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五章
助けられました
しおりを挟む今度は前みたいに失敗する事もなく地面に着立する。あまり代わり映えしない景色に不安を感じ、体を反転させた時、視線の先に明るい灯火が見えて駆け出した。だけど、直ぐにそこが自分が期待していた日本じゃない事に気付いてしまう。
「……な、何で……っ」
期待していた気持ちが崩れ落ちる。立っていることも出来なくて、土まみれの地面に座り込んでしまった。
(帰してくれるって言ったじゃん!!どうして!!)
声にもならない叫びが飛鳥の視界を歪めていく。自分の服や足が土まみれで汚れる事など気付く事も出来ず、ただ空虚な気持ちで涙を流していた。
*****
視界に広がる集合住宅みたいな場所。目の前には門番と思わしき人が二人立っている。その頭上にケモ耳、お尻には尻尾あり、その男性の姿がオオカミ族だと気付いて、飛鳥はティクスの存在を思い出し、ゆっくりと近付いた。
「すみません…ティクス・クライムさんはいらっしゃいますか?」
「副団長?あー…団長と一緒で、俺たちと別行動とってるんすよ…何か用ですか?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
門番の若い男性に声を掛けると、期待していた答えと反対の答えが返って来てしまう。何の用と言われてしまえば、説明出来ない。にっこり笑って頭を下げた飛鳥は疑われて尋問される前にその場から離れることにした。
(…私を知らなかった?)
薄暗い森林を進みながら、一抹の不安を感じる。あんな大人数で自分を時空転送した騎士団の団員たちが、飛鳥を全く知らないのは可笑しかった。
もしかして謀ったのかと大人シリウスに聞きたくなる。しかし、次元転送が簡単なものでもないのは団員たちの苦労を目の前で見ていて知っていた。もしそうなら、間違えて転送されてしまったのだと諦めるしかない。
そう考えると、今がどの時代なのかが知りたくなってくる。何歳のシリウスがいるのか、期待と不安で胸がドキドキしてきた。逢える期待なんてしない方が良いと分かっているのに、つい期待するのは飛鳥自身が逢いたくて仕方ないと思っているから。
仕方なく、さっきの騎士団の宿舎に戻る道筋を歩きながら、オオカミ族から見つからない場所を探した。
(……ここ、なら…気付かれずに覗けるかも…)
一軒の空家を見つけた。廃墟となったのか、雑草は覆い茂るように生え、門はギィイイと錆付いた音を奏でている。それでも、シリウスが戻ってくるのを待つなら、ここ以外で騎士団の拠点を眺める事はどこにもない。門の隙間から身体を滑り込ませると、玄関までの道を進む。
未来で入った屋敷の時より今の方が怖いのは、きっと外観のせいだと思いたい。それとも『幽霊』が居るから。そう思うと背筋が凍ってしまいそうに寒くなってしまった。未来でも同じような事を思って、同じような反応をしたのを思い出して飛鳥は羞恥する。
ドアノブを掴んで回してみるけど、鍵が掛かっていて開かない。空き家でも鍵ぐらいかけるかと納得して、他に入れるドアが無いか屋敷の周りを探索しようと雑草が生えた道すらない道を歩き始めた。
(……チクチクする)
ハイソックスなら隠れる部分に雑草が当たり、その度にチクチクして痒いし痛い。それでも歩みを止めれないのは、雨が降って来たせいだった。まだ小雨だけど、大降りになったら確実に風邪を引いてしまう。その前に、廃虚でも屋根のある場所に移動したいと思うのが人間の性。
1周まであと半分になった時、空き家なのに屋敷の中から声が聞こえた。目線の少し先に隙間の開いたドアを見つける。そこから声が洩れたのだろう。飛鳥はなるべく足音を立てないように近付いて、ドアの隙間から中の様子を探ってみた。
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