7 / 13
7
しおりを挟む
ピンポーンと、真夜中の来訪を告げるチャイムが響く。
インターフォンを覗けば、見覚えのありすぎる顔が。
「天川君、ゆきは居るかな?」
インターフォン越しの声に、はぁ、とため息が漏れる。
「泣きつかれて寝てるよ」
「連れて帰る。から開けてくれないかな?」
困った、と言うように顔を歪める紺野に、ゆきに何かしようと言う気持ちがないことは感覚的にわかって、とりあえず扉を開けた。
中に入ると、ゆきの居場所が分かるみたいに一直線に向かっていく。
「ゆき……」
愛しそうにゆきの頬に触れ、赤い泣いたと分かる目元を撫でる。
むずがゆそうにゆきは身じろぎをするが、起きる気配はなさそうだ。
そんなゆきを抱え、いつもの笑顔でにこりと紺野は笑った。
「ありがとうね、天川君。所詮、私も獣なアルファに過ぎないと思い知らされたよ」
「……は?」
「ゆきはね、私の運命なんだ……ゆきを縛りたくなくて、それを認めたくなかったけど……」
そっと、紺野は悲しそうな顔をする。
「うん、めい?」
「そう、魂の番ともいう……特別な存在。君も、出会ってしまえばわかるよ。その子だけは手放せない。自分の中心に居座って、誰にも見せたくない存在……アルファは異質だね。ベータもオメガもそんな衝動と戦って勝てるのに、アルファには無理なんだ」
本能というのはやっかいなものだと、紺野は告げる。
「君は、間違えちゃだめだよ。運命はね、離れがたい。離れたら狂ってしまえるほどに……だから、手放さないように、間違えないように」
ね、と笑い、紺野は部屋を出て行った。
正直、今後ゆきがどうなるのかはわからない。
きっと、紺野に今まで以上に愛されるだろうことは想像に難くない。
「……運命、ね」
俺が起たないのは、昔からだ。
アルファだと診断されても、一度として夢精もしたことがない。
何かに抑圧されているように、鍵がかかっているみたいに。
それが、ベータの中に生まれたアルファの宿命だというのか。
俺の運命は、ならどこにいるのかなんて、考えても分からない。
先ほどまでゆきの寝ていたベッドに身を横たえる。それでも、オメガのはずのゆきの匂いすらわからない。
こんな俺の、運命?
「そう言えば、今日、会場で……」
ふと、思い出した花のような匂い。
あれが、フェロモンだとするならば、俺の番はあの会場にいたということになる。
だが、あの会場にいたオメガの誰が俺の番なんてわからない。
「運命なら、また会えるだろう……な」
出来るなら、俺を、俺自身を愛してくれる人がいい。それがアルファだってオメガだってベータだって、女だって男だってかまわない。
愛されたい、ただ漠然と思った。
自分だけを愛してくれる人を愛し、必要とされたい。
そう思う。
だが、それ以降その匂いを感じることはできなかった。
紺野に連れられて、いろいろな会場に足を運んでみたりしたが、まったくと言っていいほど匂いはしない。
その時だけ、出てきた人がいたのだろうか?
まだ、旧名家ではオメガの迫害がなくならないと聞く。もしかすると、そういう家系にいるのかもしれない。
だとしても、だ。どうやってその相手に出会うというのだ。
「これって、積んでないか?」
「いや……うん、まぁ……来年にかけてみれば?」
来年……、年に一度のパーティ。それに参加するほか、運命に出会う方法はないのだと思う。
だが、年に一度のパーティしか参加させられない、というのであれば、俺を愛してくれるオメガではないのかもしれない。
少し、しょんぼりした。
ゆきは、と言えば案の定会えなくなった。紺野が、彼を囲ってしまったせいだ。
だが、ゆきの方はテレビ電話で春と一緒に話をしたが、幸せそうに笑っていた。だから、心配はない。
春だけなら、たまに会えているようだし。ただ、俺はアルファだから、会えない。会わせてもらえない。
紺野も困ったような顔で言うが、仕方がないことだろう。アルファが、ほかのアルファを嫌煙するのは。
「早く……会いたいな……」
「会えると、いいね」
春が、少し変な顔をして笑う。
春の運命もどこかにいるのだろうが、それは俺ではない。
春は……時々思う。母親みたいだと。
俺の母よりも、なんと言うかそうだ。
ゆきは姉みたいな妹みたいな性別的にはおかしいが、そんな存在だった。
だから、二人には幸せになってもらいたい。出会ってからの時間なんて関係ない。
笑っていて欲しいと思うのに、そんなに時間はかからない。
思うのは、もしかすると春の番は日本にはいないのかもしれない、ということ。
それか、もしくは俺みたいにコミュニティの存在も知らないアルファか。
どちらも可能性としてあるだろう。
早く、春の番も見つかるといい。
インターフォンを覗けば、見覚えのありすぎる顔が。
「天川君、ゆきは居るかな?」
インターフォン越しの声に、はぁ、とため息が漏れる。
「泣きつかれて寝てるよ」
「連れて帰る。から開けてくれないかな?」
困った、と言うように顔を歪める紺野に、ゆきに何かしようと言う気持ちがないことは感覚的にわかって、とりあえず扉を開けた。
中に入ると、ゆきの居場所が分かるみたいに一直線に向かっていく。
「ゆき……」
愛しそうにゆきの頬に触れ、赤い泣いたと分かる目元を撫でる。
むずがゆそうにゆきは身じろぎをするが、起きる気配はなさそうだ。
そんなゆきを抱え、いつもの笑顔でにこりと紺野は笑った。
「ありがとうね、天川君。所詮、私も獣なアルファに過ぎないと思い知らされたよ」
「……は?」
「ゆきはね、私の運命なんだ……ゆきを縛りたくなくて、それを認めたくなかったけど……」
そっと、紺野は悲しそうな顔をする。
「うん、めい?」
「そう、魂の番ともいう……特別な存在。君も、出会ってしまえばわかるよ。その子だけは手放せない。自分の中心に居座って、誰にも見せたくない存在……アルファは異質だね。ベータもオメガもそんな衝動と戦って勝てるのに、アルファには無理なんだ」
本能というのはやっかいなものだと、紺野は告げる。
「君は、間違えちゃだめだよ。運命はね、離れがたい。離れたら狂ってしまえるほどに……だから、手放さないように、間違えないように」
ね、と笑い、紺野は部屋を出て行った。
正直、今後ゆきがどうなるのかはわからない。
きっと、紺野に今まで以上に愛されるだろうことは想像に難くない。
「……運命、ね」
俺が起たないのは、昔からだ。
アルファだと診断されても、一度として夢精もしたことがない。
何かに抑圧されているように、鍵がかかっているみたいに。
それが、ベータの中に生まれたアルファの宿命だというのか。
俺の運命は、ならどこにいるのかなんて、考えても分からない。
先ほどまでゆきの寝ていたベッドに身を横たえる。それでも、オメガのはずのゆきの匂いすらわからない。
こんな俺の、運命?
「そう言えば、今日、会場で……」
ふと、思い出した花のような匂い。
あれが、フェロモンだとするならば、俺の番はあの会場にいたということになる。
だが、あの会場にいたオメガの誰が俺の番なんてわからない。
「運命なら、また会えるだろう……な」
出来るなら、俺を、俺自身を愛してくれる人がいい。それがアルファだってオメガだってベータだって、女だって男だってかまわない。
愛されたい、ただ漠然と思った。
自分だけを愛してくれる人を愛し、必要とされたい。
そう思う。
だが、それ以降その匂いを感じることはできなかった。
紺野に連れられて、いろいろな会場に足を運んでみたりしたが、まったくと言っていいほど匂いはしない。
その時だけ、出てきた人がいたのだろうか?
まだ、旧名家ではオメガの迫害がなくならないと聞く。もしかすると、そういう家系にいるのかもしれない。
だとしても、だ。どうやってその相手に出会うというのだ。
「これって、積んでないか?」
「いや……うん、まぁ……来年にかけてみれば?」
来年……、年に一度のパーティ。それに参加するほか、運命に出会う方法はないのだと思う。
だが、年に一度のパーティしか参加させられない、というのであれば、俺を愛してくれるオメガではないのかもしれない。
少し、しょんぼりした。
ゆきは、と言えば案の定会えなくなった。紺野が、彼を囲ってしまったせいだ。
だが、ゆきの方はテレビ電話で春と一緒に話をしたが、幸せそうに笑っていた。だから、心配はない。
春だけなら、たまに会えているようだし。ただ、俺はアルファだから、会えない。会わせてもらえない。
紺野も困ったような顔で言うが、仕方がないことだろう。アルファが、ほかのアルファを嫌煙するのは。
「早く……会いたいな……」
「会えると、いいね」
春が、少し変な顔をして笑う。
春の運命もどこかにいるのだろうが、それは俺ではない。
春は……時々思う。母親みたいだと。
俺の母よりも、なんと言うかそうだ。
ゆきは姉みたいな妹みたいな性別的にはおかしいが、そんな存在だった。
だから、二人には幸せになってもらいたい。出会ってからの時間なんて関係ない。
笑っていて欲しいと思うのに、そんなに時間はかからない。
思うのは、もしかすると春の番は日本にはいないのかもしれない、ということ。
それか、もしくは俺みたいにコミュニティの存在も知らないアルファか。
どちらも可能性としてあるだろう。
早く、春の番も見つかるといい。
23
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれβの恋の諦め方
めろめろす
BL
αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。
努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。
世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。
失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。
しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。
あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?
コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。
小説家になろうにも掲載。
βを囲って逃さない
ネコフク
BL
10才の時に偶然出会った優一郎(α)と晶(β)。一目で運命を感じコネを使い囲い込む。大学の推薦が決まったのをきっかけに優一郎は晶にある提案をする。
「αに囲われ逃げられない」「Ωを囲って逃さない」の囲い込みオメガバース第三弾。話が全くリンクしないので前の作品を見なくても大丈夫です。
やっぱりαってヤバいよね、というお話。第一弾、二弾に出てきた颯人がちょこっと出てきます。
独自のオメガバースの設定が出てきますのでそこはご了承くださいください(・∀・)
α×β、β→Ω。ピッチング有り。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる