手が紅雪の頬にいつの間にか移動して角度を変えて舌が進入し、激しくなっていく行為に口端から吐息が漏れて身体が熱くなってきた。
「…し、ゆう…さまっ…」
「拝見の手筈、整えました」
これ以上されてしまえば、自分から誘うような言葉を紡いでしまうかもしれない。
その前に止めてしまわないとと紅雪は紫攸の名前を呼んだ時、出入口から紅淡の落ち着いた声が届いた。
「今、行く…(やばかった…このまま襲いそうになった)」
すっと離れていく紫攸の唇、残念そうな視線を無意識に向けてしまった紅雪は紅潮した頬を押さえる。
紫攸は心の声を聞かれないように紅雪から離れると出入口で待つ紅淡の元に急ぎ、紅雪もその後に続いた。
***
「じい様、連れて来ました」
「おお、入れ」
襖の前で紅淡が声を掛けると、馬匠が直ぐに反応する。
紅淡が振り返り紅雪の様子を心配そうに眺めるも、前に向き直るとゆっくりと襖を開いた。
「……私は楊 紅雪と申します…」
紅雪は緊張したまま襖の前に座ると、土下座するように頭を床に付ける。
緊張で少し上ずってしまいそうになる声で、自分の名前を述べた紅雪はゆっくりと顔を上げた。
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