アルファだけど愛されたい

屑籠

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 ピンポーンと、真夜中の来訪を告げるチャイムが響く。
 インターフォンを覗けば、見覚えのありすぎる顔が。

「天川君、ゆきは居るかな?」

 インターフォン越しの声に、はぁ、とため息が漏れる。

「泣きつかれて寝てるよ」
「連れて帰る。から開けてくれないかな?」

 困った、と言うように顔を歪める紺野に、ゆきに何かしようと言う気持ちがないことは感覚的にわかって、とりあえず扉を開けた。
 中に入ると、ゆきの居場所が分かるみたいに一直線に向かっていく。

「ゆき……」

 愛しそうにゆきの頬に触れ、赤い泣いたと分かる目元を撫でる。
 むずがゆそうにゆきは身じろぎをするが、起きる気配はなさそうだ。
 そんなゆきを抱え、いつもの笑顔でにこりと紺野は笑った。

「ありがとうね、天川君。所詮、私も獣なアルファに過ぎないと思い知らされたよ」
「……は?」
「ゆきはね、私の運命なんだ……ゆきを縛りたくなくて、それを認めたくなかったけど……」

 そっと、紺野は悲しそうな顔をする。

「うん、めい?」
「そう、魂の番ともいう……特別な存在。君も、出会ってしまえばわかるよ。その子だけは手放せない。自分の中心に居座って、誰にも見せたくない存在……アルファは異質だね。ベータもオメガもそんな衝動と戦って勝てるのに、アルファには無理なんだ」

 本能というのはやっかいなものだと、紺野は告げる。

「君は、間違えちゃだめだよ。運命はね、離れがたい。離れたら狂ってしまえるほどに……だから、手放さないように、間違えないように」

 ね、と笑い、紺野は部屋を出て行った。
 正直、今後ゆきがどうなるのかはわからない。
 きっと、紺野に今まで以上に愛されるだろうことは想像に難くない。

「……運命、ね」

 俺が起たないのは、昔からだ。
 アルファだと診断されても、一度として夢精もしたことがない。
 何かに抑圧されているように、鍵がかかっているみたいに。
 それが、ベータの中に生まれたアルファの宿命だというのか。
 俺の運命は、ならどこにいるのかなんて、考えても分からない。
 先ほどまでゆきの寝ていたベッドに身を横たえる。それでも、オメガのはずのゆきの匂いすらわからない。
 こんな俺の、運命?

「そう言えば、今日、会場で……」

 ふと、思い出した花のような匂い。
 あれが、フェロモンだとするならば、俺の番はあの会場にいたということになる。
 だが、あの会場にいたオメガの誰が俺の番なんてわからない。

「運命なら、また会えるだろう……な」

 出来るなら、俺を、俺自身を愛してくれる人がいい。それがアルファだってオメガだってベータだって、女だって男だってかまわない。
 愛されたい、ただ漠然と思った。
 自分だけを愛してくれる人を愛し、必要とされたい。
 そう思う。

 だが、それ以降その匂いを感じることはできなかった。
 紺野に連れられて、いろいろな会場に足を運んでみたりしたが、まったくと言っていいほど匂いはしない。
 その時だけ、出てきた人がいたのだろうか?
 まだ、旧名家ではオメガの迫害がなくならないと聞く。もしかすると、そういう家系にいるのかもしれない。
 だとしても、だ。どうやってその相手に出会うというのだ。

「これって、積んでないか?」
「いや……うん、まぁ……来年にかけてみれば?」

 来年……、年に一度のパーティ。それに参加するほか、運命に出会う方法はないのだと思う。
 だが、年に一度のパーティしか参加させられない、というのであれば、俺を愛してくれるオメガではないのかもしれない。
 少し、しょんぼりした。
 ゆきは、と言えば案の定会えなくなった。紺野が、彼を囲ってしまったせいだ。
 だが、ゆきの方はテレビ電話で春と一緒に話をしたが、幸せそうに笑っていた。だから、心配はない。
 春だけなら、たまに会えているようだし。ただ、俺はアルファだから、会えない。会わせてもらえない。
 紺野も困ったような顔で言うが、仕方がないことだろう。アルファが、ほかのアルファを嫌煙するのは。

「早く……会いたいな……」
「会えると、いいね」

 春が、少し変な顔をして笑う。
 春の運命もどこかにいるのだろうが、それは俺ではない。
 春は……時々思う。母親みたいだと。
 俺の母よりも、なんと言うかそうだ。
 ゆきは姉みたいな妹みたいな性別的にはおかしいが、そんな存在だった。
 だから、二人には幸せになってもらいたい。出会ってからの時間なんて関係ない。
 笑っていて欲しいと思うのに、そんなに時間はかからない。
 思うのは、もしかすると春の番は日本にはいないのかもしれない、ということ。
 それか、もしくは俺みたいにコミュニティの存在も知らないアルファか。
 どちらも可能性としてあるだろう。
 早く、春の番も見つかるといい。
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