アルファだけど愛されたい

屑籠

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9*閑話*

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 おっと、と抱き留めれば苦しそうに呻く陸さんの声。
 どうしようか困っていれば、慌てたように彼の知り合いだろう人々が駆け寄ってくる。

「りっくんっ!!」
「天川君!?」

 彼らが、陸さんの知り合いであるのはわかる。
 だから。

「あの……、陸さんは」

 俺が声をかければ、二人の目が俺に向く。ちょっと怖い。
 俺が苦笑いして陸さんの様子を問うと、あぁ、とようやく彼らのほうから君は?と声がかけられた。

「俺は、陸さんの番です。安岡緑(やすおかろく)。彼はりくって俺を呼びましたけど」
「ろっくんか……似てるね。それで……」
「羽化だ……うむ、彼は運んだほうがいいね。私のほうで車を用意しよう。君はどうする?」
「俺は……俺も陸さんと一緒にいます。目が覚めた時、きっと俺がいないと暴れるでしょうから」

 何となく、そんな予感がする。
 陸さんは俺を探して暴れまわるだろう。
 彼と出会ったのは今日が初めて。俺は、去年まで学業に専念していて、年に一度の大きなパーティにしか出ていなかった。
 今年からは、家の人と話し合った結果いろいろなパーティに出席して番を探す予定だったけど……こんなすぐに見つかるとは。
 俺の番を見て思う。アルファなのに自身がなさそうで、頼りなさそうで。
 愛してほしいと、愛されたいと己の全てで叫んでいて。
 俺が、触れてしまったから。愛しいと思ってしまったから。
 だから、俺を離してはくれないだろう。俺も、それでいいとさえ思っている。

「君の、ご家族へはいいのかい?」
「えぇ、構いません。俺の家族は、そういう事にあまり興味はありませんから」

 ふっと、身なりのいいアルファのほうの眉間にしわが寄る。
 あぁ、誤解させてしまったか、と慌てて手を振った。

「えっと、虐待されているとかじゃなくて、えっと……なんて言ったらいいのか……」
「君が、その……不遇を受けているわけではないのならいいんだ」
「えぇ、それはありません。ただ、俺は後継ぎではないので、大丈夫なんです。父と母には虐待もされていなければ、不遇も受けた覚えはありません。まぁ、俺に無関心でもありますが」

 ん?と少し、それはある意味虐待も等しいのか?と考えたが、放任主義、とも言い換えられるし、愛されていなかったわけでもない。
 だから、うーん?と少し首をかしげてしまう。

「まぁ、君がいいならいいんじゃない?それより、のり。早く、りっくんをどうにかしないと」
「あぁ、そうだね。とりあえず、研究棟の一角のほうがいいかな」

 そうして、彼は陸さんを運び入れるために手配を整えてしまう。
 俺ももいっしょに運ばれて、病院のような施設に入った。
 聞けば、紺野さんは有名な製薬会社の代表取締役らしい。
 そして、陸さんはその秘書だと。まぁ、秘書というのは置いておいて保護対象であるとも聞いた。
 特別なアルファらしい。俺の番がそんな特別なアルファなんて考えたことないけど。
 ただ、思う。全身で愛してほしいと嘆いているような人が俺の番なのは、神様の作為的なものを感じてしまうが。
 
 俺は、そこそこの会社の社長子息として生まれた。
 両親は、番で、珍しいのか分からないけど、運命の番でもないのに父は母にほれ込んでいる。
 そして、次に大切なのは会社だ。会社がつぶれてしまえば、母を養えなくなるから。
 兄は、会社を存続させるために必要な存在。
 俺はといえば、必要がなかったが母が望んで生まれた存在。男だったのは残念がられたが、それでもまぁ愛してはもらった。
 女の子が欲しいかったという母には、妹のほうが愛されていたが。
 欲しがればなんでも与えられた。無関心だからこそ、何でも、望まないものまで与えられた。
 だからかもしれない。俺は与えられるものになりたかった。
 運命の番だからか、陸さんを見た瞬間から愛しいと感じる。一緒にいるべきだと思う。
 そして何より、俺が離れたくない。
 去年のパーティも出席してたけど、俺はまだ陸さんを見つけられなかった。
 去年のパーティには出席していたらしいのは、知っている。だからか、とても勿体ないことをしたとしたと思う。
 去年出会えていたら、一年、時間が丸々あったという事なのに。
 俺はベッドの上に寝かされた陸さんの頭をそっとなでる。
 苦しそうにしているが、死ぬわけではないことをなぜかわかる。
 それに、俺を置いて彼は逝ったりしない。だからこそ、分かる。

「早く、目を覚ましてくださいね。陸さん」

 俺は、あなたを愛したいのと同時に、あなたに愛されたいのだ。
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