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2週目 [告白]
第18話
しおりを挟む「オセロでもやる?」
午後8時。まだ寝るには早いが、ご飯も食べてしまったから特にやることもなくて。今は空白の時間が続いている。
「やる」
オセロとはまた懐かしいなと感じながら、僕は食い込むように短い返事をした。拓海の部屋の中にある娯楽物といえば昔からトランプかオセロくらいのもので、遊びといってはその2つを交互に行き来させていたのを覚えている。
「せっかくやるんだから何か賭けよっか」
「いいけど。何を?」
「お金関係のものは無理だし、勝ったらお願いを1つ聞いてもらえるってのは?」
「わかった。じゃあそれで」
「賭け」と聞いて、お願いなんて浮かばないうちからやる気が出てくる。
ジャンケンの結果、僕が白を持つことになった。先攻の拓海を追いかけるように、かつ白を広げられるようにと画策する。
だが、調子が良かったのは中盤までだった。
今までわざと取らせていたんだと言うように、だんだんと置き場所が制限されていく。角を取られまいとして置くのをずっと避けていた場所に、ついに置かなければいけなくなった。もちろん彼はその角に黒を置いて、大量の黒を獲得する。
黒が盤面の3分の2を占めて、勝負がついた。
「もう1回!」
悔しくなって、賭けは拓海の勝ちでいいからと再戦を申しこむ。どうしても勝つまでやりたかった。彼は「しょうがないな」って笑いながら、その申し出を受け入れる。
僕がやっと勝てたのは、11時になった頃だった。
「やっと勝てた……」
授業を聞いているときよりも、もしかしたら頭を使ったかもしれない。嬉しさよりも疲労感の方が勝って、人の家だと気にする余裕もなく床に倒れ込んだ。
「そこで寝るんならベッドに寝なよ」
「えー」
「明日早いし」
仕方なく起き上がり2人でベッドに寝転べば、拓海が僕に抱きついてくる。
「抱き着くなって」
「さっきの賭けのお願いってことで許してよ」
まぁそれなら……と抵抗するのをやめた。ここで断って、変なお願いに変わるのも嫌だし。
そのまましばらく経って眠くなり始めた頃、ふと身体に振動を感じた。最初は地震かとも思ったが、ベッド自体が揺れているわけではない。
背中の……ちょうど拓海が抱き着いている辺りだけが小刻みに震えている。
「寒いのか?」
彼も起きているのだろうなと思い、声をかけた。
「どうして?」
予想通り彼は起きていて、眠気の感じられない、はっきりとした声が返ってくる。
「震えてるような気がして」
「あー、ごめん。起こしちゃった?……なんでだろうね、千秋ちゃんにくっついてるから寒くはないんだけど」
そう言って拓海は僕から離れていく。彼の強引な部分とそうでない部分の線引きは、よく分からない。
「別に離れなくていいから」
そう言って彼の手を掴み、自分のお腹の前にまわした。その手は、ひどく冷え切っている。
「……ありがとう」
夢を見た。昔の僕と拓海の、記憶の夢。
泣いてばっかりの拓海を助ける、ヒーローだった頃の僕の夢。
「千秋ちゃん……僕を捨てないで」
記憶にないはずのその言葉。
やけにはっきりとした苦しそうな拓海の声が、夢の中で聞こえた。
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