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二章
奪われました
しおりを挟む「…お腹空いたー…」
「昼食には早いのでキッチンから手で食べれる軽食を作って頂いて来ますね」
「その間に、着替えましょう!!」
グゥーーーーッ、恥ずかしい音がお腹から流れる。空腹音を聞いた飛鳥は、自分が修学旅行中で昼食を食べていなかった事を思い出してしまい腹部を押さえて呟いた。それに気付いた白猫美人メイドのシーザが微笑みながら言うと部屋を出て行き、黒猫可愛いメイドのキャシーがドレスを両手で広げて見せている。フリフリしてなくて胸元に縦長のレース、肩出しで前にボタンがあるタイプ、シンプルな作りで初めての人でも着易そうな感じ。キャシーが楽しそうに胸元のボタンを外している間、飛鳥は初めて着るドレスにドキドキしていた。
「……アスカ様、とっても可愛いです!!シリウス様も惚れ直してしまいますよっ!」
いつの間にか無くなったブラジャーの代わりが無いので、ドレスはそのまま着ることになってしまった。しかもドレスの下にパンツを穿いちゃいけないと知ってアスカは羞恥心を感じてしまう。ドロワーズの存在を知らない彼女はキャシーの為すがまま。楽しかったのか、着せ替え人形みたいにキャシーがする事に身を任せていたら、うっとりと見惚れていたキャシーが興奮したように叫んだ。鏡の前に映し出された飛鳥の姿は、高校生の少女と言うより王女みたいに変化してて自分自身に驚いてしまう。毛先の跳ねまくった癖毛は、上手い具合に後頭部で結ばれて蝶のバレッタで留められていた。化粧もうっすらとしてくれているみたいで、唇はぷっくりピンク色に色付いている。惚れ直すと言われた飛鳥の頬は紅潮し、胸が高鳴って来て緊張で空腹感が消えていってしまった。
「……さ、散歩してくるっ!!!」
こんな姿をシリウスに見られて、否定的意見を告げられたらと一気に不安になる。逃げてしまおうと思い立つと、キャシーが静止の声を出すよりも先に飛鳥は部屋から飛び出した。慣れていないドレスの裾を上げて裸足のまま広い廊下を走り続ける。びっくりするような視線を執事やメイドから向けられるけど、シリウスに会いたくない一心で階段を下りて目に見えたドアを開けたのだった。
「……リリアス嬢?」
「ひゃあああ!!!――っ!?」
「ちょっ!!叫ぶなよっ!兄上怒らせるつもり無いんだから!」
風呂上りのシリウスが、タオル片手に隠れようとしていた飛鳥の目の前に現れて驚いて叫んでしまい、シリウスは焦ったように彼女の口を手で塞いだ。自分の口を塞いでいる獣人の手がフルフルと震えている。しかも声も焦っていて恐怖が滲んでいるような表情を浮かべていた。飛鳥はじっくりと相手の顔を見てみると、彼はシリウスそっくりだけど彼よりもだいぶ若い別人だと気付いて、本人じゃ無いことにホッとする。しかし急に若い獣人がドアから飛鳥ごと離れた瞬間、勢い良くドアが吹っ飛んで行った。ドアは、そのまま窓も突き破って二階下の地面に激しい音をさせながら落ちたらしい。でも、飛鳥と若い獣人にはドアなんてどうでも良い。それよりも目の前にいる激しい程の怒りに満ちたシリウスに二人は身体を寄せ合って怯えていた。
「ヒィィイ!!兄上っ!リリアス嬢は部屋を間違えたらしいですっ!!!」
「ランディ…お前は黙っとけ」
シリウスが一歩近付く度に何かが吹っ飛んで行く。くっ付いたまま若い獣人ことランディが泣きそうな顔で必死に声を掛けるが、シリウスは冷笑を浮かべたまま彼女に一歩一歩近付いていった。その度に、一触即発状態のシリウスに飛鳥は恐怖と不安を感じる。ランディとシリウスから少しずつ距離を取り、気付いたら窓際まで追いやられてしまっていた。
「きゃ、ああああああっ!!!!」
「アスカ!!!!」
飛鳥が逃げる度に、吹っ飛んで行く物が軽い物から徐々に重い物に変わって行く。とうとう、飛鳥の目の前に観葉植物が生えている植木鉢が飛んで来て、避ける事も出来ず植木鉢ごと落ちて行ってしまった。衝撃にぎゅっと目を閉じた飛鳥だったけれど、一向に痛みが来ない。恐る恐る目を開けると、シリウスに抱き締められて宙に浮いていた。
「お前が死んだら俺も生きていけない…」
ゆっくりと地面に降り立つと、シリウスは悲観的な表情で飛鳥を見つめて力いっぱい抱き締める。震える声で呟かれた言葉に、飛鳥の胸はきゅううううっと締め付けられた。
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