~ 神話 ~ 皇帝陛下は白銀髪にキスをする

ERICA

文字の大きさ
上 下
9 / 11
一章

07,対面②

しおりを挟む


顔を上げて目の前に座る馬匠の表情が驚愕に変わる。
そして、急にボロボロと涙を流して嗚咽を洩らし始めてしまった。
戸惑ったのは紅雪だけではなく、紅淡も紫攸も戸惑い困惑気に目で会話している。


「…紅雪…っ」
「おじい様…っ…」


馬匠が泣きながら呟いた言葉が聞こえた紅雪からも涙が溢れて頬を伝う。
拒絶されなかった喜びと孫と認めている馬匠の優しい笑みが目の前に現れると抱き締められた。
紅淡以外の家族からの温もり、紅雪はたどたどしく馬匠の背中に腕を回す。
年配の細く骨張った体格、しかし温もりは紅淡や紫攸と同じぐらい優しくて心地良い。
紅雪は抱き締められたまま馬匠の胸で声を出して泣いた。


***


「蒼鳴国皇帝陛下に拝謁致します」
「楽にしろ。今は皇帝ではなく紅雪の旦那として参ったからな。そんな畏まらなくて構わないぞ馬匠殿」
「じい様、陛下の事信じてはいけないよ。紅雪を拒絶したら殺すつも――ッッ」
「紫攸様……」


紅雪の隣に座っているのが、蒼鳴国の皇帝だと気付いた馬匠が深々と頭を垂れる。
にこにこ笑顔を浮かべる紫攸の言葉を背後で聞いてた紅淡が否定してる最中、紫攸の手が勢い良く紅淡の頭を張たいた。
悶絶する紅淡を無視して向き直る紫攸に、馬匠は文句も言えず苦笑を浮かべるしかない。
しかし、紅雪は悶絶する紅淡を心配そうに見つめていたと思ったら、紫攸を不満そうに見つめて名前を呼んだ。


「わかったよ…紅淡悪かったな…」
「…俺も言い過ぎました…すみません」


責めるような視線。通常なら叱咤されても可笑しくないのだが、馬匠の心配も余所に紅雪の視線に負けた紫攸が紅淡に謝罪する。
頭を押さえながら起き上がった紅淡も、謝罪を返すとホッとした紅雪が笑顔を見せた。
笑顔に安堵した紫攸は、紅雪の手を握り締めるそんな遣り取りを見ていた馬匠が頭を床に付ける。


「紅雪、すまなかった…」
「謝らないで下さい。私は、嫌悪されても仕方なかったんです。おじい様のせいじゃありませんから」


急な行動に慌てながら、紅雪は頭を下げる馬匠の上体を起こす。
実際、幼い頃の事は紅雪は殆ど覚えていない。
なのに、そのせいで馬匠に罪悪感が生まれてしまっては元も子もない。
それよりも、紅雪は馬匠が自分を忘れないでいてくれた事が心から嬉しかった。
馬匠の心の声も、謝罪と紅雪の想いでいっぱい。
それに、少しだけ父としての紅銘への愛が伝わる言葉も言っていた。

「……今は幸せか?」
「――はい!!」

少し心配そうな馬匠の言葉に、紅雪は紫攸と紅淡を一度見て直ぐに馬匠に視線を戻すと満面の笑みで答える。
その笑顔を間近で見た馬匠の頬にまた涙が伝うけれど、今度の涙はうれし涙。
しわくちゃな顔で微笑んだ馬匠とにっこり笑う紅雪の二人を見守っていた紫攸が、ホッと胸を撫で下ろした。
紫攸は、紅雪の味方が大きな魚なのを知っていた。
それを得た事で、紫峰国での行動の遣り易さが断然違う事も知っている。
そんなあくどい事を考えている事を悟られないように、紫攸を見て嬉しそうに笑う紅雪に微笑み返した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...