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2週目 [告白]
第13話 ~拓海Side~
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人の欲に際限なんてない。そんな言葉を、昔誰かが言っていたのを思い出した。
マイナスがゼロになることを「幸せ」と呼んでいたその時には分からなかったけれど、今ならその言葉の意味がよく分かる。
……学校が楽しくない。いや、今までも別に楽しいとまでは思ったことはないけれど、いつも以上にこの環境が不愉快に感じた。
ここは、人が多すぎる。自分に声をかけては、意味もないことにケラケラと笑う有象無象が鬱陶しい。いつもは耐えられていた空間が、ただただ苦痛に感じた。
僕は千秋ちゃんだけを見ていたいし、千秋ちゃんだけと話していたいのに。
『いっそあのまま繋いでおけばよかったんじゃない?』
そんなバカな声が心の中で響く。どうせお前も現実的には不可能だと知ってるくせに。そんなことを願えば願うほど、虚しい気持ちになるだけなのに。
……でも、確かに、何かが足りないのだ。
まるで心に穴でも開けられたかのように、常につきまとう空虚感。それは愛が足りなくなった時の渇きにも似ていた。
少しでもそれを満たそうと、補給をしようと、周りの人間に愛想笑いをしながら「ごめん、あとでね」と言って立ち上がる。千秋ちゃんのもとへと、一歩踏み出した。
学校だからといって、我慢するのはもうやめたのだ。
その時だった。
真っすぐ前に見えていた彼の姿が、誰かに遮られて見えなくなる。その誰かは通り過ぎることなく、千秋ちゃんの前をなかなか離れようとしない。最悪なことに、よく見るとそれは、あの女だった。
「千秋ちゃん、おはよう」
お前なんか見えていないと伝えるように、わざと千秋ちゃんの名前だけをはっきりと呼んで挨拶をした。
「おはよ」
「あっ、拓海くんだ。おはよー」
でも返ってきたのは2人分の挨拶で。なんて空気の読めない奴なんだろうと思う。
千秋ちゃんの声が、いつもより少し明るいのも気に食わなかった。朝から彼女と話せて、舞い上がってでもいるのだろうか。
ぐるぐると自分でもコントロールのできない怒りが身体の中を渦巻く。ここが人前じゃなかったら、目の前の机を思い切り蹴飛ばしていたかもしれない。
『教えてあげよっか、その感情。羨ましくてたまんないんだよ、お前は。千秋の側に、なんの努力もせずに居られるこの女が』
うるさい。今、心の声は聞きたくない。
『でも1つだけ、彼女に勝てるいい方法があるよ』
そんなもの、あるはずない。あっても、千秋ちゃんの気持ちを無視してやっていいはずがない。そう思うのに、少しの期待が耳を傾けさせる。
『簡単なことだ。千秋の方から振るのが無理なら、この女の方から千秋を振るように仕向ければいい。お前なら簡単だろ?』
……簡単どころか、一度は考えた。だから必要以上に、千秋ちゃんと彼女が一緒にいる時に絡みにいった。彼女が、僕から「特別扱い」されていると周りに見せるために。
僕の人望と顔があれば、2人の恋人関係を潰すくらいのことはやってしまえる。
心が、声の方に傾く。でも、千秋ちゃんが幸せなのなら。
「違うよ。お前はそうやって逃げてるだけだ。だって本当に、お前はこの女が千秋を幸せに出来ると思うのか? 全てを千秋に捧げる覚悟のある、お前以上に?」
その言葉に決心が揺らぐ。揺らいで、今にも倒れそうで、世界と自分とを隔てるようにゆっくりと目を閉じた。数秒経って目を開けると、彼女は自分の席へと戻っていく。
……僕が、千秋ちゃんを幸せにしてあげる。あの女より、僕の方が、きっと千秋ちゃんの役に立ってみせる。
「千秋ちゃん」
わざと甘えた声で、彼の名を呼んだ。
安心して。ちょっと2人のことを、試させてもらうだけだから。ちゃんと千秋ちゃんに相応しい人間なんだってわかったら、もう邪魔なんてしないから。
「今度の土曜日、デートしよっか」
だから、僕の身勝手を赦してほしい。
マイナスがゼロになることを「幸せ」と呼んでいたその時には分からなかったけれど、今ならその言葉の意味がよく分かる。
……学校が楽しくない。いや、今までも別に楽しいとまでは思ったことはないけれど、いつも以上にこの環境が不愉快に感じた。
ここは、人が多すぎる。自分に声をかけては、意味もないことにケラケラと笑う有象無象が鬱陶しい。いつもは耐えられていた空間が、ただただ苦痛に感じた。
僕は千秋ちゃんだけを見ていたいし、千秋ちゃんだけと話していたいのに。
『いっそあのまま繋いでおけばよかったんじゃない?』
そんなバカな声が心の中で響く。どうせお前も現実的には不可能だと知ってるくせに。そんなことを願えば願うほど、虚しい気持ちになるだけなのに。
……でも、確かに、何かが足りないのだ。
まるで心に穴でも開けられたかのように、常につきまとう空虚感。それは愛が足りなくなった時の渇きにも似ていた。
少しでもそれを満たそうと、補給をしようと、周りの人間に愛想笑いをしながら「ごめん、あとでね」と言って立ち上がる。千秋ちゃんのもとへと、一歩踏み出した。
学校だからといって、我慢するのはもうやめたのだ。
その時だった。
真っすぐ前に見えていた彼の姿が、誰かに遮られて見えなくなる。その誰かは通り過ぎることなく、千秋ちゃんの前をなかなか離れようとしない。最悪なことに、よく見るとそれは、あの女だった。
「千秋ちゃん、おはよう」
お前なんか見えていないと伝えるように、わざと千秋ちゃんの名前だけをはっきりと呼んで挨拶をした。
「おはよ」
「あっ、拓海くんだ。おはよー」
でも返ってきたのは2人分の挨拶で。なんて空気の読めない奴なんだろうと思う。
千秋ちゃんの声が、いつもより少し明るいのも気に食わなかった。朝から彼女と話せて、舞い上がってでもいるのだろうか。
ぐるぐると自分でもコントロールのできない怒りが身体の中を渦巻く。ここが人前じゃなかったら、目の前の机を思い切り蹴飛ばしていたかもしれない。
『教えてあげよっか、その感情。羨ましくてたまんないんだよ、お前は。千秋の側に、なんの努力もせずに居られるこの女が』
うるさい。今、心の声は聞きたくない。
『でも1つだけ、彼女に勝てるいい方法があるよ』
そんなもの、あるはずない。あっても、千秋ちゃんの気持ちを無視してやっていいはずがない。そう思うのに、少しの期待が耳を傾けさせる。
『簡単なことだ。千秋の方から振るのが無理なら、この女の方から千秋を振るように仕向ければいい。お前なら簡単だろ?』
……簡単どころか、一度は考えた。だから必要以上に、千秋ちゃんと彼女が一緒にいる時に絡みにいった。彼女が、僕から「特別扱い」されていると周りに見せるために。
僕の人望と顔があれば、2人の恋人関係を潰すくらいのことはやってしまえる。
心が、声の方に傾く。でも、千秋ちゃんが幸せなのなら。
「違うよ。お前はそうやって逃げてるだけだ。だって本当に、お前はこの女が千秋を幸せに出来ると思うのか? 全てを千秋に捧げる覚悟のある、お前以上に?」
その言葉に決心が揺らぐ。揺らいで、今にも倒れそうで、世界と自分とを隔てるようにゆっくりと目を閉じた。数秒経って目を開けると、彼女は自分の席へと戻っていく。
……僕が、千秋ちゃんを幸せにしてあげる。あの女より、僕の方が、きっと千秋ちゃんの役に立ってみせる。
「千秋ちゃん」
わざと甘えた声で、彼の名を呼んだ。
安心して。ちょっと2人のことを、試させてもらうだけだから。ちゃんと千秋ちゃんに相応しい人間なんだってわかったら、もう邪魔なんてしないから。
「今度の土曜日、デートしよっか」
だから、僕の身勝手を赦してほしい。
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