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09 ~誠司Side~
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充希のいない時間に在宅で仕事をすませて、充希が帰ってくれば全力で彼だけを甘やかす。もともと自分は世話をされるよりもする方が好きなタチだったようで、恋人の生活の何もかもを自分の手で支えられる今の生活はひどく幸せだった。
そしてもう1つ、僕にとっては嬉しい変化がおとずれた。
これまでセックスに対して気持ち良さそうにはしつつも積極的でなかった充希が、自分からも誘ってくれるようになったのだ。
誘い方が分からなくて言葉にはしないけど、それまでよりも寝る前にくっついてくるようになってきた最初の方。シたい日にはいつもより早めの時間に「まだ寝に行かないの?」と聞いてくるようになった少し前。そして今では「今日、ダメ?」なんて僕の身体をいやらしく触りながら聞いてくる一層僕好みの子になっていた。
普段の生活も夜の生活も充実し過ぎるあまり、僕は浮かれてしまっていた。彼のこの変化を、単に僕との想いが通じあったからだとばかり思っていた。
『誠司さん、充希が学校で倒れました。息もかなり荒くてめちゃめちゃ苦しそうです。早く迎えに来てやってください!』
ある日充希の友達から、そんな連絡が突然届いた。充希の姿を見るまではただの病気だと思っていて、心配して駆けつけはしたもののそこまで動揺はしていなかった。
でも。
周りに疑惑の目を向けながらも同居人だとなんとか説明し、入ることを許された保健室。
そこから香った匂いに、心臓を握られた気がした。
βの充希からするには不自然な甘い香り。
ベッドから離れた場所でも香るそれは、飴などの影響ではないことが分かる。αなら誰しもが一度は嗅いだことのあるあの香りに、それは酷似していた。
「なん、で……」
どうして充希から、Ωのフェロモンの匂いがする……?
しかも、ただフェロモンの香りがするだけではない。はっきりとわかるその香りと、充希の浅い呼吸。そして自分からじわりとあふれ出てくる汗。
これらが示すものは……。
「連れて、帰ります」
「あっ、ちょっと! まだ原因も分かってないんだから悪化するようなことがあればちゃんと病院に行ってちょうだいね!」
保健医から奪い取るように連れ出してしまったのは、きっと彼を盗られたくないと思ったからだ。自分の大事なΩに触れようとしている人がいれば、それが誰であろうと威嚇してしまうのは仕方がなかった。ましてや自分の大切なΩが発情期中の時であれば、自分以外の誰をも近寄らせまいと警戒が働く。
……そう。彼の症状。そして自分の身に起こっている症状や感情反応。
それらを総合すると、充希は今発情期中であるとしか考えられなかった。
充希を助手席に乗せて、扉を閉める。
あの日以降持ち歩くようにしていたラットの緊急抑制剤を打ち込んで、効いてくるのを待った。運命の番に会ったとしても大丈夫なように常備していた薬を、まさかこんなところで使うことになるとは思わなかった。
大きく深呼吸をしながら5分くらい経つと、だいぶ楽になってくる。この薬で楽になること自体が自分の中の有り得ない仮説をさらに裏付けている証拠で、ますます意味が分からなくなった。
どうして。なぜ急に、充希がΩになってしまったのか。
インターネットで、Ωに関することを専門にしている近くの病院を検索する。隣の充希はずっと苦しそうで、まともに声も出せない様子だった。
普通の発情期なら極論ヤりさえすれば治まるはずだが、一か八かでセックスをするよりはちゃんと病院で診てもらった方がいいだろう。
そうして辿り着いた病院は、こじんまりとした個人経営のところだった。
人は多すぎることも少なすぎることもなく、少し待てば診てもらえるとのことだった。
名前が呼ばれ、付き添いとして入る。本格的な検査の間は外で待ち、説明を受ける時に再び付き添った。充希は検査を受けている間も意識は戻らないままで、点滴に繋がれたまま浅い呼吸だけを繰り返していた。
「彼はもともと……本当につい最近まではβということでしたね」
「はい。今までこんな風に甘ったるい匂いを彼から感じたことはありませんでした」
「そうですか。……最初に結論を申し上げますが、あなたの感じている通り、彼の第二の性はΩに変わっています」
驚きに、息をのむ。性別すらも結ばれるようになったのか、やっぱり僕たちは幸せになる運命だったんだ、なんて能天気なことを考えた。その次の言葉を聞くまでは。
「ですが、自然な変化ではありません。体内に異常なほど薬を使った形跡がありました。おそらく、最近出回っているΩ化する薬を使ったと思われます。彼は、自分の意思でΩになったのです。そうなるような出来事に何か心当たりはないでしょうか」
そしてもう1つ、僕にとっては嬉しい変化がおとずれた。
これまでセックスに対して気持ち良さそうにはしつつも積極的でなかった充希が、自分からも誘ってくれるようになったのだ。
誘い方が分からなくて言葉にはしないけど、それまでよりも寝る前にくっついてくるようになってきた最初の方。シたい日にはいつもより早めの時間に「まだ寝に行かないの?」と聞いてくるようになった少し前。そして今では「今日、ダメ?」なんて僕の身体をいやらしく触りながら聞いてくる一層僕好みの子になっていた。
普段の生活も夜の生活も充実し過ぎるあまり、僕は浮かれてしまっていた。彼のこの変化を、単に僕との想いが通じあったからだとばかり思っていた。
『誠司さん、充希が学校で倒れました。息もかなり荒くてめちゃめちゃ苦しそうです。早く迎えに来てやってください!』
ある日充希の友達から、そんな連絡が突然届いた。充希の姿を見るまではただの病気だと思っていて、心配して駆けつけはしたもののそこまで動揺はしていなかった。
でも。
周りに疑惑の目を向けながらも同居人だとなんとか説明し、入ることを許された保健室。
そこから香った匂いに、心臓を握られた気がした。
βの充希からするには不自然な甘い香り。
ベッドから離れた場所でも香るそれは、飴などの影響ではないことが分かる。αなら誰しもが一度は嗅いだことのあるあの香りに、それは酷似していた。
「なん、で……」
どうして充希から、Ωのフェロモンの匂いがする……?
しかも、ただフェロモンの香りがするだけではない。はっきりとわかるその香りと、充希の浅い呼吸。そして自分からじわりとあふれ出てくる汗。
これらが示すものは……。
「連れて、帰ります」
「あっ、ちょっと! まだ原因も分かってないんだから悪化するようなことがあればちゃんと病院に行ってちょうだいね!」
保健医から奪い取るように連れ出してしまったのは、きっと彼を盗られたくないと思ったからだ。自分の大事なΩに触れようとしている人がいれば、それが誰であろうと威嚇してしまうのは仕方がなかった。ましてや自分の大切なΩが発情期中の時であれば、自分以外の誰をも近寄らせまいと警戒が働く。
……そう。彼の症状。そして自分の身に起こっている症状や感情反応。
それらを総合すると、充希は今発情期中であるとしか考えられなかった。
充希を助手席に乗せて、扉を閉める。
あの日以降持ち歩くようにしていたラットの緊急抑制剤を打ち込んで、効いてくるのを待った。運命の番に会ったとしても大丈夫なように常備していた薬を、まさかこんなところで使うことになるとは思わなかった。
大きく深呼吸をしながら5分くらい経つと、だいぶ楽になってくる。この薬で楽になること自体が自分の中の有り得ない仮説をさらに裏付けている証拠で、ますます意味が分からなくなった。
どうして。なぜ急に、充希がΩになってしまったのか。
インターネットで、Ωに関することを専門にしている近くの病院を検索する。隣の充希はずっと苦しそうで、まともに声も出せない様子だった。
普通の発情期なら極論ヤりさえすれば治まるはずだが、一か八かでセックスをするよりはちゃんと病院で診てもらった方がいいだろう。
そうして辿り着いた病院は、こじんまりとした個人経営のところだった。
人は多すぎることも少なすぎることもなく、少し待てば診てもらえるとのことだった。
名前が呼ばれ、付き添いとして入る。本格的な検査の間は外で待ち、説明を受ける時に再び付き添った。充希は検査を受けている間も意識は戻らないままで、点滴に繋がれたまま浅い呼吸だけを繰り返していた。
「彼はもともと……本当につい最近まではβということでしたね」
「はい。今までこんな風に甘ったるい匂いを彼から感じたことはありませんでした」
「そうですか。……最初に結論を申し上げますが、あなたの感じている通り、彼の第二の性はΩに変わっています」
驚きに、息をのむ。性別すらも結ばれるようになったのか、やっぱり僕たちは幸せになる運命だったんだ、なんて能天気なことを考えた。その次の言葉を聞くまでは。
「ですが、自然な変化ではありません。体内に異常なほど薬を使った形跡がありました。おそらく、最近出回っているΩ化する薬を使ったと思われます。彼は、自分の意思でΩになったのです。そうなるような出来事に何か心当たりはないでしょうか」
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