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ドゴァオン!

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「ジゼが蹴ったら死ぬんじゃないかな……」

 世界最強だろう闇龍に言われるジゼしゃま、すごい!

 ぽふぽふしっぽを揺らしてぱちぱち拍手するリトに、ジゼが朱くなって、レォンが笑う。

「庭は、また今度の楽しみとする!」

 ちっちゃな翼をぱたぱたして許してくれるレォンが、天使だ。

「筆頭侯爵ジェディス家の馬車であられる!」
「道を開けろ!」

 馬車に刻まれた家紋を確認し槍を掲げた衛士たちが、集まった人垣を整理してくれてる。

「我らの馬車に闇龍様が乗っていらっしゃると知っているのですか」

 低いジゼの声に、ゲォルグは首を振った。

「いや、我が邸に闇龍様がいらっしゃることは、レォンさまに謁見した皆と陛下しか知らぬ最高機密だ。だが闇龍様がいらっしゃるので歓迎のために菓子を焼いているというのが漏れたのだろうな。関わる者が多いと口を滑らせる機会も多くなる。ひと目見ようと民まで詰めかけているのだろう」

 凛々しいかんばせを苦渋に染めたゲォルグが、頭を下げる。

「申し訳ございません、レォンさま。わたくしどもの指導が至りませんでした」

 深く下げられたこうべに、レォンは首を振った。

「ゲォルグにも、セバにも、ジゼにも、リトにも、感謝している。勿論、御者さんにも」

「おお! ありがてえ!」

 振り返った御者さんが白い歯を覗かせて笑う。
 レォンも笑って、ちいさな手を振った。

 馬車の外で、衛士が槍を掲げる。

「筆頭侯爵ゲォルグ・ディア・ジェディスさま、ご来臨!」

 衛士の声とともに、人垣が割れてゆく。
 帝宮の正面へと進み出たジェディス家の真っ白な馬車を牽く白馬がゆるやかに歩みを止める。

「到着致しやした」

 白い衣をひるがえし、うやうやしく扉を開けてくれる御者さんに

「ありあと、ござまし」

 したリトが、ちょっと足を引き摺りつつ一番に降りた。

「レォンしゃま、お手、どぞ」

 やわらかに膝を折り、しゃっとちっちゃな手を差しだした。

 ちょこっと仕事ができる従僕なのでし!

 胸を張るリトのしっぽが、ぽふぽふ揺れる。
 馬車のなかのジゼもゲォルグもセバもレォンも御者さんも、馬車の周りを取り囲んでいた人々も赤い頬で胸を押さえてる。

「う、うむ!」

 ちっちゃなレォンが、緊張の面持ちでリトのちいさな手を取った。

 ゆっくりと馬車の踏み台に足をかけ、帝宮の前に降り立ったレォンに、数多の視線が突き刺さる。
 詰めかけた人々がざわめいた。

「……なんだ?」
「獣人の子ども?」
「ジゼさまの従僕以外にも帝宮に足を踏み入れる獣人がいるなんて……」

 蔑みの目と、卑しめる声が、渦を巻く。

「見ろよ、あの羽、コウモリか?」
「とかげのしっぽみたい!」
「でか!」
「きもちわる──!」

 悲鳴なのか、嘲るための歓声なのか、甲高い声が木霊した。


 とても耳のよいリトだけでなく、レォンにも聞こえたと思う。

 けれどレォンがしょんぼりするより早く


 ドゴァアオォオオ──ン────!


 凄まじい音とともに、氷塊が、下劣な暴言を吐いた口に突き刺さる。

 爆発する冷気の向こうで、ジゼの瞳が凍てついた。






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