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五章
助けられました②
しおりを挟む隙間から見えた場所は台所だった。誰かが何かを作っているみたいだけど、蝋燭のみが置かれていて何をしているかまでは見えない。
こんな何も無く、人も寄り付かない廃虚で、隠れてしている行為に喜べるモノが無いのは日本人の飛鳥でも理解出来た。
「計画は順調なのか?」
「はい、明日には計画を実行に移せるでしょう。しかし、本当に宜しいのですか?」
「当たり前だろ。ああ、玄関に追加の薬草を持って来た。確認しろ」
「畏まりました」
台所から聞こえてくる会話。一人の男性の声に聞き覚えがあった飛鳥は、もう一度隙間から中を覗き込んだ時、蝋燭の明かりに照らされた男性の顔に驚愕した。
声が出そうになって慌てて手で口を押さえる。気付かれなかったらしく、胸を撫で下ろしながら先程の会話を思い出した。
(…明日?…計画?何の話をしてたの?)
もっと会話しててくれれば良いのに、飛鳥の期待は裏切られてしまう。他愛ない話に移ってしまい諦めかけたその時、二人が会話をしながら台所から離れた。二人の計画の内容が、シリウスを窮地に陥らせる内容だったら絶対に阻止したい。それだけの理由で、飛鳥は台所に侵入した。
蝋燭の炎を便りに近付くと、薬品のムワッとした強烈な臭いを嗅いでしまい急いで手で口を覆う。この臭いを遮る為に彼らが布巾で鼻から下を覆い隠していたのだと気付いた。彼の濁っている目、見下しているような声、自信満々な態度。拒絶反応を起こし、心が嫌悪した相手。だからこそ、顔を隠してても飛鳥は誰か直ぐに分かってしまった。
(…あ………い????)
台所の卓上に置かれた三枚の紙。1枚は花のイラスト、もう二枚は乱雑な字で書かれていなくて読むことが出来ない。多分、綺麗な字で書かれていても勉学を始めたのが短日だから読めなかったと思う。読むのを諦めて三枚の紙を小さく折り畳んで靴の先端に隠すと、彼らが戻って来る前に来た道を急いで逃げた。
「………はあ、はあ」
廃虚の屋敷から離れた飛鳥は、息を整える為に足を止める。まだ、屋敷からそんなに離れていない。捕まる前に急がなければ、そう思うのに身体が着いて来てくれない。足下を見ると、ドレスに隠れて見えなかった足の擦り傷に気付いた。無我夢中で逃走してた時は痛みは無かったのに、気付いてしまうと痛くなる。今の飛鳥にそんな余裕は無いのに、人間の性とは恐ろしい。チリチリと痛む足で、オオカミ族のいる宿舎に向かった。
(………シリウス、さん)
もう少しで騎士団の宿舎に着く。そんな安心感に満たされていた飛鳥の背後から誰かが現れ、そして彼女が振り返る間も無く誰かに口を何かで押さえられた。逃げようともがくけれど、突如襲われた睡魔に勝つことが出来ず、飛鳥は意識を手放してしまう。
意識を手放す前に、彼女は最愛の男性の名前を心の中で呼んでいた。
******
「ーーー見つかりません」
「チッ……本人に聞くしか無いな…」
飛鳥を連れ去った者は先程まで廃墟にいた二人。台所に戻ってきた二人は、計画の内容を記載していた紙が無い事に気付いて慌てて匂いを辿って彼女を追いかけたのだ。そして、飛鳥を拉致し人気の来ない洞窟へ連れて来ると、従者の男が彼女の身体を隈なく触り紙を探す。しかし、紙は見つからなかった。
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