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2週目 [告白]
第17話
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今日はなんだか、拓海と美穂ちゃんとの間に大きな距離があるように感じた。最近は3人でいることが多かったのに、今日はまるでタイミングを見計らっているようにどちらか1人ずつとしか同時に会話をしていない。
何かあったのだとしたら、昨日の放課後のはず。あのあと一体、2人は何を話していたんだろう。
気にはなるが、どちらからも相談されていないのに詮索するのもどうかと思った。少なくとも拓海なら、相談事があって僕に隠すということもないだろう。その拓海が自分から離さないということは、きっと大丈夫だと信じていいはずだ。
違和感は勘違いではなかったようで、結局1日中3人で話すということはなかった。
放課後だって、いつもなら「先に帰るね」の一言くらいあるものを、気が付いた時にはもう拓海はいなくなっていて。
今日は金曜だというのに。
あんなことをしておいて、拓海の方が約束を忘れているのか……?なんて疑いながら、仕方なく美穂ちゃんと一緒に帰ることにした。
しばらく歩いて、彼女がふと口を開く。
「千秋ちゃんと拓海くんって、いつから一緒にいるの?」
そんな今さらな問いに、やっぱり2人の間に何かがあったんだろうと感じた。
「話したのは小学生の時が先かな。家が隣だから、ほんとうはもっと前から面識があったんだろうけど。さすがに小学生前の記憶は薄れてて」
「えっ、拓海くんと家隣だったの!?」
「うん、実は。だから拓海は俺にとって、ほぼ弟みたいなもん。今だって……昔はよく、僕の家に泊まりにきたりもしてたし」
別に高校生同士でお泊り会をして遊ぶなんてよくあることなのに、していることを思いだしたらなんだか言い難いような気持ちになってしまって、言いかけた言葉を隠した。
「そっか、本当に仲良しなんだね」
彼女は少し目線を上げ、さみしげに言う。
拓海と、何かあった? 自然な流れで聞くなら今かと思ったが、もうすぐ別れる場所であったため口に出すのはやめた。
「またね」
彼女と別れて手持ち無沙汰になり、半ば無意識にスマホを開く。そこには拓海からのメッセージ通知がきていた。
「まってる」とだけ送られてきているのが、いかにも彼らしい。
どうやら約束を忘れられていたわけではなかったようだと安心する。
「今から行く」と打てば、「あいてる」とだけ返される。漢字すら使っていない子どもみたいな返しに笑うと同時に、何が?なんて不毛な問いをしなくても伝わることに嬉しさを感じた。
そのメッセージを許可と捉え、勝手に拓海の家の扉を開ける。そのまま彼の部屋の前まで行くと、今度は中から扉が開いた。
「いらっしゃい」
優しく柔らかい拓海の声。彼は僕を見ると、ふっと目を細めて笑った。
「いいよ、どこでも座って」
そう言われたので部屋の真ん中にあった低い机の前に座ると、拓海が僕の反対側に座る。
彼は何も持たないまま、僕に何もつけないまま座った。
「やめたの?」
主語の無い言葉もちゃんと伝わったようで。
「もう必要なくなったから」と返される。
「どうして?」
拓海は答えない。言うまで諦めないからと彼の目を見つめていれば、辛うじて答えが返ってくる。
「明日になれば分かるよ」
それも的を射ない答えで、きっと触れてほしくはないことなんだろうということだけは分かる。だから、深く追及するのはやめた。
「証」が与えられない手首を、少しだけ寂しいと思いながら。
「あっ、そうだ」
今ふと思い出したというように。そしてこの微妙な空気を打ち破るように、彼はことさら明るい声を出す。
「明日のデートなんだけどさ、旭公園に行こうよ」
そういえば土曜日はデートに行く約束だった。
「珍しいな、拓海が公園に行きたいっていうの」
どちらかと言えば、彼はインドア派なのに。というか、この部屋からあんまり出たがらないタイプなのに。
「何となくだよ。朝行くからちゃんと起きてね」
「……拓海にだけは言われたくないんだけど」
休日なのに早起きなんてつくづく彼らしくないなと思いながらも、それだけ出かけるのを楽しみにされているようで、悪い気はしなかった。
何かあったのだとしたら、昨日の放課後のはず。あのあと一体、2人は何を話していたんだろう。
気にはなるが、どちらからも相談されていないのに詮索するのもどうかと思った。少なくとも拓海なら、相談事があって僕に隠すということもないだろう。その拓海が自分から離さないということは、きっと大丈夫だと信じていいはずだ。
違和感は勘違いではなかったようで、結局1日中3人で話すということはなかった。
放課後だって、いつもなら「先に帰るね」の一言くらいあるものを、気が付いた時にはもう拓海はいなくなっていて。
今日は金曜だというのに。
あんなことをしておいて、拓海の方が約束を忘れているのか……?なんて疑いながら、仕方なく美穂ちゃんと一緒に帰ることにした。
しばらく歩いて、彼女がふと口を開く。
「千秋ちゃんと拓海くんって、いつから一緒にいるの?」
そんな今さらな問いに、やっぱり2人の間に何かがあったんだろうと感じた。
「話したのは小学生の時が先かな。家が隣だから、ほんとうはもっと前から面識があったんだろうけど。さすがに小学生前の記憶は薄れてて」
「えっ、拓海くんと家隣だったの!?」
「うん、実は。だから拓海は俺にとって、ほぼ弟みたいなもん。今だって……昔はよく、僕の家に泊まりにきたりもしてたし」
別に高校生同士でお泊り会をして遊ぶなんてよくあることなのに、していることを思いだしたらなんだか言い難いような気持ちになってしまって、言いかけた言葉を隠した。
「そっか、本当に仲良しなんだね」
彼女は少し目線を上げ、さみしげに言う。
拓海と、何かあった? 自然な流れで聞くなら今かと思ったが、もうすぐ別れる場所であったため口に出すのはやめた。
「またね」
彼女と別れて手持ち無沙汰になり、半ば無意識にスマホを開く。そこには拓海からのメッセージ通知がきていた。
「まってる」とだけ送られてきているのが、いかにも彼らしい。
どうやら約束を忘れられていたわけではなかったようだと安心する。
「今から行く」と打てば、「あいてる」とだけ返される。漢字すら使っていない子どもみたいな返しに笑うと同時に、何が?なんて不毛な問いをしなくても伝わることに嬉しさを感じた。
そのメッセージを許可と捉え、勝手に拓海の家の扉を開ける。そのまま彼の部屋の前まで行くと、今度は中から扉が開いた。
「いらっしゃい」
優しく柔らかい拓海の声。彼は僕を見ると、ふっと目を細めて笑った。
「いいよ、どこでも座って」
そう言われたので部屋の真ん中にあった低い机の前に座ると、拓海が僕の反対側に座る。
彼は何も持たないまま、僕に何もつけないまま座った。
「やめたの?」
主語の無い言葉もちゃんと伝わったようで。
「もう必要なくなったから」と返される。
「どうして?」
拓海は答えない。言うまで諦めないからと彼の目を見つめていれば、辛うじて答えが返ってくる。
「明日になれば分かるよ」
それも的を射ない答えで、きっと触れてほしくはないことなんだろうということだけは分かる。だから、深く追及するのはやめた。
「証」が与えられない手首を、少しだけ寂しいと思いながら。
「あっ、そうだ」
今ふと思い出したというように。そしてこの微妙な空気を打ち破るように、彼はことさら明るい声を出す。
「明日のデートなんだけどさ、旭公園に行こうよ」
そういえば土曜日はデートに行く約束だった。
「珍しいな、拓海が公園に行きたいっていうの」
どちらかと言えば、彼はインドア派なのに。というか、この部屋からあんまり出たがらないタイプなのに。
「何となくだよ。朝行くからちゃんと起きてね」
「……拓海にだけは言われたくないんだけど」
休日なのに早起きなんてつくづく彼らしくないなと思いながらも、それだけ出かけるのを楽しみにされているようで、悪い気はしなかった。
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